お手をどうぞ…vv C
 

 

          




 文化祭の日程は二日間だが、二日目は午後から後片付けに入ってしまうし、模擬店やバザーも商品が無くなっていたりするので、賑わうのは初日の日曜日の方。講堂を使う演目の方も、初日の方に寸劇や合唱などといった無難なものが集められており、二日目には軽音楽部や個人参加のバンド演奏といったような、そのまま後夜祭になだれ込めそうなノリの、ちょっとばかり趣味に走ったものへと偏らせてあったりする。そんな訳で、本番も本番。本来ならばラストの演目が時間帯的にも一番人気な筈が、妙に前評判が高くって、観客を一番集めてしまった2年1組の寸劇が、今から始まろうとしているところ。

  「うおぉ〜〜〜っ、なんかドキドキして来たぞぉ!」
  「や、やめてよ、モン太くん。」

 言ってるほど緊張はしていなかろうお元気な様子で、ラメ入りロングドレスという例の衣装にプラス、初老のご婦人風な白髪のカツラをかぶった恰好で、腕をぶんぶんと振って体をほぐしている雷門くんの余裕に引き換え、主役はさすがに…緊張から来るドキドキがなかなか止まらないらしかったが、
「何言ってる。スタジアムに比べりゃあ、こんな講堂なんて狭いトコじゃんよ。」
 広い広いグラウンドで、真剣勝負に挑んでいるその時の緊張感に比べたら、こんなもん物の数ではないと言いたい彼なのだろう。
「観衆の数だって少ないしな。あっちはただの外野だと思えば良い。」
「う、うん。」
 頼もしい主将殿に ぽぽんと背中をどやされたとほぼ同時、セッティングが済んだからと一斉に裏方さんたちが袖へと引いた。舞台の上への照明がふっと消えて、いよいよの本番に"ごきゅっ"と息を呑んでから、
"頑張らなくちゃ。進さんだってわざわざ観に来てくれてるんだからな。"
 瀬那は昨夜のメールを思い出す。

【 From;進 清十郎。
    小早川へ。
    明日の泥門高校の文化祭、見学に行く予定だ。
    昼過ぎの講堂での寸劇発表に出るのだな。
    楽しみにしている。】

 お知らせしたのが遅かったから、もしかして模擬試験とか総合練習だとか、他の御用と重なってないかなって心配だったけど、来てくれるってお返事くれたんだもの。だからだから、頑張ってやんないと。せっかくのお休みなのに来てくれてるんだから、楽しんでもらわないと。ぐうにした小さな拳を胸の前で握り締め、うんって頷いて気持ちを切り替えて………。




【昔々、あるところにそれは働き者の娘がおりました。実の母を亡くし、その後にやって来た継母と連れ子の姉たちに、召し使い同然にこき使われても、愚痴ひとつ言わず、掃除や洗濯、炊事に繕いもの。家庭菜園の手入れから家畜たちの世話まで、それはそれはよく働く、気立ての優しい娘でしたが、継母や義姉たちはみすぼらしい姿の彼女を嘲笑って、灰かぶり、そう、シンデレラと呼んでおりました。】

 暗くなった場内に…演劇部か放送部関係の女生徒のものだろう、物慣れた声での伸びやかなナレーションが流れて来て、それと共にスルスルッと上がった分厚い緞帳。観客たちの視界の中へと開け放たれた舞台には、照明の落とされた中に一本だけ細いスポットライトが灯り、その光の輪の下には小柄な人物が一人立っている。お顔に両手の拳を引き寄せていて、どうやらシクシクと泣いている様子。
【天国のお母様。どうして、私を置いていってしまわれたの?】
 ちょいと棒読みだが、結構滑舌
かつぜつはいい、か細いボーイソプラノが最初の台詞をなめらかに紡いで。それが合図だったのか、んぱっと仄かな明るさが舞台全体に広がった。窓や暖炉のマントルピースを描いた、専門用語で"書き割り"という、室内を示す簡単なセットの並んだ舞台中央にただ一人で立っている、ほっそりとしたその人物が主役のシンデレラであるらしく。細い腕の先、小さな両手を胸の前に組んでいて、ぱさぱさとした短い黒髪の………。

