外務省との意見交換会(第6回)議事録


開発途上国における農業分野に対する無償資金協力に関する意見交換会

第6回 議事録(詳細版)



2004年12月20日(月) 18:30〜20:45
外務省 396会議室

出席者(敬称略、順不同)

【在京大使館関係者】
・ネパール大使館  Mr.Paras Ghimire (公使参事官)及び寺沢秘書
・ラオス大使館   Mr.Souchay PHILATHIVONG (公使参事官)
・モンゴル大使館 Ms.Dambadarjaa BATJARGAL (参事官)
・エジプト大使館 Mr.Mokhtar Omar (一等書記官)及び齋藤秘書
・エクアドル大使館 Mr.Adolfo ALVAREZ (大使)及び竹田秘書

【国際機関関係者】
・FAO(国際連合食糧農業機関日本事務所) 遠藤所長 / 小平次長
・WFP(国際連合世界食糧計画日本事務所) 伊藤礼樹

【市民・NGO関係者】
・田坂興亜(食糧増産援助を問うネットワーク 共同代表)
・今井高樹(食糧増産援助を問うネットワーク 共同代表)
・舩田クラーセンさやか(食糧増産援助を問うネットワーク)
・高橋清貴(日本国際ボランティアセンター) *NGO側司会担当
・水原博子(日本消費者連盟)
・内野ケイタ香美(NGO地球風)

【農水省 国際協力課】
・中澤課長補佐
・古川係長

【国際協力機構(JICA)無償部】
・原田第三グループ長
・池田KR・2KRチーム長
・清水KR・2KRチーム職員

【日本国際協力システム(JICS)業務部】
・橋本健一 業務企画課長
・武井清隆 プロジェクト・マネージャー
・深澤公史 プロジェクト・マネージャー

【外務省 無償資金協力課】
・鈴木秀生 無償資金協力課長
・木邨洗一 無償援助審査官
・内藤康司 ノンプロ・食糧援助等班長 *外務省側司会担当
・石崎吉男 課長補佐

【マスコミ関係者】
・大森淳郎(NHK)

●議事録

【開会】

司会(内藤)
本日は農業開発に関心があるステークホルダー、被援助国代表、FAO及びWFPの日本事務所、 JICA、今回初参加のJICS、NGO、農水省、それに外務省が一緒になって飢えのない世界を作るために どんな援助スキームにすべきかを幅広く意見交換するために集まった。 日本語セッションと英語セッションを交互に行っており、ご出席いただいている外交団の方々に は恐縮だが、日本語セッションとして行う。

【外務省あいさつ】

鈴木(外務省無償資金協力課長)

世界で8億4千万人の人々、およそ8人に1人が飢餓と食糧不足に苦しんでいる。 それに対する食糧援助に加え、飢えている人たちが自活できるようにすることが究極の目的である。 その1点において、この会合の参加者の認識は恐らく一致しているだろう。 そのための方法論についてこれまで5回の意見交換会を通じて議論をしてきた訳だが、 外務省では2KRについて既に様々な改革を実施してきた。 例えば見返り資金の公正な管理と外部監査の義務付け、見返り資金の小農支援事業や貧困対策事業への優先的な使用。 援助のモニタリングと評価を充実させるための被援助国と日本側関係者での定期的な意見交換会の制度化。 或いは農民、NGO等の現地ステークホルダーの援助プログラムへの参加の機会確保といった改革を進めてきた。 より抜本的な改革としては、農薬を供与対象から外し、また予算の大幅削減を実施してきた。
飢餓からの脱出、自ら食糧増産すること自体の意義は今日において我々は否定し得ない。 今日、財務省から来年度予算の内示があった。 無償資金協力全体としては3.1%減少であったが2KR、名称改め「貧困農民支援」については50.04億円という前年同額の予算内示を受けた。 飢えの撲滅という援助の目的が財務当局にも理解されたと考えている。
制度的な改革のほかにも様々な分野の改革を行っている。 最近ではFAOを通じた事業、砂漠バッタ対策などの新しい形態の支援、オブソリート農薬処理事業ではこの12月にモザンビークに対する支援を決めた。 こういった新しい分野にもチャレンジしている。

【NGOあいさつ】

田坂 (食糧増産援助を問うネットワーク)

この会合も6回目になった。 最初は問題点の指摘から始まったが、徐々に2KRが本当に飢えをなくして貧困削減に役立つために外務省、 JICA、FAO、NGO等がどのように協力すればよいかというポジティブな方向に議論が進んできたことを心から喜んでいる。 私たちは「提言書」を作り、飢えの原因を分析し、最も貧しい人たちが飢えなくなるためにはどうすればよいか、 日本がどのような協力をすべきなのかを提案している。是非参考にしていただきたい。

●議題1 オブソリート農薬処理事業の進捗について

【外務省報告】

内藤(外務省無償資金協力課)

貧困農民支援への名称変更を決め、どうやって食糧増産援助を改革していくか、 できるところから実施していくという観点から取り組んでいる。 12月17日の閣議で食糧増産援助のスキームのもとでオブソリート農薬の処理を行うことが決定した。 22日にローマで署名、正式発表される。
モザンビークで平成8、9年度に2KRで供与した農薬が一部環境に影響を及ぼしていることが明らかになったことを契機に、 2KRでは国際機関が責任を持って実施する場合を除いて農薬を供与しない方針を決定した。 その後、モザンビークのオブソリート農薬を処理するFAO事業に対して、 まずは第1フェーズとして処理が必要な農薬がどれだけあるかという調査に対して85万ドルの支援を実施してきた。 その結果、191ヶ所に分散した未使用農薬が1400トン。そのうち廃棄が必要なものは450トンあることが分かった。 これを中央の集積所に集めて安全な形に再梱包する。 それを最終的には国外に移送して廃棄するのだが、第2フェーズでは再梱包までを行う。 それに加え、モザンビーク政府による農薬管理の政策や国内法の見直しについてFAOの専門家が支援を行う。 一部土壌に埋めた廃棄農薬が影響を及ぼさないか評価を行う。
この援助は基本的に多くが役務、ソフトコンポーネントによって構成されている。 これまで2KRで行われていた援助はほとんどが物資の供与だったが、 今回はソフトコンポーネントが100%近い。 これは持続的な食糧増産を支援するという文脈で言うと、農薬を使用する場面では適切な知識が重要であり、 アフリカで5万トン残っているといわれる農薬、自国では廃棄できないと言われている農薬を最終的に 廃棄していくFAO事業を支援することは持続的な食糧生産に貢献するものと考えている。
このほか、エチオピアにおいても114万ドルの処理事業への支援が実施されている。 平成15年9月から開始されているが、今後に悪影響がでないように、予防を中心として農薬の オブソリート化が起きないような国内の体制整備やトレーニング等に当てられている。 現在進行中。
今回の支援をもって資金の積み上げとしては340万ドルを超える支援となる。 今後とも持続的な農業生産を支援するためにアフリカのオブソリート農薬の問題には積極的に取り組んでいきたいと考えている。
モザンビークの第2フェーズは2005年1月から12ヶ月間。 それを見極めた上で第3フェーズが行われるのだが、第3フェーズにおいては梱包した農薬を海外に持ち出して、 適切な施設で廃棄することになる。 仮に、そこまでの方針は決まっていないが、モザンビークの第3フェーズにも日本が貢献することになれば、 モザンビークのオブソリート農薬問題は解決し、それはすべて日本の支援のもとに行われたことになる。

