お手をどうぞ…vv D
 

 

          




 お城から家まで戻る森の中。魔法が解けて、普段着の裸足で歩いて帰ることとなったシンデレラは、謎のオオカミ男に とんちんかんなクイズを付き合わされたり、謎のおばあさんから毒リンゴを食べさせられそうになったり。そこへと通りすがったロビンフッドに助けられて、赤ずきんちゃんとお花の冠を作ったり、帽子屋さんのお茶会に飛び込んでしまったり…という、他の童話やお話のパロディを短く交えつつ。ついでに…台詞を忘れた面々が、モン太くんに負けず劣らずの絶妙なアドリブを繰り出したため、お陰様で場内は爆笑の連続で。そんな楽しい脚本のお芝居はトントンと進み、せっかちな王子様が直々にガラスの靴を手にシンデレラの家を訪れて、そうしてお話は大団円。可憐なドレス姿のシンデレラが再び現れ、王子様と手に手を取ってお城へ旅立ち、めでたしめでたしと幕が下りた。ほんの1週間という準備期間の短さにて、突貫でかかった代物とは到底思えなかった見事な出来に、観客からの拍手は鳴り止まず。緞帳のこっちでも、
「ひゃっほうっ。」
「だ〜い成功っ!」
 役者も裏方も一緒になって、そりゃあもう はしゃぐこと はしゃぐこと。次の演目の方々の邪魔にならないようにと舞台裏から撤収しつつも、皆の興奮はなかなか収まらず、
「小早川くんっ!」
「モン太くんもっ! 皆で写真撮ろうよっ!」
 主役のシンデレラはなかなか着替えさせてもらえない。何せラストはやはりドレス姿だったので、舞台裏から控室代わりの講堂外のポーチ周りに出てからも、その姿は人目を引いて、
「あら、可愛い。」
「あ、さっきの劇のシンデレラじゃない。」
「間近で観ても可愛いのねvv」
 他のクラスの生徒たちや先生方、来賓といった人々の注目を浴びまくりの状態である。
"しまったなぁ。教室に戻らないと着替えられないのに…。"
 この"控室"は出待ちの場であって楽屋ではない。そんなせいもあって、制服や私物は教室に置いて来たセナであり、来る時は地味な恰好で、しかも皆で一団になっていたのでさして目立ってもいなかったが…今はちょっとばかり状況が違いすぎる。一通りの記念撮影が済んで、新聞部の方からまで艶姿を撮ってもらって、さて。
"…どうしようかな。"
 教室がある校舎もまた、展示や模擬店があちこちの教室にて設けられているのだから、生徒たちや来賓でそれはもうにぎわっている。なので、この恰好で廊下を通るのは少々気が引ける。せめて カツラだけでも…と、ずりんと脱いだところで、
「おい、セナっ。」
 駆け寄って来た雷門くんが見覚えのある紙袋を差し出した。シュークリームは雁屋、と印刷されたそれは…。
「あれ? それって…。」
 確か教室で着替えた時に、今着ているドレスの下、普段着の方の衣装を入れてあったのを差し出された紙袋。受け取って中を見ると、
「ボクの制服だ…。」
 机の上に畳んで置いた筈の制服一式。畳んだそのままに入っていて、
「そこの小道具の上にあったぞ? 自分で持って来といたんじゃねぇのか?」
 袋の隅に"小早川"と名前が書いてあるのも、衣装担当者が記したものだろうが、雷門くんは"だからセナの服だろう"と思ったらしい。彼も同じ柄のを提げていて、
「ほら、俺のまで。」
「えと…。」
 心当たりはないけれど、中はちゃんと…ビニール袋に別にして入れた靴や靴下までの一式が、間違いなく揃って入っているし、財布や生徒手帳、携帯電話も無事。
"誰かが気を利かせて運んでくれたのかな?"
 寸劇の経験者なら、こうなることには気が回りもするだろうから。演劇部の誰かが気を利かせてくれたのかも。でも、だったら声くらい掛けといてくれても良いのにな。そこらに出してあっただなんて それもまた危ないのに…と、何となく腑に落ちないが助かりはした訳で、
「ま、いいじゃん。早く着替えようぜ。」
 ここからならアメフト部の部室が近い。手を引く雷門くんに連れられて、慣れた手つきでドレスの裾を片手に摘まみ、サササッと…。お姫様とお婆さんにしては随分と素早い足運びにて
(笑)、そちらへと向かった二人である。



