春、まだ遠き 〜なんちゃってファンタジー“鳥籠の少年”続編
 

 

 新しい年が明け、ここ、王城キングダムの冬の趣きも真っ盛り。毎日の朝なり昼なり、ふと しんとした気配に気づいて窓の外を見やれば。薄日が射していた筈がいつの間にやら、しんしんと白いものが、音もなく、だが、辺りを埋めつくさんという勢いで降りしきっていたりする。時に圧倒されそうなくらいの威容さえある純白の使いの襲来に、
「こんなまで暮らしにくい極寒の土地に主城を建てちまった祖先ってのは、よほど切羽詰まっていたのか、そうまで此処の地下の神殿を崇めていたのか。」
 実はこちらさんもあんまり寒いのは得意じゃなかったんですよ…な、金髪の黒魔導師様が、薄い肩をすぼめ、いかにも忌ま忌ましそうに淡灰色の目許を眇めて、寒さに曇る窓から外を透かし見やる。すっかりと葉の落ちた木々の梢や幹の樹皮が黒々と目立つ、殆ど白と黒のみの見晴らしだが、そんな中をてことこと移動してゆく、もこもことした何かが見えて。
「おや、もうそんな時間か。」
 ついついそんな呟きをこぼした薄い口許が、そのままふわりと苦笑にほころび、
「? どしたの?」
 同じ居間にいて、手際よく温かなお茶なぞ淹れていた相棒の白魔導師様が小首を傾げて見せたけれど、
「いや…。」
 大したことではないよと、暖炉の前、見目やわらかなフォルムをした茶器を並べたテーブルの傍らまで戻ってくる蛭魔であり。寒い国ならではの暖炉や内装への工夫、それから眸に柔らかい暖色中心の照明やカーテンの、家具調度へのコーデュネイトのお陰様で、室内は春のように暖かいし、気分も浮き立ち。どうぞと差し出された温かなお茶からはほんのりと、大人っぽい品の良さが香り立つリキュールの匂い。その痩躯には寒さが堪えるらしく、雪への不満が沸くのもよくよく分かるからと、桜庭がきれいに整えられた眉を下げて見せ、
「城下の町中は雪かきで大変らしいよ? 城塞の外回りの農家ともなれば、そのまま長いこと雪に埋まっていても大丈夫な工夫があるらしいけれど、町屋はお商売とか何やがあるから、出られません通れませんでは済まないらしいし。」
 それでなくたって、場所によっては軒をくっつけ合うほどに建て混んでいたりするから。油断をすれば1日の降雪で扉が開かなくなり閉じ込められてしまうという恐れだってあり、人々は町内のお当番を作ってでもという勤勉さで街路の雪を取り除くし、こちらにもそれへの工夫が幾つかあるとか。
「下水道とは別に除雪用の“融雪溝”なんてものもあるんだものね。」
 退けた雪の山は下水道にそのまま放り込んでも、あまりの多さに解けるのが間に合わず、下手をすると詰まってしまいかねないからということで、冬場だけ使う雪専用の下水溝があったりし、
「この国らしいのは、大地の気脈の集まるところを通過させることで、温めて早く溶かして海まで運んでいるらしいってトコだろな。」
 こんな雪の中を出歩く物好きは滅多にないからか、それとも雪が周囲の音を吸い込むからか。まだまだ日中という時間帯であるにもかかわらず、殊更にしんと静まり返った雪間であり、
「葉柱くんはどうしているんだろうね。」
 雪に閉ざされたその上、唯一の帰還の手段でもあった誰かさんが“冬眠モード”に入ってしまったがため、已なく此処に留まって、瀬那王子への咒の指導のお手伝いを担ってくれている、アケメネイという山岳地帯から来ているお客人の導師様。今は彼も休憩時間の筈で、そうそういつもいつも つるんでいる彼らではないものの、年齢の近い間柄で、しかも同じ咒に関わる人間同士。話も合うからと、時間を持て余すような頃合いには、いつも此処で顔を合わせているのにねと、小首を傾げた美丈夫さんへ、
「奴ならチビと一緒に温室だよ。」
 さっき窓の向こうを通過していたご一行。内宮の中庭に建つ温室へ日に何度か足を運んでいる小さな公主様と、その傍らに陰のように付き従う屈強な護衛官という二人連れが、またぞろ降り出した雪の中を移動中なのが見えており。そんな彼らが向かった先では、彼らがお目当てにしている小さなお友達の元々の飼い主さんが、温室の分厚いガラス越し、手を挙げての会釈をしているのが見えたから。
「あの何とかオオトカゲの健康診断でもやってんじゃないのか?」
「妖一、妖一。ドウナガリクオオトカゲだってばvv
 もうもう物忘れしちゃったの?と正されたのへ、判っとるわっとキツい眼差しを突き返した相変わらずのお綺麗なお二人が、俎上に上げた温室では………。






