終章
――― まさかこんなことに巻き込まれようとは思わなかった。
少年週刊誌用のグラビア撮影の帰り。マネージャーが車を停めていたのは、スタジオが入っていたビルからは少し離れた駐車ビルの上階。こういうところは下から埋まってゆくもので、
「ごめんね、さんざん探して此処しかなくて。」
「ううん。」
構わないのよと、首を横に振った。色々と様々に、気を配ってくれる優しい人。いかにもH系の恥ずかしいお仕事は、事務所の社長と喧嘩になってでも断ってくれた山篠さん。ホントはあんまり好きじゃないモデル業。たまたま友達と一緒に申し込んだオーディションだったのに、乗り気ではなかった自分が採用されてしまって。それから何だか"お仕事"が続いてしまって。そんな事情を聞いてくれて、じゃあいつでも、イヤだって思ったらボクに言いなって。ホントに親身になってくれた人。そんなことしたら、彼だってタダじゃあ済まない。クビになるかもしれない。そう思ったら、甘えたこと言ってちゃいけないんだって、気持ちも切り替わった。頑張れるだけ頑張ってみようって、前向きに考えるようになった。そんな頑張りが形になって来て、嫌な仕事を割と堂々と断れる立場になって来た、そんな矢先だった。
「………え?」
目的の階にエレベーターで辿り着き、自分たちの車へと歩み寄ってたそんな二人へ、物陰から飛び出して来た何かがあって。マネージャーさんに誰かが突き当たり、声もなく…ぐらりとその場に崩れ落ちた。
"え?"
一体何が起こったのか。仕掛けにタレントが驚く"ドッキリ"ものだろうか。でも、そんなのが相手をしてくれるほどまでのネームバリューはまだない自分だ。何が起こっているのか、まるで分からないままに、凍りついたように立ち尽くしていたら、
「………山篠さん?」
重なるようになって倒れ込んだ二人の人影。上に重なっていた方、どこかから突っ込んで来た方の誰かが身を起こし、手元に鈍く光ったのは、それは大きながっちりしたナイフが1振り。
「あ…。」
切っ先からポタポタと、何か液体が滴り落ちている。それがマネージャーさんの血なのだと、朧げながら理解した彼女の耳へ、
「悪りぃな。見られちまったんじゃあ、捨ておけねぇんだ。」
「え…?」
なにを? 何を言っているの? 状況もこの人も、何が何だか判らない。目眩いがして、息が詰まって。甲高い金属音みたいな耳鳴りに、もうもう立っていられなくなったその時に、
「…そこに誰かいるの?」
掛けられた声があり、男がチッと舌打ちをした。そして、音もなく立ち去ったその後のこと、彼女はあまり覚えてはいなかった。
◇
「なんで妖一が?」
「お前こそ、何でこんなとこにいる。」
繚香が寸前まで撮影していたスタジオの別室にて、実は春人もインタビューを受けていた。同じ出版社の、こちらは少女向けの雑誌の芸能コーナーへのものであり、そんな事情から…彼のマネージャーが車を停めていたのも、同じパーキングセンターだったという訳で。それで凶行の現場にたまたま来合わせた桜庭は、そのまま とんでもない事件の第一発見者となってしまい、秋の新作、小じゃれたジャケットスーツ姿で"こんなとこ"にいる羽目となったそうで。
「何か怪しいってんで声かけたら、繚香ちゃんのマネージャーさん、山篠さんって人が刺されてたんだ。」
そうと説明しながらも。蛭魔にしたって自分と同じ、いやいや、一応の表向きだけで言うなら、芸能人な自分よりもただの高校生な筈で。こんな、警察の捜査課の部屋にいるなんて、まずは有り得ない話。
"…少年課なら、ちょっと分からんでもないけど。"
と、ちらっと思った辺り、どういう方向で信頼・把握されているのやら。そんな桜庭の心情など知る由もないだろう、こちらは…金髪つんつん頭に白い肌がよく映える、闇色のジャケットと濃紺のシャツ、やはり真っ黒な細身のパンツというほぼ黒づくめの、一見…立派な不良青年は、
