風色疾風スキャンダル

   後日談 〜もしくは、余談いろいろ B
 



     誰かの懐ろ 無防備に包
    くるみ込まれて
      ああ あたたかいね やさしいね
     幼い子供同士みたいに
      何かしら小さな悪戯 企んで ほくそ笑んで
     時に相手を子供にし 時に自分が子供になり
      見やり 見つめて 見つけてもらって
     手探りで まさぐり合って
      …でもネ まだナイショ
      ホントの気持ちは まだナイショ
      自分の気持ちは まだ後ろ手に隠したまんまで
      そぉっとそぉっと訊いてみる


   ――― ねえ ホントに ボクのこと 好き?









 
          



 今回の騒動の発端というか、それとも"巻き込まれた人たち"と言うべきか。グラビアアイドルの繚香ちゃんと、そのマネージャーさんで、瀕死の重傷から復帰した山篠さんというお兄さんは、彼の怪我が快復し次第、とある大きな商社の持つ、南国の保養所の管理人として採用されることになっているのだそうで。今回の騒ぎで全国的に顔が知れ渡ってしまった彼女だが、そこは広大なプライベートビーチのど真ん中にある瀟洒な別荘だから、周囲から徒に騒がれることもなく、静かに静かに暮らせることだろうと、それは嬉しそうに話していたという…。




  「あ、加藤さん。」

 兵士たちの掲げ持つ黒い鉄の槍が居並んで、本陣を堅く守っているかのような。そんな柵に囲まれた邸宅の豪奢な玄関先へと、なめらかに滑り込んだのは黒塗りのBMW。後部座席のドアをわざわざ開けて下さった執事さんへ、降り立ちながらも恐縮してペコリと頭を下げた、至って庶民的な背の高いアイドルさんは、
「あの、ボクんチは…。」
 此処への滞在をすることとなったその原因の様子を恐る恐る訊いてみる。自宅を取り囲むマスコミを刺激しないためにと、此処に避難させていただいている彼であり。登下校を尾行されては同じではなかろうかと危ぶんだものの、そこは手慣れた運転手さん、学校の周囲でも張っていた記者たちを実にあっさりと撒いてしまったから大したもの。ともあれ、彼らが諦めて陣幕が薄くなったら、自宅へ戻ることになっているのだが、
「それが…。」
 控えめな苦笑というか、何ともお気の毒ですが…と言いたげな顔をして見せる加藤さんであり、そんな執事さんの後方から、
「今朝から一気に解禁って格好で報道合戦が始まったばかりなんだぜ? 連中だって、そうそう早くは引かないだろうさ。」
 先に帰っていたらしき坊っちゃまが、エントランスホールの奥向きからそんな声を投げてくる。
「妖一。」
 何もそんな、愉快そうに言わなくたっていいだろうによと。非難めいたことを思いはしたが、黒が基調のシックでラフな普段着に着替えた相手の姿を見ると…これはもうもう条件反射。ついついお顔がほころんでしまう正直者の桜庭くんで。
「学校の方はどうだった?」
 まるで保護者みたいに そうと訊かれて、
「ん。教頭先生と生活指導の先生に叱られた。でも、」
 すぐ傍らに立つ加藤さんを見やり、
「色々と説明して下さってたんでしょう? あんな騒ぎと、事後報告って形の1週間の休学なんて真似をしたのに、停学とか言われませんでしたし。」
 真相を知る者を少なくしたくて、実の親たちにも詳しい説明をしてはいなかったこと。なのに、先生方には既にきっちりと詳細が伝わっていたらしく、今回だけは大目に見ましょうと、これといった処分もないまま、お叱りをいただいただけで済んだなんて異例だと、そのくらいは桜庭にも判る。訊かれた加藤さんは、
「私はただ、坊っちゃまに指示されたことをしたまででございますよ。」
 にこりと暖かく笑い、さあさ、お着替えください、お食事に致しましょうと、中へ入るよう、身振りで促して下さって。入れば入ったで、
「飯食ったら、勉強会の続きだからな。」
 ダークブロンドの髪をつんつんと尖らせた、いかにも砕けた恰好とは一番不似合いなことだろう言いようをして、くすりと笑った美人さんに…ほわんと見とれてしまった桜庭くんである。

  "…良かった。"

 んん? それって、停学とか言われなかったことへですか? それとも、まだ何日かはこのお屋敷に居られそうなことへでしょうか?
(苦笑)