            ◇



「…よ〜し。特に異状は無いか。」
 そりゃあ大きな手で胴体の両脇をひょいと無造作に掴まれて、目の高さまで抱え上げられていたそのまま、じたばたと“空中犬掻き”をしていたトカゲくん。そんな彼を、こちらさんは…胸の前へと小さな両手を組み合わせ、ドキドキしながら見守っていた公主様が、大きな瞳を不安げなままぱちぱちっと瞬きさせて、
「あのあの、大丈夫なんですか?」
 何たって大好きな“カメちゃん”の容体。日頃からも時々は様子を見に来られる葉柱さんだが、今日はまた…それは丁寧にあちこちを検分なさっておられたので。何事があってのことだろうかとハラハラしていたセナであったらしく。野生のものよりは小ぶりらしい、それでも大きなヤシの樹の下。ベンチ代わりに据えられてあった大きな切り株に腰掛けての“検診”をしていたカメちゃんの飼い主様は、何かしら憂慮するような、不安げな声をかけられたことへキョトンとしてから、ああ…と合点がいって、
「大丈夫だよ。」
 安心させるようにと思ってだろう、にんまり笑ってあっさりとしたお返事を返して下さり、
「此処は温かで静かな場所だし、お気に入りのお前さんもよく遊びに来てくれるからな。そんなせいだろう、怪我やら病気やらも寄り付いてないし、ストレスや何やも全く抱えてない。」
 肌のつやも眸の張りも、運動反射もすこぶる健康だし、瞳の奥底に覗ける封印の咒にも歪みはなく。一切問題はないよと太鼓判を押してやる。すると童顔の公主様、ほうっと胸を撫で下ろし、その手へ差し出された“お友達”をそぉっと受け取って、先の丸ぁるい三角のお顔へ、愛しげに頬擦りをする。
「良かったぁvv
 こちらも小さめの切り株ベンチに腰掛けていた小さな公主様。背後に従っていた頼もしい護衛官さんへ、嬉しそうなお顔を振り向ける様子がまた、もっと幼い子供のようで何とも言えず愛らしく。こんな風貌でも男の子ではあるのだから、いかつかったりグロテスクだったりもする爬虫類や昆虫が平気でも、さして不思議ではないかと改めて思い直した葉柱さんだったが。いやいや、あのね? 虫は…一部の幼虫だけではありますが、からきしダメなんですよう、その公主様は。
(苦笑)
「可愛がってくれるのはありがたいが、こないだも言ったようにあんまり甘やかして木の実や果物を食わせ過ぎないようにな。」
 動きの遅い生き物だから、口に入るもんは食える内に食っとけって勢いで片っ端から食っちまうぞ。過保護に扱うのは厳禁だからと念を押し、それじゃあこれでと立ち上がる。葉柱さんとて、既に数週間ほども此処に居続けている身だからして、この公主様と黒髪の寡黙な護衛官さんの得も言われぬ雰囲気の睦まじさにも とうに気がついており。二人の間の優しい空気のお邪魔をしてはいけないという機微にくらいは、すぐにも察しがいくところが…少々いかついお顔をしていながらも、大地の気脈や精霊の気配に通じている導師様たる所以か。
“余計なお世話だ、この野郎。”
(あはは…)
 手近な木立ちの枝に引っかけておいた厚手のマントを手に取ると、かっちりと幅のある肩口にまといつけ、外への戸口へと足を向けた葉柱さん、
「そうそう。今日の咒は、花から大気の機嫌を読み取る法だ。何なら此処で練習するといい。」
 今日の午後のお勉強の中で扱うことのお題を告げてから、横バー型のドアノブを回し、冷たいお外への間をおくためにと二重ドアになっている控えの通路
エア・ロックへ出られたお師匠様を見送って、さて。しばらくほどは、お膝へと抱えたカメちゃんと鼻歌交じりに“せっせのせvv”と遊んでいたセナ様だったのだが。

