キミと 真っ赤な観覧車。
        
〜白い帽子と 路地裏のマリア。続編 A
             *セナくんBD記念作品(DLF
 

 

 
          




 今年は暖冬だと聞いてはいたが。12月も半ばを過ぎたというのに、まだ本格的なコートが要らないくらいに暖かいのは、何だかちょっと調子が狂う。籍だけ置いてて練習試合にだけ頭数を揃えるのにと呼ばれる部活の、日頃はロッカーだけをありがたくも使ってる部室に籠もって。1週間ほど“ああでもない、こうでもない”と、何年振りだかというくらいに頭を使って色々々と考えて考えて。いわゆるマニュアル本とかも一応は読んでみたりして、やっとのことでこれだと決めたのが、今日の待ち合わせの一大計画。なのに、しょっぱなからちょっとだけ挫けてしまったのも、この暖かさのせい。

  《 あ、十文字くん。ごめんね、待った?》
  《 いや。それよか頬っぺが真っ赤だな。寒かったろ?》

 そんなこと言って頬に触ったりして。そしたら、

  《 わ〜、十文字くんの手って温ったか〜いvv
  《 そっか?》
  《 うんvv 》

 にこーっと笑ったセナへ、それじゃあしばらく貸しといてやる、なんて言ってやったりして。そしたら、そこから自然と手もつなげるのになとか、段取りってやつを考えてたってのにな。

  「なんか暖かいよね。マフラーして来なくて正解だったvv
  「…そうだな。」

 のっけからこれだもんななんて、ちょこっと挫けてるけれど。頑張れ、若造っ! 何たって街中のどこもかしこもで“ラブラブ”している、今は“クリスマス・シーズン”なんだからっ!







 それこそ“のっけから”妙なテンションで始まっておりますが。
(笑) 遠い昔の夏に出会った可愛い子。ちょっぴり切ない別れ方をしたものの、4年経った夏に再会出来て、それからそれから何となく続いてる“お付き合い”も半年目に突入していて。住んでるところは随分と離れてる間柄なんだけれど、時々時間が合えば街まで出て逢ってもいて。それがこうまで続いてるってのは、なかなかの思い入れがあってこそだよなと。いやもうこの数カ月の、何ともワクワクと甘酸っぱくも楽しかったことかvv そして今日もまた、楽しい待ち合わせをしたのへ、こんなブツブツ不平をたれてる彼であり、

  “何たって誕生日なんだから。”

 2カ月ほど前に先にやって来た自分の誕生日には、自分も同じ型のを持ってるんだよというティーンズに人気のブランドのデザインシャツと、自分で描いたというバースデイ・カードを、わざわざこっちまで足を運んで手渡ししてくれて。襟と前の合わせが別の濃色との重ねになった木綿のシャツは、サイズが合わなかったらどうしようかって思ったと小さな彼をドキドキさせたが、肩幅も袖の長さもぴったりのジャストフィット。手書きのカードには、レースにふわりとくるまれたオレンジや緋色のガーベラの花束と、まんがチックにデフォルメされた男の子が描かれていて。その男の子の口許から吹き出しが続いて、

Happy Birthday! for Kazuki.

 なんて祝ってくれている可愛らしい出来であり。シャツは勿論のこと、このカードもそれはそれは大切にしまい込んでいる、十文字一輝、16歳であったりし。こりゃあ頑張って“お返し”をせねばと、考えて考えて…やっとのことで決まったプラン。

  『来週の火曜に、Rパークで逢えないかな。』

 冬休み前の試験休み。何か予定があるんじゃないかと思いつつ、でもクリスマス直前なんだから、そんなにイベントを構えてはいないんじゃないのかな。いやいや、それこそ“お誕生日おめでとう”という集まりを、間近な人たちから設けられているのかも? 柄になくもドキドキしながらメールを送ってお伺いを立ててみたところが、
【大丈夫だよ、ボクんトコも試験休みだし。何して遊ぼうか?】
 どうかどうかと祈りつつ開いたお返事のメールに、やたっと大声を出して歓喜したほどの…今時には珍しいほど純情なオトコの子。
“うっせぇなっ!///////
 だってあんた、そのガタイなんだもの。さすがは運動部が助っ人として頼り
アテにするだけはあって、背も高いし、かっちりとした肉付きの、日頃からスポーツなんて何にもしていないとは思えない筋骨の逞しさ。勿論のこと、見かけ倒しではなく、ここいらの高校生たちをほんの1カ月足らずで全て平らげたほどの腕っ節は、中学時代からの喧嘩で鍛えた筋金入り。表情が載っていないとたちまち鋭さだけが強まる男臭い面立ちは、喧嘩で染ませた迫力が実に馴染みやすい造作をしており。気持ちの力みをそのまま凄みとして映す、少し吊り上がった鋭角的な目許に、凛々しく引き締まった口許。金色に染めた短髪といい、少ぉし大人びて頬骨の立った輪郭といい、雄々しくも男らしい体躯にも引けを取らないままに、よくよくマッチしている頼もしさ。…なのに、たかだか場外から冷やかされたくらいで赤くなるなんて、その純情さは なかろうて。
“う〜〜〜〜っ。///////
 はいはい。判ったから、筆者は退場するから。だから、何にもないところへ向けて、金属バットを頭上に振りかぶるのは止めたまい。
(笑)