  「…あれって男の子?」
  「そうみたいよ。」
  「ほら、男女入れ替えのシンデレラってプログラムに書いてあるもの。」

 くすんだ色合いの"普段着"の衣装は、本当につぎはぎを散りばめる手間を省いてか、それはそれはシンプルな…筒袖・膝下丈の無地のワンピースに、マジックなどでつぎはぎの絵が描かれているという簡素なもの。だが、そんな服であることが、着ている人物の、幅薄で細っこい身体の線を尚のこと強調していて、

  「………可愛いvv

 こんな段階で、もうお客様たちの心を掴んでいる模様。さすがは主役である。
おいおい …と、そこへ、
【シンデレラ、何をさぼっているのかしら。】
 こちらはそれと分かりやすい…やっぱり男子が扮した、たいそう大柄な"意地悪な義姉たち"が、足元まであるドレスの長い裾をバッサバサと捌いてやって来た。やれ掃除は済んだのか、ドレスにアイロンはかけたのかと、野太い声を裏返して勝手な御用を口々に言いつけ、
【手の遅い子ね。】
【ホントよね。そんなことでは舞踏会に間に合わないじゃないの。】
 所作に合わせてびょんびょんと弾む、コシの強い縦ロールも艶
あでやかな。金髪のカツラをかぶったテニス部のR君が、微妙に手加減しつつ…トンッと突き飛ばす真似をして。
【ああっ。】
 何度も練習した段取りのまま、セナが舞台の上、フローリングの床へ突っ伏すように倒れ込み、やや斜めの横座りという態勢で半身を起こしたところへ、

   ――― ぱきん☆

 静かな場内のどこやらから、妙な音が聞こえた。どっかで聞いたことがあるような音だったような気もしたけれど……………まま、今はそれは聞き流すことにして。
(笑)

【何を騒いでいるの、あなたたち。】
 妙な威厳まで引き連れてドスドスと登場した継母役は、ここだけの話、実は柔道部の猛者である。恰幅がいい彼の着る衣装(特に舞踏会用)は、冗談抜きに皆の頭を悩ませたのだが、隣町のゲイバーの"お姐さん"に提供してもらったそうで。…誰のコネだかは謎であるが、お陰様で場内は一気に沸いた。舞台の上にいた3人も、カツラをかぶった"完成形"を見たのは今が初めてで、苛める側もシンデレラも…ついつい息を合わせて見とれてしまったほど。
"…上野の西郷さんにフランス人形のカッコさせたようなもんだもんな。"
 おおお、それはまた…。
(笑) こういう可笑しさをこそ狙った寸劇だったんだよなぁと、舞台の上でも観客席でも、関係者一同が改めて思い出したところで、
【今夜はお城で舞踏会が催されるのですよ? お化粧に身支度に、どんなに手をかけても足りないくらいでしょう? さあ、さっさと支度をなさい。】
 母上のお言葉に二人の義姉たちが、
【はぁ〜いvv
 声を揃えていいお返事。そのまま変則スキップにて舞台の袖へと引っ込んで、さて。
【シンデレラ、何をぼーっとしているの。お掃除は済んだの? 仕事は山のようにあるのよ?】
 あらためて言いつける継母様へ、可憐なシンデレラは…ドレスの裾を踏みそうになって"おとと…"と よろめきかかったところを、こそりとその継母様に支えてもらいつつ。
(ダメじゃん/笑)何とか"うんしょっ"と立ち上がると、あらためて胸の前にて手を組んで見せた。
【お母様、私もその舞踏会へ連れて行っては下さいませんか?】
【おや。お前をかい?】
 アイラインをいっぱい引いたお陰様で妙に迫力の増した流し目にて、じろりとシンデレラを睨んだ、髭剃り跡の濃いい継母様は、
【そうだねぇ。お触れでは"国中の娘たち"をお招き下さっていることだし。お前も連れて行ってやりたいところだが。】
 言いながら、小さなシンデレラの頭の先から足元、爪先までをジロジロと眺め回して。
【でもねぇ。そんなみすぼらしい格好では連れて行けないよう。あたしたちまで恥をかいてしまうからねぇ。】
 あの子たちのドレスでは、ちょぉっとあんたには大きいだろうしねぇ。からからと笑いながら、意地悪な継母様がやはり袖へと退場し、一人取り残されたシンデレラは、くすん…と小さく泣き声をこぼして、
【天国のお母様………。】
 余韻を残した呟きが何とも悲しげで。潤んだ瞳で頭上の虚空を見上げた可憐な横顔に、場内の観衆たちは…パロディコメディな筈なのに、貰い泣きをしかかかるお年寄りまで出る始末。だがだが、実は、
"………あ〜う〜、しまったぁ〜。"
 本当はもう少し長い台詞だったのに、うっかり忘れたセナくんで。しかもお星様を見上げるように…という演技を優先して上を向いてしまったから、左右の袖に立っているプロンプターさんが掲げた、台詞を書いた画用紙を見ることが出来ない。
"あやや、どうしよう…。"
と思っている間にも照明が消えて、どうやら場面が変わるらしい。
「小早川くん、気にしないで良いからね?」
「そうそう。却ってムード出てたよ?」
 さっそく失敗しちゃったと、見るからに しょぼんと肩を落としてしまった主人公さんに、暗転した舞台の上にて…セットを並べ直しつつ、はたまた小道具をセッティングしつつ、皆で励ましのエールを送るから………やっぱりなんだか変わった寸劇である。
(笑)





