「アフリカにおける移動性バッタ対策事業についての要請」を外務省に提出


「アフリカにおける移動性バッタ対策事業についての要請」 を外務省に提出

2004年12月20日に行われた外務省との意見交換会の席上で、2KRネットは次の要請文 を提出しました。





2004年12月20日
外務省無償資金協力課課長
鈴木秀生様

アフリカにおける移動性バッタ対策事業についての要請

食糧増産援助を問うネットワーク
共同代表  田坂興亜 今井高樹

2004年9月、日本政府はFAO(国連食糧農業機関)が実施する西アフリカ3ヶ国の移 動性バッタ対策事業(農薬散布を含む)に対し、ODA食糧増産援助(2KR)として3億3 千万円の資金供与を決定した。食糧増産援助での農薬供与については、環境面での危 険性を配慮して外務省は2002年に原則中止の決定をしたが、国際機関経由の供与につ いては例外措置として認めており、今回はその初めての適用となる。  西アフリカの深刻な状況への対処は緊急を要し、国際的な協力は不可欠である。し かし、今回の援助による農薬散布が十分な環境配慮とモニタリングのもとに実施さ れ、なし崩し的な形での農薬援助の再開につながることのないよう、また、西アフリ カの飢えの問題にもつながるこの問題への日本政府としてのコミットメントが継続す ること、以下の通り要望する。


【対策事業の内容とこの間の経緯】

1. FAO緊急アピールの内容

昨年夏以降に北西部アフリカ(モロッコ、アルジェリア、チュニジア、リビア)で 大発生したバッタの群れは今年6〜7月に西アフリカのサヘル地域へ移動し、モーリタ ニア、マリ、ニジェール、チャド、セネガルの作物が大きな被害を蒙る恐れが出てき たとして、FAOは、このバッタへの対策を緊急に取る必要があることを日本を含む各 国に訴えた。特に日本政府に対しては「FAOの砂漠バッタ防疫戦略としては、早期警 報、早期発見、早期処置により、小規模、かつ局所的発生段階での砂漠バッタの防疫 に注力するのが基本であるが、FAOの技術陣は、今回の異常発生は、上述のような大 発生と異常増殖を抑制できない極端かつ特殊なケースと認識し、『最後の手段』とし ての農薬の緊急使用を許容せざるを得ない事態と判断した」と説明し、「過去の経験 に照らし、農薬の使用に懸念を有する方々の意見に十分留意しつつ、FAOの責任によ り」環境への影響を極小化すること、過去に起こったような農薬のオブソリート化を 防ぐことなどを事業の条件として提示した。この要請に対して日本政府は資金供与を 決定し、農薬使用による砂漠バッタの防除が実施されることになった。


2. 対策事業における環境配慮について(FAO日本事務所と2KRネットとの意見交換)

私たち「食糧増産援助を問うネットワーク」は、これまで食糧増産援助による農薬 援助がオブソリート農薬(未使用、期限切れ農薬)を生み出し、地域によっては環境 ・人体汚染を招いてきたことを鑑み、農薬を含む援助のあり方を根本的に改めるよ う、外務省に求める活動を行なってきた。このことを配慮してFAO日本事務所は私た ちに対し、上記のような状況によって今回の処置がやむを得ない緊急の対処であると の説明を行った。  これに対して私たちは「環境への影響をどのように極小化するのか」「農薬のオブ ソリート化をどのように防止するのか」などの他、生物農薬を含む農薬の種類につい ても説明を求めた。FAO日本事務所からは、農薬の種類及び散布方法はFAO専門家の判 断のもとで環境影響に十分に配慮したものであること、対象国別の状況を十分に勘案 した必要農薬量を送ることにより不要農薬の発生を防止すること、プロジェクト実施 にあたってNGOによるモニタリングも検討したい旨の説明があった。


【私たちの要請】

3.農薬援助再開への懸念と今期事業のモニタリングの強化

私たちは、飢餓に直結する恐れのある事態に対してFAOが緊急の対策を取ること自 体は必要だと考えるが、これを突破口として、中長期的な面での農薬援助が再開され ることがないよう強く求める。  また、今回の「緊急事態」に対処する形での農薬使用が、「環境への影響の極小 化」「オブソリート化の防止」など、モニタリング態勢を整えた上で行われているか どうかを確認し、そのモニタリングの結果を随時公表することを求める。モニタリン グに際しては、農薬についての知見があり、また現地の農業に詳しいNGO、例えばセ ネガルに事務所を置くPANアフリカ(Pesticide Action Network Africa)などを活用 すべきと考える。また、モザンビークのオブソリート農薬目録作成で効果を発揮して いる国際NGOと現地NGOとのコラボレーションも念頭におかれたい。


4.長期的な視点に立った調査・研究と国際的協力体制の構築への日本の関与について

西アフリカにおけるバッタ被害は過去に繰り返し発生し、この地域の飢えの問題に もつながってきた。これまでFAOを中心にバッタの早期発見・対応のシステムを構築 する努力が続けられてきたが、今回の経験を踏まえ、西アフリカ地域各国、国際機関 (FAO)、ドナー諸国、NGOらによる、より一層の共同調査・分析・討議・体制づくり が求められている。  しかし日本政府はこれまで、この分野に十分協力してきたとは言いがたい。それば かりか、西アフリカ諸国に対し技術協力もないまま農薬を中心とした物資供与を行 い、結果としてオブソリート農薬発生などの問題を引き起こしてきた。こうしたこと を反省し、日本政府はこの地域の飢えの問題を解消するためにも、バッタ対策につい ての調査・研究と今後の国際協力体制の構築に長期的にコミットすべきである。

以上



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