            ◇



 今日の逢瀬の主題はというと。ここ“Rパーク”という、ショッピングモールとアミューズメントプラザが合体した駅前の繁華街の中にある、小さな画廊っぽい展示場に向かうこと。今年のN展という特集展示会があるのを観に行こう…というのが、お誘いに使った口実であり、そこにはあの、小さな幼なじみのことを十文字に思い起こさせた絵も飾られている。自分のいる町からは少し遠い、都会寄りの町に住まう小さな少年。小学生最後の夏休みに出会い、愛らしくて素直な彼のこと、気に入っていた筈なのに…仲が良かった筈なのに。些細な意地っ張りが災いして、ちょっとばかり気まずい別れ方をしてしまい。小さな彼を傷つけたこと、ずっと気にしていた十文字に、そんな夏を思い出させた綺麗な油絵を描いて見事入選した男の子が、も一度逢いたいと連絡して来てくれて…再び紡ぎ直され始めた、甘くてやさしい不思議な想い。そんな切っ掛けになったあの絵が、再び展示されると聞いて、もう一回観たいからと言い出して誘った逢瀬であって。

  「…なんか恥ずかしいな。//////

 ところどころが破れた金網のフェンスには、スニーカーと白い帽子が引っ掛かっていて。そんなフェンス越しに、向こうに見えるのが…濃灰色のブロック塀に浮かび上がったマリア様に似た染み模様。ちゃんと真面目に、一生懸命描いた作品には違いなく。出来栄えにも一応の満足をして発表した以上は、誰にも恥じるところなんてない筈なのだけれど…それでもね。腕前のレベルとか何とかを思えば、やはり恥ずかしいようと。他の作品は薄く口を開いて感動の面持ちで観ていたくせして、肝心な自分の絵だけは尻込み気味な態度になってしまったのが何とも可愛らしくって。
“来て良かったな。”
 さしたる当てもなくの街歩きも悪くはないけれど、こんな思わぬ表情を見せて貰えたのが嬉しくて。こそそと寄り添う小さな彼を見下ろしながら、ついつい満足の温みにて胸の底が擽られている。
「どっか、ほら。別んトコに行こうよう。//////
 早く離れたいと言わんばかりの恥ずかしがりようが、やっぱり可愛い幼なじみの、小早川瀬那くんである。




 逃げるようにという観さえあった早足で、展示会場からぱたぱたと出た小さな小早川くんを、こちらは彼よりも上背があればこその広いストライドでゆっくりと追って。
“あんまりからかうのは可哀相かもな。”
 淡い色合いのスタジアムジャンパーを眺めつつ、やさしい想いに満たされた胸の裡
うちをそのまま映した和んだ眼差しとなり。通りの向こうから来た二人連れの肩にぶつかりかけて、そのまま“あわわ…”と回りながらたたらを踏んだ子に、余裕で近づき、その腰あたりを長い腕ですくい上げて抱きとめる。
「ほら、落ち着かないか。」
「あ、ごめんね。」
 転びかかった小さな体を片腕で支えてやれば、おどおどと謝ったりするのがまた可愛い。それにつけても、

  “軽いな〜、こいつ。”

 小柄だから当たり前っちゃ当たり前なんだろうけれど。ふわりと軽やかで、しかも…腕を回した腰回りや背中の感触が、骨っぽくはなく、むしろふわふわと柔らかい。
「え?」
 すぐの間近にて…きょとんとするとますます幼くなるお顔が見やって来るのへ、誤魔化し半分、にんまりと笑いかけ、
「ちゃんと前見て歩きな。」
「あ、えっと、うん。」
 ちょびっと恐持てする風貌ではあるけれど、自分には優しい十文字くん。大人みたいな彼から見れば、自分はまだまだ子供みたいなもんだろなと、そんなことをちょっぴりと…切ないこととして思ってしまったセナくんらしかったのだけれど。
「次はどこ行こうか。」
 背中に腕を渡したままにて、連れ同士ですという態勢になって並んで歩き出してくれた彼には、
「あ、えとえっと…。//////
 セナくんの側でも、知らず、頬が赤くなってしまったりして。………これって、片思いじゃないってことだよね? ねぇ、どっちもシャイなお二人さんったらvv







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