来訪者 〜閑話 その6
     〜なんちゃってファンタジー“鳥籠の少年”続編
 

 

          




 音もなく さわさわと風が吹きすぎて、髪を撫で頬を撫でて軽やかに通り過ぎてゆく。ここいらは標高が高いから、季節の巡りも速足で。殊に目映い季節である夏は、颯爽とやって来てそのまま あっと言う間に駆け抜けてしまい。急ぎ足にてやって来る短い秋の後に、長い冬が長く居座る寒い土地。神秘の力を司る鉱石を産出し、尊い導師を育む小さな村は、その森閑とした佇まいを守るためにか、周囲をぐるりと包む森があって。こんなにも豊かな緑の梢も、半分ほどが直
じきに色づき始めることだろうし、それからはらはらとその葉を散らしてしまえば、冬はすぐそこまで来ているという案配となる。

  「…ヨウイチ。」

 小さな坊やが森の入り口近くに立っているのをやっと見つけて、丈の長い道着の裾でまだ瑞々しい芝草を踏み分けながら、亜麻色の髪をした青年がその傍らまで足を運んだ。
「こんなところまで来てたんだね。」
 師匠と住まう庵房からは随分と遠い森。親元から離されて庵房で修養中の幼い子供たちは、ほぼ例外なく、一人でこんなにも遠くまで出歩くことを禁じられている。遊ぶことより修行が大事だからであり、時間の約束や決まりごとを守るのは修養の基本だから。それと…人気も何もないところなり、危険が多いためでもあって。けれど。この、金の髪をした小さな坊やにだけは、お師様も何かと大目に見ている傾向がある。物心ついた頃からこの地にいるため、土地勘があるということ。咒の飲み込みが早く、他の知恵も…教えてなぞいないことまでドンドコ吸収する利発な子で、危険回避の手際と度胸は大人並みであること。それから、
「サクラバ。」
「? なぁに?」
 傍らに寄ればその腰の高さまでさえ背丈が届かない。坊やが小さいその上に、青年の方も標準よりか少々大きいからで。どうしたの?と小首を傾げる仕草もそれは臈たげで絵になる美丈夫。たいそう背が高く、体格も壮健そうに発達して強靭な割に、優しげな面差しに甘やかな表情のよく映える、物腰優雅なこの若々しい青年が、常に坊やの傍らにいることから、よほどの事態でも勃発しない限りは無事だろうと、お元気で行動範囲の広い坊やの冒険を大目に見ているお師匠様なのだそうであり。

  「………。」

 夏も終わって季節は秋。そろそろ実りの季節らしい色彩に埋め尽くされようとしているその初めとして、光の色合いに金色が混じり始めており。夕刻間近い草原や森は、まだまだ緑が多いのに、何故だか…人恋しい風合いを見せてもいて どこかが寂しそうな風景で。そんな中にあって。つややかなモスリンの上等な絹という訳にはいかないが、それでも。手の込んだ刺繍が施されてある一級品の生地にて仕立てられた、筒袖に前合わせの詰襟というかっちりとした上衣と、筒裾を足首で軽く絞った型のシンプルなズボンという、子供用の道着が結構似合っている華奢な肢体。金の髪と淡灰色の瞳をした坊やの、愛らしいまでに整った小さなお顔は森の方を向いたまま、そちらの何かにすっかりと気を取られている様子であって。そんな彼の線の細い横顔を間近から眺めたくなって、長身の桜庭がひょいとすぐ傍らに膝を折って屈み込み、
「どうしたの?」
 話半分で置いとかれた先を、促すようにこちらから訊いてみると。なめらかな弓形
ゆみなりを描く頬の線や、小さな顎がひくりと動いてから、

  「なあ、あっちには誰が住んでいるんだ?」

 顔はこっちに、伸ばされた手は向こう。森の奥向きを白い手の先、指の矢印が指し示す。自分たちが住まう庵房のある村は反対の方向であり、物資を買い出しに行ったり祈祷の依頼をしに人が来たりする、一番近場の町のある方向も反対側。
「そっちにはアケメネイのお山の頂上があるだけだよ?」
「誰も住んでないの?」
 うんと頷いて見せると、小さな坊やは かくりと小首を傾げて見せて、再び森の方へと視線を投げた。何とも意味深な…いかにも心惹かれているという体でいる坊やなので、
「そっちに何かあるの?」
 逆に桜庭の側からも訊いてみたのだが、坊やはどこか…彼には珍しくも心許ない様子になって。

