俺は大学4年の卒業間近まで、『海外なんて絶対行かない』と特に理由もなく決め付けていた。
いや、理由はなんとなくあった。海外というとなんかミーハーな感じがしたからだと思う。
そんなおり、結構仲良くしてたユージ(仮名)が、『一緒に卒業旅行に行こうよ』と誘ってきた。
先のような考えにより、当初は断っていたが、どうしても、ということで重い腰を上げることになった。
ユージは1週間ぐらいを考えていたようだが、『どうせ行くならそれなりの期間のほうがいい』と提案し、 計14日間のイギリス・エジプト・ギリシャ・イタリア・フランスの5ヶ国周遊のツアーに参加することにした。
最初に訪れたのはイギリスで、それは本編の『 イギリスの宿荒らし 』にて少々触れているが、次に訪れたエジプトあたりで両者の旅行の目的が微妙に、 いや、大いに違うことに俺は気づき始めていた。
自由時間の計画を立てようとしてもなんだかやる気がないし、恐ろしいことに『観光』をしたがらないのだ。
ツアー客の中には大学生や短大生、若いOLさん、3姉弟たちが含まれていたのだが、
『あのOL4人衆の中で誰が一番かわいいと思う?』などといった質問を繰り返し、
挙句の果てには『彼女たちについていこうよ』と言い出す有様。
そんな態度にも我慢しつつ、動こうとしないユージを無理やり連れ出し、観光に精を出したのだが、
周りに女の子がいないので終始仏頂面。
そうなんです。彼の主たる目的は『女の子』と『買い物』だったんです。
自分の中では、せっかく未知の世界に行くんだから、日本では体験できないこと、見られないものを見たい、 と考えていたんだけど、彼はまったく違ってましたね。
題名にもあるとおり『人それぞれ』なんだけれど、それ以来です、誰かと海外に行くのに拒絶反応を示すようになったのは。
でも、彼のおかげで海外旅行に目覚めました。その点は感謝しなければ。
イタリアやフランスでの自由行動ではそんなユージに見切りをつけ、一人で観光してました。
ツアー客の中に同じような大学生2人組(K君とY君)がいて、彼らも自由時間は別行動をしていたらしく、
イタリアではK君と、フランスではY君にばったり出会い、一緒に飯を食べたりしながら意見を聞いたところ、
2人だと意見が明確になるので別行動したほうが気が楽だという。
まったく同じ考えだった。2人だと多数決もないし、争いを止めてくれるものもいない。
そのユージ、自由時間は何をしていたかというとホテルで寝てたんだって。
そして夜はOLさんや姉妹たちが観光から帰ってくるのを見計らって、部屋に出向き、ツアコンの田代さん(仮名)を交えて、
トランプをしながら、ツアー客の中で誰が好みなのかとか、そんな話をしてたんだってさ。
パリの夜景を見ることもなかったユージは、それはそれで楽しんだようだ。
大学を卒業したあと、ゴールデンウィーク前に連絡があった。
『ハワイに行こうぜ』
丁重にお断り申し上げました。
そのあと何度も『ハワイに行こうぜ』という電話が来たけれど、断り続けたらそれ以来連絡がなくなりました・・・。