その頃、コリアスティーンでは一人の男が神官長イプシロンに呼び出されていた。
銀髪で褐色の肌の騎士、聖神コリーアの民の武将であるジェダンだ。
彼はイプシロンの前まで来るとひざまづき、下を向いた。
「呼び出したのは他でもない…」
イプシロンは見下したような表情でジェダンを見ながら、淡々と言い始めた。
「前々から調査を続けていた、邪教徒達のアジトをついに見つけたのだ…」
ジェダンは黙々とそれを聞いている。
「奴等はフェリアスの城下町を根城にしている…そこでジェダン」
「はっ…」
「お前には兵を率いて、この邪教徒達を一掃して貰いたい…」
ジェダンは嬉しそうに顔を上げ、目を輝かせながらイプシロンを見た。
「そんな大役を私めに?」
「お前ならやれる…私にはわかる」
イプシロンは心にもない事を言った。
だが、ジェダンはその言葉を鵜呑みにした。
「はッ!このジェダン、必ずや!!」
ジェダンは意気揚々と言う。
そして最後に彼の信念である、この言葉を叫んだ。
「全てはコリーア様の為に!!」
ジェダンが部屋を退出した後、どこからともなくコリーアは現れた。
「似ているな…」
「は?」
コリーアがつぶやいた言葉に、イプシロンは困惑する。
「あの男…名は何と言ったか?」
「あの男?」
イプシロンは更に困惑する。
「私が前の大戦で、ここを任せた男だ…」
「グリーザですか?」
コリーアはイプシロンに視線を合わせる訳でもなく、まるで独り言であるかのように言う。
「そう…その男だ。彼はグリーザに似ている…」
「しかし…あの男は、もっと賢い男でした」
「そうだ…だから良心の呵責に耐えられず、心を壊した…」
コリーアは独り言のような口調のまま続ける。
「だが、彼は違う…」
「…ジェダンの事ですか?」
「そう…強靭な精神力、私に対する揺るぎない忠誠…」
コリーアはそこで自虐的な笑みを浮かべた。
そして哀れむように言った。
「彼は、誰よりも優秀な下僕になれる…私を疑う事も知らぬな」
「コリーア様…」
イプシロンはコリーアを諌めるように言う。
「所詮は人間…くれぐれも、信用し過ぎないように…」
「フフ…分かっている。ただ…私は彼を高く評価しているのだよ」
コリーアは不敵な笑みを浮かべて、それに答えた。
「(ただの時間稼ぎのつもりだったのだがな…)」
コリーアは、意外なほどに上手く進んでいる戦況に対してほくそ笑んだ。
聖神コリーアの民は開戦当初、新生シンバ帝国が陣取るマリアンルージュへ進行した。
この進行j自体は失敗に終わり、多数の死傷者が出た…だが、収穫もあった。
この進行により、彼等は新生シンバ帝国が抱える資金難という問題を知ったのだった。
そこで、コリーアは自ら新生シンバ帝国に対し同盟を提案する…もちろん、資金援助という条件を付けて。
新生シンバ帝国の君主はアンクロワイヤーという若い騎士である。
彼は青臭いが…馬鹿ではない。
喜んで…とは言わないものの、彼はちゃんとこの提案に応じた。
こうして、聖神コリーアの民と新生シンバ帝国は同盟を結んだ。
これにより、聖神コリーアの民にとって、西方の憂いは払拭された事になり、彼等は戦力を東部戦線に集中させる事が可能となった。
つまり、当面の相手はフェリアスの八眼蟲かフリージィのネコ族…どちらも弱小だ。
「(ネコは、所詮、ネコ…)」
フリージィに関しては相手にする必要すらもない。
そうコリーアは考えた。
ならば攻めるのはフェリアスしかない。
「イプシロン…抜かりはないな?」
「はッ…ジュダンに200の兵を持たせ、向かわせました…」
「(200か…)」
コリーアは少し考えた。
しかし八眼蟲はただの盗賊団に過ぎない。
「(…充分か)」
「全ては手筈通りです、失敗は有り得ません」
イプシロンは自分の策の確実性を強調した。
コリーアは、またしても不敵に笑う。
「フフ…ジュダン君のお手並拝見といこうか」
ジュダンに与えられた兵は200。
町一つを落とすには充分の数である。
「よし…出陣だ!俺に続けッ!!」
ジュダンは号令を掛ける。
「全てはコリーア様のために!!」
ジュダンの号令に、兵達の戦意は高揚する。
彼はそれを見て満足気に微笑し、馬を走らせる。
「(待っていろ…邪教徒共!!)」
彼の顔には、瞳には、何の疑いもなかった。
それはすでに狂信ではなく盲信…そして妄信であった。
 
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