発足から3年、これまでの活動の評価(内部評価)


2KRネット活動開始より3ヶ年が経過したのに伴い、2005年3月21日に開催した総会において現在までの活動を振り返り、 評価(内部評価)を行いました。


食糧増産援助を問うネットワーク 活動評価(内部評価)


3月21日

(文中敬称略)

1.活動の経過


(1)設立の背景(1993〜2001年)


●カンボジア2KR農薬援助問題(1993年) ・ カンボジア市民フォーラムほか市民団体・NGOが「STOP!危険な農薬援助」キャンペーンを展開。
カンボジア農薬供与はストップしたが、2KR農薬援助そのものはアフリカを中心に継続。

●モザンビークでのオブソリート(未使用、期限切れ)農薬問題(2000〜2001年)
・ 2000年のモザンビーク大洪水で「日本が供与したまま何年も使用されず倉庫に放置されていた
農薬が一部浸水している」ことが発覚。
・ 「モザンビーク洪水被害者支援ネットワーク アドボカシー班」が外務省に要請文を提出
・ 同アドボカシー班、国会議員を通じて2KRのあり方に関する質問主意書を提出。
・ マスコミへの働きかけ → 共同通信記者がモザンビーク農薬倉庫の取材記事
「農薬3年放置」

●2KRネット設立を準備(01年12〜02年1月)
・ モザンビークの問題を契機に、ODAスキームとしての2KRを抜本的に見直す必要性が認識される
・ “カンボジア”と“モザンビーク”に取り組んだメンバー数名を中心に2KRネット設立準備


(2)2KRネット設立から農薬供与原則中止まで(2002年2月〜12月):活動の第1期


●2KRネット設立(02年2月)
・ 設立目的:日本政府に「2KRの廃止も含めた見直し」を働きかける
・ 情報公開制度等を活用して農薬援助の実態を調査 → 読売新聞記事「在庫承知で農薬供与」
・ 2KRに関連するFAO、DAC、USAID等の資料を収集、翻訳
・ 国会議員への学習会(2回実施)、及び個別ブリーフィング
・ 共産党大沢議員 参議院決算委員会で2KRについて質問(7月)

●外務省「変える会」、2KR抜本見直しの提言(02年7月)
・ 鈴木宗男衆院議員(当時)の事件に端を発して、外務省改革・ODA改革の機運
・ 「変える会」の星野委員(JVC顧問)を通じて、「変える会」ODA担当の委員に2KR問題をブリーフィング(田坂)
・ 7月、「変える会」最終提言:「食糧増産援助(2KR)の被援助国における実態について、NGOなど国民や国際機関から評価を受けて情報を公開するとともに、廃止を前提に見直す」
・ 8月、「変える会」提言を受けて外務省が「行動計画」を策定:「現行の食糧増産援助については廃止も念頭に抜本的に見直す
【直ちに検討に着手、本年12月末までに結論】」 ※「変える会」提言よりも表現が後退

●2KRネットメンバーのモザンビーク、南アフリカ訪問(02年8月)
・ モザンビーク訪問(福島瑞穂参院議員が同行)
― LIVANINGO(現地環境NGO)との意見交換、FAOとの意見交換、日本大使館訪問
・ ヨハネスブルグサミットNGOフォーラムにてセミナー開催「オブソリート農薬の 現状とオルタナティブな農村開発の模索」
 共催:2KRネット、LIVANINGO、JVCアフリカ事務所

●外務省の「見直し」作業と2KRネットからの要請(02年9〜12月)
・ 外務省・JICAは11〜12月に6ヶ国の現地調査を実施、12月に向け見直し作業を開始
・ これに対して2KRネットは「市民や専門家を含めた検討委員会を設置してオープンに議論すべき」と要請文を提出(9/25)。
同様の内容の国会議員連名の要請文も提出(12/12)
・ 2回にわたり外務省と意見交換会(10/30、12/16)。
外務省は現地調査結果を説明し「検討委員会等は設置せず12月に結論を出す」と言明

●農薬供与中止を中心とする外務省の「抜本的見直し」(02年12月)
・ 外務省が公表した「見直し」内容:農薬援助の原則中止、予算規模の縮小、モニタリング強化
― 2KR予算は2000年度214億円→2003年度51億円に。
・ 2KRネットでは「農薬援助中止は評価するが、 資機材供与・売却の援助手法では飢えに直面する貧困層の農民の自立支援につながらない」 として引き続き援助見直しを求める声明を発表