            ◇



 二幕目は夜の居間。継母と二人の義姉たちがこれみよがしに着飾ってお城へと出掛けて行って、シンデレラは一人でお留守番。今夜の舞踏会は、この国を統治する王家の王子様が花嫁を選ぶためにと催されるものだというから…変なことをする国があったもんである。近隣の王国とは仲が悪かったんだろうか。
こらこら ナレーションでの状況説明が紡がれて、やっぱり舞踏会に行きたかったなぁとしょんぼりしているシンデレラの前に、
【ややや。これはまた、どうして泣いているんだね? 可愛いお嬢さん。】
 こちらさんも棒読みに近いが、それでもなかなかコミカルな調子で、魔法使いのおばあさんが…窓から"うんせ、うんせ"と入って来た。
【この国では今夜は舞踏会が催されると聞いているよ。年頃の娘たちが全部招待されているとか。なのに、あんたは こんなところで何をしているんだね?】
 これは余談もいいところだが、もしもこの作品がアニメ化されるなら、モン太くんのお声は くまいもとこさんに演じてほしいなぁvv お元気な男の子なら、この人っ! あ、でも高校生なのか…声変わりした声でなきゃダメかなぁ。
おいおい それはともかく。星のついたタクト…もとえ、魔法の杖で指さされたシンデレラは、
【私はお城へは連れて行ってもらえないのです。】
 それは端的に説明し、
【そうかい、さては何か"おいた"をしたんだね。昨夜、オネショでもしたのかな?】
【…してませんてば。】
 よくもこんなに軽快即妙にアドリブが出るなぁと、実はノリの良いモン太くんの名演技に、セナくん、何だか安心して来た。脚本上の主人公はシンデレラだが、女装の無理強いをした見返りとして、台詞や演技は極力少なくと配慮されているお姫様なので、そういう流れなのだと呑み込めば…実は一番 楽チンな役なのだ。
【よしよし判ったよ。こんなに可愛い娘さんがせっかくの舞踏会に出られないだなんて、飛騨高山の仮面の忍者が許しても、この私は許さない。】
 こらこら。
【今からお前に魔法をかけてあげる。素晴らしいドレスに、美しい装飾品の数々をプレゼントしてあげよう。】
 わざわざ暗転して場面転換した割に、並べられてあったセットにはあまり変化がないのだが、実は実は書き割りの裏に沢山の準備が仕掛けられてあって、
【じゃあまずは…。】
 大仰にも咳払いをしてから、客席に向かって一礼し、セナに向かっても一礼し。
(笑) おもむろに鹿爪らしい顔になり、

