春が、来たから…ネvv A
 




          



 さてとて、お友達の愛しい人をからかうのもほどほどに。じゃあね、楽しんでおいでネvvと軽快に手を振った桜庭くんは、彼らとは逆方向の列車に乗り込んだ。途中の、快速から各駅停車便への乗換駅にて、トイレに寄り道して手際よく私服に着替えて。バッグの中に小さな包みを確認する。忙しい時期だったから大したものは出来なかったけれど、それでも頑張ったんだもの。ちょっとでも喜んでくれたら嬉しいなと、にっこり笑って…発車しかかっていた普通列車に飛び乗って。そうやって到着した泥門の駅には、

  「…あれ?」

 これに乗って来るってことが何で判ったのか。目当ての側の改札を出てすぐ前の、バス用のロータリーの端っこ辺り。今日の桜庭くんのメインイベントの主役さんが立っていたから、少々びっくり。暖かな良い日和の陽光を、シャーベットグレーのジャケットを羽織った細い肩に受けており、つんつんと尖らせた金の髪がきらきら光ってそりゃあ綺麗で。
「妖一?」
 声を掛けつつ駆け寄れば、よおと小さく顎を引いての会釈を見せてから、近づき切る前にも くるりと踵を返してしまう撓やかな背中。素っ気ないのは照れ隠しかな? 人の眸が集まりやすい場所では、あんまり馴れ馴れしくすると怒られちゃうんだけれど、こうまで閑散としているんだもの、誰が見てるでなし構わない筈なのにね。
"ま・いっか。"
 そんな素振りをされても今更動じたりはしない。お天気屋さんなのはいつものことだし、思ってたよりも早く逢えたのは正直嬉しかったしね。ご主人様の後から ほてほてと従う、大きめのゴールデン・レトリバーみたいに。黙ったまんまで ついてくと、
"?"
 不意に。その"ご主人様"の足が停まった。マンションまでの途中の小道。道の両脇には萌え始めのヤマブキやユキヤナギの茂みがあって、綺麗な若い葉の緑が揺れている。人通りのない細い坂道の半ばにて急に立ち止まった妖一さんであり。どうしたのかなと、間隔を少し開けたままでこっちも立ち止まれば、尖った肩越し、ちらっと振り向いて来たお顔の前髪の下で、淡灰色の瞳が"…ゆら"と泳いで。
「???」
 その大きな図体にはちょびっと似合わないくらい子供っぽくも、ひょこりと小首を傾げる仕草を見せた桜庭だったが、
「………。」
 蛭魔くんのそれは端正なお顔の傍ら辺りまで上げられた、彼の手の先。白い指先が…ちょいちょいと宙を掻いて、こっち来いと招く仕草を見せたもんだから。

  「あ…。」

 途端に…顔がふにゃりとゆるんでしまったのへ、あわわと慌てて俯いて。恥ずかしいなと唇を噛みつつ、でもでも嬉しくて堪らないまま、それに従ってしまう桜庭くんだ。分かりやすくも単純な、何とも初心
うぶで純真ピュアな青少年であることよ。さっきセナくんを体よくからかったお兄さんは何処の何方だったやら。大好きな人からの"来い来い"の威力は、これほどまでに凄いのである。


  どうしたの?
  後ろから尾けられてるみたいで気持ち悪くなっただけだ。
  あ、酷いなあ。迎えに来てくれて それはないっしょ?
  うっさいな。迎えになんか…。
  じゃあ何か買い物?
  う…ん、そうだ。
  それからついでに日向ぼっこしてたんだ、暇だったんだね。
  何だよそれ。
  だって、こんなに肩やら髪やら暖まってるもの。
  う…。///////