  「…判んない。」

 その一語の意味合いも知らない言葉のように。ぽつり呟いてから、ひょこりと…小さな肩の上で小首を傾げた。自分でもよくは判らない。ただ、何かが聞こえる。誰かが呼んでるような気配。物言わぬ猫が何も聞こえないのにどこか宙をじっと見ているような時は、こんな声が聞こえているからなのかな? お師匠様が拾ってご覧なさいと修養させる“大地の気”とも違うらしくて。

  “こんなのが聞こえる分だけ、俺、大地の声が聞こえないのかな?”

 咒を覚えるのは途轍もなく早いのにね、どうしてだろうか、大地を走る気脈は全く読めない。本人の気性が激しいことと、様々に複雑な咒をぐんぐんと覚えて沢山知っているから、咒の発動に際しては周囲にある“気”だけで十分足りるし問題はないのだそうだけれど、
『でも、万が一、魔物が狙ってたりしたら どうしましょうか。』
 こんな可愛いヨウイチだもの、どんな魔物が狙っているやも知れません。あやつらは神様の作りし 生きとし生けるもの全てを常に憎んでいて、殊に、最上の祝福を授かって世に出
いでし素晴らしきもの美しきものを特に呪うと聞いておりますからね。人の気配には結構敏感な子なのに、それにまつわることを学んでいる聖魔の気配も拾えないのは、ある意味で危険ですよ、と。弁舌奮ったその揚げ句、この青年が特別に“後見役”として付き従うことが許されたのだそうで。

  「さあ。庵房へ帰ろう。」

 もうすぐ陽が暮れるからね。すぐに冷たい風がやって来るよ? 肩から背中へ すべらかしてたマントを手元へ手繰り寄せ、懐ろへと掻い込んだ坊やをそぉっとくるみ込む。不思議な力を沢山使えるサクラバのこと、でも、この時は“お友達”だと思ってたヨウイチ坊やで。甘い匂いのする温かな懐ろから、ちょろっとお顔を上げれば…綺麗なお顔が甘くほころびながら“なぁに?”と見下ろして来て。お母さんもお父さんも知らなかったけれど、お師匠様もいるしサクラバもいるから“ま・いっか”って思ってた。










  “でもなぁ。親はこういう方向で手ぇ出さねぇよな、普通。”

 こらこら、言うに事欠いて物騒な言いようをしない。
(まったくもう)
「………。」
 ぽかりと目が覚めた随分と早朝。まだ“未明”かもなと、とろんとした眸で見上げた視野に収まったのは。天井…ではなく、豪奢な装飾が浮き彫りになった天蓋の内模様。こんな仰々しいものが付いた豪勢な寝台なのは、王宮内の調度だから…というだけではなくて。ここいらが自分の生まれ故郷より北の地方であり、冬場はかなり冷え込むために防寒用のカーテンを寝台自体を取り巻くのにも下げる必要があるからで。
“…まあ、まだそんな時期ではないんだが。”
 それでも。ほんのりと温かな褥
しとねの居心地のよさに、常ならきりきりと吊り上がって挑発的なばかりの眼差しも、今だけは ほやりと和んで柔らかな表情。このまま再び とろとろと寝入ってしまいそうになりながら、すぐ傍らに寄り添っている優しい温みへ頬をこしこしと擦り寄せる。お互いに一糸まとわぬ姿でいながら、それが不自然ではない間柄で。ほどよく筋肉のついた頼もしい胸板、いい匂いのする懐ろにもぐり込み、寝相を決めると安堵の吐息を深々とついてから、再びの眠りへと落ちてゆく金髪痩躯の魔導師さん。くうくうとすっかり寝付いてしまったその彼の、柔らかい金色の髪をまさぐる手があって。

  “…珍しいな。夜中に起きちゃうなんて。”

