2003年2月20日、民主党原口一博衆議院議員より提出された「外務省の『食糧増産援助の見直しについて』に関する質問主意書」に対して、3月28日に政府答弁書が出されました。以下に紹介いたします。
なお、質問主意書と政府答弁書は別々の書面になっていますが、理解のしやすさを考慮し、以下においては両文書を対応させ併記しましたことをお断りします。
(政府答弁)
内閣衆質一五六第二五号
平成十五年三月二十八日
内閣総理大臣 小泉純一郎
衆議院議長 綿貫民輔殿
衆議院議員原口一博君提出
外務省の「食糧増産援助の見直しについて」に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。
衆議院議員原口一博君提出外務省の 「食糧増産援助の見直しについて」に関する質問に対する答弁書
(質問主意書)
ODA無償資金協力の一環である食糧増産援助(農薬、化学肥料、農業機械の供与)については、「廃止を前提に見直す」とした二〇〇二年七月の外務省改革「変える会」提言を受け、外務省による見直し作業が進められてきた。
二〇〇二年十二月十二日には、二十八名の国会議員が連名で「ODA食糧増産援助の『廃止を前提にした見直し』に関する要請」を川口外務大臣に提出し、(1)食糧増産援助の見直しは、廃止する方向で問題点を徹底的に洗い出すこと(2)見直し作業は専門家、市民・NGOなどが参加する「検討委員会」を設け、協議を重ねた上で最終案を作成すること(3)上記を実行するため「十二月末まで」とした見直し期間を延長すること、を要請した。
しかし、こうした要請にもかかわらず、外務省は四十ヶ国を超える援助対象国のうちわずか六ヶ国の現地調査と省内だけの議論を経て、二〇〇二年十二月二十五日に見直し作業の結果を発表した。この見直し結果は、決定に至る経緯、根拠、及び関連情報の開示が極めて不十分であると同時に、内容においても「廃止を前提に」した抜本的な見直しとは程遠い内容と言わざるを得ない。従って、次の事項について質問する。
一 「農薬については、適正使用及び環境配慮の観点から、原則として、供与しない」とされているにもかかわらず、政府は「適切に使用される体制が整っている」として、アフリカ諸国を中心に供与を行ってきたが、今回一転して農薬の供与中止を判断するに至ったのはどのような理由、事実に基づくものなのか明確にされたい。
(政府答弁)
一について
農薬の調達のための食糧増産援助としての資金の供与については、これまで、開発途上国政府が農薬の調達を希望したことを受け、当該途上国における農薬の配布体制、農薬関連法令の整備状況等の実施体制を調査し、農薬が適切に使用される体制が整っていると判断した上で、これを行ってきたが、昨年七月に提出された外務省「変える会」の最終報告書の御指摘の「廃止を前提に見直す」という提言を受けて昨年十一月及び十二月に東南アジア、中央アジア及びアフリカの合計六か国に派遣した食糧増産援助見直しのための調査団(以下「御指摘の調査団」という。)の調査結果や、被援助国を管轄する我が国大使館、被援助国政府及び被援助国の代わりに農業資機材の調達事務を監理する機関が参加して年一回開催される政府間協議会の結果によると、供与資金により調達された農薬につき必ずしも当初の計画どおり保管、使用等がされていない事例が見られたことを踏まえ、昨年十二月に発表した御指摘の「食糧増産援助の見直しについて」において述べたとおり、農薬の調達のための資金については原則として供与しないこととしたものである。
(質問主意書)
二 日本の農薬供与はアフリカのオブソレート農薬(未使用・期限切れ農薬)蓄積の一因ともなってきたが、現在、国際機関を中心に進められているオブソレート農薬の処理において日本はどう責任を果たしていくのか。オブソレート農薬処理の実施時期、実施対象国、実施方法等具体的に説明されたい。
(政府答弁)
二について
御指摘のようないわゆるオブソリート農薬の処理等については、我が国は、国連食糧農業機関(以下「FAO」という。)その他の国際機関の主導に係る開発途上国に残存するオブソリート農薬の処理等に関する国際的な枠組みの中で協力していく方針であり、現在、関係する開発途上国政府と協議の上、FAOがアフリカ諸国で実施するオブソリート農薬の処理等の事業を支援している。具体的には、モザンビーク共和国において、FAOが本年一月から実施しているオブソリート農薬処理等の事業に対し、約八十五万米ドルの資金協力を行った。
今後のオブソリート農薬の処理等についても、引き続き、FAO等の国際機関、オブソリート農薬処理事業の他の支援国、開発途上国等と協議を行い、検討してまいる所存である。
(質問主意書)
三 「国際機関が責任をもって農薬を供与する場合には、我が国としてもこれに協力することを検討する」とあるが、どの国際機関が、どのような目的をもって供与する場合に協力するのか、その要件について示されたい。
(政府答弁)
三について
政府としては、FAO等の国際機関が、開発途上国の要請に基づき食糧増産のために策定した計画の下で、当該国際機関において責任をもって農薬を供与する場合に、所要の資金協力を行うことを検討する考えである。
(質問主意書)
四 「農薬を除く肥料、農業機械等の農業資機材については、ニーズや実施体制につきより詳細な事前調査を行い、モニタリング、評価体制を確認した上で、その供与の是非を慎重に検討する」とあるのは、これまでの調査、モニタリング、評価体制が不十分だったと認識しているものと思われる。
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六ヶ国の調査、あるいはその他の対象国の事例から、今までの調査、評価体制が不十分だと判断するに至った理由は何か。