 気安く触んなよな、何だよ、図星だったんでしょ? ごちゃごちゃしつつも肩を並べたまま、つかず離れつのままに歩みを運ぶ、それはそれは仲のいいお二人さんである。








            ◇



 外国仕様のしゃれたマンションのフロアをまるごと1軒分、自分専用の独立先としている蛭魔妖一さんは、そうしている身であることを余儀なくされる…色々とややこしい背景をお持ちな立場にある人なのだが。日頃はそんな事情なぞまるきり意に介さぬまま、それはそれは自由奔放に、やりたい放題を尽くしていらっしゃり。その延長なのか、
「妖一の受けたR大ってさ、経済学部が有名ではあるけど、アメフト部はないんじゃなかったっけ?」
 最初は気のせいかなと思ってたけど、調べてみたから間違いはなく。あれほどまでに強引、且つ、無軌道だったこのお人が、唯一、もしかしたら神聖視してさえいるかもしれないカテゴリー。だというのに、そんな"アメリカンフットボール"のクラブが…愛好会さえない大学へと進んだというのが、今だに何とも理解し難い桜庭であり、
「そりゃあさ、高校でも一から自分の手で作り上げちゃったのは知ってるけれど、大学のアメフトは段階別のリーグ制なんだよ?」
 一応は上位と下位との"入れ替え制"になっているけど、今年発足したばかりであれば、まずは最下層への登録になる。そんなチームがいきなりトップリーグまでよじ登れはしない。
「それとも、一選手としての代表チームへの選抜を狙ってるの?」
「そんなケチなことは考えちゃいねぇよ。」
 バランスがよくて頼もしい、大きな手で差し出された白磁のコーヒーカップを受け取って、にんまりと笑う不敵な人。
「こちとら我慢には慣れてるかんな。下地を作って、駒を揃えて。着実に完勝チームを作り上げるっていう、気の長い予定を立ててるだけのことだ。」
 余裕の言いようをなさる彼へ、ああやっぱりなと。天下のアイドルさんが、やや引きつったお顔になった。

  "…さては。セナくんやあのレシーバーくんや、
   その他大勢のデビルバッツの陣営を、まんま掻き集めるつもりだな。"

 何たって彼自身が人材を集め、日々の練習だけでは飽き足らず、レベルの違い過ぎる相手との試合の中でまで啓蒙育成を施し、めきめき育てたチームには違いなく。
"我慢…ねぇ。"
 そんな彼らの実力をその年のクリスマスボウルに間に合わせるべく、促成発育させるためにかなりの無茶をしまくってもいたような。
"でもまあ。"
 彼らしくはあるなと、何処かで納得してもいる。先輩やら監督やらが既にいる、型の決まったチームはごめんだと、そう思っての選択だろう。
「違うガッコのボクが とやかく言ったって聞かないんでしょ?」
「そういうこった。」
 ニヤリと笑った悪魔さん。その強かさにむしろ安心して苦笑を返してから…ああそうだと思い出す。
「そうそう。」
 広いリビングルームは、相変わらずに…ど真ん中に液晶テレビとDVDのデッキ、ビーズクッションのソファーだけを置いている、何とも伸びやかなフロアのままであり、そこの適当な端っこへ置いていたバッグの方へと足を運んだ桜庭くん。今日のデートの目的を果たすこととした。
「ホントは明日が"ホワイトデイ"なんだけど。」
 鉛筆でも入っていそうな、艶のある白無地の細長い包み。ひょいっと渡されて、

  「???」

 今度はこちらが小首を傾げた妖一さん。
「大したものじゃないけどね、受験生だったんだから大目に見てよ。」
 開けて開けてvvと視線でせがまれて、端っこを爪の先にてピリピリと破いて開いてみれば、

  「…おお。」

 袋を逆さにした先、白い手のひらへとすべり出て来たのは、2センチ四方ほどの小さなマスコット人形が付いた組紐タイプの携帯電話用ストラップであり。そのマスコットというのが、
「これって…もしかしてキングじゃねぇのか?」
「そうだって判る?」
 蛭魔邸で飼われている、愛想の良いシェットランド・シープドッグに模して作ったお人形。それだと判って貰えて、ああ良かったと胸を撫で下ろした桜庭くんで、
「モデラーって言ってサ、色んなキャラクターのフィギュアとか自分で作っちゃう人に取材したことがあったんで、こっそり連絡して教わってネ、作ってみたの。」
 形を取るのは基本の型ってのがあったからね、そんなに難しいことでもなかったんだけど、毛並みの色が一番難しかった、携帯で写真を一杯撮ってたけれど、360度を満遍なくじゃないでしょう? そんなこんなを話してくれて、
「こんなのじゃあ粗品みたいで悪いんだけど…。」
 耳朶のピアスを例外に、ちゃらちゃらしたアクセサリーってあんまり身につけない妖一さんだし、今その指に光ってる指輪以上の何かって思いつけなくて。それでと考えた手作りプレゼントだったのと、自信なさそうに声が小さくなった桜庭くんへ、

  「…ありがとな。」

 小さなお声が、スルリと届いた。ハッとして顔を上げれば、一番に使っているそれだろう携帯をポケットから取り出して、器用にもあっさりと、その場で取りつけてしまった妖一さんだったから、

