中村久子(詩と言葉)

 

 手はなくも 足はなくとも み仏の そでにくるまる 身は安きかな

 母として 母のつとめの たらざるを 朝な夕なにわびつすごしぬ

 極楽を ねがうこころは 更になし ただうれしきは 弥陀の名号

 宿世には いかなるつみを おかせしや おがむ手のなき われはかなしき

 いらだちし おのが心を おさえがたく なむあみだ仏 なむあみだ仏

 街の湯に 映画に われを おひたまふ 夫は たふとし 示現如菩薩

 手足なき身にしあれども  生かされる いまのいのちは たふとかりけり

  手足なく 六十年はすぎにけり お慈悲のみ手に ともなわれつつ

 

 「ある ある ある」

   さわやかな 秋の朝

   ”タオル取ってちょうだい”

      ”おーい”と答える 良人がある

   ”ハーイ”とゆう 娘がおる

   歯をみがく 義歯の取り外し かおを洗う

   短いけれど 指のない まるい つよい手が 

   何でもしてくれる

   断端に骨のない やわらかい腕もある

   何でもしてくれる 短い手もある

   ある ある ある みんなある

   さわやかな 秋の朝

 

  どんなところにも生かされていく道はございます。

 人生に絶望なし。

中村久子 HP

to Index