「今回の事件で使われた凶器が、俺の知ってる事件で使われたのと同一だっていう照合結果が出たからだ。」
さらりと言ってのけたものの、
「だが。わざわざお呼び立てはしてないぞ、少年。」
どこか鬱陶しそうな顔になって、今回立ち上げられた捜査本部の部長刑事さんが口を挟んだ。
「大方、警察の無線か何かを傍受してたんだろうが。」
「さてね。」
そこで得た情報を誰かに話したりすれば別だが、聞くだけなら罪にはならない。薄く笑って白々しくも惚けて見せるお友達へ、
「妖一が知ってる事件?」
こちらはまだ話が見えていない桜庭が訊くと、表情をやおら引き締める蛭魔であり、
「ああ。先週末の夜更けに、P町の事務所で小さな会社の渉外担当のおじさんが刺し殺されてな。」
後で聞いた詳細によると、その小父さんは とある事業への競売入札への不正を求められていたのを頑として撥ね除け続けた人であり、
『その事業の母体企業ってのが、ウチの親父が経営してる商社の関連会社なもんでな。』
それだけではない。個人的にもお世話になった、気のいい人だっただけに、これは捨て置けないと、独自にあれこれ調べていた彼であったらしくって。それはさておき、
「…P町?」
彼らの会話が耳に入ったか、呆然としていた繚香がハッとする。
「どうした。」
「先週末のP町…。私、そこに居たかもしれない。」
やはり遅くなってしまった撮影があって。小さな事務所の駐車場の空いてるところへ無断で駐めてた車に戻った時に、不意に車の前へと飛び出して来た人影を危うく轢きそうになった…と。ぽつりぽつりと話してくれた彼女であって。そして、
「………それだ。」
蛭魔が目許を鋭く尖らせた。
「"それ"って?」
「顔を見られたと思ってるんじゃないのかな。アシがつくだろに得物(ぶき)にこだわる辺り、どうやら玄人らしいからな。P町での殺しは誰ぞに依頼されての殺人だったのかもしれん。」
そっか、だから動機のありそうだった あいつもこいつも、矢鱈とアリバイが堅かったんだと、歯噛みをした蛭魔であり、
「この彼女は普通の一般人じゃないからな。人気が出て来つつあるモデル、言わば"芸能人"だから、発言をマスコミに取り上げられやすいだろうしって。危ない要素は摘み取っとくに限るってやつで、自分を目撃したかもしれない二人の口を封じたかったんだとしたら?」
「………あ。」
◆◇◆
アイドルくんの熱愛騒動は、実は…殺人と殺人未遂を犯した、その道の玄人をおびき出すための罠だったと。まるでサスペンスドラマみたいな、そんな"真相"があっと言う間に、日本全国のお茶の間に広まったのが翌日のこと。ただの"熱愛騒動"には関心がなかったクチの視聴者たちも、こうまでドラマチックでセンセーショナルな顛末にはさすがに心を動かされたか、尚の耳目を集めたし、殺人事件がらみだったものだから、某国営放送の定時のニュースでも扱われたが、そちらではさすがに…桜庭も繚香ちゃんも未成年だったことに配慮がなされて、名前は伏せられていたし、彼らの背後にて全てを仕切っていた"陰のプロデューサー"の存在に至っては、どこのワイドショーでも全く報じられなかったのだが、
「イギリスからわざわざ帰って来た爺様に叱られちまった。」
「ボクも。警察の偉い人に叱られちゃったよう。」
当の…主役の二人の高校生たちは。蛭魔邸のリビングにてソファーに腰掛け、それぞれに頬杖ついて、何となく しおれていたりする。まま、素人が勝手にやって良いことではないという自覚は最初からあって、解決後に どこかの筋からそれなりのお説教は喰らうだろうなと覚悟もしていた彼らではあるけれど。くったりと力ない様子なのは、叱られたからというよりも、それぞれなりに緊張していたものが解放された、その反動という疲弊弛緩のせいもあろう。そんな彼らへとお茶を出しつつ、
「当たり前ですよ。」