  「あ…vv

 ねえ、これって凄い嬉しいことなんだよ? 何か貰うより何倍もvv 大好きな人が"ありがとう"って喜んでくれること。声も出ぬまま、やったねvvと喜びをじんわり噛みしめていた桜庭くんへ、

  「けど…もしかして俺がお返しする方なんじゃねぇのか?」
  「………はい?」

 え? え? なんですて? 舞い上がっていたせいですか、何か…聞いてはならない意味合いのお言葉を聞いてしまったような気が。悪魔さんからのお返しっていうと"お礼参り"とか"リベンジ"とかでしょうか?
こらこら 目線は合わさぬままに、なめらかな動作にて立ち上がったスリムな肢体。黒っぽいカットソーにスリムなパンツという、いつもの恰好の彼が すたすたとリビングから出ていって…そのまま寝室から折り返して来ましたという間合いにて戻って来て。これって"準備があった"っていうことじゃないのかな? 戻って来た彼の手には、結構大きな箱が1つ。どこやらの紳士服店だろうか、シックな包装紙に包まれた品であり、
「ん。」
 無造作に突き出されて、押し込まれた手が反射的に受け取ってしまったものの、
「…これって?」
 訊くと、
「だから"お返し"だ。」
 頓着のないお顔が素っ気ない声を返す。一体何なんだろうかと…正に怪訝そうな顔になり、それでも。じっと見つめられていることに気がついて。開けてみますねと丁寧に包装紙をほどく。一応は"プレゼント"だからか、蝶々結びこそ結ってないながらも渋い色合いのリボンが斜めがけにぐるりと回されてあり、上質のそれだろう包装紙を取り除けば、何処かで見たことのある有名なブランド店のパッケージが現れて。

  「…あ。」

 そぉっと開けた蓋の下。綺麗に畳まれて鎮座していたのは、
「これって、Rッシュのスプリングコート?」
「ああ。」
 頷いた妖一さんがくすりと笑い、

「何が良いのかなって参考にしたくて雑誌やカタログを見たんだがな。考えてみりゃあ…これから流行るものの、それもお前に似合うものってのはサ、プロのスタイリストがついた上できちんとコーデュネイトしたのが撮影されてて、あちこちでとっくに掲載済みなんだよな。」

 そうなんだよねと、ご本人様もちょっとばかり鼻白んで俯いた。そこまでの自覚はないが、世間様の言を借りれば、芸能人の"桜庭春人くん"は、今時の若い男性にとってのファッション・リーダーでもあるそうな。それはともかく、
"これって確か…。"
 見覚えがある筈で、このコート、同じ型のをこのブランドのポスター用にって冬の間に撮影したばかりだ。まだ一般の目に触れるところへは出回っていないけれど、特別なお得意様というクチであろう彼のお家には、流行先取り組用のカタログだって既に届いていようから…。
「このコートが一番似合ってたからな。」
 どの"見本"もご本人が着ていたというのが、選びやすいやら選びにくいやら。
(笑) どこか微妙なお顔をする妖一さんへ
「…でも、この色のじゃなかっただろ?」
 そんな風に訊くと、
「ああ。」
 元いた位置へと座り直しながら、
「濃いめの水色、だったろ?」
 事もなげに応じてから、だが、その目許をきゅうぅと眇めた上で眉を寄せて見せる。
「でもあの色はなぁ。幼稚園のスモックみたいで…ちょっとな。」
「あ。それってボクも思った。」
 意を得たりとばかりに身を乗り出したアイドルさんと二人、顔を見合わせ、くくくと笑い合って。

  「ありがとうねvv

 貰った方のをあらためて広げて胸元へと当てて見せる桜庭くん。こちらは所謂"生成り"色、アイボリーという色合いで。どんな服にも合わせやすそうな、着回しの利く、何とも無難なもの…と思った辺り、
"ボクってやっぱり庶民だよなぁ。"
 いかにもな一点物とか、いかにも奇抜な最先端の何かしら。グラビアやカタログで着たところで、それはその場限りの借りものであり、自分はあくまでもマネキンの代理だ。そんなファッショナブルなお洋服を、全部自前で持っていると思われちゃあ困る。それで思い出したのが、
「…このコートって結構高かったんじゃないの?」
 何たって世界に名だたる有名ブランドの新作コート。半端な額ではなかった筈だ。いくらお金持ちなお家のお坊っちゃまであれ、自分なんかに無駄遣いさせるのは忍びないなと、少々表情を曇らせたものの、
「気にすんな。株で儲けた御祝儀みたいなもんだ。」
「…株?」
 意外なフレーズへキョトンとする桜庭くんへ、