            ◇



 日頃は部員たちや元部長の憩いの溜まり場になっている部室も、今日ばかりは無人であり、奥のロッカールームへまで運ぶこともなく、手前の"カジノ風"ミーティングルームにて手早く着替えることにする。
「サッと…。」
 モン太くんの衣装はゆったりしたワンピースタイプだったので、丁度"大きなTシャツ"のようなもの。首を抜いて腕を抜くだけという案配で、着るのも脱ぐのも至って簡単だったが、セナの方はというと、
「うぐぎぎぎ…。」
「…何やってる。」
 早替わり用ということで"一枚仕立て"という点ではモン太くんのと大差ないのだが、何しろごてごてと色々なものが縫い付けられてある代物だから、それら全部を引き受けられるほど頑丈な芯地に縫いとめられた背中のファスナーが、これまたやたらに堅いらしい。ただでさえ"後ろファスナー"なんて形の服には慣れがなく、上から下からバタバタと背後へ回してみた手が、ファスナーのつまみへかかりはしても そこから下へと降ろせなくって。
「女の子って体が柔らかいんだなぁ。」
 こんなもんじゃない。毎日ブラジャーのホックを留めたり外したりしてますし、頭の後ろで三つ編みを結ったりもしてますからねぇ。
(笑) まま、それはともかく。自分では何ともし難いと、困ったようなお顔になったセナくんに、
「どら。」
 雷門くんが寄って来て、
「あ、ホントに堅いや。」
 ほっそりした背中に向かい合い、着ぐるみドレスのファスナーと格闘すること…数分。
「ていっ!」
 やっとのことで腰までが下がって、
「はふう…。」
 きちんと仮縫いまでしただけあって、サイズ的には苦しくなんかなかったが、それでも慣れない恰好だ。そこから解放されたとあって、ついついセナくんの口から大きな溜息が零れた。下に重ねていたシンプルなドレスの方は前合わせだから、こっちは自分で何とか出来る。
「ありがと〜。」
 鎧のような舞台衣装からの解放が、やっとのことで"終わった"という感慨も呼んでくれたらしい。モン太くんにお礼を言いつつ、はにゃ〜と緩みきったセナは、そのまま手近な椅子にぽそんと座り込む。
「…何かこのまま動きたくないなぁ。」
 アメフトの試合に比べれば集中の度合いも観客数もてんで規模が小さいと、始まる前にモン太くんは叱咤してくれたけれど。そこはやっぱり緊張の種類が違うというか、慣れないことをやり遂げたという疲労感が、体よりも気持ちの方を ふにゃふにゃと蕩かせていて。
「腑抜けたことを言ってんじゃねぇよ。」
 こちらさんは あれほどの活躍をしたというのも てんで苦ではなかったか、てきぱきと着替えてしまうとおもむろに腕時計を確かめるモン太くんであり、
「おっと、先に行くぞ。」
「ええ〜っ?!」
「まもりさんの演奏が始まっちまうんだよ。」
 握った拳の親指を立て、ビシッと決めてのそれはそれは爽やかな笑顔を見せてくれた雷門くんだったけれど…。

  "ううう、友情が恋愛に負けてしまった。"