  「…あのあの、進さんはどんなお花がお好きですか?」

 不意に。お顔も上げぬまま。その薄くて頼りなげな肩の向こうに立っていた、屈強精悍な護衛官さんへの声をかけた王子様。確かに、お付きの人間が相手なのだから、わざわざ向かい合わない、こんな程度の不遜なお行儀、誰からも咎められるものではないのだが、
“…?”
 この少年が、しかもこの青年へという態度にしては、何だか妙なことだよなと。それを背中で聞いてた葉柱さんなぞは、小首を傾げたままに温室から出て行ってしまったのだけれども。日頃からもあまり口数の多くはない、当の護衛官さんはと言いますと、
「そうですね。どれがどれと細かく名前を知りませんが、どれも綺麗だと思います。」
 いつもと雰囲気の違う態度を取ったセナだということへも、さして何とも感じなかったのか。滞ることなくさらりと応じて差し上げて、
「…そうですか。」
 それへと…どこか頼りないお声を返したセナ王子。やっぱり背中を向けたまま、少しばかり俯いているからか、か細いうなじを僅かほど黒髪の裾から覗かせて。小さな背中がなお小さく見えるご様子に………ここに蛭魔さんや桜庭さんがいらしたならば、その大きな背中を容赦なく蹴っ飛ばし、もっと突っ込んで“一体どうされたのか?”と訊かんかいと、怒鳴りつけたに違いない。小さな公主様を誰よりも大切に思っている護衛官さんには違いないのだが、ご本人が鈍感なせいでか どこかであと一押しが足りない人でもあって。侍従として…お仕えするご主人様であるセナ様を、何に替えてもお守りするぞという真摯な心意気は十分あるのだが、そんなセナ様の側から大切にされるのへは、とことん鈍チンだったり、あるいは“自分なんかへそんなお気遣いはなさらないで”と思っていたり。お互いに謙虚なお人柄だもんで、いざという時ならばともかくも、こんな安泰な日々の中では、ついつい互いに遠慮し合ってしまうのらしく。相変わらずに、何とも歯痒い人たちであることよ。
(苦笑) それぞれ別々な個であるがゆえ、判り合うにはぶつかり合う必要さえあったりし。どんなに相手を思って向かい合っていても、そう簡単には咬み合わないのが、人と人との絆の難しさでもあるのでしょうね。
「…セナ様?」
 さすがに…小さな背中が丸ぁくなっているのは、ちょっぴり意気消沈しておいでだからではないかと見て取ったらしくって、遅ればせながら“どうされましたか?”という気色の乗った声をかけた進だったが、

  「………あれって、何でしょうか。」

 セナの背中が丸まっていたのは、少し前方の芝草の上という低いところを、じっと目を凝らして見やっていたから。懐ろに抱き上げていたカメちゃんもセナ様の懐ろから顔を出すという格好にて前を向いていたがため、くぁあ?と疑問符を投げるような鳴き声を上げている。その声が届いたか、花壇の縁取りに埋められたレンガの縁より背丈の低い、小さな小さなその“何か”は、たかたかと急いでいた足を止めると、向こうからもこちらをじぃっと見つめ返して来て。

  《 はて。お前様方は儂
ワシの気配が読み取れていると見たのだが。》

 あまりに小さな存在だからか、それとも何か特別な感応力が必要なのか、普通の人間には見つけるのが難しい存在であり、しかも本人がそうであることを自負していたらしい。注視を向けていたこちらへ、向こうさんでも気がついて、ついでに言えば害意はなさそうだと思ったのだろう。てことこと無造作に歩み寄って来たのは、背丈が10センチ強ほどという大きさの、古風な装束に三角帽子をかぶった、白い口ひげ顎ひげのお爺さん…って。あれれぇ? それってもしかして?
《 その小さなドラゴンの飼い主さんか? だったらいつも世話になっとる。》
 ペコリと頭を下げて見せた小さなお爺さん、セナが名乗ると“そうかそうか、愛らしいお名前じゃvv”と屈託なく笑ってから………数刻後。


   ――― どひぇえぇぇえぇぇぇっっ!!