  「これでもあちこちの筆頭株主やってる投資家なんだよ。」

 長い御々脚をひょいと組み、くくく…と愉快そうに笑った悪魔さん。
「俺があれこれ無茶やってる金がどっから出てると思ってたんだ?」
 親の臑かじりをしているのは、学費とここでの生活費だけ。PC関連に様々な試合や試練へのセッティングの根回しや顔つなぎ、物騒な火薬銃器の数々に、それを装備しやすい特殊な戦闘服などなど etc. 全部を株の儲けでやり繰りしてんだよと、けろりと暴露。
「あ、だからいつもPCを…。」
 暇さえあれば眺めているのは、もしかして。市場の動向なんていう、渋い渋いサイトさんだったとか? ほえ〜っと、言葉にならない声を出し、
「凄いんだねぇ、妖一ってば。」
 あらためて感心しちゃった桜庭くんだったものの……………ちょっと待って。

  「じゃあなんで、ボクの写真をいまだにファンの子へ売ってるのかな?」

 頂いたコートをお膝に載っけて。ひょこりと小首を傾げたアイドルさんへ、
「…お前の情報網ってのが見えて来たぞ。」
 それを知ってるってことは賊学だな、ルイと仲良くなったのか。そんな話を振ってくる蛭魔くんへ、
「誤魔化さないで。」
 くっきりとした声を出す。これだけはちょいと、はっきりさせときたい桜庭くんであるらしい。大きくて形の良い手のひらを自分の胸元へ伏せて見せ、
「ボクは確かに妖一のもんだけどさ。」
 なのに売るの? だから売るの? ずずいと詰め寄られても、妖一さんはいささかも動じず、

  「あほ。アメフトしてる時のお前は俺んじゃねぇだろうが。」

 きっぱり言い切る毅然としたお顔は、それまでの…ちょいと小狡いそれとは一線を画したそれであり。

  「俺が売りさばいてるのは試合中の写真だけだ。
   普段のお前は誰にも売らねえよ。」
  「う…。////////

 この一言はさすがに嬉しかったものの、

  「ファンの子たちが色んな角度から"試合"を撮った写真を
   無理なく収集するためにな。
   引き換えって形で使わせてもらってるだけだ。」

 あくまでもアメフトにかかわる情報収集の一環だからな、これこそ"背に腹は替えられない"ってやつだぞと言われて、

  「う、う〜〜〜ん?」

 いかにもきりりとした真面目なお顔で語っているところからして、単なる小遣い稼ぎの延長ではないと、信じても良い…のかな? でもでも、油断も隙もない人だしな。愛している人を、だからと言って闇雲に信じても良いのかな。彼との純愛に初めて陰った疑惑がこんな形のってのは…何か嫌だな。
(まったくだ。) これはまた…ちょこっと難しい次元の、愛と信頼の葛藤という問題みたいです。(笑)

  「なんだよ、まだ納得出来んのか?」
  「う〜〜〜〜。」

 信用したいのは山々だけれど、相手が相手だし。何にだってなし崩しに言うこと聞いちゃうってのも、何だか癪かも? 信じたいけど盲従はしたくない、そんな自分を納得させたい桜庭くんの、視界の端っこにあったのが…。

  「………何をしとるか。」

 素敵な贈り物に使われてあった、シックな色した絹のリボン。それを手に取り、向かい合ってた妖一さんの頭にクルリと回して、額の端っこに丁寧に蝶々を結び、

  「これもくれたら、信用しちゃう♪」
  「………"これ"って、お前。」

 誰が"これ"だ。第一、これって"収賄"じゃないのか? 何言ってんの、取引されてるのはボクの写真でしょ? 正当なる等価交換だよvv にぃ〜っこりと笑ったアイドルさんに、今日は何となく強く出られぬ悪魔さんな様子であり、

  "ま・いっか。"