【NGO報告】

舩田クラーセン(食糧増産援助を問うネットワーク)

モザンビークでの農薬問題を私自身が知ったのは2000年だったが、そこからよくここまで来たなと思う。 外務省の方々とも、私たちが現場の情報を集めて問題提起をし、それに外務省が答えて議論をするというキャッチボールができてきた。 本当に素晴らしいことだと思う。
ただ、農薬が中止になったからよいという話ではない。 農薬は危険が伴ったために問題が顕在化した例であって、元々は2KRの「物資供与偏重」にリンクした問題。 そのことを念頭に、後の議論につながるように幾分丁寧にこの問題を整理してみた。
(パワーポイントでの説明)
アフリカのオブソリート農薬問題は90年代からキャンペーンが張られてきた。 日本では環境汚染といわれているが、途上国では農薬が入っていたドラム缶に水を入れたり、 容器で子供が遊ぶなどむしろ人体汚染の危険性が非常に強い。 アフリカ中にオブソリート農薬は非常に多く存在し、ひっそりと家の庭のようなところに放置されたりしている。 オブソリート農薬とは単に農薬だけではなく、農薬が入っていた容器や、 汚染された土壌も含めたものである。昔農薬が大量に放置された土壌が汚染され、 雨が降ると水がたまる。住民はそのたまった水を使って魚を殺し、魚を市場で売っている。 アフリカでは毒を池や川にいれて魚を獲ることは昔からやっているが、 それに生物農薬ではなく化学薬品が使われている。これもオブソリート農薬である。
この問題に関してASP(African Stockpile Project)という取り組みが行われているが、 狙いとしては5万トンあるアフリカのオブソリート農薬を全部処理する。 これは250億円かかる野心的な計画。 何故これほどの費用がかかるかといえば、アフリカには処理する施設がない。 だから1トンを処理するのに移送費も含めて30万円かかる。 ASPが作成したインベントリーを見ると、色の濃い国々(オブソリート農薬の量が多い国々)は 日本が2KRを供与してきた国々とほぼ一致する。
2KRはFAOの報告書NO.9で名指して批判されている。 過去に供与した農薬の在庫も確認せずに次の農薬を供与。 このように不適切な援助によってオブソリート農薬は発生してきた。 日本は90年代になりオブソリート農薬の処理が既に問題になってからも援助農薬を送り続けた 。2KR供与に占める農薬の比率は、アジアやラテンアメリカに比べてアフリカは非常に高かった。
モザンビークの問題が注目されたことで、モザンビークで先進的な事例が実施されつつあるのは、 皮肉というよりは重要なこと。ちなみにモザンビークは77〜92年まで内戦があった。 その間に日本は2KRを供与し続け、多くは農薬であった。 90年代のモザンビークへの2KRの実に88%が農薬で占められていた。
モザンビークでオブソリート農薬回収事業が始まったが、当初実施されたデンマークの援助機関DANIDAの事業では、 回収したドラム缶が雨ざらしにされ、土壌汚染の危険が出た。 しかも次にはそれを焼却処分しようとしたので、モザンビークの環境NGOリバニンゴが反対した。
問題が日本で新聞報道された時に日本政府は動揺したと思うが、 これを隠蔽するのではなく、問題解決に責任をもって取り組もうとした。 現地大使館などはかなり心を砕いてやられたと思う。
処理事業が始まる前、モザンビーク政府はNGOの参加には難色を示していたが、 FAOの圧力を受けた日本政府が要請し、NGOが処理事業を統括する運営委員会に正式に入った。 そのことにより、政府とNGOが共同で地域にインベントリー作成のための調査に出かけるというチーム作業ができてきた。
モザンビークモデルが斬新的なのは、DANIDAが出来なかった、 徹底的な、最後の1個のドラム缶までロケートすることができた点。 これは日本の資金がなければできなかった。
もうひとつは、市民が運営委員会に入ることで、すべての情報にアクセスできるようになった点。 これによってモニタリングが実施できた。国際NGOでは、PAN-UKがモニタリングに参加し、 専門性を発揮し、プロジェクト全体の透明性を高めている。 現地NGOと政府の関係は良くなかったが、PAN-UKの仲立ちもあり、かなりの信頼醸成ができた。
PAN-UKは専門家が多く、モザンビーク政府やFAOが知らないことも知っており、貢献している。 このような報告書を作ることで広報活動にも活かせる。
是非今後の資金援助の際に、すでにNGOのモニタリングはスキームに入れていただいているが、 国際NGOと現地NGOの協働という形で入れていただきたい。このやり方は効果があるだけでなく今後に繋がる。 異なったステークホルダーが集まって共同作業をする中で生まれてくるものがある。 第2フェーズの中に第1フェーズの経験が非常に活かされている。 予防学習を住民に対して、また農薬会社に対して実施しないと同じ問題が起きてしまうことが明らかになっている。
エチオピア、モザンビークでは進んできたが、他の国にもまだまだ問題が存在する。 先駆的なモザンビークの取り組みを是非知っていただき、今後につなげていただきたい。