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これまでの調査、モニタリング、評価体制はどのようなもので(実施主体、実施頻度、対象国、実施結果の情報公開等)、それを今後はどのように改善するのか示されたい。
(政府答弁)
四について
食糧増産援助としての資金の供与に係る事前の調査については、かねてから、国際協力事業団(以下「JICA」という。)が、被援助国政府から援助の要請があるごとにこれを行っているところである。また、資金供与に係る案件のモニタリング及び評価については、一についてで述べた政府間協議会において、案件の実施状況等について確認、協議等を行っており、また、資金供与が数年度にわたる案件については、二年度目以降の分として被援助国政府から提出される要請書に以前供与した資金によって調達された農業資機材の配布、使用状況等の記載を求めることによって、案件の実施状況を確認しているところである。これらに加え、JICAにおいて、過去に食糧増産援助としての資金の供与を行った国又は将来これを行う可能性のある国について食糧事情等の調査を適宜行っているところ、その過程で、過去の食糧増産援助としての資金の供与に係る案件につき、そのモニタリング及び評価に有益な情報の収集も行っている。これらの情報については、JICAの保有するものは、調査から一定期間が経過した後に公開されており、外務省の保有するものは、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成十一年法律第四十二号)の規定に従って取り扱っているところである。
食糧増産援助としての資金の供与に係る事前の調査並びにモニタリング及び評価については、御指摘の調査団の調査結果等に照らすと、その精度を更に向上させる必要があると考えられたことから、今後は、事前の調査については、被援助国のニーズや実施体制についてJICAと連携しつつより詳細な調査を行い、モニタリング及び評価については、先に述べた政府間協議会の開催回数を増やすなどのことを行うこととしている。また、食糧増産援助に係る情報の開示については、引き続き適切に対応してまいる所存である。
(質問主意書)
五 食糧増産援助においては、事前調査から援助決定後の入札等に関わる実施促進業務、事後評価までを特定の財団法人(財団法人日本国際協力システム)が受託しており、相互のチェック機能が働かなくなっている。何故、一つの援助スキームに関する業務について競争入札等を経ずに特定の財団法人に委託しているのか説明されたい。
合わせて、今後の対応について示されたい。
(政府答弁)
五について
財団法人日本国際協力システム(以下「JICS」という。)は、「我が国の経済協力分野のうち二国間贈与事業を中心とする事業の適正かつ効率的な実施に協力することにより、一層質の高い国際協力を推進し、もって、世界経済の発展と友好に寄与すること」を目的とする公益法人である。
JICAから聴取したところによると、食糧増産援助としての資金の供与に係る事前の調査については、農業資機材及び調達事務に関する総合的知見及び専門性を有しており、過去の実績において監理に問題が認められなかったJICSがJICAから委託されているものと承知している。事前の調査の今後の在り方については、食糧増産援助の在り方につき引き続き適宜見直しを行っていく中で、必要であれば検討していく考えである。
また、お尋ねの食糧増産援助の実施促進業務及び事後評価については、JICSが受託しているという事実はないと承知している。
(質問主意書)
六 食糧増産援助の特徴である「見返り資金」について今回の見直し結果では何ら言及されていない。見返り資金とは、被援助国政府が供与物資を農民等に売却し、売却益(見返り資金)を社会開発事業に活用する制度だが、購買資金を持たない農民は物資を購買できず、購買するために負債(借金)を抱えるなど、結果として本来の援助対象である小農・貧困農民への支援にはなっていない。また、被援助国政府が見返り資金を十分に積み立てていない事例も多く、政府関係者による不正、着服につながっているとの指摘も多い。
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このような実態について今回の見直し過程ではどのような調査を行い、「見返り資金」制度についてどう評価したのか。
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被援助国すべての見返り資金の積み立て状況及び使途について明らかにされたい。
(政府答弁)
六について
食糧増産援助としての資金の供与に関する被援助国との合意においては、被援助国において供与資金により調達した農業資機材を国内で販売した結果得られる現地通貨を積み立て、これを被援助国自身による社会経済開発の目的のために活用することとしており、このような取扱いは、政府開発援助の趣旨に沿うものであると考えている。
御指摘の調査団において、被援助国政府、同国の農業従事者、関係国際機関及び現地で活動している非政府組織から、このような見返り資金の仕組みを含め、食糧増産援助について聞き取り調査を行い、また、一についてで述べた政府間協議の場等を通じて、見返り資金の積み立て状況について確認したところ、我が国政府から被援助国政府に対し更に積立てを行うよう申入れをしてきているにもかかわらず、供与した資金で調達された農業資機材が当初の計画どおり売却できない等の理由により、十分な積立てが行われていない国が見られた。今回の食糧増産援助の見直しに当たっては、このような状況を踏まえ、被援助国政府の計画につき、ニーズや実施体制についてより詳細な事前調査を行うこととした。
