うましめんかな(原爆詩人:栗原貞子)

こわれたビルディングの地下室の夜であった。
原子爆弾の負傷者達は
ローソク一本ない暗い地下室を
うずめていっぱいだった
生ぐさい血のにおい、死臭、汗臭い人いきれ、うめき声
その中から不思議な声が聞こえて来た。
「赤ん坊が生まれる」と云うのだ。
この地獄のそこのような地下室で今、若い女が
産気づいているのだ。
マッチ一本ないくらがりでどうしたらいいのだろう
人々は自分の痛みを忘れて気づかった。
と、「私が産婆です、私が生ませましょう」と云ったのは
さっきまでうめいていた重傷者だ。
かくてくらがりの地獄の底で新しい生命は生まれた。
かくてあかつきを待たず産婆は血まみれのまま死んだ。
生ましめんかな
生ましめんかな
己が命捨つとも

  

栗原貞子さんのお話

 みなさんが、平和学習の発表をするのを見て「あぁ。やっぱり、平和を作っていくのは子どもだ。」と思いました。インターネットで世界中の子どもたちと交流し、結びあい、平和を作っていくんだ。私のあとも、もうだいじょうぶだと感じました。  「うましめんかな」は教科書にも出ているので、よく感想をもらいます。多いのが「産婆さんはえらい」というものです。 でも、ひとりの人の立派な行為をほめるだけではなく、作品の世界を感じとってほしいと思います。真っ暗のなか、みな傷つき、それでも何とか、無事に赤ちゃんを産ませたいものだと考えている。人間がぎりぎりのときに、それでも何とかしたい、助けてあげたいと思うものなのです。私は、自分の命を落としても、赤ちゃんを産ませた産婆さんをほめたのではなく、人間全体をほめた詩です。
 「うましめんかな」には、平和を産みましょうという気持ちもこもっているのです。「暁を待たず」というのは、8月15日の平和の日を意味しています。 「産婆さん」は、8月15日の平和の日を知らずに死んでいった20万の人々なのです。20万の人々が亡くなったことによって、「新しい命」、新しい広島の心が生まれたのです。私たちは、広島の心、広島の願いを大事に思って、人間がいっしょになって、戦争のない、原爆のない平和な世界を作っていかなければならないと思います。みんなで、平和学習を続けて、平和な世界を作っていってほしいと思います。

 http://next1.yasuda-u.ac.jp/nagatuka/96/syukai_b.html より引用

 

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