 腰を抜かさんばかりに驚いて、甲高い悲鳴を上げたのは言うまでもなかったのでありました。
(笑)






            ◇



 あれはそう、それはそれは暑かった先の夏が通り過ぎたばかりの頃合いのこと。秋の訪れも早いこの王宮の、それでもまだ一応は緑の方が多かった朝早いお庭にて、庭師の方々と語らっておいでだったセナ王子が い〜き〜な〜り行方不明になった事件があって。お庭に設置されていた“ドワーフ・リング”という妖精の罠にはまり、その身丈が20センチあるかないかという小さな姿にされてしまったセナ様であり、

  《 あの時は本当にどうも済みませんでしたですことじゃあ〜〜〜。》

 ドワーフさん、大混乱しておられる模様です。
(苦笑) 何せ、彼がそんな罠を王宮のお庭のあちこちに仕掛けていたのは、光の公主様の身を脅かす黒の邪妖、魔界からの使者を退治しようと構えてのことだったそうで。そんな罠に、何とまあ、彼らの総帥にもあたるだろう、光の公主様ご本人を引っかけてどーすんだと。そういう笑える事件があったのは、彼らの記憶にもまだまだ新しく。守られる筈の公主様がややこしい咒に搦め捕られた“事の次第”を解明しよう、そんなふざけたトラップを仕掛けた糞ファッキン妖精をいぶり出してやろうと中庭全部を絨毯爆撃した蛭魔とご対面して以降、本物の公主様へは会わせる顔がないからと、以前以上に引っ込んで行動するよになっていらしたそうで。
「あ、あのあの、お顔を上げて下さいませ。」
 とんでもないほど長生きなされている精霊さんに、おでこを地面に擦り付けるほどのご挨拶をさせるだなんて勿体ないことですようと、こちらはこちらで純粋に謙虚で及び腰な公主様が恐縮なさり。………此処に魔導師さんたちがいたなら、面白いから も少し見てようとか言い出しそうな“お辞儀合戦”がしばらく続いてから、
「カメちゃんと遊んで下さっているんですか?」
 お膝にのたりと寝かせたお友達は至って無口なもんだから、そんなお付き合いがあっただなんて全然気がつきませんでしたと。相変わらずに天然な王子様、それは良かったことですねと、にっこり笑って喜んでおられて。
《 こちらも助かっておりますじゃ。》
 温室に植えられた南国果樹の大きな果実や地中のお家で使う薪などなど、嵩の大きな荷を運ぶ時など、速度こそゆっくりだけれども力持ちなところに、随分と助けられているのだそうで。
《 そういう仕事以外にも、小さな子供たちの遊び相手になってくれておっての。》
 このドワーフさんは、このお城のあちこちに分散して住まわっている他の精霊や妖精たちを束ねてもいるのだそうで。あんまり人前には出ない彼らだが、好奇心は旺盛で。今年の冬越え組に突然現れたオオトカゲくんへも、怖いと思うより好奇心が沸いた顔触れの方が多かったのだそうで。
《 時々ビックリするほど素早く動く時があったのじゃが、そうか、あれは公主様をお迎えするためじゃったか。》
 成程成程 ほっほっほっvvと、楽しそうに笑われてから、これからもこの子とは仲良うしますと改めてのご挨拶を交わしてから、それではとお家のある方へ てことこ戻って行かれて。

  「こんな拍子に逢えるなんて。」

 小さな公主様、思わぬ出会いへそれはそれは嬉しそうに頬を赤くしていらっしゃる。体が小さくなってしまい、しかも、声の波長が変わったせいでか、すぐ傍にいた進さんともお互いの声が聞こえないまま、見つけてもらえない状態になってしまって。桜庭さんの機転で何とかご対面は果たせたけれど、もしかして…ずっとずっとこのままなのかな。大きさが変わっただけで、セナという人間の中身までがどこか変わった訳ではないけど、でもね。あまりに大きさに格差が出来ちゃったから。進さんと触れ合えなくなるのかもって、それを思うと怖くて怖くて。握手も出来ない、髪を撫でてももらえない。すぐに俯いてしまう悪い癖を正そうと、小さな顎の下に温かい手を差し入れてもらっていたのも、当然のことながら無理な話になってしまうなんて…って。元気そうに気丈に振る舞ってはいたけれど、ホントはね。どうしよ・どうしよってドキドキしてたの。

