■「食糧増産援助のあり方に関する質問主意書」への政府答弁に対するコメント■

2002年3月28日
食糧増産援助を問うネットワーク

私たちは、国内外で問題とされている食糧増産援助について考える市民・NGOのネットワークです。昨年末国会に提出された「食糧増産援助(2KR)のあり方に関する質問主意書」とそれへの政府対応に注目してまいりましたが、質問主意書に対する今回の政府答弁書は、以下の点から極めて不十分であると考えます。

1.カンボジア農薬援助中止に伴う2KR見直し機運とその後のアフリカ農薬援助の継続について

1992年にカンボジアに対し実施された食糧増産援助(以下2KR)に農薬が含まれていたことは国内外から大きな批判を浴びました。現地を調査した国際協力事業団(以下JICA)は農薬の必要性、安全性の両面から「調達は見合わせることが適当」との報告をまとめ、以降の対カンボジア農薬援助は中止されました。この時、JICAの要請で2KR見直しの提言をまとめた「食糧増産援助技術検討委員会」の逸見謙三委員長は「たまたまカンボジアが目についたが、農薬の専門家が育っていないアフリカの方こそ農薬援助は慎重であるべき」(毎日新聞1994年8月3日付)と述べています。このような動きがあったにも関わらず、その後アフリカ諸国に対し30〜50%の農薬を含む2KR援助が継続されたことは重大な問題です。

しかし、政府答弁はこの点には見解を示さず、アフリカへの農薬援助は「被援助国が農薬の調達を希望したことを受け」「農薬が適正に使用される体制が整っていると判断した上で、これを認めた」としています。カンボジアで中止した理由は何か、一方のアフリカにおいて「適正に使用できる体制が整っている」と判断した理由は何か、少しも明らかにされていません。

2.援助する側の責任について

政府答弁は、援助農薬は「被援助国政府の責任でその適切な使用が図られるべき」と責任を相手国に転化していますが、援助する側の責任は問われないのでしょうか。特に、無償援助である2KRは重債務最貧国や紛争・災害からの復興段階にある国を対象とすることが多く、援助する側の責任は一層重い筈です。

農薬援助に関する国連食糧農業機関(以下FAO)による重要な指摘の一つは、過去の供与分が消費されないまま被援助国が新たに要請を行い、それを受けて新たな農薬が供与され、結果として古い在庫が長期間放置されオブソレート化(註)してしまう点があります。被援助国の消費状況、在庫状況を調査せずに、要請があったからといって供与を続けるのは援助する側の重大な過失です。

(註:オブソレート農薬:使用期限切れなどにより変質し使用不能となった農薬。強い毒性を持つ場合もある)

この点について政府答弁は「我が国政府としては、被援助国において適切に使用されていることにつき、JICAによる被援助国政府及び関係機関からの事情聴取、当該被援助国に派遣され現地を視察したJICAの調査団の報告等を通じて、可能な範囲内で把握・確認している」としていますが、モザンビークの事例では、1996年度(1997年2月)にJICAが実施した現地調査においてモザンビーク国内のオブソレート農薬問題が報告されながら、政府は翌97年度にも農薬援助を続行し、結果として97年度供与の農薬が大量の在庫として残りました。あまりにも無責任な対応と言わざるを得ません。

3.オブソレート農薬の深刻な状態とその処理について

2KRが食糧増産に寄与せず、かえってオブソレート化して環境に悪影響を及ぼす恐れがあるというFAOの指摘を日本政府は認め、その責任を取るべきであるのに、「一部の国を除いては、在庫資機材の数量はわずか」「一部を除き倉庫等の中に良好な状態で保管されている」など、深刻な事態を軽視しています。

オブソレート農薬とは必ずしも政府が管理している倉庫だけにあるわけではなく、農村に配布されてから放置されるケースもあります。また、モザンビークで放置されている農薬は決して「良好」な状態ではなく高温のコンテナの中で異臭を放っています(共同通信2002年2月24日記事)。

日本政府は相手国と協力しながら早急にこれらの実態を調査し、責任をもってオブソレート化した供与農薬の処理にあたるべきです。

4.農薬「備蓄」の考え方と2KRの方向性について

「食糧増産援助技術検討委員会」が1994年にJICAに提出した提言書の中で、移動性害虫(バッタ、イナゴなど)に備えて農薬を「備蓄」するという考え方が示されました。「備蓄」とは農薬メーカー及び商社にとっては都合の良い考え方であり、この考え方に基づいて実施された2KR援助は、必要以上の農薬を常に供給し、結果としてオブソレート化をもたらしました。政府答弁の中でエチオピアの事例として「移動性害虫が数年間発生しない場合に限ってはその(援助農薬)品質保障期限が経過することがある」とあるのは、「備蓄」の考え方に基づいた供与農薬のオブソレート化の事例です。

「備蓄」の考え方がもたらした結果を踏まえ、農薬に依存しない食糧安定確保のための技術協力へと2KRのあり方を転換させることが急務になっているのに、答弁書からはその方向性が読み取れません。

唯一、最終パラグラフ(「8について」)だけは積極的に評価できる方針(「農業技術指導を目的とした専門家の雇用にも供与した資金を使用することができるようにする」)が示されており、その方針に沿う形で思い切った改革を期待します。但し「専門家」については農薬以外の病害虫防除手段を推進している専門家を国際機関等の協力も得ながら雇用するよう強く要請します。

5.見返り資金の仕組み、入札のあり方(商社の談合等)について

相手国政府が援助物資を売却して得る「見返り資金」の存在が不正、腐敗に結びついていることは以前から指摘されており、前述「食糧増産援助技術検討委員会」の提言でも「チェック機能の強化」が明記されています。にも関わらず、8年が経過した今になって「見返り資金を確実に積み立てて活用するための措置を講ずるよう働きかけて参りたい」という答弁が出るのは、依然としてチェック機能が働いていないことの現れではないでしょうか。見返り資金の存在を含め2KRの援助形態を抜本的に組み替える必要があると考えます。

入札をめぐる日本商社の談合について「外務省において関係者から事情を聴取したが、その存在を確認するには至らなかった」と答弁していますが、調査の全容を公表するとともに、このような疑念に対して入札の透明性を確保するための対策を講じるべきです。

以上


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