●議題2 国際機関を通じた2KR支援について

【FAO報告】

遠藤(FAO日本事務所)

サヘル地域での砂漠バッタの大量発生に対して、極めて例外的ではあるが最後の手段として農薬を使用した 撲滅プロジェクトについて報告したい。 砂漠バッタは北アフリカ地域で大発生し、サハラ砂漠周辺のサヘル地域に南下してきている。 今回は、卵が産み付けられた土壌に乾燥地域としては異常な降雨があり湿気を含んだことによって大量発生につながった。 バッタは単体では無害でも大発生によって群生化すると獰猛になり、 作物に壊滅的な打撃をもたらす。
国際社会の支援は出足こそ鈍かったものの、夏になると各国からの支援が集まり出した。 日本からも10月以降300万ドルの支援を得ている。
これは、緊急防疫対策として250万ドル、中長期対策として生物農薬の実用化研究、 効果的な発生予察手法の開発に50万ドルの両面作戦である。
緊急防疫対策は、非常に残念だが、この大量発生に対して農薬を使わざるを得ない。 但し、国際基準に従うとともにFAO専門家の知見を最大限活用して、環境と健康影響に最大限の配慮をしたい。
一方、中長期的対策事業としては、今回何故早期警報システムがうまく働かなかったかを探り、 システムの運用改善を図るとともに、今回の緊急対策での環境・健康影響をしっかりモニタリングしながら 今後に向けてより適切な手法を開発する。 また農薬がオブソリート化しないような管理のシステムを検討する。
緊急対策の具体的実施状況は、10月から開始して予算執行は15%程度だが、 重点地域については他のドナーからの支援も活用して農薬による防除を実施している。 また、オペレーターの健康影響には細心の注意を払い、ゴーグル・防護服の着用、血液検査の実施、 周辺の環境への影響を極力抑制するなどの措置を取っている。 とにかく環境と健康の両面を配慮して実施している。
具体的な作業は資料の写真を見ていただきたい。 木に散布したり、広範囲に散布する場合には航空機やヘリコプターで低空飛行して散布している。
散布後のモニタリングから、チャド、モーリタニア、マリの対象3ヶ国では重大な農薬汚染は防止されているが、 一部のオペレータの血中にコリンエステラーゼ酵素の減少が見られた。 当該オペレータは回復のため休暇を与えるとともに、回復後は別の職務への配置転換を行った。 原因としてはゴーグルのつけ方が不十分だったことが考えられ、今後は作業にあたってのトレーニングの強化が 必要。野生生物、家畜への影響は報告されていない。
次に、環境に優しい農薬代替生物抑制剤の適用については、 昆虫病原性糸状菌(メタジウム)の散布を考えている。 モーリタニアにおいて今後状況が整えば実施し、専門家による綿密なモニタリングを行う。 このメタジウムは、バッタを体内から菌で腐らせる効果がある。
今後については、冬から春にかけての繁殖期が終息するまでの間、 モーリタニア、マリを含む北西アフリカに集中して監視及び防疫作業を行う。 同時に3ヶ国のプロジェクト対象職員が参加する訓練を行う。
今後の中長期的対策事業については、現在FAOが実施している早期警報・発見システムの運用改善、 農薬に変わる防疫手法を含め、環境影響や健康リスクを最小限にするよう、 砂漠バッタの発生・生育段階に応じた防疫制圧体制の検討、農薬の適正な在庫管理と規律化の検討を行う。 以上をレビューするためのワークショップを開催する。
中長期対策の05年度の活動予定は、ITTA(国際熱帯農業研究所:ナイジェリア)と協力して実施計画を策定する。 昆虫成長抑制剤(Insect Growth Regulators)と化学系農薬について環境保全に準拠 したタイプの適用可能性の検討、また別タイプの代替生物抑制剤である昆虫病原性糸状菌系生物農薬の効能についても 現地適用を検討予定。
これらの代替農薬とは別に、バリアー散布手法など、農薬を散布する場合にもバッタのみを防除でき、 他に害を及ぼさずに散布できる選択性の高い散布手法への改善を行う予定。

【外務省報告】

内藤(外務省無償資金協力課)

砂漠バッタに対する日本の支援は、「農薬は供与しない」方針を発表してから初めて例外的に実施するもの。 3年間にわたる調査も実施し、「最後の手段」である農薬に代わる代替手段として、 菌で駆除する方法などを調査する。 調査結果は日本のみならず他国にも裨益するなど波及効果のある支援になることを期待している。
詳しくは配付資料を見ていただきたいが、平成16年にFAO経由で実施した、 或いは実施予定の案件が2つある。 ひとつはダルフールに対する支援、もうひとつはハイチに対する支援。 いずれも災害もしくは紛争による被災者への支援だが、単に食糧援助を行うだけでは援助に依存して しまっていつまでも自給ができない点に着目して、 食糧援助を行うと同時に、穀物・野菜の種子、簡単な農具の配給、 技術指導により食糧自給と自立回復を促進する。

【質疑、コメント】

田坂(食糧増産援助を問うネットワーク)

モニタリングをする場合に、私たちからの提案として、NGOも含めて現地のこういった問題に精通した団体 によるモニタリングを実施して欲しい。
コリエンステラーゼの問題が起きたということは有機リン系の農薬、 フェニトロチオンが使われていると思うが、この薬剤は過去にインドネシアで トビイロウンカに対して抵抗性を与えてしまうという問題があった。 砂漠バッタに対してそういう問題があるのかどうか、是非専門家に確認をして欲しい。
「注意深く」ということだが、それでもなおこの作業によってオブソリート化する 農薬を生じさせないためには、モニタリングの段階で農薬使用に批判的なNGOの参加 を是非お願いしたい。

今井(食糧増産援助を問うネットワーク)