 こんなもんで良けりゃあ、今日だけくれてやるよ。こんなもんとは失敬な、ボクの宝物に勝手にケチつけないでよね…と。傍で聞いてる人がいたなら、間違いなくアテられてのぼせたろう言いようをしつつ、額同士をくっつけ合うと、くすくすと楽しげに微笑い合ってみたりするのである。いやぁ〜〜〜vv 春や春、爛漫の春も ほど近しですねvvv













  aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif


 さて。こちらは進さんと妙寿院さんへ枝下梅を観に行く予定だったセナくんだが。ちょうどお昼時だったことから、まずは腹ごしらえを…と、進さんのお母様にそれは美味しい"鷄そぼろと炒り玉子の二色御飯"と温かいそうめんのお澄ましを御馳走になり。そうそう、ちょっと清ちゃん頼まれてくれない?と、お母様からの御用が出来た清十郎さんを、彼のお部屋へ先に上がって待っていたセナくんだったのだが。
「………。」
 これまでにも何度も遊びに来た、進さんのお部屋。家具の他には…雑誌やタオルのような小さなものであれ出しっ放しになっているものが一切なく。清潔で且つ、きちんと整頓されている、広々とした和室で、小さなセナには殊更に広い空間でもある。陽あたりも良くて畳がほかほかな色になっており、何げないこととて見やった壁には、さっきまで清十郎さんが着ていた白い詰襟制服が、きちんとハンガーに掛けて吊るされており、

  『ボクらだってこの制服は今日が着納めなんだけど。』

 桜庭さんの言葉をついついと思い出す。休みの日に何処かで待ち合わせて逢う時以外のほとんど全部…学校の帰りに逢う時だとか、試合会場でお逢いする時だとか。そういえば、この制服を着ている進さんという印象がやっぱり一番に強くって。だけど、
"そんな姿も今日で見納めだったんだなあ。"
 アメフトのユニフォームだって浴衣だって、ユニ○ロのジャージの上下だって、何を着てたってそれは映える進さんだけれど。この、いかにもカチッとした制服姿の進さんって、一番カッコ良かったんじゃないのかなあ。すっきりしていた首元や、広い背中もかっちりした肩も。長い脚もしゅっと引き締まった腰も。そう、姿勢が良くって基礎の体型が整っていればいるほどに映えるんだよね、こういう堅苦しい服ってば。

  「………。」

 立ち上がって、そっと袖を手に取った。少し高いところの鴨居にかかっていたハンガーなので、バランスが崩れたのが伝わったか、

  「…あっ☆」

 からんと音立てて、腕の中へと落ちて来た制服一式。ドキンとしたのは…受け止めたその腕の中に収まったお洋服から、

  "…進さんの匂いだvv"

 大好きな匂い。大人みたいな男らしい匂い。袖口を頬に当ててみる。時々こっそりしがみつく進さんの腕の、しっかりとした質感と温みをいつも包んでた制服さん。自分も中学生の時は黒い詰襟を着ていたけれど、ボタンのだったし、こんなスタイリッシュなデザインのじゃなかったしな。



  …………………………………………………えっと。









   ――― それから、数刻後。


 小早川、待たせたな…と。声を掛けながら、返事も待たないで襖を開いた清十郎さんだったのは、出掛ける予定へ食い込むほどにお客様を待たせたからと、気が急いていたからだったのだが、そんな彼が向かった先、自分のお部屋で待っていたのが、

  「……………。」

 玉子色のシャツにトレーナー生地のカーディガンと明るい色合いのGパンの上。肩幅も胴回りも着丈の長さも、随分と余りたおしている自分の白い学ランを、こっそりと羽織ってみていた小さなセナくんであり。

  「あの…。////////

 とんだところを見られてしまったと、真っ赤になったセナくんの…思わずお口に持っていった小さな手の先っぽ辺りが、余って垂れ折れた袖口の中で迷子になって泳いでいたほどという、あまりの可愛らしさに…ついつい。

  「〜〜〜〜〜、す、すまん。///////

 ついつい吹き出してしまい、困ったようにすぐさま謝った清十郎さんと、

  「う〜〜〜〜。///////

 自分の悪戯心のせいだとはいえ、笑うことはないじゃないですかと、真っ赤になってプイッと拗ねてしまったセナくんと。………そしてそして、

  "あらあらvv
   たまきちゃんたら、何でこんな おいしーとこに居合わせないのかしらね。"

 セナくんの可愛らしいお姿、母は でじかめもけーたいも使えないから残念だけれど残しておいてあげられないわと、こんな場へ来合わせてしまったお母様が、はんなり笑っていらしたのでありました。いやはや、こちらさんも"春"ですねぇvvv(? そ、そうかな?)




  〜Fine〜  04.3.11.〜3.12.


  *いやはや、甘甘なホワイトデーものと相成りましたvv
   こんな蛭魔さんや進さん、桜庭くんは嫌だという方には、
   ……………お気の毒でした。
おいこら

ご感想は こちらへvv**

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