時は満ちる事もなく 盲目の白き羊達は明日になれば昨日になる今日を愛する 欺瞞の正義がその上に君臨し 偽りの救世主が偽善者達の神へと下る 望みが叶うならば この世界の乾きを潤せるほど才能と 終焉に有り余るだけの解放が欲しい まるでカルト教団の説教を聞いているような気分で芙爾は目を覚ました。 確か昨日聞いたどこかのビジュアル系バントの歌詞だと、記憶が愚痴る。 とりあえず時計を見る。 六時半…学校には十二分に間に合う時間であった。 隣には寝相の悪さと鼾の五月蝿さでいつも芙爾を悩ませる父親の彰が寝ていた。 姉と母親の方はもう起きているらしい。 週明けの朝、芙爾は洗面所へ向かった。 洗面所に着いてから、まず彼は顔を洗った。 その際、鏡に映った自分の顔と暫し向き合う。 奇妙な顔だと彼はそれを評した。 どこか中国系、それでいてすっきりした顔立ちと平凡な顔付き。 よく分からない顔だ。 「・・・」 芙爾が見惚れている最中に姉の葉子も顔を洗いに洗面所までやって来た。 姉弟の間に『おはよう』の挨拶を交わす習慣はない。 ただ、隣り合わせのまま無言で顔を洗う。 そして、彼等は台所に向かった。 食事は簡単だが、いつも仕事があるのにそれを作ってくれる母親の広子に感謝してから、芙爾は朝食のト−ストをかじった。 いつでも何かしら付いているテレビは、最近、巷で話題の連続婦女暴行殺人事件を流していた。 「アンタも気を付けなさいよ・・」 広子が葉子に云う。 珍しい家族の会話だ…二人は少し盛り上がった。 そんな時に、彰ものっそりと下に降りて来て二度寝を敢行しようとした。 仕方がないので、芙爾がその腹を叩いてその暴挙を阻止する。 彰は跳ね上がった…そして、何故か芙爾に抱きついてきた。 これが鹿嵐家流の父子のスキンシップである。 それを呆れた顔で見る広子と、冷静に観察する葉子の視線が痛い。 食事の後、早々に彰と広子は着替えて職場へ出掛けた。 この時には、珍しく『いってらっしゃい』という家族間での会話のキャッチボ−ルがある。 こればかりは両親が共働きの鹿嵐家の伝統らしい。 それから、芙爾は大学生であるが故に家を出るのが遅い葉子を尻目に、高校の制服のブレザ−に着替えた。 そのズボンのポケットに携帯電話と鍵、そして財布、更にはMDウォ−クマンを押し込んでから鞄を背負い、芙爾は玄関へと向かった。 葉子が見送りにくる…何だが名残惜しいといった表情だが、彼女に付き合ったら最後、遅刻は免れないという事を知っている芙爾は、軽く挨拶を交わして家をでた。 団地の駐輪場に止めてある愛車の鍵を外してやる。 眠そうな表情で頭を掻き、芙爾は錠を外した愛車に跨った。 いつもの硬いサドルが挨拶をする。 彼はイヤホンをはめMDをスタ−トさせた。 チンケなバントのつたないべ−スが走る。 そして、いつものように安物のキャップを被った。 中途半端に長い髪の毛が尻尾のように後ろの穴からはみ出た。 こうして、鹿嵐 芙爾の一日が始まる。 すすむ |