お手元に配付した資料(「アフリカにおける移動性バッタ対策事業についての要請」) にある通り、バッタ対策事業に対して食糧増産援助を問うネットワークとして要請したいことがある。 1点目は今の発言にあったモニタリングの問題。 2点目は、バッタの問題は今回が初めてではなくずっと以前から西アフリカ地域で 起こってきた問題であり、しかしそれに対する国際的な早期警報などの体制作りが、 FAO等の努力はあったけれどもできてこなかった。 それを踏まえて、今回の対策だけでなく、中期長期的にもそうした国際協力の体制作りに 日本が積極的に関与して支援していかなければならない。

●議題3 2004年度の2KR実施方針

【外務省報告】

木邨(外務省無償資金協力課)

04年度2KRはJICAによる調査が終了し、結果を分析して今年度の2国間供与をどうするか検討している最中。
昨年度と同様、農薬は除いて肥料と農業機械の供与。 必ずJICAが詳細な調査を実施する。 その内容は要請の必要性、先方の実施体制の有無を確認するとともに、 昨年同様3つの条件を先方に確認する。 3条件とは、第3者機関による見返り資金の外部監査の実施、 見返り資金を貧農支援・貧困対策に優先的に使うこと、年1回の政府間協議を四半期に1回とし、 年1回は政府間協議会として残り3回は連絡協議会として多くの現地ステークホルダーの参加を認めること。 この条件を満たさなければ供与しないということをJICA調査団は相手国に説明した。
予算が50億円しかないので、調査対象を16ヶ国にした。 要請そのものはたくさんあり、昨年に引き続いて供与して欲しいという国もあったが、 昨年調査して対象にした国は除いて新たに16ヶ国を選んだ。 具体的にはアジアでスリランカ、ネパール、ブータン、アフリカでアンゴラ、エチオピア、 エリトリア、ギニア、ナイジェリア、ニジェール、ブルキナファソ、マダガスカル、 中近東イエメン、エジプト、中央アジアでアゼルバイジャン、グルジア、キルギス、 以上16ヶ国。調査結果は現在検討中。
外部監査の導入について、いくつかの国では「既に国の会計監査でドナーの資金は監査している。 新たに外部の監査がなくともその国の会計監査機関でよいではないか」と難色を示した国もあった。 それについては外務省がフォローし、「こういう厳しい状況で説明責任を果たすためには外部の監査が必要」 と理解を求めている。
見返り資金の積み上げについては一部アフリカで、以前農薬を国家防除で使用したために積み上がって いない国があったが、過去の理由、現在の積み上げ体制はどうなっているかをJICAの調査結果資料をもとに検討している。
見返り資金の適切な運用については使途の条件に合意してもらうとともに、 今までの運用がどうだったのか、これからの運用体制をどうするのかという観点から検討している。
16ヶ国の中から真に必要性が認められて、妥当だと判断したものについて供与を決定したい。
私自身がブータンとネパールの調査団に参加して、独特のニーズを感じたので紹介したい。
ブータンは人口70万人の小さなヒマラヤの山国。 30数年にわたって西岡氏という一人の日本人が継続して農業分野の協力をしてきた。 その中で農業機械化という路線を打ち出した。 山国なので農業生産性を上げるためには適期適作で耕起をしっかりすることが唯一の手段だとして、 国家的に機械化を推進して耕耘機を導入している。 コマーシャルベースで販売するには農民には資金がないし、民間市場自体が成立しないので、 耕耘機をすべて2KRに頼っているという状態。 ただ、誰に農業機械を売ったのか、その人は購入するだけの経済力があるかどうかが全て分かっている。 それを把握してサービスも徹底し、実際に単収が2〜2.5倍に上がったという成果も出ている。 そういうところに2KRで耕耘機を供与するのは意味がある。
ネパールは、やはり山国だが、肥料によって生産性を向上させている。 ネパールは特殊な事情があって肥料を自国では生産していないので輸入しなくてはならない。 ところが商売としては成り立っていない。 加えて、インドから補助金を受けた肥料が違法に入ってきている。 違法だから品質も担保されない。場合によっては農民は騙されて品質の悪い肥料を買わされる。 それを、市場経済化を促進しつつも政府はコントロールしている。 更に山あいの貧農は、民間業者はそこでは商売にならないから、そこで肥料を配付するためにはある程度政府が入るしかない。 バッファストックという形で常に一定の肥料をストックして市場をコントロールしながら肥料価格の高騰を避け、 農民への適正な価格での販売と地方への配付が担保されるようなシステムを作っている。 そこに2KRの肥料が使われている。
他の国々、アフリカも含めて、絶対的に肥料が足りない。 化学肥料を供与することの是非を問われてしまえば議論にならないのだが、 そこで政府が補助として援助での肥料を活用し、それを日本の2KRに頼っているということが多々見受けられる。
農業機械についても、旧ソ連ではソ連時代のソホーズ、コルホーズという大型の集団農場の経験があり、 機械を貸し出したり賃耕して生産性を上げている。 これをすべての農家が享受している。その更新や拡大のために2KRの農業機械が頼りにされている。


●議題4 貧困農民支援のあり方について

【外務省報告】

鈴木(外務省無償資金協力課長)

これまで外務省として行ってきた改革については既に紹介されているが、では名称を変えてどうするのか。 配布資料の6ページに「更なる改革への具体案」として書いているが、 田坂さんからいただいた提言書も勉強させていただいて、課の中でも更に良いスキーム としていくにはどうしたらいいのか考えている最中。 具体的にこれまでやってきた例をはじめ、どうやったら貧困農民が裨益するものになるか色々なことを考えている。
原則として考えているのは、第一に途上国自身の問題意識、途上国の視点の重視。 誰が飢えているのか、どうして飢えているのかは国によってずいぶん違う。 A国でやっているからそれをB国でやればよいというものではない。 個別具体的に調査をやらなくてはいけない。 途上国自身が何をやりたいかを考える。途上国自身がやりたくないこと、 やる気がないことをこちらから言ってもうまくいかない。 テーラーメードな支援を実施していく。
マクロとミクロ双方のアプローチ。 飢餓の状態、その根源的な理由がどこにあるのかは国によって違う。 そのことに尽きる。生産技術そのものが立ち遅れているのか、或いは生産技術そのものは あるのだけれど流通に問題があるのか。或いはガバナンスに問題があるのか。 問題は国によってちがう。その中でひとつひとつのコミュニティを援助していくアプローチは必要だが、 国全体としてマクロで見てパイを大きくすることも国によっては必要。 そこでのベストミックスでうまくやってくことが重要。 飢えの問題は人類の数千年にわたっての永遠の課題で未だにこれで大丈夫だとういう 解決策はない。 色々な方法論を試行錯誤しながらやっていくことが必要かと思っている。 そんなことを考えながら今勉強している。
具体的な例としてはここに書いてあるので省略し、ご質問があればお答えしたい。

