ODA食糧増産援助の「見直し」について、外務省発表
ならびに食糧増産援助を問うネットワークの声明

今年7月、外務省「変える会」が外務省改革・ODA改革の一項目として「食糧増産援助は廃止を前提に見直す」と提言したのを受けて、外務省は見直しを実施し、その結果が12月25日に発表されました。

しかし、外務省による見直し結果は、現行の食糧増産援助の制度的枠組みは変更せず、「廃止を前提に見直す」とした「変える会」提言とは程遠い内容になっています。また、私たちが要請した「市民参加のもとでの見直し作業の実施」は受け入れられず、決定のプロセスにおいても問題があると考えます。

以下、外務省発表内容と、それに対する食糧増産援助を問うネットワークの声明文です。


■食糧増産援助見直しに関する外務省発表文書(平成14年12月25日付発表)

食糧増産援助の見直しについて

食糧増産援助については、見直しの為の調査団を派遣し検討した結果、以下の通り抜本的な見直しを行うこととした。

  1. 農薬については、適正使用及び環境配慮の観点から、原則として、供与しない。但し、国際機関が責任をもって農薬を供与する場合には、我が国としてもこれに協力することを検討する。
  2. 農薬を除く肥料、農業機械等の農業資機材については、ニーズや実施体制につき、より詳細な事前調査を行い、モニタリング、評価体制を確認した上で、その供与の是非を慎重に検討する。
  3. 上記の結果、平成15年度食糧増産援助予算(政府原案)については、対本年度比で60%の削減を行う。
    (注:平成14年度予算は127.72億円で対前年度比40%減、過去2年間で約76%減[平成13年度213億円→平成15年度政府原案51億円]。)
  4. 今後も引き続き、国際機関との協議や実施状況のモニタリングの強化を通じて、食糧増産援助のあり方につき適宜見直しを行うこととする。

(了)


■外務省「食糧増産援助の見直しについて」に対する声明

2002年12月30日
食糧増産援助を問うネットワーク

ODA無償資金協力の一環である食糧増産援助について「廃止を前提に抜本的に見直す」とした外務省「変える会」の提言を受け、外務省が進めてきた見直し作業の結果が、12月25日に発表されました。

私たちはこの間、食糧増産援助の見直しについて外務省と意見交換を行うとともに、見直し作業は専門家、市民・NGOが参加する検討委員会を設け、関連する情報を公開して実施するべきであること、「12月末迄」の期限を延長して十分に議論することを要請してきました。しかし、外務省は40ヶ国を超える援助対象国のうちわずか6ヶ国の現地調査と省内での議論だけで見直し作業の結論を出しました。私たちが提出した情報公開請求に対しては「開示決定等」を最長1年後(2003年12月)まで延長するなど、実質的に情報も公開していません。

この見直し作業は、1)本来「途上国」の食料不足に対する支援であるこの援助が、現実には農業資機材の大量供与によって現地農民の自立的な発展を阻害していることを見直し、2)現地ニーズをより多面的に把握した援助への転換を図る、ためのものであるはずです。しかし、発表された内容は、現行の制度的枠組みを何ら変更せず「抜本的な見直し」とは程遠いものだと言わざるを得ません。私たちは外務省決定に強く抗議するとともに、ODA改革の一環として市民社会に開かれた形での見直しを求めます。

1. 食糧増産援助の制度的問題について

日本政府は、国・地域・社会階層等による農業生産の多様性を無視する形で「相手国の要請がある」(要請主義)と責任回避をしながら、資機材供与に偏重した援助を行ってきました。この援助には多くの問題点がありますが、特に以下の点が非常に問題です。

  1. 基本的に資機材(農薬、化学肥料、大型農業機械)のみの援助である。ましてや技術協力も伴わない。援助開始から25年にわたり、相手国において農薬、化学肥料への依存を生み出し、食料生産の自立的な発展を阻害してきた。農薬・化学肥料の大量供与は環境汚染にもつながっている。一方で、資機材の落札業者である日本商社の利益を保証してきた。
  2. 個別の農業プロジェクトに対する援助ではなく相手国の農業政策に対するプログラム援助であるため、事前・事後の十分な調査を伴わず、そのための予算措置もない。1ヶ国当たり数億円にのぼる供与物資がどこで、どのように使用されたのか明らかでなく、倉庫に未使用のまま積み上げられた物資も存在する。適正に使用されないのは「一義的に相手国の責任」(外務省)とされる。
  3. 供与物資は農民等に売却され、売却益(見返り資金)を相手国が社会開発事業に活用する仕組みだが、購買資金を持たない農民は物資を購買できず、或いは購買するため借金せざるを得ない。また、見返り資金が十分に積み立てられない事例も多く、相手国政府関係者による不正、着服につながっているとの指摘も多い。
    今回の見直しでは、これらの制度的な問題には全くメスが入っていません。制度の見直しこそが必要であり、「モニタリング」の強化は制度を変更した後の課題です。

2.農業協力の転換及び予算措置について

今回の決定では今後の農業協力について何ら言及されていません。重要なことは食糧増産援助の廃止を通じて農業協力のあり方を抜本的に転換することであり、現地の農業の実情を踏まえ、農民の自立を支援するキメ細かな援助を実施するため、調査・研究や技術協力等に力を注ぐべきです。あるべき援助の形が議論されてはじめて予算措置が取られるべきであり、現行の制度をそのままにして予算のみ減額する今回の決定は、外務省改革、ODA改革の意図を曖昧にしかねず、非常に問題です。

3.農薬供与の中止について

今回の決定は、批判が強い農薬援助だけを切り捨てて食糧増産援助の制度の温存を図るものと言わざるを得ません。農薬援助は既に93年のカンボジア援助の際に危険性が指摘されており、国際社会においても90年代を通じて極めて慎重な対応が取られてきました。今回の農薬供与中止は遅きに失しており、この10年、日本政府が農薬援助を続けてきたことへの反省もなく「適正使用及び環境配慮の観点から、原則として、供与しない」の一文で片付けることは許されません。外務省は具体的にどのような点を問題視し、方針を改めたのかを明確にすべきです。

また、国際社会が強く求めているアフリカを中心としたオブソレート(未使用・期限切れ)農薬の処理、農薬に依存しない農法の研究・促進・普及に日本政府が今後どう対応するかも明かにすべきです。


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