執事の加藤さんが控えめながらも苦笑して見せる。日本は"法治国家"であり、それ即ち、個人が報復を為してはならない国だということ。よって、いくら真相を究明したかったとはいえ、逮捕や確保などという"誰かの権利を侵す資格"のない素人が、やたらと首を突っ込んではいけないことだ。(ちなみに、現行犯に限っては一般人にも"逮捕"する権限はあるそうです。ただし、行き過ぎた行動はやはり咎められます。)それと、
「大御所様も旦那様も、桜庭様のご両親も。それはそれは心配なさってらしたのですし、高階を始めとする警護班の皆も、犯人確保より、坊っちゃまたちの一刻も早い安全確保を優先したかったからこそ頑張ったのですからね。」
そう。彼らが首を突っ込んだのは、正真正銘の殺人事件。テレビの2時間サスペンスじゃないのである。相手は足のつきやすい特殊な武器を使い続ける"冷酷な玄人"だったのだから、素人が手を出すのは危険極まりないことだった訳で。後々に無謀にも真似をするような例が出ないようにという意味からも、捜査を撹乱した廉かどで口頭での説諭…お説教を受けた扱いになってしまった二人であり、
「悪かったな、警察のデータに不名誉な形で名前が残っちまう。」
そうなんです。罰金や禁固、懲役などという実刑を宣告されずとも、少年院や刑務所のお世話にならずとも、こういうことってきっちりとそれなりの記録に残ります。だというのに、
「いいさ。妖一と一緒なんだし♪」
妙なことに喜んで見せる春人の笑みへ、面映ゆげに微笑しかかり…だが、視線は逸らした蛭魔である。
"…何だってんだか。"
表面的には"喜んでどうするよ"と思いつつ。まだ…今ひとつ素直にはなれない、そんな自分にこそ歯噛みする。可愛げがないのは今更どうしようもないことで、こんな自分を好いてもらうしかないのがまた、仄かに腹立たしいし、そんなこんなをグジグジと腹の中でこねくっている女々しい自分にも苛々と腹が立つ。そんな気色を、だが、無表情の中へと塗り込めようと しかかっていた妖一の傍らで、
「それにしてもさ、妖一って色々たくさん、コネを持ってるんだねぇ。」
春人の関心は そっちへと移っていたらしい。当日の足代わりと幹線道路の監視にと小回りの利くバイクを駆ってくれたのは、某賊学の暴走族の方々だったし、犯人の車を巧妙に公園にしか行けないようにと道を塞ぎまくってくれていた特殊車両の方は、例の"大工さん"のコネを動員したらしく、
「しかも、セナくんや進まで引っ張り込むとはね。」
よくもまあ、ここまで周到に揃えたもんだと感心する春人だったが、
「あいつらを呼び立てたのは一種のサービスだよ。」
あの二人に限っては、その能力を"利用しよう"という腹で呼んだつもりはない。他人事だというのにもかかわらず、説明を乞うと親身になって心配してくれていた彼らだったから、それでは全容を一気に解いてやろうじゃないかと、こういう形で一枚咬ませた蛭魔であったらしい。だから、例えば…瀬那が迷子になっていても、はたまた進が遅れても、それなりのやりようはきっちりと構えていた妖一であったらしく。では、一体どうやって、ああいう絶妙な間合いにて呼び立てられた彼らであったのかといえば。まずは進が言うには、
『桜庭からQ駅に来いというメールがあってな。』
それも"セナには内密に"と来たから、彼が苦しげなほど心配している今回の騒動の件についての話だろうかと思い、足を運んでみると、
『約束した時間になった途端に、今度は蛭魔からのメールで"あの公園まで来い"という指示に変わったんだ。』
一方のセナは、部活に出ようとしていたところをやはり蛭魔からのメールで、こちらは直接、公園まで呼び立てられ、それから…南側の遊歩道の集中しているところの、立体交差の下、と。やはり順次ながらも場所をいちいち細かく指定して呼び出され、着いた途端に走らされた訳で。蛭魔がバイクでの移動中に、状況を見ながら発信したメールというのがこれらだったと思われる。