司会(高橋)

ただ単に食糧増産援助の名前が変わっただけでなく、根本的に新しいものとして飢えをなくすための農業 ・農村支援ヘ向かっていくための貧困農民支援をどう作っていくのか、 どうあるべきなのかというビジョン、原則を意見交換する第1回目が今回の会合なのだと思う。 この後どう作っていくかのプロセスの話も必要になってくると思う。 恐らくNGO側の意見やJICAの意見も出てくるだろうが、何が違うのか、何が大事なのか、 というあたりを少し意見交換できればと思っている。

【JICA報告】

原田(JICA無償資金協力部)

JICAでも貧困農民の支援について検討をしている。
JICAでは農業開発、農村開発がどうあるべきかを研究し、8月には報告書を取りまとめた。 同報告書について報告したい。
言うまでもなく、多くの開発途上国では農業従事者が多く、その大半が貧困層に属している。 農業セクターは国家経済の中核であり、農業開発、農村開発は食料安全保障、貧困削減、 経済開発といった主要開発課題に取り組む上で重要。
安定した食料の生産と供給、食料安全保障への支援と、 貧困問題への対応である農村開発は極めて密接に関連している。 つまり、食料安全保障に向けたマクロ(国家)レベルの取り組みへの支援と、 ミクロレベルの様々な開発課題に取り組む農村開発への支援は、車の両輪の関係にあり、 両者の調整を図りながら事業を展開することが必要。 まさに「飢餓と貧困の解消」を目指さなければならない。
お手元の資料にある通り、JICAでは同報告書において3つの開発戦略目標に整理している。
一つは「安定した食料供給」、二つ目には「活力ある農村の振興」であり、 これらの前提として三つ目として「持続可能な農業生産」が重要である。
「安定した食料供給」とは、都市と農村の食料安全保障を確保するため、 食料生産・農業生産の安定・向上と併せ安定的輸入体制の確保及び適正水準の備蓄を組み合わせるとともに、 国内の流通体制を整備しなくてはならない。
「活力ある農村の振興」については、農村の飢餓と貧困の解消のためには、 農業生産の改善のほか、農産物の利用・販売等、農業以外の多様な経済活動の振興を図らなくてはならない。

そして、これらの前提としては「持続可能な農業生産」が必要。 こうしたことを実現するための具体的な手法としては専門家派遣、研修員の受入れなどの技術協力、 無償資金協力などが挙げられる。
これらを申し上げた上で、2KRがより効果がある、途上国に喜ばれる援助にするためにはどうすればよいか。 JICAでは昨年3月に「2KR実施計画手法にかかる基礎研究」を取りまとめた。 同基礎研究では、(1)援助目標の明確化と達成度を確認するための指標設定やモニタリング、 評価の実施。(2)市場化支援の観点からの民間部門との連携・支援。 (3)技術支援との連携による被援助国の実施能力強化。(4)環境への配慮。 (5)国別・課題別アプローチとの整合性。(6)事前審査の強化。(7)実施段階の改善。 (8)モニタリング・評価の強化等の必要性に言及している。
特にこの中でのポイントとしては、1点目は実施にあたっては技術支援との連携を密にして、 資機材供与中心の2KRをより効果あるものにする。 或いは一般無償での灌漑施設整備などとの連携を取る。
2点目は、モニタリングと評価の手法。モニタリング報告書をフォーマット化して提出してもらうなど、 相手国政府、それに現地農民などのステークホルダーも参加してモニタリングを実施するための手法を開発しなくてはならない。

【NGO報告】

今井(食糧増産援助を問うネットワーク)

10月に「提言書」を出した。 ここで飢えの問題や、これまでの2KRの問題点について書かせて頂いているのでこの場では 省略させていただく。 お手元の資料では「提言書」から要点の部分だけ引用させていただいた。読み上げると、
  • 1.農業・農村開発分野における国際協力の基本方針を策定する
    農業・農村開発分野の援助は、途上国における「飢え」の解消を目的とすることを明確にする。 「誰が飢えているのか」「飢えの原因は何か」を分析し、日本にどのような協力ができるかの 指針を策定する。
    2.上記の基本方針を策定した上で、現行の「食糧増産援助」は取り止めて 「食料安全保障無償資金協力」に改編する
    国レベルでの「食糧増産」ではなく、「飢え」に直面する農民が食料を安定的に生産して 自立するための「食料安全保障」という考え方への転換を図る。
    資機材中心の援助ではなく、「飢え」の解消のため農業・農村開発に取り組む国際機関 ・NGO・農民グループに対する資金協力を中心とする。
    「財政支援」「外貨支援」といった援助目的とは完全に切り離す。