●JICA、6ヶ国調査に基づき「2KRの実施計画手法に関わる基礎研究」を取りまとめ(03年3月)
・ 現地NGOや国際機関からの意見聴取など以前の報告書より踏み込んだ内容や問題意識は感じられるが、 「2KRの存続」を前提に作成された報告書としての限界。
「裨益対象の明確化」「モニタリング・評価の充実」を提言。


(3)意見交換会のスタートから「貧困農民支援」まで(2003年2月〜2005年3月):活動の第2期


●2KRネット第2回「総会」(03年2月)で確認した方針 ・ 2KR抜本的見直しという目標は継続しつつ、今後は日本の農業分野の援助を 「現地農民が自立して食料自給ができるような、持続可能な農業に向けた有機農業の推進など、 国際的な協力を含めた技術協力を中心とした方向に転換させる」ことを目標に活動する。
→ 提言書作成の準備を開始
→ 外務省に意見交換会開催を要請

●外務省とNGO・市民の意見交換会がスタート(03年7月)
・ 外務省会議室にて、平日午後または夜に開催
・ 参加者:外務省、JICA、国際機関(FAO・WFP日本事務所)、被援助国政府(在日大使館関係者)、市民・NGO(事前申し込み制、参加資格制限なし、発言自由)
・ 司会:外務省側1名、NGO側1名
・ ウェブサイトでの内容の公開
― 各回の議題等は外務省HPに掲載
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/jikou/oda_ngo/taiwa/iken_koukan.html
― 議事録:直近の第6回議事録は2KRネットHPに掲載。それ以前も公開予定(準備中)。
・ 第1回意見交換会(03年7月16日):現行2KRをどう評価するか(JICA報告書を巡って)

●現地調査(03年8月フィリピン、11月レソト・スワジランド)
・ 意見交換会での「現地を見に来て欲しい」との相手国政府の要望を背景に、フィリピン現地調査を実施(調査者:今井)。渡航費・現地滞在費は2KRネット側の自費、現地での2KRサイト案内はフィリピン農業省内の国家農業水産委員会
・ 引き続き、外務省にレソト・スワジランドJICA調査への同行参加を要請。オブサーバーとしての参加が認められる(調査者:津山)。 レソトにて1億円相当の農業機械未使用在庫が発覚
  → NHKニュース報道(12/25)。04年度のレソト2KR供与は中止

●第2回意見交換会(03年11月11日)
・ 現地調査報告(外務省側:4ヶ国、2KRネット:フィリピン)
・ 外務省が2KR見直し内容を説明
(A)供与候補国に対して全て現地調査を実施、その結果に基づき供与を最終判断
(B)相手国への3条件の提示
― 見返り資金の第三者機関による外部監査義務付けと小農支援・貧困対策事業への優先使用
― モニタリングと評価の充実のため被援助国と日本側の四半期1度の意見交換会制度化
― 現地ステークホルダー(農民、農業関連事業者、NGO)の2KRへの参加機会確保


●第3回意見交換会(03年12月10日:英語セッション)
・ レソト・スワジランド同行調査報告(津山)、5ヶ国大使館からのコメント

●FAOとの対話と連携(03年12月末、舩田がFAOローマ本部訪問) ・ FAOの農薬或いは2KRに対する見解についての外務省の曲解(「FAOは2KRを高く評価し、農薬も必要と言っている」)について、FAO側の基本的スタンスを確認 ・ 今後の情報交換、連携を確認

●第4回意見交換会(04年3月17日)
・ 農業・農村開発分野での援助のあり方と2KR見直しの方向性について
・ 提言書骨子プレゼンテーション(舩田)

●第5回意見交換会(04年6月4日:英語セッション) ・ FAO報告(FAO経由2KR紹介:タンザニア、スリランカ)
― 3月の2KR報告を意識した報告内容

●2KRネット提言書(暫定版)の作成
・ 提言書発表会(04年6月18日) → 暫定版を関係者に配布
・ 提言書の前半は2KR制度の問題点指摘 → 後半は飢えの原因と今後の農業協力の方向性

●外務省、貧困農民支援に名称変更(04年7〜8月)
・ 無償課山田課長、折笠課長補佐が異動する直前に変更を決定

●2KRネット提言書完成、福島議員の立会いで外務省(河井政務官)に提出(04年10月22日)
・ 提言書は100部作成。外務省からは20部の送付依頼。
その他、JICA、JICS、国際機関(FAO、WFP)、市民団体・NGO関係者に配布