 先程ポカリと目を覚ました相棒の気配に、こちらさんも敏感に反応していたらしき白魔導師さん。大きいがそれは綺麗な造作の手のひらで、そぉっとそぉっと、大切な人の金の髪を愛おしげに撫でてやる。自分の胸板の上という大層至近へお顔を伏せているがため、大好きな妖一さんの寝顔を覗き込めないのがちと残念だが、昨夜の事後、先にことりと寝入ってしまったその時に重々堪能してはいるから不満はなくて。日頃は強気で勝ち気で勘気も強く、怖いものなど果たしてあるのだろうかというほどに、攻撃的なばかりの彼が。自分の腕の中にいる夜だけは…淫悦の波に為す術なく翻弄され、大した抵抗も出来ぬままに呑まれてしまう。意地を張って堪
こらえた揚げ句に、どうにもならない官能にその身をかき乱されて。瞳に涙の膜をたたえているよな、そんな弱々しい姿を自分にだけ見せてくれるのが、稚拙ながらも甘えて擦り寄り、身をゆだねてくれるのが。途轍もなく嬉しくて嬉しくて堪らない桜庭で。気性が激しいのも、ちょいと傲慢というのか居丈高なところがあるのも、元を辿れば…彼が子供の頃から傍らにいた“大人”であった、自分の甘やかしが原因なのにね。

  “それでも結構、優しい子なんだよ?”

 こんなこと言ってる“親ばか”さんでございます。それはそれは綺麗で強くて賢い子に育ってくれた、自分にとっての“王子様”をきゅうと懐ろに抱きしめて。昔から少しも変わらぬ容色の魔導師さんもまた、再びの眠りについたのでした。







            ◇



 それから数時間ほど経った、今度こそ早朝の朝ぼらけ。随分と季節も進み、あれほどの猛暑が続いたのが嘘のような素早い秋の訪れに、ついつい小さく“くしゅん”とクシャミをした瀬那王子。そんな彼の細い肩へ、すかさず薄手のストールがかけられて、
「…進さん、ありがとです。///////
 お気遣い下さった優しい方へ、あやあやと頬を染めつつお顔を上げる。いつも陰のように傍らへとついてて下さる護衛官で、上背のある雄々しき剣士様の進清十郎さん。寡黙で武骨で、表情の種類もやや乏しい方だけれど、セナへと限ってならそれは細かくお心を砕いて下さる方であるし、その心根の優しさは誰よりもセナが一番よく知っている。見交わす眼差しの愛しさに、気持ちの上では十分ほかほかになれる二人だが…。朝露きらめくお庭のお散歩には、さすがにそろそろ上着が手放せない時節となった模様であり、それへと気を回していて下さった進さんへ、ぽうと頬を染めてしまった小さな王子様。庭師の方に摘んでいただいた秋のバラを腕に抱えて、仲睦まじいままにテラスまで戻って来た二人へと、
「相変わらず早起きだね。」
 こちらも爽やかなお声をかけたのは、
「桜庭さん。」
 明るい色合いの装いに、亜麻色のやわらかそうな髪もふんわりと整えて。朝のお粧
めかしをきっちりと済ませてのお目文字にいらした、白魔導師の桜庭春人さん。セナ王子がこの王宮にてずっと学んでいる“咒”のお師匠様のお連れの方で。時々は悪戯心も発揮なさるけど、気立ての優しい明るい人で。洩れ聞いたところによると…この若さであの蛭魔さんの“育ての親”でもあるらしい?(…う〜ん) お花を小間使いのお嬢さんへと差し出したセナくん、
「おはようございます」
 あらためて桜庭さんへと、向き合ってのご挨拶の会釈を見せて。片やが華やかな洋蘭ならば、こちらは貞淑清楚なナデシコかスズランのような愛らしさにて、綺麗どころが朝っぱらから向かい合ってる、何とも神々しい王宮の朝の風景であるのだが。
「ねえ、妖一を見なかった?」
「え?」
 その長身をひょいと屈めた桜庭さんが、こそこそっと耳元にて訊いて来られたのは…相変わらずっちゃ相変わらずな、彼にとっての愛しい人の消息であるらしく。
「今朝起きたらサ、どこにも姿がなかったの。」
 そんなにも寝坊した訳じゃないのにね。衣装が一揃えなくなってるから、自分の意志で起きてどっかへ行ったらしいんだけれど、出入りをチェックしている係の人も知らないって言うしさ。
「咒を使っての出入りは極力やらないでいるのが原則なんだのにね。」
 この大陸にのみ今でも現存する、不思議な力とその術式と。咒という術式に法
のっとって大地に流れる気の流れを制御したり練ったりすることで、物理的ではない現象を起こしたりパワー増進の後押しをしたり。それをこなすことに長けた人たちのことを、この大陸では神官と同等の立場であるとし、畏怖の念を込めて“魔導師”と呼んでいる。とはいえ。いくら修行の末に得た力や能力であっても、自分たちにしか出来ない方法を始終使うのは不公平というものだろうし、いちいち咒を唱えて大地の気を躍らせるというのも仰々しいことでもあるので、普段から発動させまくるということはなく。よって、その力を使ってどこかへ出掛けた黒魔導師さんなのならば…ちょっと腑に落ちないのと、そう言いたい桜庭さんである模様。その辺りの理屈はセナにも重々判るので、