それを受けて話をさせていただくと、今回の「貧困農民支援」への名称変更自体は私たちも歓迎している。 ずっと前から私たちは「援助の裨益対象をハッキリすべき。 飢えに直面する貧困層の農民を対象にすべき」と言ってきたので、もしそういった内容に転換されるのであれば評価したいと考えている。
但し、名称変更に伴う中味の変更が外務省からは出されていない。 名称だけ変更されて中味が変更されないのでは意味がない。 例えば、02年度以降の「見直し」の中でFAO経由の2KRなど実施されているが、 こういったものは年間数億円のレベルであり、 50億円の予算規模のうち40億円以上は従来型の2KRが続いているのが現状。
昔、2KRが年間200〜300億円の予算規模だった頃は40〜50ヶ国を対象にしていた。 今では予算規模から考えて年間15ヶ国くらいしかできないということだが、 そうするとひとつの国に対しては3年に1回程度のサイクルで実施するようになる。 それが実情。3年に1回のサイクルというのは意味があるのだろうか。 相手の自立を支援するというなら、一定期間、3年なり5年なりの支援を継続して相手の自立を手助けして、 その段階で終了するというのがあるべき姿であって、 3年に1回というのは外交的な「バラマキ」のためにやっているという気がしてならない。
そうしたやり方も含め、現行の2KRの仕組みを抜本的に見直して「貧困農民支援」 にふさわしい内容に変えなくてはならない。 従来の制度にとらわれず、この機会に抜本的に組み変える必要があると考える。
お手元の資料に「貧困農民支援のイメージ」という表がある。 分かりやすくしようと、このような表を作成した。 「食糧増産援助」と「貧困農民支援」を対比させ、援助目的、裨益対象、 援助内容などを比較している。
「援助目的」では、「食糧増産援助」は食糧増産、特に国レベルでの自給率アップと財政支援、 外貨支援を目的にしている。 「貧困農民支援」では、明らかに貧困農民をターゲットにして自立支援を目的とすべき。
「裨益対象」も、従来の2KRでは不特定多数の農業関係者。 対象地域などの条件はあるが、実際には市場ルートを通じて販売されるために不特定多数にならざるを得ない。 しかも対象は農民に限らず、例えば農業関係者が農業機械を購入して賃貸ビジネスをするようなこともアフリカの国ではあった。
「貧困農民支援」においては、当然のことながら裨益対象は飢えに直面している小農、 貧困層の農民。
援助内容についても、従来の2KRでは化学肥料、農業機械が中心。 ソフトコンポーネントは、いまだごく一部でしか実施されていない。 「貧困農民支援」では私たちは、包括的な農村地域開発という枠組みでの協力、 身近な資源、伝統的な農法も活用した適正技術の活用と普及、 そのためのトレーニング、在来種の保存と活用、農民グループの組織化とエンパワーメントなど、 言ってみればソフトコンポーネントのかたまりだが、 資機材援助ではなく、そういった内容を中心にすべきではないかと考える。
「配付、実施方法」も、従来は市場ルートでの売却だったが、 「貧困農民支援」ではモノを与えるわけではないから、現地農民のイニシアティブのもとに協力する体制づくり。
「実施主体」についても、「貧困農民支援」であれば現地農民グループ、 現地NGO、国際NGO、JICA、FAOなどの国際機関、相手国政府の農業省などとの協力で 実施しなくてはならない。
見返り資金制度について、これが2KRを特徴付けてきたわけだが、 これは「貧困農民支援」では廃止をする。見返り資金を活用して貧困農民を支援するのではなく、 直接に日本のODA資金で貧困農民を対象にした事業を実施する。
最後に「サイクル」と書いたが、これも「貧困農民支援」では自立支援として一定期間にわたって継続して関与すべき。
少なくとも、こういった「貧困農民支援」の枠組み、デザインをハッキリさせなければ 名前を変えた意味がない。 デザインを作って、突然来年度から100%その形で実施するのは当然無理があると思う。 一定の経過措置を設けて、例えば3年間をかけてそういった内容に変えていくという判断は現実的にはあるだろうが、 少なくとも全体像をハッキリさせなければ名前を変えても「絵に描いた餅」に終わってしまう。 是非そのあたりを皆さんのご意見も伺って議論したい。

●質疑、意見交換

高橋(司会)

外務省、JICA、NGOから貧困農民支援について話を伺ったが、それぞれかなり違うことが分かる。 違いがハッキリしただけでも議論のスタートラインになると思う。 外務省の資料には6つの原則が書かれていて、その中の具体例で、オブソリート農薬処理事業、 FAOの各種事業支援、これは先程遠藤さんから話があった緊急的な支援、 そういうことまでも貧困農民支援に含めていいのか、開発して食料を増産していくのではなく、 何かの緊急事態に対応することまでも貧困農民支援として入ってくるのかどうか。 恐らく外務省はそこまで入ってくると言うのだと思うが。 あとでそういったことのイメージを話したいと思うが、まずこれまでの報告について質問を受けたい。

田坂(食糧増産援助を問うネットワーク)

外務省資料の6ページ(3)にあるアンゴラ(平成13、14年)事業の評価はどうなっているのか。 それと、木邨審査官からブータンの事例が出たが、ブータンには今JICAから野崎さん久保さんという人が派遣されているが、 この人たちは有畜複合農業の専門家。 その方たちが耕耘機を推奨するのはイメージとして考えがたいが、 どういう形でブータンでの農業支援が行われていて、何が一番のネックになっているためにどういう提案がされているのか、 簡単に説明いいただきたい。

内藤(外務省無償資金協力課)

アンゴラの案件は2002年4月から実施され、トマト・キャベツ・タマネギといった野菜の種子と農具の供与、 種子を増やす関係団体との検討会を行う事業。全体で1億3500万円の事業だが、 実施をしてモニタリングをしている段階で、報告を待っている。 アンゴラで始めたソフトコンポーネントを入れた事業を更に進展させて、 ダルフール、ハイチでは食糧援助と同時に自給のための種を増やす、 ダルフールの場合には同じスーダンの隣州の肥沃な土地で育てた種を農民から買い、 それを被災者であるダルフールの避難民及び地元農民双方に配布して技術指導で増やしていくというプログラムになっている。 このやり方は今までのFAO経由2KRの経験を生かしている。
アンゴラについて具体的にはまだ報告は出ていない。

田坂(食糧増産援助を問うネットワーク)

一番聞きたかったのは貧困農民への支援としてアンゴラの新しいやり方がどうだったか、 効果があったかなかったのか。何らかの形で評価が出ているのと思うが、どうか。

鈴木(外務省無償資金協力課)

報告が提出されるのを待って評価していきたい。

遠藤(FAO日本事務所)

貧困、飢餓の問題について、何が原因なのか。
1経済的ファンダメンタルズが非常に悪い。
2災害。
3最近出てきたのは病疫。鳥インフルエンザ、バッタ問題など。
4現在コンフリクトの状態であるか、ポストコンフリクト。
この4つのが非常に大きな原因。それに応じて分類できる。


木邨(外務省無償資金協力課)

