鳥籠の少年 〜なんちゃってファンタジー D
 



          
終章



 謎の男の正体は、蛭魔が探していた"大切なもの"自身、つまり…彼の相棒だった桜庭春人という、やはり魔導師の青年だった。どうやらこの亜空間に満ちていた"邪悪な精気"に体を乗っ取られてしまっていたらしく、体を支配されて行き場をなくした"魂"があの白いインコになっていたものと思われる。その間の意識はなかった筈で、現に何も覚えていないらしい桜庭であり。
『お暢気な奴だよな、まったくよ。』
 もうどこにも"迷い"の気配がなくなった森の、入口に近い辺りに陽あたりのいい広っぱを見つけて。4人は柔らかな芝の上へ銘々で腰を下ろして、今回の事態の収拾を整理することと相成った。…と言っても、全てにきっちりと通じていたのは、あのような鮮やかな方法にて幕を下ろした蛭魔であって。そこでと言うのか 何と言うのか。彼は、進や少年には…元はといえば、自分は彼と二人で組んでいたこと、今から1年と少しほど前に"迷いの森"を最初に見つけた時、そもそもは自分が亜空間に呑まれかかったのを庇う格好で、彼が代わりに引き込まれてしまったことを改めて説明してくれて。それからそれから、魔空の主と化していたお友達へは、魂を追い出され、意識がなかったその間、魔力を持つその体で一体何をやらかした彼なのかを懇切丁寧に並べてやり、
『そ、そんなことを、ボクがやってたの?』
『ああ、そうだ。神隠しに幽霊騒ぎに、牛乳泥棒に湯屋の覗き。この子は何と1年もの長い間、故郷を遠く離れた亜空間に封じられたままでいたんだぞ? しかも、冷たい仕打ちに毎日泣いて暮らしてたんだからな。』
『うそっ。』
 …な、なんか、けったいな濡れ衣も二、三 混じってませんか?
(笑) どっちにしたって微妙に彼のせいではないことだのに、そうと判っていながらそんな意地悪を言っている蛭魔であって。やっと会えた安心感からの意地悪だというのは、こういうことには鈍感な進にさえ見え見えで。こちらさんにもそういう点は通じたのか、
『仲が良いお二人なんですね。』
 自分の傍らから離れない少年がにこりと微笑むのへ、
『…あ、ああ、そうだな。/////
 どうしてだろうか、どんな強敵にも臆したり動じたりしなかった強腰や強心臓が、こんなに愛らしい微笑みにあっさりと揺らいでしまうことへこそ、大きく動揺していたりする騎士様なのである。




  ――― そして。


「こんなもので君が味わった悲しい思いや失った時間を贖
あがなえるとは思っていない。こういう罰を授けてやりたいって思うことがあるのなら、遠慮なく何でも言って下さい。」
 丸々と太った土鳩ほどもありそうな革袋に目一杯詰まった金貨を差し出されて、小さな少年が驚いて見せる。彼は瀬那という名前だそうで、此処から随分と南へ下る土地から攫われて来たらしく、ここからは白の騎士というそれは頼もしい人に守られながら、国まで帰ることとなった。
「あ、いえ…あの。」
 元はと言えば、桜庭さんもまた被害者なのだしと、
「こんなに要りません。路銀さえあれば…。」
 何となく腰が引けている少年へ、
「そんな遠慮は要らないぜ。」
 亜麻色の髪をした導師さんの傍らから、金髪の魔導師さんが"くけけ…"といかにも悪魔っぽく笑う。
「この金は森ん中からこいつがダウジングで見つけた代物でな。」


  【ダウジング;dowsing】

     というのは、金属の細い棒や振り子を使って地中の水脈や鉱脈を探す技術のこと。英訳にも"占い"とあるように、学術的には根拠がないとか、そんな超能力など いかさまだと長年に渡って思われていたのだが、この方法、実はあながち…気のせいや暗示のせいなんかではないと近年になって分かって来た。というのが、生き物には"体内磁石"というものがあって、それで方角の感覚を支えている。例えば、渡り鳥が生まれながらにして、広い海を越え、地球を半周するほどの長い旅さえこなす能力を持つのも、そんな性質があるからで。その性質を支えているのが、微量ながら脳の中にあるという地磁気と引き合う成分だと、近年の研究で分かって来た。よって、確かに…手に持った棒や振り子を揺らしているのは無意識下に本人が震わせてやっていること、なのかも知れないが(だから"いかさまだ"と言われてたんですね)、そんなことをやってしまうのは…その人が自分の"体内磁石"で感知したことを表現しているだけのことだと。そういう方向の論が出つつあるのだそうな。



 相変わらずの長い余談が挟まりましたが、
「だから俺たちの懐ろがどうにかなる種の金じゃねぇ。遠慮なく持ってけよ。」
 にっかり笑って"この可愛い奴め〜vv"とばかり、小さなセナくんをきゅううっと抱き締めてしまう蛭魔だったものだから、

  「…妖一、そんな演技は台本にはないよ。」

 ほらほら。相棒の白魔導師さんが陰に籠もった声になってる。何かしら攻撃魔法を唱えそうな雰囲気ですぜ?
(笑) そんなこんなに明るく沸く彼らであったが、

  「…さてと。」

 いつまでも話は尽きないものの、こんなままではキリがない。やっとのことで解放された坊やも、一刻も早く生まれた土地へと帰りたかろう。魔導師さんたちはとりあえず、東の泥門シティへ事後報告に帰るのらしい。森を出てからそれぞれに、旅立つ方へとブーツを向ける。

  『森への封印とやらは やらんでも良いのか?』

 そういった儀式めいたことは何もしていない蛭魔らであったのを気に留めて、進が先程 こそりと訊いたのだが、
『ああ、あの坊主やあいつが解放されたと同時に、核になってた存在がつながりを断たれて歪んだ空間も昇華されたからな。だから自然消滅、封も何も要らんのだ。』
 自分でも拍子抜けしたのか、苦笑混じりに肩をすくめた蛭魔の顔は、だが、どこか晴れ晴れと明るくて。そんな些細なことよりも、やっと戻って来た相棒さんの姿や温みへ、どうあってもほどけてしまう口許を誤魔化すのに大変ならしい。

  「ありがとうございました、どうかお元気で。」
  「うん、君も元気でね。」
  「もう簡単には はぐれるなよ。」
  「余計なお世話だっ! こんの糞剣士っっ!」

 だから、マシンガンを持ち出すでないというに。
(笑) 回り道でも 旅の終わりに、君に も一度 逢えたらいいね、とは、松山千春の『人生たびの空から』の素敵なフレーズ。今はそれぞれ別々になるけど、また逢う機会があったらいいねと、4人の若者、明るく別れた。長きに渡ってお送りしました、アイシールド21パロ『ファンタジー Ver.』でしたが、どちら様にも楽しんでいただけたでしょうか。またお逢いする機会を楽しみに、こちらもここで幕と致しましょう。ではではかしこvv




  〜Fine〜  03.12.27.〜1.12.


  *ポルノグラフィティの『メリッサ』を聴いていて、
   (アニメ『鋼の錬金術師』の主題歌でもありますね。)
   こんなお話をプロモーションビデオ風に思いついてしまいました。
   よくあるシチュエーションで、しかも、
   どっちかと言うと絵描きさんに描いてもらいたいタイプの、
   "コスプレもの"っぽい仕立てなのですが、
   文章しか書けない奴ですんで申し訳ないです。
  


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