  「…お出掛けだとして、どちらにお出でなんでしょうかね。」

 桜庭にも何も言い置かないまま、彼のことだから気が急いての咒を使っての外出で。だとして、そんなまでしてあの蛭魔が出掛けるような御用や場所って、なんでしょうかと。セナくんまでもがひょこりと小首を傾げてしまった。だがだが、不意にハッとするとその表情を引き締める。
「高見さんが仰有ってましたよ? この数日ほど、何だか乱暴な傭兵崩れが城下に入り込んで来ていると。」
 恐らくは先の内乱のどさくさに立ち上げられた、無頼の輩による傭兵部隊の成れの果て。一応の手当てとして、相応の金子を持たせて解散とし、不満があるなら直属の兵卒に取り立ててもいいとまで譲歩した王室ではあったのだが、当時の…王室直下というお墨付きを盾にした好き勝手に比べれば、何を選んでも窮屈なものばかり。それでと不満たらたらな小者たちが徒党を組んであちこちで暴れてもいるそうで。

  「まさか、実はそれらを統率してるのが妖一だと…。」
  「そんなこと言ってませんてば。」

 果たして本気で心配している桜庭さんなのだろうかと、セナくん、別な意味合いから小首を傾げてしまったのでした。







            ◇




 王城キングダムはこの大陸の北部に位置し、北端が大海原へと接したその領土が、広さも風土も建国の時代から余り変わらないままにこれまでを過ごして来た、由緒正しき一大王国である。流通の発達に合わせて諸外国との交流も盛んに受け入れ、先進の技術や学問を大いに取り入れつつ、その一方で、太古からの歴史や風習の方も先人からの知恵の蓄積として手厚く保護し。政治的にも文化的にも絶妙のバランスを保ち続けて来た、近来には稀なほど人心のモラルや何やの豊かさが隅々にまで行き届いた、それは穏やかな文明国であり。野蛮な原始宗教がはびこる野卑で不明な国だと、負け惜しみに悪態をつく諸外国の敵対勢力もあるにはあるらしいが、口撃止まりでそれ以上はかかって来られないほどに、こちらの余裕には歯が立たないでいるのが現状というから、当分はこの独走態勢、安泰なままに続くものと思われる。無論、そうそういつもいつも“完璧なまでに”安穏と平和ばかりを貪っていた訳ではなく。ほんの昨年までの数年間ほどは、内地が随分と荒廃しかかった紛争も実を言うと勃発しており。この大陸の豊かさの礎でありながら、人々を迷わせる人外の力でもある聖魔の拮抗、それが元となった混乱が密やかながらに生じてもいた。王宮内での唐突な対立から火を吹いた内乱は、国内を荒
すさませ、あわや滅亡の引き金ともなるかという勢いで大陸中へと広まりかけていたものの。すんでのところで聖なる公主様が覚醒あそばされ、ギリギリのところで邪妖悪鬼を成敗せしめ、世の安寧は無事守られた。