 あはははは…、そだね〜。
(苦笑) それ以上を引き留める間もあらばこそ、
「MAXダーッシュっ!」
 お元気に飛び出して行ったモン太くんであり、
"…ま、仕方ないか。"
 彼が まもりにどれほど傾倒しているのかはよく知っている。決意の底にあったものは別だが、それでも…あれほど熱中し優先していた野球からアメフトへと転向してくれた、大きな切っ掛けの一つでもあって、
"それに…。"
 いつもいつも進さんとの逢瀬がある日は水臭くも先に帰ってもらっている自分を思い出し、それに比すれば余程のこと、ささやかな置いてけぼりだよなと小さく苦笑したところで、



  ――― カタ…っと。


 かすかに何かの音がした。
"…え?"
 バタバタっと飛び込んで来て、大騒ぎしながら着替えて。そういえば、誰もいないってキチンと見回して確かめた訳じゃあない。こっちのミーティングルームへのドアは間違いなく鍵がかかっていたけれど、ロッカールームの方からだって入れる部室だから、そちらに居たのなら…今まで気づかなかったということもあり得るが、
"でも、誰かが居たんなら。"
 部員であるなら、自分たちの気配に気づいてこっちへと顔を出しても良いだろに。先輩後輩、会ったらまずはご挨拶をするのが基本中の基本。それに、蛭魔がその迫力と"脅迫手帳"のせいで相変わらず恐れられている事を除けば
(笑)、チーム内の雰囲気はなかなか良好で、そっぽを向き合うようなギスギスした空気はない筈なのに。
"…まさか。"
 先輩に見られては疚
やましいような、そんなことをしていた子がこそりと隠れているとか? 去年の初めの頃までなら、鉄壁防御ポジション担当の十文字くんたちがこっそりと煙草を吸っていた。でも、そんなことしていてもプラスにはならないからって、きっぱりと辞めた筈だし。
"そんな匂いは…しないしな。"
 日頃、優しい先輩さんと慕われている瀬那であるものの、逆に言えば…人目のないところでは、小馬鹿にされてあしらわれるくらいの評価しか受けてはいないのかも知れず、
"どうしたもんだろか。"
 気づいてない振りで素早く着替えて出て行こうか。ああ、こんな逃げ腰じゃあ、やっぱり進さんに叱られちゃうな。しょぼんとしながら背中へと回した手。ファスナーの"あとちょっと"を降ろしかけたセナだったが、
「…あれ?」
 布を咬んだか、それともやはり堅いのか、あと少しが降りてくれない。
「あれれ? 」
 椅子から立ち上がって両手を後ろへ、うんうんと頑張ってみたがやはり降りてくれない。微妙なほんの数センチが降りないものだから、これではこのドレスは脱げなくて。
"どうしよう…。"
 ついつい。仔犬が母親を呼ぶような"くう〜んきゅ〜ん"というような、そんな声を出して困っていたところが、

   ――― じ・じじっ☆

 ファスナーに添えていた小さな手へと、いきなり別な温みが重なって。
「…えっ?」
 ドキッとする間もあらばこそ…手古摺っていたファスナーを、きっちり下まで降ろしてくれて。
「あ、あやや…。/////
 確かに助かりはしたけれど。この手って…一体誰の手なのか。触れて来た時はいきなりだったから、そりゃあもうビックリしたセナだが、

  "………あvv"

 間近になった匂いと温み。これを間違えてなるものか。パッと肩越しに振り向いて、
「進さんっvv
 ニコォッと笑ったセナくんだったが、
「………進さん?」
 見上げるほどの大きな上背に、凛と冴えてすっきり整った男臭い面差し。かっちりした肩や長い脚がよく映えて似合っているジャケット姿に、思わず見惚れてぽわんとしちゃう。背後にいたのは間違いなく、大好きな進さん、その人だったのに。どういう訳だか…お顔だけ、真っ直ぐ真横という"そっぽ"を向いている。ファスナーを降ろすのを手伝ってくれた手も、パッて慌てて離した彼であり、
"あ、えと…。"
 もしかして もしかして…やっぱり、こんなカッコしてるの情けないなぁって怒ってるんだ。困ってたから助けてはくれたけど、ホントは"ダメだなぁ"って叱りに来た進さんなのかも。
"ふみ…。"
 ちょっと、ううん、とっても楽しかったのに。最初は困ったなあって思ったけれど、皆と一緒にどたばた準備したのも、ちょこっとずつの失敗もあった今日の本番も、凄く凄く楽しかったのに。こんなカッコして皆に笑われて、みっともないって思ったのかな。叱られるだけならともかく、こんな恥ずかしい子とはもう付き合いたくないって、笑い者になるような子の隣りに立ちたくもないって思われたんだったらどうしよう……………。

