それもありかも?
 




  「あのですね、進さん。」
  「?」
  「実はボク、お砂糖の星から来た宇宙人なんですよvv
  「???」
  「だから、1日に1度は甘いものを食べないと、
   エネルギーが保たなくなっちゃって大変なんです。」
  「…っ!?」


 それはいけない、一大事だと。血相を変えたそのままに、大切な人を雄々しい腕の中へ有無をも言わさず ひょいと抱えて。手近なケーキ屋さんを目指して駆け出した、どこぞのラインバッカーさんだった。
(笑)


  ――― さて、今日は一体何の日でしょうか?








            ◇



  「妖一、ただいま〜〜〜vv


 なんかもう、すっかりと"セカンドハウス"扱いになっている蛭魔くんのマンションへ、のほのほと"帰って来た"のは、
「…? 何だ、お前?」
 少し陽灼けしてないかと、こちらさんは相変わらずに色白な恋人さんから目許を眇められてしまった、新進俳優の桜庭春人くんである。
「あやや、判っちゃった?」
 些細な変化だろうに気がつくなんて、そんなにも愛してくれちゃっているんだね…などと、性懲りもなく浮かれたことを言い出す相手のおでこを、ゆるく握った拳の指の節にて こつ・こつんと叩きつつ、
「頭ん中まで灼いたんか、このあほう。」
 そんな憎まれを言う、相変わらずに辛辣なお人。とはいえ、それこそ今更だからか、桜庭くんの方とて ちっともめげた様子はなかったりするのだが。
(笑) 少々アクが強いご挨拶を交わしてから、軽く首ごとしゃくって見せたのへ素直に応じてリビングまで上がって来た彼へと、
「こんな早くに季節先取りかよ。」
 あらためて陽灼けの理由を訊いてみれば、
「それもあるのかな。」
 だって、放映されるのはゴールデンウィークだからねと、さばさば応じた桜庭くん。実はつい昨日まで、某民放の2時間ドラマの撮影ロケがちょいと遠方であったのへ、その身を拘束されていたのである。肩から下げてた しゃわしゃわとした軽い素材のスポーツバッグを下ろしがてら、
「はい、これ。お土産の"温泉まんじゅう"だよ。」
 真四角な平たい箱を差し出しながら、くすすと笑った桜庭くんとしては、

  《 なんでまた、こんなベタな土産を買ってくるかな。》

 困ったようなお顔になって、そんな風に苦笑ってもらおうと思っていたのだが、

  「…温泉、まんじゅう?」

 冴えて整った白いお顔は、渡された包みを両手の上に見下ろして………キョトンとした表情を浮かべているばかりであり。その撓やかで愛しい痩躯を何日か振りという久々に腕の中へと掻い込んで、首から下げてた銀のチェーンをいつものように外しかかっていた桜庭くんが、
"…え?"
 意味合いは全く別ながら、奇しくも同じような顔になってしまう。え? だってさ。まさか…そんな?
「…もしかして。妖一、温泉まんじゅうって知らないの?」
 恐る恐るに訊いてみれば、それは素直にこくりと頷く。知らなくて悪かったなと怒ったり、知ったかぶりをして見栄を張ったりする以前の問題であるらしく。
「まんじゅうってことは、食うものなのか?」
「あ、うん。」
 包装紙は爽やかな水色の絣模様だったから、尚のこと中身の想像がつけにくいらしい。
「えと、あは…。そんな甘くないのだったから、妖一でも食べられるかなって思って。」
 綺麗な左手の薬指にいつもみたいに指輪を嵌めて差し上げてから、少しばかり関心を持ったらしい彼の手から包みを返してもらって包装紙を剥がす。水色の包装紙の下からは何の印刷もない真っ白な薄い箱が現れて、ちょいと周りを見回し、ソラマメの形をしたローテーブルの傍らに腰を下ろすとテーブルの上へ箱を載せて蓋を開く。すると現れいでたるは。やや平たくて焦げ茶色の、黒糖蒸しパンみたいなおまんじゅうが、セロファンで個別に包装されてずらりと並んでいる風景。
「ホントだな、まんじゅうだ。」
 すぐ傍らに同じようにチョコンと座っていたそのまま、1つを手に取り、細い指でセロファンを剥がし始める妖一さんだったので、桜庭くんとしては、
「あ、そうだ。」
 お茶お茶と呟きながら、大急ぎでキッチンへと飛んでゆく。現地
むこうで自分も食べたので、それほど甘くはないというのはホントだったけれど。笑ってもらおうと思って買って来たものへ、ああまで真面目に構えられるとは思ってなくて。
"…妖一って妙なところで"お坊ちゃん"なんだな。"
 スラングだって山ほど知ってるほどに、何につけ博識で物知りで。しかも結構 世慣れてもいて。世俗にだって殊の外通じてるように見せておいて、実は…こんなものが"判らない"だなんてね。何だかなと思いつつ苦笑して、手際よくお茶を淹れて茶器ごと盆に載せ、再びリビングへと舞い戻れば、
「…やっぱ甘いぞ。」
 ちょろりと上目遣いに睨まれたが、それでも…2つ目の攻略にかかってた彼であり。甘いものと彼という、今までにない組み合わせに、