「メールだけで人をコントロールしちゃうんだものな。」
しかも、相手の性格や各々の現状把握の深さや何やをきっちりと把握してのもの。もしかして…前日に進さんへ"セナを迎えに来い"と呼び立てたメールは、彼の移動時間を計るための予行演習だったのだったりしてな。いかにも今時風で、鮮やかな手管には違いないが、
「でも…。」
「判ぁってるよ。」
眉を顰めた春人に皆まで言わせず、
「ちゃんと穴埋めはする。それに、もう懲りた。」
親しい人間は"駒"扱いしない方が良いと、今回は妖一も重々と肝に命じたらしい。まさかセナが…あの小さな後輩くんが、自分の見ていないところで、自分たちのために、本気で泣いてくれていたとは思わなかった。扱いが怖かったからだとか、話を聞いてくれないからだとか。そういうことへちょろっと泣いただけなら、ああまで…翌日まで瞳の赤みが残りはすまい。思い出してはじわじわと哀しくなって。よほど長く、よほど沢山泣かなければ ああはならない。
"………。"
そうだと知っているから、小さい頃に良くそんな泣き方をしたことがあったから。だからこそ、ハッとしたし、胸に堪こたえもした蛭魔だった。
『それじゃあ、えっと、お芝居みたいなもんだったんですね。』
今から数時間ほど前の、同じこの居間にて。今回の…桜庭と繚香の密会写真とやらに端を発した"熱愛騒動"は、実はもっと恐ろしい"殺人事件の犯人を誘い出す"なんていう目的のためのちょっと無謀な作戦の"一部"であり、それと並行して繚香ちゃんの身を常に衆目の中へ置くことで守るという、一石二鳥の計画だったのだという説明を、当事者たちから受けて。この件で恐らくは一番心配させられたセナが、嬉しそうにはしゃいで擦り寄る小さなシェルティくんをお膝に抱いたまま、ようやっと肩から力を抜いて見せた。
『そ。昔はこう言うの"茶番"って言ったらしいよ。』
いや、今でもそう言いますが。
『例のスクープ写真からして、わざわざ準備して撮った代物だからな。』
あらまあ、やっぱり。
『あまりに くっきり分かりやすいのは不味いんじゃないかって、一番映りが悪いのを使ったんだぜ?』
妙な苦労があったもんだ。(笑) まるでちょっとした悪戯か何かのように、最初の段取りを苦笑混じりに語った二人へ、
『じゃあ…じゃあ、喧嘩してたとか桜庭さんが浮気したとか、そういうんじゃないんですね。』
セナが念を押すように重ねて訊いた。彼にしてみれば…殺人がどうの、おびき出し大作戦がどうのとかいう"事件"よりも、そっちの真相の方がよほど大切なのだろう。…って、それもどうかと。あんたたちの感性って、ある意味で良い勝負なんだねぇ。(苦笑)
………で。
『う…。』
それを"肯定"すること、イコール、桜庭と自分が"オホホ"な仲だというのを認めることとなるせいか、
『………。』
誰かさんは往生際悪く言葉を濁してしまったのだが。それによる間合いが出来かかった、絶妙なタイミングへ、
『え〜、ひどいな。』
そんな傍らから、春人が いかにも心外そうに、少々素っ頓狂な声を上げて見せた。
『セナくんたら、ボクが浮気したって思ってたの?』
『えと、だって…。』
いきなり抗議され、その勢いに押されかかったセナの横合いから、
『俺にも そうとしか思えなかったが。』
こういうことには疎いだろう進にまでズバッと言われていては世話はない。そして、
『ううう…。』
おどけて見せつつ、話を引ったくってくれた春人に、
『………。』
こそりと小さく苦笑した妖一だったりしたのだが。とはいえ、
「セナくんがあんなにボクらの不仲にこだわったのはさ、妖一が妙に寂しそうに見えたからだって、進が言ってたんだけど。」
今になってから。何をか言わせたそうなお顔をする春人へ、だが、
「言ったろが。寝不足が続いてからな。そんで覇気が出てなかっただけだ。」
