「レミナ姉ちゃん…今日はお話してくれないの?」
「うん…ゴメンネ。ちょっと…忙しくて」
服の端を物欲しそうに掴んでいる子供に対し、レミナは洗濯しながら言った。
「だから、向こうで遊んで来なさい」
「チェッ…」
子供は可愛らしい舌打ちをして、子供達の群れへと駆けて行った。
ブレーダに言われてレミナはあれから色々考えた。
人間と魔族にはどういう違いがあるか?
子供達は人魔問わずに一緒に遊んでいる。
「(差別や偏見を植え付けているのは、私達なのだろうか…?)」
彼女の頭にはそういう疑問が浮かんだ。
だが、一方ではコリーアの教えもよぎる。
考え出すとキリがない。
だから、彼女は洗濯をしていた。
気を紛らわせているのである。
「(コリーア様は魔族は悪だといった…でも…)」
彼女は悩み込んだ。
だが、異変に気付き手を止める。
「敵襲だ!!」
誰かが叫んだ。
その後、馬の駆け音が無数に響き、煙の匂いが漂ってくる。
そして次に性別の区別も付かないような悲鳴が轟いた。
「焼け…邪教徒を逃すな!」
馬上に跨った騎士が配下の兵士達にそう命じていた。
その命令通りに、兵士達はテントに火を放ち、難民達を無差別に殺害し始める。
その兵士達が掲げている旗を見て、レミナは愕然とした。
「(そんな…!)」
月と太陽…ネバーランドではポピュラーである神聖な模様である。
この模様を旗印にしている勢力は一つしかない。
「(そんな!!)」
レミナはショックのあまり目に涙を浮かべる。
それは神聖コリーアの民の旗印であった。
「(ヤベェな…)」
森でいつものように木彫り細工をして時間を潰していたブレーダは、異変を感じるのが遅れたのを後悔しながらも町の方へ急いでいた。
やっと町の一角に辿り着いた時、彼の目に燃えさかるテントと略奪を働く兵士達の姿が映った。
ブレーダの頭の中で、鮮明に残る傷跡がフィードバックする。
彼は近くに転がっていた味方側の兵士の死体から剣をもぎ取る。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
そして叫び声と共に敵の兵士達に突撃する。
虚を突かれた数人の兵士達は一瞬にして肉塊となった。
こうなると後の兵士達も最早、ブレーダの敵ではない。
恐怖を味方にした者が戦場では一番強い。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?た、助けて…」
そう言った兵士の首が瞬時に飛ぶ。
ブレーダの居る一帯の敵兵達は総崩れである。
殆どの者が戦意を失くし、逃げ腰になっている。
だが、ブレーダはそんな敵兵達を執拗に追い回す。
その姿は狂戦士であり…復讐者でもあった。
レミナは必死になって子供達を逃がそうとしていた。
敵兵から奪った剣で何とか相手を食い止めている。
並の兵士では彼女の相手にはならない。
だが…
「逃げて…早く!!」
子供達を庇いながら戦っている分、彼女の方が不利であった。
敵も当然、子供のほうを狙う。
レミナの顔にも疲労の色が出てくる。
彼女は服の裾で汗を拭おうとした。
その時、彼女は一人の敵兵が構えているボウガンの矢先が、彼女の後方で逃げ惑っている子供達に向けられているのに気付いた。
咄嗟に彼女はボウガンの弾道に飛び出した。
「っう…!」
矢は彼女の右肩に刺さった。
痛みに悶えながらも彼女は矢を抜く。
それを見て、敵兵達は一斉に彼女に飛び掛る。
「(ここまでなの…?)」
彼女は覚悟を決めた。
しかし次の瞬間、生を失ったのは彼女に飛び掛った兵士達の方であった。
 
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