  "か、可愛いvv"

 うわぁ〜〜〜vvと感動するあまりに、眸がハートになりかけた、売り出し中の二枚目俳優さんである。





 冬が暖かだったのをよっぽどのこと清算したかったのか。(誰が?)三月になりお彼岸を過ぎてもいつまでも寒かった早春だったが、さすがにこのところは気温も上がったし、何よりもいい天気が続いており、過ごしやすいこと この上もなく。それぞれに別々の進学先が決まった春休みを、相変わらずにごちゃごちゃし合いつつも、結構仲良く過ごしているこちらのお二人。
「そうだ。ねえ、妖一。」
 撮影先でのお土産話をあれこれと、携帯で撮った写真を見せつつ面白おかしく話していた桜庭くんだったが、
「今までそこまでは知らなかったんだけど、大学のアメフトリーグってさ、チーム結成と登録手続きは前年度の2月が締め切りって話だそうじゃないか。」
 おや?
「よく調べたな。」
 意外そうに眉を上げた妖一さんへ、
「…このくらい協会のホームページに載ってるよ。」
 馬鹿にして もうと、膨れて見せてから、
「で。妖一は、今年から編成を始めるつもりなんでしょ?」
 既存のチームは誰ぞの手垢がついていて良かれ悪しかれ何かとクセもあろうし、先輩だのコーチだのという手合いから頭を押さえられるのが面倒そうだから御免こうむると言わんばかり。協会のリーグへ既に籍を置くアメフトチームのない大学への進学を果たした妖一さんであり。自分の手で一からチームを作り上げるつもりでいるらしき、実に頼もしい心意気でいらっしゃるらしい彼だと先だってから聞かされていたのだが。でも…それだと、最下層の"エリアリーグ"から始まるのが"来年の春から"になるので、入れ替え制に乗っかって勝ち上がっていったとて、四回生になってもトップに間に合わないんじゃないかい?と思ったらしき桜庭であるらしく、
"まあ、リーグの順位になんか、こだわる人じゃないかも知れないけどさ。"
 上のチームと練習試合以上の真剣勝負にて手合わせしたければ。サッカーの"天皇杯"のような、所属の制約なしに参加出来るトーナメント方式の大会だとかを設ければ、リーグ別という垣根なんぞ簡単に取っ払える…くらいはあっさりと企てそうな人ではあるが。
(苦笑) ただ このままだと、例えば日頃のリーグでは…進が所属している一部リーグのチームには覲まみえられないことになる。あの小さなランニングバッカーくんを招聘するにしても、そんな条件ではセナくんが承知しないのではなかろうかと危惧すれば、

  「ああ、それな。」

 ちょいと熱いのを持て余してか、上から手をかぶせて縁を丸く摘まむような持ち方で湯飲みを持ち上げ、くいと口許を湿した金髪のフィクサー様。にやりと笑って、

  「登録だけなら、去年の内に済んでる。」
  「………はい?」

 ちょっと待って下さいな。妖一さんはついこないだまでは泥門高校の三年生でしたよね。なのにどうやって、大学内のチームを作りましたからなんていう届け出と登録を、その去年のうちにやれたのでしょうか? 理屈が飲み込めなくて目が点になった桜庭くんへ、