  「こら。」

 あやや?…と思う間もなく。温ったかくて大きな手が、セナくんの小さな顎の下にもぐり込んでいて。そのまま ひょいって。顔を上げさせられた。
「あ…。」
 色々と。進さんとのこと、怖い方へ怖い方へと考えてたら、いつの間にか俯いちゃってたらしくって。それに気づいた進さんが、いつものように…セナくんの小さなお顔を上げさせたらしい。
「あの…。/////
 ファスナーを降ろしてもらったから、そのまま"すとんっ"て足元まで落ちた衣装。下に着ていたシンプルな型のワンピース姿の、それはほっそりとした小さなセナくんの足元に、ふわふわの花の冠みたいな輪になったパールピンクのドレス。そんな構図が、何だか…コスモスのお花から生まれたばかりの妖精みたいに見えて、それで。ハッとした後、妙にどぎまぎした進さんだったらしくって。今、あらためて向かい合って、
「済まない。何だか、その…。」
 叱ろうという進さんだったなら、こんな風に口ごもったりはしない。ああそうかって、セナくんにもやっと何かが伝わって、
「えと…。/////
 こちらさんも何故だか…ちょこっともじもじ。今更ながら、含羞
はにかんでしまうセナくんだったりするのである。


 まずは、とりあえず。中途半端なお着替えを大急ぎでばたばたと完遂する。ふわふわドレスは、
"明日の2日目にでも取りに来れば良いかな?"
 ってことで、ハンガーに掛けて自分のロッカーに下げて。制服を着て、ネクタイを締めて、髪を手櫛で梳いて…出来上がり。
「お待たせしましたvv
 ミーティングルームの方でスツールに座って待っててもらった進さんの方へ、ぱたぱたって駆け寄れば、
「………。」
 ちょこっと。傍目には判らないくらいに、目許をちょっとだけ眇めた進さんで。傍目には判らなくとも、セナくんには判りやすい"それ"だったものだから。あれれぇ? 何か変なトコが残ってるかな。ネクタイが曲がってるとか? 着たばっかりの制服を、右から左からとあちこち見回していると、

  「………え?」

 すいっと伸ばされた進さんの手が、そのままセナくんのお顔に近づいて来て。あとちょっとという空間で、ぴたって止まって………。
"???"
 キョトンとしている大きな眸が…その視線が捉えているのは、大好きな人の大きな頼もしい手。ほんの去年の もちょっと昔なら、こんな至近まで寄られただけで、怖くて怖くてササッて避けたろう、男らしい大きな手。それが今では…何かを指さしかかった途中という形で中空で止まっているのを、小首を傾げてじっと見つめているセナくんであり。
「………。」
 一体、何をためらった進さんだったのかといえば。そろそろと伸ばされた手の先、温かな指先がそぉっと触れたのが…セナくんのやわらかな唇だったから。まるで壊れものにでも触れるかのように、細心の注意を払ってのタッチは、
"あやや…。/////"
 セナくんの頬をあっと言う間に真っ赤に染めるという反応まで招いたが。進さんとしては…ただやたらに触りたくなった訳でも無いらしく。(おいおい)くいっと軽く拭った仕草のその指先、少しだけ離してセナくんに見せてくれて…。
「………あ。/////
 そこには、どこかで見たチェリーピンクの色が。
「ご、ごめんなさいっ!」
 どうやらセナくん、口紅を落とすの忘れてたらしいです。
(笑) ズボンのポケットからティッシュを取り出して自分のお口をごしごしと拭い、それからそれから、
「あ、えと…。」
 新しいのを引っ張り出して、進さんの手もきれいにしなきゃと、お膝に戻された大きな手を持ち上げたが、