ブータンの農業開発は色々ある。ブータンは肥料が高くて買えないので、有機農業をone of themとして追求していて、それで専門家が要請されて支援している。 それと同様に、農業機械の導入は国家政策として進められている。 有機農業だから耕耘機を使わないという話を私は聞いたことがないし、 そういう観点は理解できない。両立できる話だと思う。

Adolfo ALVAREZ(駐日エクアドル大使)

今日の会合に参加させていただき感謝したい。 2KRプログラムについてNGOを交えてこのようなフランクな話し合いができることは素晴らしい。 7月にルイス・パチェラ農業副大臣が来日した。 彼は先住民の出身だが、2KRの恩恵によって彼が属する先住民グループが非常に良い状況になり、 そのおかげで彼は勉強して政府の重要なポストに就くまでになった。
エクアドルは土地が肥沃であり、きちんと教育された人材がいれば、 2KRは大きな効果があるだろう。 エクアドルは殺虫剤や農薬の供与を受けたことはなく、肥料の供与しか受けていない。 2KRプログラムはエクアドルに非常に効果があり、ある地域では30%生産性が向上。 市場において投機的な価格の高騰を防ぎ、肥料価格は安定した。 貧しい農民の組織が非常に強くなった。しかしまだまだ極貧の人はいる。
2KRプログラムが正しかったのは、供与された肥料を販売することによって市場での投機による価格高騰を抑えることができ、 それによって農民に貸し付けることもできた。 そして肥料を売ったお金で橋を作り、貧しい地域で学校を作り、灌漑施設を作ることができた。 日本のNGOの協力も必要としている。自然の肥料も必要としている。
エクアドルは、皆さんが想像できないような貧困が残っている地域。 人々の食料事情をもっと向上させなければならない。 エクアドルには農業関連の支援がまだ足りない。 これまで日本政府からの支援に心から感謝している。 そしてこのプログラムが継続され、もっと分かりやすいシステムに改良された形で継続されることを望む。

Souchay PHILATHIVONG(駐日ラオス大使館 公使参事官)

日本の援助に感謝したい。 今年のラオスに対する供与は見送られたが、何故なのか理由がよく理解できない。 ラオスは1975年に戦争が終結したばかりで、世界の中でも貧困国のひとつ。 必要なのは肥料とポンプ、トラクター。河川はあるが、水を畑に運ぶにはポンプが不可欠。 何故それに対する支援がないのか。皆さん考えて欲しい。

舩田クラーセン(食糧増産援助を問うネットワーク)

JICAの方に質問したいが、報告書を読ませていただいて今日の発表を聞くとかなりのギャップを感じる。 報告書ではかなり包括的に、<これまでの大規模農場や近代化という「官」主導では貧困層、 貧農の支援は難しい。生計向上をターゲットにする必要がある。 マルチセクトラルであり、マクロ経済の拡大により貧困がなくなるとする トリクルダウン理論は否定された.。これまでの農業開発は外部の援助に依存してきたが、 もっと内的な資源を活用しなければならない>と書いてある。 この記述と、従来型2KRについての先程の話は、研究者的に聞くと完全に矛盾している。 最後に「相手国を喜ばせたい」と言っていたが、それが目標なのか。 私は政治学を教えているが、「国を喜ばせる」といっても、飢えているのは人間であり、 家庭内では女性や子供が飢えているなど、それぞれ状況は違う。 それを鑑みると、相手国の「国」とは誰なのか、JICAとしてはもっと突っ込んで言って欲しい。 報告書では突っ込んで記述しているので、現場を知り、多様性を知っているJICAだからこそ、 その点をもっと明確に発言して欲しかった。

原田(JICA無償資金協力部)

報告書は2KRをターゲットにしてまとめた訳ではなく、広く農業開発がどうあるべきかという観点からまとめてある。 その中の一つのツールとして2KRがあるということであり、 そういう意味では全く矛盾があるとは思っていない。 「相手国に喜んでもらう」と発言した中味だが、これまでの2KRは貧困農民のみを特定して裨益対象としているのではなく、 食糧増産支援を通じて、広く農民に裨益するという観点からやっており、 特定のターゲットグループがあって「その人たちに喜ばれる」ということを考えている訳ではない。 様々な支援をしてきた。

舩田クラーセン(食糧増産援助を問うネットワーク)

「貧困農民支援」という名称に変わって目標がハッキリしたが、 JICAとしては貧困農民への支援だけを考えて調査している訳ではない、ということなのか。

原田(JICA無償資金協力部)

それは今後考えていく。 全体の農民の中で、どれだけ配分するのかという問題なのかもしれない。 従来の2KRは貧困層のみにターゲットを合わせてやってきたわけではない。 今後、名前が変わる訳だから、どのようなスキームにすべきか検討していきたい。 政策部分は外務省が一義的にみているので、外務省から出されるその方向性を踏まえた上で、 検討、研究していきたい。

今井(食糧増産援助を問うネットワーク)

時間も既に経過しているので、ひとつ確認しておきたい。 外務省やJICAの報告は、資機材中心といった現行制度を前提としながら少しづつ変えていくという意味に受け取れる。 外務省に確認したいのは、「資機材中心」と、相手国の財政支援に結びついている 「見返り資金」、この2点が2KRの基本となっている制度的な仕組みだと思うが、 それを名称変更に伴って変えようとしているのか、それとも変えられないものなのか。
それと、今後についてはもう一度論点を整理した上で継続して話し合わなければならないので、 あらためて次回会合の打ち合わせをさせていただきたい。

鈴木(外務省無償資金協力課)