  ――― その騒動の大立者、
       全てを潰えさせる“魔”を払った陽白の眷属という尊い方々が、
       現在、ただ今、王宮に滞在なさっておいでで。
       二度と再びこの世が闇に呑まれぬようにと、
       日々、皆を見守って下さっているのだと。



  “…ふ〜ん。”

 そりゃあ大したもんなんだなと。感心したような呟きをこぼしつつ、町の角、もう随分と雨風に晒されて煤けて来始めているところの、縁起を綴った看板を眺めていた青年が一人、こちらさんも随分と埃まみれな恰好にて突っ立っている。よほど遠くからの旅を重ねて来たのだろう、上衣もマントも埃や泥水を染ませ過ぎていて元の色が分からないくらいだし、丈夫そうな革のブーツもかなりの傷が目立つ傷みよう。だが、不思議と…薄汚いというような印象は薄い。野卑な輩の持つ、下品なだらしなさや無駄に挑発的な棘々しさが一切ないからで。もしもひょいと、そこらを通りかかった町の人やら店先の店主なんぞへ“此処へはどう行けば…”なんて尋ねたとしたなら、誰であれ例外なしに気さくに丁寧に応じてくれるだろうほどに、人品怪しからずな雰囲気の男であり。………ただ、

  「〜〜〜。」
  「おお、よしよし。怖くはないからの。」

 時折、大きな手で撫でてやりながらそんな風に声をかけてやっている、自分の左肩の上へと乗せ置いたもの。のたりと短い四肢で張りついた大きなトカゲが、人々からの奇異の目を集めており、

  “あれで目立たないつもりでいるなら、とんだお上りさんだよな。”

 口唇をへの字にひん曲げて、町角の文字通り“角っこ”の壁に身を凭れさせ、そちらを伺っていたとある人物。じっと観察すること小一時間のその結果として、
“あいつ、だな。”
 やはり彼に間違いはないと断定したらしい。おもむろに身を起こすと、颯爽にして軽快な足取りで、つかつかとその青年のすぐ傍らというところまで間合いを詰めて近づいて。
「おい。」
 いつもの常の不遜な口利き。聞きようによっては“気安く”声をかけており。
「…え?」
 そちらさんも実に不用意に、何の警戒もなく肩越しに振り向いたその途端に、

  「どわっ!」

 何しろいきなりのこと。漆黒の道着に身を包んだ、見ず知らずの金髪の長身痩躯な青年が現れて、挨拶もなしなら有無をも言わさず…腕を大きく振りかぶって殴りかかって来たものだから。これへと驚かないでどうするか。誰ぞから賞金を懸けられて、不特定多数から狙われているような心辺りがあるよな凶状持ちでもないがため、
「…っ! 何しやがる!」
 言葉も荒く言い放ちつつ、そのまま素早く身を躱す。不意を突かれたにしては俊敏な反射であり、だが、その肩からずるりと、例のトカゲが滑り落ちたのまではフォロー仕切れなかった模様で、

  「…あっ。」

 宙を浮遊した感覚に、何かが目覚めでもしたのだろうか。胴の長い、ぬたりとした印象の大トカゲくん。ほんの数秒の空中散歩のその途中で、

  ――― ぽんっと。爆発したような反応があって後。

 どんっ、と。結構な重量感と共に街路の真ん中に現れたのは、牛や馬の比ではない大きさの、大きな大きな大トカゲ。背中に大きな膜翼があって、それをばさばさと羽ばたたかせるものだから、何の騒ぎだと衆目はいやがうえにも集まってしまい、
「…あちゃあ〜。」
 これはしまったと額を押さえる青年とは対照的に、ほら見なと こちらは意気揚々。満足そうににっぱり笑った蛭魔がこんなことを言い放った。


  「ほら、やっぱりだ。お前、今朝方、俺の夢に出て来た奴だ。」

   ――― はい? 何ですて? 蛭魔さん?








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  *え〜っと。お久し振りのこの方々です。
   今回は蛭魔さんのお話で、これも久し振りの“ラバヒル”に…
   なりそうかな? どうなんだろ?
(笑)