  「…進さん? これ、どうしたんですか?」

 指先で口許をちょいっと拭ってくれた、セナの大好きな大きな手。だが、よくよく見ると、手のひらの真ん中辺りに…横断するように真っ直ぐな線が入っていて、特にその中央部には濃藍色のインクの跡が。
「…ああ。」
 その右手で、自分のジャケットのポケットからごそごそと掴み出し、進が見せてくれたのは、ティッシュに包まれた…見事なまでに真ん中でへし折れたボールペンであり、
「プログラムに印を付けていたのだがな。丁度、シンデレラが突き飛ばされたところで…つい。」
「…あやや。/////
 そうか、あの客席から聞こえた"ぱきん☆"っていう音は、これだったですか。またやったんですね、懲りない人だ。(『Summer garden 幕間』参照…笑)でもでも…それっていうことは?
「それじゃあ…。」
 あの…と。頬を染めたままに まじっとばかり、大好きな進さんのお顔を見やったセナくんへ、
「ああ。楽しい劇だったな。」
 ちゃんと最後まで観たよと、優しく笑ってくれるから。
//////////っ。」
 全身から勢いよく血が昇って来て、頬からうなじから耳までも、真っ赤になってしまったのが実感出来たセナだった。そんな状態になったことが弾みになってか、
「あ、あのあのっ。」
 何だかちょっと、失敗も一杯して。そいで、あのあの、モン太くんとか、皆に助けてもらってしまって…、と。ちょっとだけ興奮しながらも、さっきまで立っていた舞台のお話を、身振り手振りも入れながら懸命に説明してくれる可愛らしい子。少しだけ少しだけ、いつもはキリキリと鋭いその目許を緩めて、舌っ足らずな声が紡ぐお話を聞いてやる進さんで。そんなお顔でほのぼのと見つめられることが…セナくんの興奮状態を宥めてくれたらしくって。
「えと…。/////
 それでもね、大好きな人と二人きりで向かい合ってるって構図は、やっぱりドキドキしちゃうから。そういえば一週間以上も逢ってなかったんだと、今頃になって思い出しつつ、進さんの前に立ったまま、ちょこっともじもじしていると、
「…皆してあの役を小早川にさせたいって思った気持ちがよく判る。」
 進さんの声が。静かに静かにそんなことを言い出す。
「こんなに小さくて。こんなに愛らしいのだからな。」
 柔らかく和んだ目許が何とも言えず温かで、
「えとえと…。/////
 優しい言葉の1つ1つが、ぽつんぽつんて体の中へ1つずつ優しい灯火を灯してくみたいで。誰に褒められるよりも、誰に認められるよりも、この人の言葉や声が一番に嬉しいから。大役を任されて緊張しまくった舞台が終わった高揚感とは、全く次元の違う快感に、ほややんって…軽々と気持ちが舞い上がる。嬉しいようと、蕩けそうな甘いお顔を見せてくれる愛しい少年に、こちらもたいそう充実した想いを満喫しつつも、
"もう少しで見逃すところだったが。"
 こっそりと、分厚い胸中で呟いて苦笑を一つ。