  【びびでぃ・ばびでぃ・ぶー。】

 タクトをクルクルッと細かく振って回すと、しゃらららん…とどこやらから涼しげな効果音が聞こえて来て、シンデレラが立っていた後ろの壁が…ばかっと刳り貫きの戸口になって開いた。そこへ後ずさりしながら引っ込んだセナの前、スクリーンがはらりと降りる。シルエットになったシンデレラに、
【さあ、これからが難しい魔法だよ。まずはシンデレラの着ているものを取り替えて。それからそれから、馬車も仕立てなくてはならないからねぇ。】
 モン太魔女さん、魔法の杖を振り回し、ここから数分ほどは独り舞台を演じ切ることになっている。スクリーンに映っているセナのシルエットは実は厚紙で作った代用品。素早く横手に引っ込んで、そこで舞踏会用の衣装に着替えるという段取りなのだ。
「良い? ファスナー、上げるよ?」
 舞踏会用の衣装は、フリルが一杯という豪奢なデザインの割に…全部を一気に着てしまえるようにという工夫がなされてあって。スカートを膨らませている幾重ものペチコートも、胸元にあふれんばかりに咲き誇るフリルも、実は全部を芯地の上へ縫いつけられてあり、言わば一種の"着ぐるみ"のようなもの。それを普段着の衣装の上へ重ねて着て、巻き毛も愛らしい、キラキラしたティアラ付きのカツラが渡されて、
「…はい、これかぶって。それから…。」
「え? /////
 くいっと。小さな顎の下にメイク担当の女の子の手が入ってて。そのまま手際良く顔を持ち上げられたものだから、セナくん、思わぬ扱いに少々どぎまぎ。いつもだったら…とある誰かさんの大きな手で、ひょいって持ち上げられてますからねぇ。
(笑) 今回のお相手は、勿論のこと、そんなややこしい事情なんか知りもせず。シンデレラがどうしてだか真っ赤になったことにさえ気づかぬままに、冷静にお務めを果たそうとしていて、
「え、じゃなくって"い"のお口。」
「あ…えと、い。」
 言われるまま横に少しばかり伸ばされた唇へ、ひやりとくすぐったい感触が押し付けられ、
「はい、これ挟んで、ん〜ぱって。」
 ティッシュを咥えてから上下の唇をちょこっと強めにぎゅうっと合わせる仕草を見せられ、それを真似したセナの口許、ちらりんと確認したメイクさんは、
「よし、完了っ!」
「え? え? え?」
 カツラは聞いていたが、最後の"それ"は今いきなり加わった変身メイク。びっくりしたまま自分のシルエットが映っているスクリーンの前に押し出され、再び後方からのライトが当たって、ロールカーテンを取り付けた戸口が勢いよく"さあっ"と上がると、

   ――― えっ!

 そこに現れたのは…優美で華麗なドレスを身にまとった、それは可憐なシンデレラで。ほっそりした肩やら薄い背中やらにまで裾がこぼれ落ちている、茶褐色の長い髪のカツラも、大きな瞳を据えた小顔によく映えていたし。パールピンクのスカートの下や胸元だけでなく、こちらも肘のところからぶわっと広がるレースの束に埋もれた小さな手や可憐な手首も愛らしく。そしてそして口許にぽちりと塗られた、チェリーピンクのつややかな口紅がまた………。
"………か、可愛いんでやんの。"
 一番間近、真正面で見ることとなった雷門くんが絶句したほどだから、本物の可愛さ炸裂というところかと。当然というか何というのか、

  「かわい〜いっ!」
  「何なになに? あの子、なんであんな可愛いの?」

 場内もまた、どぉんと大きくどよめいて。客席のあちこちではカメラのフラッシュの光が点滅して、まるで夜の海に瞬く漁火みたい。
おいおい
「もしも"ミス泥門"なんてイベントがあったら、小早川くんが優勝してたりしてねvv」
 舞台の袖では、衣装&メイク担当のお嬢様たちが"うくくvv"と嬉しそうに笑ってたりするから。な、なんか狙いがズレてないか? あんたたち。
(笑)
【(えっと)…こ、これがわたし?】
 柔らかそうな頬を自分の小さな両手で包み込み、それから自分の衣装を右に左に見回して、あれあれと驚いて見せるシンデレラに、魔法使いのおばあさんもやっとのことで ハッと我に返った様子。
(笑)
【そ、そうさ、シンデレラ。とっても綺麗だ。王子様もきっと見惚れることだろうよ。】
 ここまで一番演技が上手だった彼にしては、珍しいくらいの棒読み台詞の後、
【お家の前にはシロネズミの馬を仕立てたカボチャの馬車が待っている。それに乗ってお城までお行き。でもね、いいかい? 12時までには帰っておいで。お城の鐘が12時の鐘を鳴らし終えたら、この魔法は全部解けてしまうからね。】
 お決まりの名台詞を紡いでから、