つんと澄まして応じる妖一さんであり。
「え〜、それだけ?」
眉を下げて"ねえねえ他には?"と訊かれても知らん顔。本人へは、相変わらずつれないんですね。(笑) 彼ら二人の寛ぐお膝には、作戦執行中はあんまり構ってもらえなかったシェルティくん。昼間はお久し振りにセナくんに逢えて、しかも後半はお庭で遊んでもらい。さんざんはしゃいだ末、今は二人双方のお膝にまたがるように乗っかって うとうとと転寝中。もうすっかりと宵も更けていて、秋の夜寒が仄かに感じられる時間帯。
「さて。俺はもう寝るぞ。」
何せ"参謀総長"さんだったので。陰であれこれ手を回し、計算し、見えないところで見えないようにと跳梁していた彼であり。手配を打つ切れや冴えが最後まで途切れなかった行動力もさることながら、大外から展開を見守り続けて神経を張り詰めさせていた分、冗談抜きにかなり疲れたらしい。大きく背伸びをして見せる妖一へ、
「あ、じゃあ、僕は…。」
お暇するねと、お膝からキングを降ろして立ち上がりかかった春人なのへ、妖一が怪訝そうな顔をする。
「? お前も当分はここで寝るんだぞ?」
「はい?」
相変わらず"自分が法"なお人だが、こればっかりは説明しといてもらわないと意味がよく分からないこと。小首を傾げる"共犯者さん"へ、
「お前の実家、マスコミが取り囲んでて、えらい騒ぎなんだそうだ。熱愛騒動ん時の比じゃないほどにな。そこへ本人が帰って来てみろ。ご近所様にもドえらい迷惑がかかるぞ?」
いや、もう既にご迷惑はかけているような。(笑) それを察して真っ青になりかかった春人だったが、
「どうかご心配なさらずに。」
加藤さんが余裕の笑顔で説明を追加してくれた。
「ご両親には、こちらでご用意させていただきました別宅へ、早くに避難していただいております。それに。数日のうちにも、マスコミ各社には引いていただきますし。」
ですから、それまでの数日間ほどは、桜庭様にもこちらから学校へ通っていただきますと、丁寧に説明されて、
「はあ…。」
にっこり笑って言い放つ加藤さんだが、
"そういうことが簡単に出来ちゃう人なんだな、きっと。"
しかも…恐らくは、蛭魔の実家という大きな名前を出さずとも。
"妖一がこういう策謀に長けてるのって、案外とこの加藤さんからの影響なんじゃないのかな。"
そ、それはどうなんでしょうか。(う〜ん、う〜ん。)
お部屋へご案内しましょうと、先に立った加藤さんであり、それへ続いて立ち上がったお若い二人。ふと、背の高い春人が体を傾けて、こそりと耳元に囁いたのが、
「なあ、ちょっとは妬いてくれた?」
作戦遂行中の1週間。連絡こそ小まめに取り合っていたものの、計画がほころびないようにと無用の接触は取らずにいた。その間、春人はずっとあの愛らしい繚香の傍らに居続け、しかもその模様は…それこそが目的だったとはいえ、朝から晩まで執拗につきまとうマスコミにより無料で実況放送され続けていたことになり、妖一の耳目にだって、そっちの…彼女との熱愛云々という"先入観フィルター"を通した言動として届いていた筈だ。頭で"茶番"と分かってはいても、可憐な少女を守る王子様的な扱いで連日報道され続けていた春人を、この1週間、蚊帳の外の人間を装っていた妖一は…どんな風に見ていたのだろうかと。ちらっと思った春人だったらしいのだが、
「ば〜か。」
返って来たのは単調でつれない一言だけ。相変わらず、腹の底は見せない人であり、しかも素直じゃない。ホントはちらっと苛ついてもいたくせに、そんなことでは春人くんには全く伝わらないぞ、この意地っ張りが…と、筆者が皆様のお気持ちを代表して突っ掛かろうとした矢先、
「………ちょっとどころじゃねぇよ。」
「…え? /////」
ソファーから立ち上がった、そのままの位置。二人は一瞬、固まったように、そこへと立ち尽くし、