●第6回意見交換会(04年12月20日)
・ 貧困農民支援のあり方について議論(外務省、JICA 、NGOそれぞれが報告)

●外務省、被援助国に貧困農民支援の要望調査(05年2月)

●西アフリカバッタ対策に関するFAOとの対話(04年6月以降)
・ 遠藤所長、小平次長との意見交換 → 9月プロジェクト決定(環境配慮・モニタリング重視、抜本対策のための3ヶ年の取り組み、生物抑制剤の開発) ・ 05年2月小平次長が西アフリカ現地視察 → 報告・意見交換会(3月11日)


2.活動評価


(1)活動目標は何だったか



●設立趣意書
・ 2KRネットは、2KRの「廃止を含めた抜本的見直し」を目標に結成された訳だが、設立趣意書では2KRの問題点を次の5点に整理している
(A)現地ニーズを考慮せず大量の資機材を投入。特に農薬の危険性。
(B)資機材を農民に「販売」→ 小規模農民は購入できず、大規模&商業的農業生産者が購入
(C)資機材の未使用在庫。環境への悪影響(オブソリート農薬)、保管コストなど膨大な負担。
(D)見返り資金の不透明性。
(E)入札が日本商社タイド。談合の存在。
・ 実際の活動においては、2KRが最も悪影響を及ぼしてきたオブソリート農薬問題に焦点を当てて国会議員やマスコミへの働きかけを進めた。
結果として02年末に外務省は農薬供与の原則中止を決定。
これを受け、03年2月の総会で活動目標を再度確認した。

●第2回総会から提言書作成に向けて
・ 第2回総会では、「2KRの抜本的見直し」を継続して追求すると同時に、日本の農業協力のあり方を抜本的に転換させる(持続可能な農業に向けた有機農業の推進)ことを目標に加えた。
・ この流れを受けて、03年10月の提言書では外務省に次の提言を行った。
1.農業・農村開発分野における国際協力の基本方針を策定すること
    「飢えの解消」が目的であることの明確化
    「誰が」「何故」飢えているのかの分析を行い、国際協力のあり方を策定
2.基本方針策定の上で、現行2KRを食料安全保障無償資金協力に改編する


(2)第1期(設立〜農薬供与中止まで)の活動


●“問題摘発型”の活動が一定の成果につながる
・ この時期は、農薬供与を含めて2KRを肯定する外務省に対して、オブソリート農薬を中心に問題点を摘発することが活動の中心にならざるを得なかった
・ 国際機関の報告書や情報公開法で開示された資料を分析し、その事実をマスコミ・国会議員・「変える会」委員等に伝える活動に重点 → 「外圧」を通じて外務省の転換を促す戦略
・ この戦略は効果があった。「日本の農薬供与が途上国の環境を破壊」という事件性もあり、オブソリート農薬問題はマスコミ記事になり国会質問も行われた。
市民団体・NGOなど関心ある層の中では「2KRは問題だ」という認識が広まった。
そして、鈴木宗男元議員の問題を契機とした外務省改革 、ODA改革の機運が何よりの追い風になった。

●農薬原則中止は大きな成果だが、2KR抜本見直しには至らず
・ 結果として02年末に外務省は農薬供与を原則中止。20年以上にわたる農薬供与のストップは大きな成果 → しかし「設立趣意書」の5点の問題点は解決されておらず、以降の課題に。


(3)第2期(03年〜貧困農民支援の開始まで)の活動


●問題摘発型から提言型の活動に
・ 「オブソリート農薬」といった事件性のあるトピックから、「現地では化学肥料やトラクターを誰が買っているのか」「資機材供与が持続可能な発展に寄与するのか」「貧富の格差を拡大しているのではないか」といった問題に重点が移行。
マスコミ等に取り上げられる機会は少なくなったが、この地味ではあるが重要な問題について、 現地調査や提言書作成、意見交換会等を中心に活動。