   【そうしないと…タクシー代が相当かかるよ?】

    おいおい おいおい。モン太くんってば。
(笑)





            ◇



 それから場面は替わっていよいよの舞踏会。さすがに本物のヒールのある靴では足元が危ないのでと、透明のビニール製のサンダルを調達して来た小道具係さんであり、
【なんて美しいお嬢さんだろう。】
 王子様とのダンスのシーンではワルツに合わせて体をユラユラと揺らして"踊って"見せるシンデレラ。王子様役は女子バレー部の主将で、セナよりずっと上背のある、目許が少しほど力んだ、なかなか凛々しい面差しの女の子。客席からも、後輩さんからだろう"頑張って〜vv"という黄色い声が飛んでいて、まるで宝塚歌劇のように麗しい二人がまた、場面の華やかさへ映えること映えること。

【あんまり楽しい舞踏会だったので。そして、王子様があんまりにも優しい素敵なお方だったので。シンデレラはそれは幸せな時間を過ごしましたが、夢のような時間はあっと言う間に過ぎゆきて。】

 バルコニーで楽しそうに語らい合っていたシンデレラと王子様。だがだが、無情にもお城の鐘は鳴り響き、
【ああ、いけない。この鐘が鳴り終わると魔法が解けてしまうのだった。】
 小さくて可憐なシンデレラ。踊っていた間も裾を何度も踏みそうになっていたドレスに気を取られたか、ホントだったら結構長いそれだが、予算の関係でほんの数段しかない階段を駆け降りて…駆け降りて………。こらこら、セナくん。
"え? ………あっ。"
 舞台の袖へと真っ直ぐ駆け込みかかったところが、そこに待機していたクラスメートの皆さんが、一斉に"ダメだったら!"というお顔をなさる。何をトチったのかが咄嗟には判らなかったセナくんが、あちゃあと気がついたのは…そうです。階段に靴を片方、落として来なけりゃいけなかったのに、そのまま駆け降りて来てしまったんですね。ちゃんと甲に回ってたベルトのスナップも外していたのに、裾の方が気になって、つい。
"あ、あやや。"
 後は引っ込むだけというくらい、袖の手前まで来かかってたほどの立ち位置にいたセナであり。そこに脱いでも…笑いは取れるが、これはちょっとヤバいかも。どうするのか早く決めないと、せっかくの流れが台なしになりそうな、そんな危うい間合いに、

  【…ストーップっ!】

 不意にそんな声が割り込んだ。そして、セナの鼻先へ…ついっと押しつけられたのは、タクトの先のお星様。
【まったくこの子ってば、何を忘れ物して来ているかねぇ。】
 やれやれという声音で再び登場したのは、
【モ…っ。】
 じゃなくって。
【魔法使いさんっ。】
 言い直したシンデレラに、そうそう、とモン太くんも頷いて見せて、
【今から時間を数秒だけ戻すからね。ちゃんと台本通りに運んでおくれ。でないと…。】
 ここで"んんんっ"ともっともらしく咳払いをした魔法使いのおばあさんは、台本にはなかったこんな台詞を仰有った。

  【最後の見せ場、
   もう一度あんたを変身させる、あたしの出番がなくなってしまうからねぇ。】

 おおお、なかなかの名演技っ! そこからそのまま、魔法の杖でシッシッと、犬でも追うようにシンデレラを後ずさりさせて。階段の上で透き通ったサンダルを片っぽだけ、ちゃんと脱がせて…指差し確認。
【靴、よーしっ。】
 場内は爆笑の渦になってしまったが、これで段取りは上手く進むとあって、
"うわ〜。凄いなぁ、モン太くん。"
 自分のおドジを救われて、安堵の想いから涙目になりかかりつつ、大親友くんへ感謝したセナくんだったのであった。いいねぇ、文化祭らしい余話が入って。
おいおい





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   *モン太くん、大活躍の巻でございます。
   明るくて友達思いで、分かりやすい弱点があって。
こらこら
   物凄く辛かった試練をちゃんと乗り越えた強い子良い子で。
   だから…ドジなところも多いけど、
   機転も案外と利く子じゃないのかなと思いましたの。
   セナくん、こんな良い子が親友になってくれて良かったねぇ。
(笑)