「耳の遠いジジィじゃねぇんだろうが、一遍で聞き取りなっ! /////」
「だってさぁ〜っvv」
真っ赤になった坊っちゃまが手近にあったクッションを掴み上げ、それを見るまでもないという息の合ったタイミングにて"わわっ"と逃げを打ったお友達。十八番の"マシンガンによる機銃掃射"が出て来ないのは、屋内の、しかも壊れ物が多い空間だったからだろうけれど、
"…まあ、客間は坊っちゃまがご存じだろうから。"
この騒ぎが落ち着き次第、ご自分でご案内下さることだろうと。うとうとと眠っていたキングをひょいと抱え、雪合戦よろしく 大小のクッションが飛び交う居間を後にしつつ、やれやれと…だが、楽しそうに苦笑する加藤さんであったりした。
おまけ 
「あ、そうだ。」
「んん?」
クッションによる"雪合戦"を堪能?してから、あらためて春人へと用意されてあった客間に移って。こちらもまた、シティホテルの比ではない…長期滞在用のコンドミニアム風な、二間続きの広々としたお部屋にちょいと度肝を抜かれたアイドルさんが、ふと。何かしら思い出したというような声を上げた。
「妖一さ、賊学の元主将とかいう奴のこと、名前呼びしてたっていうじゃないか。」
「…何で知ってるんだ、そんなこと。」
寝室のクロゼットを開き、わざわざパジャマを出してくれている妖一へ、
「ボクにだって情報網くらいあるんだから。ねぇ、どうして名前で呼んでんの?」
この坊っちゃま、滅多なことでは人の名を"名前"では呼ばない。一番付き合いが長い栗田くんでさえ名字呼びだし、あれほど可愛がっている瀬那くんなぞ、相変わらずの"糞チビ"呼びだ。だのにどうして、その彼一人だけがそんな待遇なのか。だが、訊かれた妖一はといえば、
「あいつ、自分の名前が嫌いなんだと。」
くくっと鼻で笑って、あっさりと暴露してくれたりする。
「カタカナで書く"ルイ"っていってサ、母親がつけたらしいんだがな。そんな可愛い名前なのが気に入らないらしい。だからワザと呼んでやってんだよ。」
「………そ、そうなの。」
う〜ん、相変わらず冷酷非情な奴。
「それがどうかしたのか?」
「あ、ううん。ちょっと気になっただけ。」
後は分かるから、おやすみね。慌てたように取り繕うアイドルさんだが、
――― さては。妬いてましたね、春人くん。
〜 今度こそ、終しまい 〜 03.9.8.〜9.25.
*はい。こういうお話でした。(笑)
当方、どろどろした愛憎劇とか書ける人ではありません。
オリジナルオンリーだった頃は、
こういう"探偵ものもどき"ばかり書いておりまして。
ついついその趣味を思い出してしまったです。
さんざん深刻ぶって引っ張り回しといてこのオチ。
………怒ってる人、沢山いるんだろうなぁ。
ここで謝っておこう。ごめんなさいです。
一応、後日談も考えておりますので、
ちょこっと充電してから、
泣かせてしまったセナくんには、そっちで改めて謝りますね。
*さて。
これを進めている最中に、あの"ムサシ"の正体が明らかになり、
どんだけ焦って慌てたことか。
そんなそんな、ウチのシリーズだと、
去年の内にも正体が判明したことになるじゃないですか。
全然そんなことには触れてないのに。(笑)
しかもこの人ったら。どうしましょうか、モロに好みなんだものvvおいおい
あんな頼もしい人がキッカーとして加入したら、鬼に金棒だよんvv
…と思う反面、ラバの立場は?とか、
進さんだって心穏やかではなかったりして?とか、(なんでやねん。)
色々と考えてしまいましたよう。
まだまだ余談は許しませんが、ウチのお話では、
本誌での"2年生たち"は受験前ということで引退してますからね。
だから、お仕事に戻ってる彼だったということで…悪しからず。
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