●外務省(無償課)との共通認識の形成 → やっと議論のスタートラインに
・ 対外務省という意味で第1期と第2期の活動を対比するなら、「批判から対話へ」 と言うことができる。意見交換会のスタート以降、もちろん意見の隔たりはあるものの、 外務省(無償課)との一定の共通認識も形成されつつある。
意見交換会を重ねる中で、外務省も次のようなコメントをしている。
― 飢えの問題を解決することが2KR(貧困農民支援)の目的(以前は財政支援を強調)
― 過去の2KRには資機材偏重という問題があった
― 比較的資金に余裕がある農民しか援助資機材を購入していないという問題があった
・ このような共通認識が即座に「制度的改革」に結びついている訳ではないが(この後で見るように「貧困農民支援」も制度改革という面では極めて不十分)、やっと対話のスタートラインに立つことができた、と言うことができる。

(4)2KR制度は実際にどれだけ変わったのか、「貧困農民支援」でどれだけ変わるのか


●貧困農民支援(外務省説明)のポイント (別紙資料参照)
・ この間の2KR改革(3条件、FAO経由実施)を踏まえ、考え方を明確にするため名称変更(新しい制度を作る訳ではない)
― 3条件とは
@見返り資金の第三者機関による外部監査義務付けと小農支援・貧困対策事業への優先使用
Aモニタリングと評価の充実のため被援助国と日本側の四半期1度の意見交換会制度化
B現地ステークホルダー(農民、農業関連事業者、NGO)の2KRへの参加機会確保
― FAO経由の2KR実施  01年度 アンゴラ、モンゴル
 02年度 アンゴラ
 03年度 タンザニア、スリランカ
 04年度 バッタ対策、ダルフール支援、ハイチ水害支援、ミンダナオ
・ 調達代理方式の採用(資金管理の効率化&入札のアンタイド化)
・ ソフトコンポーネントの促進
・ JICA技術協力との連携(06年度案件から本格化)※内藤補佐の口頭説明より
・ モニタリング等のフォローアップ 「貧困解消にどのような効果があったか、援助により大農と小農との間の所得格差が広がっていないか」 ・ 制度的には旧2KRに依拠。当面、呼称としての2KRは残す

●「貧困農民支援」をどう評価するか?
・ 「考え方」としては従来と大きく変化し、評価できる
・ 但し、「飢えの解消」のためには農村開発というアプローチが重要だとJICAも報告書を出しているが、 「貧困農民支援」は「資機材援助」を前提にした従来制度から変わっておらず、 その意味で改革というにはあまりに不十分
・ 「見返り資金」についても従来制度を継続。
「見返り資金」の貧困対策優先使用は明示されているが、 市場売却される大量の化学肥料・トラクターが持続可能な農業への阻害要因にならないのか、 格差の拡大につながらないのか等の問題は解決されていない。
・ 一方、「2KR設立趣意書」で整理した5点の問題点に対しては、それなりの対応策が取られている。

(A)現地ニーズを考慮せず大量の資機材を投入。特に農薬の危険性。
  →事前調査、モニタリング強化(農薬は既に中止)
(B)資機材を農民に「販売」→ 小規模農民は購入できず、大規模&商業的農業生産者が購入
  →この点の対策は不明確。口頭では「配布対象は(小農に届くよう)考慮している」と説明。
(C)資機材の未使用在庫。環境への悪影響(オブソリート農薬)、保管コストなど膨大な負担。
  →事前調査、モニタリングでの確認。
(D)見返り資金の不透明性。
  →外部監査機関の導入。貧困対策への優先使用義務付け。
(E)入札が日本商社タイド。談合の存在。
  →調達代理制度導入、アンタイド化

●しかし、一連の2KR改革が現地で実際にどのように運用されているかは、未知数
・ 3条件は現地で実施されているのか?(外務省も明確には答えられない)
・ FAO経由2KR事業の評価も未確定(既に開始から2〜3年が経過しており、早急に評価が必要)


(5)2KRネットの活動評価:まとめ


・ 設立の目的である「廃止を含む抜本的見直し」に対して、農薬援助中止という点では大きな成果。
・ 3年間にわたる働きかけの結果、外務省が打ち出した改革案「貧困農民支援」は2KR制度に依拠しているという意味で不十分ではあるが、基本的な考え方は評価できる。2KRネットとしては、「貧困農民支援」で外務省が打ち出した改革ポイントが着実に実行されるかのモニタリングを今後2年程度行うことで、2KR改革という所期の目的は一定程度達成できると考える。
・ 「外務省の農業協力のあり方を転換させる」ことに対して、2KR以外の農業協力に対して直接的な関与はしていないが、提言書や2KR改革の経験(NGO側・外務省側双方の経験)は今後の議論において有用になり得る。

以上



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