  「………。////////

 そろぉっとお顔を上げると、どうしましたか?と、小さく首を傾げて深色の眸が見つめ返して下さって。寡黙な人なのに、ねぇ不思議なの。何を慮
おもんばかって下さっているのか、セナには眸の加減を見るだけですっかりと読み取れてしまうのだから。感情とか感傷とかには縁がないまま、沢山の邪妖を恐れもなく倒して来た武勇伝を挙げれば限キリがなく。それは武骨で屈強で、精悍にして勇猛な戦士。射通すような冴えた眼差しに宿る真摯な鋭気を、戦乱の中にあってはこれ以上頼もしい人はないと頼られながら、平和な時には必要とされず、それどころか…不器用さが祟って、場合によっては周囲から恐れられて過ごさねばならぬ人。人はそうそう神や鬼にはなれはしない。だから…何もかもは望めないから、それならば。不器用な自分はただただ強くなろう、正しい道を貫けるように、何にも屈しない強い人になろうと。自分を全く語らぬままに、黙々と邪悪を除いて来た白い騎士様。

  ――― でもでも、あのね? ////////

 小さなセナのこと、全身全霊で見守って下さる、それは優しい人でもあって。些細なことへも怖じけたり後込みしたりするような、感受性が豊かであり過ぎるセナの感覚を、慣れないことだろうに何とか感じ取ろう読み取ろうといつも頑張って下さってるし。あの時だって、不慮の展開で小さくなってしまったセナに、不安がらせぬよう、そりゃあ気を遣って下さってた進さんだったし。それにね、あのね、
「…本当は。」
「はい?」
 思い出してたことがあって、ぼんやりしていたセナのお顔。それを、進さんの方でも黙ったままで見つめ返していらしたのだけれど。大きくて暖かな手のひらを、そおとセナの柔らかい前髪へと触れさせて、

  「本当は…あのままどこかへ連れ去ってしまいたいと思わなくもなかったです。」
  「………っ。////////

 あの騒動の時に、蛭魔さんがドワーフさんから聞いて来て下さったこと。手のひらサイズに小さくなってしまった咒を解くには、セナを思って下さる人から真実の想いを込めたキスをしてもらうこと。あのね、うわぁどうしよって、とっても困ったんですよう、ホントを言うと。だってあのその、こちらからは進さんのこと、大好きだったですけれど。進さんの側からは…どうなのかしら。王家の血統を引く身の公主様だからと、自分が仕えるご主人だと思っての、それでのご親切や心遣いだったらどうしよう。それだって尊いお志には違いないけど、そんなのヤだなって我儘なこと、時々思ってたセナだったから。そっとそぉっと………キスして下さって、それで咒が解けたのが、とっても嬉しくて、あのそのドキドキがなかなか止まらなくて困ったったら。//////// 主人への忠誠心だって尊いお心には違いないけど、それって“キス”に載せるものではない筈で。あの時と同じくらい、お耳の先が真っ赤になった進さんは、

  ――― 小さくなったセナだったなら、
       こっそり自分のものにしちゃえたかもしれないって。

 あの時、そう思ったんですよって、今だからって話してくれて。//////// おかしいなぁ。温室の中って、こんなに暑かったっけ。/////// うとうとしかかっていたカメちゃんが、何にか気づいて“くあ?”とお顔を上げたほど。セナの方まであの時みたいに、頬を真っ赤に熟れさせてしまったみたいですvv









  〜 おまけ


 実はネ、温室の一角にはセナ様専用の花壇がある。いつもすぐ傍らについてらっしゃる進さんは、ご自身が仰有ったようにお花の名前まではよく知らない方だから。でもって、でもでも、綺麗なものは綺麗だと、ちゃんとお判りにはなる方だから。唐突な質問をして、お贈りしても迷惑にはならないだろうなと、これでも一応、ほっとした王子様だったりするのであり。

  「あのあの、このガーベラさんたちは、
   来週のバレンタインデーまでに咲かせられますでしょうか?///////

 大地の精霊でもあるドワーフさんに、こっそりご相談申し上げてる王子様だったりもするのである。まったくもって…御馳走様でしたvv






  〜Fine〜  05.2.03.〜2.05.


  *何だか甘い雰囲気に終始させてしまいましたが、
   バレンタインデーも近いことですし、ままご勘弁をvv
(笑)

ご感想はこちらへvv**

戻る