被援助国における見返り資金の積立て状況は、別表の通りである。
(質問主意書)
七 平成十五年度予算案において食糧増産援助の予算が「六〇%削減」とされている。
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「六〇%」の積算根拠を示されたい。
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削減、あるいはこれを機に同援助が中止される国はどこで、その理由は何か。
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継続される国はどこで、その理由は何か。それは一時的な処置なのか。そのための調査は十分であったと判断されているのか。
(政府答弁)
七について
平成十五年度予算政府原案では、無償資金協力に係る予算全体が削減される中、過去に食糧増産援助としての資金を供与した国について、被援助国における食糧増産援助に係る事業の実施体制、経済社会状況、我が国との二国間関係等を総合的に勘案し、平成十五年度に必要と見込まれる額として約五十一億円を計上したものである。
平成十五年度予算の実行として、食糧増産援助としての資金を具体的に供与する国については、今後、被援助国政府からの具体的な要請を踏まえ、要請時点における当該国における食糧増産援助に係る事業の実施体制、経済社会状況等をその都度総合的に勘案して決定するため、現時点で明らかにすることはできない。
(質問主意書)
八 途上国における食糧安定供給のため農業分野での国際協力は不可欠であり、資機材供与に偏重した食糧増産援助を抜本的に見直し、今後は現地農民の自立を支援するための技術教育、人材育成を重視した援助のあり方へと転換すべきである。しかしながら、今回の見直しでは農業協力の新しい方向性は明示されないまま、食糧増産援助の予算減額のみが決定された。
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政府は、食糧増産援助に限らず農業分野での途上国支援について、どのように認識しているのか。
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過去十年間において、農業・農村開発分野に、いかなる援助(内容・対象国・金額規模)を行ってきたのか。その中で、食糧増産援助はどのように位置づけられたのか。
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今回の見直しを受けて、どのような転換を検討しているのか、その見解と予算配分を明らかにされたい。
(政府答弁)
八について
外務省において平成十一年八月十日に発表した「政府開発援助に関する中期政策」においては、農業分野を食糧問題の解決等に向けた施策の一つとして位置付け、開発途上国を支援することとしている。我が国は、開発途上国の農林水産業分野に対し、食糧増産援助のほか、灌漑施設整備、流通システム改善等に関する無償資金協力や円借款による支援、農業技術向上等のための研修員受入れ、専門家派遣、青年海外協力隊による技術協力等の様々な形態による協力を通じ、過去十年間で百三十か国以上に対し約一兆七千億円の二国間の資金援助を実施してきた。また、FAO等の国際機関を通じて支援を行ってきており、過去十年間で一千八百二十四億円以上の拠出等を行っている。
我が国は、開発途上国の食糧問題は、基本的には開発途上国の食糧自給のための自助努力により解決されることが重要との観点から、食糧増産援助を実施してきている。
このような考え方に基づき、今後も引き続き、開発途上国を支援していくため、平成十五年度予算政府原案においては、食糧増産援助として約五十一億円を計上するとともに様々な形態による農林水産業分野への支援を行う予定であり、また、FAO等農業関係国際機関に対する拠出金等として約五十八億円を計上している。
(質問主意書)
九 今回の決定に至った経緯、その根拠、及び関連情報の開示は極めて不十分である。
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六ヶ国の現地調査を含め、今回の見直しについての報告書はいつ、どのような形で公開されるのか明らかにされたい。
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今後も「適宜見直しを行う」とされているが、いつ、どのような形で行うのか。
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「見直し」の透明性を確保し、情報開示を図るためには市民・NGOの参加による公開の協議の場を設置することが不可欠であると考えるが、これについての見解を示されたい。
(政府答弁)
九の1について
御指摘の調査団の報告書は、現在、JICAが作成しているところであり、完成後、JICAにおいて所定の手続に従って公開するものと理解している。
九の2について
今後の食糧増産援助の在り方についての見直しは、被援助国との政府間協議、関係国際機関との意見交換等を踏まえ、必要に応じ、適宜、適切に行う考えである。
九の3について
外務省において一についてで述べた「食糧増産援助についての見直し」を取りまとめるに当たっては、意見交換を希望する非政府組織と意見交換の場を設けてきたが、引き続き、必要に応じて御指摘のような意見交換の場を設けることを検討してまいる所存である。
以上
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