  『…うん。確かにね。忙しいんだよ、セナくん。』

 学園祭が近いらしいからね、と。準備で大わらわなんだと思うよと。どういう訳だか、詳しく事情を知っていた桜庭からそうと言われて。
『だから、週末は予定を入れちゃいけないよ?』
 模試もスカウティングも、実家の道場の掃除も町内会の草むしりも、予定に入れちゃダメなんだからね。セナくんからきっと連絡があるからさ、と。少しばかり余計なお世話的な言いようをしていた彼であり、
"余計なお世話を焼いてくれた。"
 本当だったらそんな形で知りたくは無かったことだが、でもでも、もしも助言されていなかったなら。丁度町内会の秋祭りがあったため、山車を引く若衆の手勢にと駆り出されていたかもしれない進さんだったそうで。…危ないところだったやねぇ。
(笑)
「ふみ…。/////
 ただ見やるだけで ぽうと頬を染めてしまう、愛らしくて小さくて…愛しくてたまらない少年。シンデレラの可憐な衣装もそれはそれはよく似合っていた彼だけれど、この小さな体がフィールドでは…健やかなる翼に乗って、疾風のように駆け抜ける、それは手ごわい強敵になる。
"これもまた、恵まれているということなのかな?"
 好敵手としての執着関心が、こういう方向へ転じようとは。こういう機微には人一倍疎い自分だのにと…我がことなのにも関わらず、今更ながら不思議なことだと思えてしようがない進であり、
「進さん?」
 ただただうっとり、優しい眼差しにて見惚れてくれてる偉丈夫さんへ、小さなセナくん、そのお首を小鳥のようにひょこりと傾げて見せたのであった。












  aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif


 他のクラスの出し物を見て回りましょうかと、一丁前にもガイドを買って出たセナくんと二人、部室から立ち去った鬼神様の大きな背中を見送って。

  「………やっと出てったか。」

 ふぃーっと溜息を零しつつ。ロッカールームの側の扉の陰から、こそりと外へ踏み出して来た人影が二つ。実は実は、進と一緒に問題の『シンデレラ』を見学していた顔触れであり、
「進も気が利かないというか厚顔というか。」
 あんな甘いお話をボクらに聞かれてて平気だったんだなんてサと、アイドルさんが"やれやれ"というお顔になって苦笑する。いかにもな恋人同士の語らい合いだったものだから、むしろ聞いてた方のこっちが赤面している始末である。
「…で。俺らは どうすんだ?」
 まだ昼下がりで陽も高く、時間はたっぷりある。
「そだな…何か面白そうな出し物とかあるの?」
 二人が向かった校舎の方を視線で指したアイドルさんに、
「さてな、よく知らねぇ。」
 ここの学生である金髪さんが"関心ねぇし"と無責任にも小さく笑って、だが、

  「………ウチに来ねぇか?」
  「え?」

 アパートの方で悪いが、来ねぇか?と。他愛ない世間話みたいに。聞こえなかったなら無かったことにするぞっていうような、どこか素っ気ない声音でボソッて言ったものだから。
「あ、行く行く、行きたいです。お邪魔したい。////////
 慌てたように返事をすれば、
「…何遍も言わなくても聞こえてる。」
 呆れ半分に目許を眇める蛭魔だったが、桜庭としては真剣必死。
"だってさ。妖一から誘ってくれたのって初めてだもんvv"
 何かきっちりとした御用でもない限りは、桜庭の方から言い出しての訪問ばかりで。こんな風に出先で思いついて…だなんて、これまで一回だってなかったことだったから。
"もしかして、セナくんたちにアテられたのかな?"
 だとしたなら二人に感謝しなくちゃと、擽ったそうに微笑むアイドルさんである。どちら様にも"御馳走様"な秋ですねぇvv




  〜Fine〜  03.10.6.〜10.30.


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   *冒頭をUPした途端という唐突さで、いきなりネ落ちしてしまい、
    やさしい皆様には多大なるご心配をおかけしましたが、
    何とかエンドマークまで辿り着けました。
    相変わらずに変な人たちですが、
    それでも可愛がっていただけているようで、
    もうもう、あん・もうっ♪
    言葉にならないくらいにとっても嬉しゅうございます。
こらこら
    新しいCPさんたちの登場にて、
    何だかお話が二分化しがちの今日この頃ですが、
    どかどか、そちらの彼らにもお付き合いいただけるとありがたいです。
    それでは次のお話にてvv