  「ちょいと伝手を使ってな。
   去年の内に目ぼしいところを集めて仮のチームを作っといたんだ。」
  「………☆」

 マルチ商法に引っ掛かってしまっただとか、その他 色々、ちょいと困り事を抱えた在校生の方々に、ちょいと声かけて参加を募り、頭数と組織の構えだけを揃えてもらって。調査が入ってもきっちりと不備のないように届け出てもらってある…と。恐ろしいことを口になさる。
「どうせ、助っ人に何人か当たらにゃならんのだしな。それも、来年度には三部へ上がれる戦歴を残せにゃ意味がないんだ。」
 勿論、自分が現場に立つ段階で、半端な面子はとっとと追い出すつもりでいるが、と。既に戦略は始まっているのだよと、自信満面、しゃあしゃあと言う彼には、

  "う〜ん、おさすが。"

 高校生時代にも既に色々と、法外にして破天荒なことを様々にやってのけてた人ではあったけれど。卒がないという一言で、果たして片付けてもいいのかしらと。まだ少しくらいはネ、一般人としての…判断力というか物差しというかが、意識出来る桜庭くんであったりする。人として大事なことだから
その感覚は頑張って死守してほしいような、けどでも、この先もっと凄いことをしでかしかねない人だから、早めに慣れた方が彼自身にとっては良いのかも?
"どっちにしたって ボクはついてくだけだけどもネ。"
 単なる盲従は良くないから、場合によっては意見もするけど、それでもサ。この、とっても綺麗で狡賢くて、そりゃあ強くて…実はちょっぴり優しい妖一さんの傍らに、ずっとずっと寄り添ってくって決めているから。このくらいのことへ たじろいだり、ましてや非難したりなんて気は全く起こらないらしい桜庭くんも、なかなか大成して来たような。
おいおい 一応は全国ン万人というファンを抱えているアイドルさんさえ屈服させるよな、そんな感慨を持たせたほど、自信満々にふふんと笑って見せてた妖一さんの強かなお顔が、

  "…ん?"

 ちょこっと物問いたげなお顔になったのは、お向かいの位置から立って来た桜庭くんが、ローテーブルの縁を回って傍らまでやって来たからで。お互いの視線をきっちりと合わせたまんま、肩と肩どころじゃない、頬と頬とが触れ合うほどまでの間近に とさんと腰を下ろして来た彼の、綿シャツにカーディガンという軽装の懐ろから伝わる体温をその身に ほわりと感じて、

  「な…。///////

 何故だか、少々臆したように たじろいだ妖一さんだった辺り。他のことへは破天荒にして大胆なまでに様々な策謀を繰り出せる"強かかさん"な彼であっても、こっち方面では まだ何かと不慣れなのだということを易々と偲ばせる。不慣れというより…強気に出られず戸惑うほどに、桜庭くんという相手を軽んじることが出来ない彼だということか。
「…何だよ。」
「うん。…あのさ。」
 他には誰もいないというのに、耳元に口を寄せ、何やら"ぼしぼしぼし…"と小声で囁いて来て。
「…っ。////////
 ちょこっとばかり抵抗の色を見せかかった反応へ、
「だってサ、10日も離れてたんだよ? ね?」
 大学での"野望"の最初、陰謀の手初めを聞いてあげたんだから、ネ?なんて。いえ、そんな言い方をしたのかどうかは、内緒話だったため定かじゃあございませんが。10日も離れてて寂しかったんだもの、さっきちょこっとだけ抱きすくめた感触が手から消えてくれないんだもんと。吐息が頬に触れるほど間近から"ねえねえvv"と甘えながら擦り寄られて、手際良く…広々とした懐ろの中へと取り込まれてしまっては。

  「…しゃあねぇな。//////

 あらあら、実は押しに弱かったなんて意外ですよね。それとも…この人が相手の、このジャンルに限るのでしょうか。

  "うっせぇぞ、外野っっ!!"

 あははvv そいでは、外野はこの辺で一旦退散いたしましょう♪






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  *すみません。次章、のっけから ちょこっと危ない描写があります。