これまで5回の意見交換会や提言書、福島先生の陳情など、私もこれまでの経緯を勉強してきたが、 若干この議論が神学論争に陥っている気がする。 資機材なのか種籾なのか。或いは外貨支援なのかそうでないのか。 最初のうちは制度がドラスティックに変わっていったのであまり際立って対立していなかったと思うが、 次第に議論が概念論に陥っているのではないかという気が率直にする。
今までのやり方が全てではないし、変えなければいけないことは幾らでもある。 モザンビークの報告があったが、過去において問題点があったのは率直に認めざるを得ない。 他方で、2KRネットの資料では対立的に表が書いてあるが、 この右側に書いてある内容が飢餓を解決する万能薬になるかといえば、 率直に言ってそうは思わない。全ての状況にこれで対応できる訳ではない。 私は、陳腐な言い方かもしれないが、両方のベストミックスが必要だと考えている。 左に書いてあることと右に書いてあること、色々な処方箋の組み合わせが必要である。 各国の飢餓の問題がどこにあって何が原因なのかという点をよく研究し、それに合わせて左のやり方なら左のやり方、 ソフトコンポーネントならソフトコンポーネント、それでよいのではないか。 あまり対立的に「こっちなのかあっちなのか」と考えると議論が堂々巡りになるのではないか。
ただ、漸進的なアプローチにならざるを得ない。 しかし、今までは考えられなかった支援の形態を僅か2年程度で取り入れてきたことは評価して欲しい。 他方で、資機材に偏重していた実態はあった。技術供与との連携なしに資機材だけを供与すればよいということはあったかもしれない。 だがそのことをもって資機材供与の有用性そのものが否定されるわけではない。 現実にはブータンの報告や、先ほどのラオスからの発言にあったように、 適した資機材を差し上げることが一番重要。
見返り資金があるから資機材が貧農に届かないという主張があるが、 運用の仕方である。国によって様々な工夫、リースやマイクロクレジット、 或いは組合を作って配付するなどのやり方がある。 実際にアフリカで1haしか耕作していない貧農にわたっている事例はある。 見返り資金では資機材が届かないという訳ではない。 見返り資金は悪なのか?運用の仕方で、それを貧農や貧農のコミュニティのために使っていくやり方もある。 一つで二度美味しいということがあり得る。 もしそれで上手くいくのであれば、上手くいっているものを敢えて廃止する必要はないのではないか。
FAO経由の2KRは、当然ながら見返り資金はないのだが、そういった直接支援的なものをバイでできないかと考えている。 当然その場合は見返り資金が積み上がらないものは積み上げなくてよい。 積み上がるものは積み上げる。そのあたりはニーズに応じて柔軟にやっていかなくてはならない。

司会(高橋)

何故貧困になっているのか、どこが問題なのか原因追求するという点では基本的に共通している。 FAOの遠藤さんも経済的ファンダメンタルズ、災害、紛争、病気ということを仰っていたが、 それも地域によって違うかも知れない。その点ではNGOも認識は一緒だと思う。

舩田クラーセン(食糧増産援助を問うネットワーク)

誰がその研究をしているかということが問題。

司会(高橋)

だから、意見交換会でこの議論を続けていくことが必要ということを確認したい。

Paras Ghimire(駐日ネパール大使館 公使参事官)

お話をお聞きして、開発途上国への農業支援について好奇心を持ったことと懸念した点がある。 18世紀は物理学の時代。19世紀は化学の時代。20世紀は戦争と驚嘆の時代。 21世紀は生物学、遺伝子工学、バイオテクノロジーの時代、そしてアジアの世紀となると考えるが、 重要な役割を果たすのは日本。バッタの話があったが、日本は最新の技術を持っていると思うのでバッタなど の影響に耐えうる新種の作物や、成長が早く生産性の高い作物を開発することはできないのか? ネパールは農業国だが、徐々にサービス産業、知識産業にシフトしてきている。 農業に関しては、アグリビジネスとマーケティングに力を入れるとともに、 小規模農民支援を行なっている。 小規模農民は山深い遠隔地に住んでいてNGOでさえアクセスが難しい。 だから政府は、このようなところに日本政府と協力してどう支援ができるかを検討している。 どうすれば効果的に協力することができるかを考えたい。

高橋(司会)

時間が大幅に超過しているので、今後も意見交換が必要だと確認した上で、 まとめをお願いしたい。

鈴木(外務省無償資金協力課)

今井さんから「誰に裨益しているかが問題だ」との指摘があったが、まさに皆で勉強をしなくてはならない。 我々もJICAも勉強して、皆で作っていかなければいけないと思う。 生き物を相手にしているので、万能薬はなかなかない。 むしろ漸進的に試行錯誤しながらやっていかざるを得ないと思っている。 その中でどうやっていくかについては、先程田坂さんの問いに満足に答えられなかったが、 過去の案件をきちんと評価し、その中から教訓を得ていくことが必要。 バイオテクノロジーについては私は分からないので誰かお分かりになる方に教えていただければと思う。
今後、皆同じ目標を共有しているという認識のもとに、このような議論を続けていきたい。 無償課は新しい体制になったがよろしくお願いしたい。今日はありがとうございました。

田坂(食糧増産援助を問うネットワーク)

アンゴラの案件は高く評価している。日本政府が資金を拠出し、FAOが技術面で協力する。 この評価をきちんと行って、これが上手くいくなら、この方式をもっと有効に活用することを考える。 国によってはハードコンポーネントと組み合わせることが必要な場合もあるかも知れないが、 FAOとの協力で実施したものをきちんと評価しながら更に進めるべき。 そうすれば今まで議論したことがもっと前向きに進むことになる。 来年度50億円が維持されたとのことだが、これがもっと増額されて、本当に意味がある形 で貧困農民が裨益するものにならなくてはいけない。

舩田クラーセン(食糧増産援助を問うネットワーク)

鈴木さんが指摘した「国によって多様性があり柔軟な対応が必要」ということは、 まさに我々が最初から主張してきた点。 「こっちはよくて、あちらは全面的に悪い」という話ではなく、最初から申し上げているのは、 各国の地域事情、ジェンダーバランスも含めて考えていかなければならないということ。 JICAが先行したが、外務省も国別援助計画の作成を始めている。 これを貧困・飢餓という点にフォーカスして、市民とJICA、外務省が一緒に研究会を立ち上げてやっていかなければならない。
その際に評価の問題だが、今はコンサルティング業界に評価をまかせている。 市民、国内のNGOや国際NGOなどの第三者的な目を入れることによってODAの評価を高めれば、 ODA倍増のようなことにもつながっていくと思う。そういう形で一緒にやっていきたいので、 よろしくお願いしたい。

司会(内藤)

外交団の方々には日本語セッションなのでご不便があったかと思う。 次回のセッションは英語セッションになる。ありがとうございました。

【閉会】

以上



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