            ◇



 勉強会、というのは。桜庭くんがこのお屋敷に寝泊まりすることとなった第一日目。丁度土曜日だったので学校もお休みで。マスコミへの準備というのか気構えもなく、これといってすることもないしと、やはり出掛けずにいた蛭魔が…スカウティングで得た他校の資料の整理だろうか、ノートパソコンに向かっているのを居間でぼんやりと(実はうっとりと/笑)眺めていたら、
『そうだ。休んでた間の分だって、進から授業のノートを預かっているぞ』
と差し出されたのが、数頁ずつを綴じたコピーの束。げぇ〜っと見るからにげんなりとしたお顔になったのを見て、
『そういえば、お前も進学組なんだったな。』
 受験勉強は進んでいるのか? そうと訊かれて…それなりにはとか、あーうーとか、曖昧に言葉を濁していると、鋭い目許がきりきりと眇められ、久方振りに拳骨が頭上へと落ちて来た。

  『判った。俺が見てやるから、今から勉強会だ。』
  『…はい?』

 そんなこんなで、数学と化学を中心に受験向けの基本を叩き込まれることと相成ってしまったのだが、
「………またやってる。これは公式を使えばいい問題だ。」
「え? あ、そか。」
 何というのか。頭が悪いというのではなく、ただ、妙なところで時々要領が悪い春人であるらしく。まんま引用していい公式や定理があるのに、その公式が説く証明をわざわざ一からずらずらと式を連ねて説明したりする。これでは試験時間内に全問まで手が行き届く筈がない。それで…定期考査では芳しくない数字を残してしまう彼なのだろう。
"仕事での休みが挟まったりするからなんだろうな。"
 連綿と学んでいれば、一連の流れとして身につく"応用"というか要領だろうに、仕事で休まざるを得なかったりして、ぶつぶつとぶつ切れになったせいで、ところどころでボコォッと抜けたことをするような案配になっているのだろう。
「うっと…これでいいのかな?」
「どら、見せな。…うん、そうだな。こっちのこの証明式も、慣れて来たら要らないからな。ここからこれへ飛んでも、分かってるから省略したんだって通じるからさ。」
「あ、そうなんだ。」
 くるりと方向を返されたルーズリーフに視線を走らせ、至って真面目に受け答え。ちゃんと理解しようという姿勢ではあるようで、途中で投げ出さない根気もある。だからこそ学校側も、芸能人という一種"色物"な彼を、本人の希望のまま就学させているものと思われる。
「妖一って、教え方上手だよね。」
「そっか?」
「うん。進なんてさ"じゃあ、これとこれを解け"って言って、それだけ。後で答えを見てくれるんだけど、此処と此処が間違ってるって言うだけで、どう間違ってるかとか、全然説明してくれないし。」
 そ、それって。
「…それなら別についててもらわんでも良いのでは。」
「だろう?」
 でも、セナくんのお勉強はちゃんと見てやってるって言うしさ。セナくんも成績が上がったって言ってたし。二人には言わずとも通じる何かがあるにしたってさ、なんか釈然としないよな、と。むむうと膨れながら、それでも手元はちゃんと動いていて、
「出来たっ。」
 テーブルの上をすべらせて、ついと差し出されたルーズリーフ。向きを変えて確認し、
「おー、ちゃんと合ってるぞ。」
「合ってるってのは何だよ。」
 当てものじゃないだろうがと膨れたが、この吸収の良さは相手をしていてもなかなか小気味が良い。そんなせいで、昨日も嫌がるのをやや強引に付き合わせての"お勉強会"を開催してしまい、うっかり…セナたちの準々決勝を観に行き損ねた蛭魔だったりするのである。
「………っと。」
 今日の分はこれで終しまい、と、教科書を鞄へ片付け始めたそのタイミング。その鞄から携帯の着信音がした。
「メールだ。」
 慣れた様子で手に取って、液晶画面を開くと、

  【着信 from;虎吉
       テレビ見たぞ。何やってんだよ。
       ドラマ休んでんのに、危ないこと、してんなよな。
       大学の受験とアメフトに、もっと頑張れ。】

 相手と文面に"あちゃー"という苦笑がこぼれる。昨年、試合中のアクシデントで入院した時に同室だった男の子。たった一本のキャッチに魅了され、アメフトの世界では全然無名もいいトコだった"桜庭春人"のファンだと言ってくれてた子で、
"あの頃はまだ、セナくんの正体も知らなかったんだっけな。"
 丁度彼が雷門くんとお見舞いに来てくれてたタイミングだったななんて思い出していると、

  「………誰だ、それ。」

 肩口からの声がした。唐突だったそれへ"んん?"と我に返ったその途端。ソファーの背もたれ越しに、ふわ…っと。こちらの肩口へ顎を乗せる格好で、背中というのか肩というのかへ、両腕を軽く回して来ている誰かさんであることに気がついて…。

  "え? え? え?!"

 な、何、この態勢っ! というところでしょうか、現在只今の"内なる春人くん"の思うところは。
(笑) 相手の顔近くに引き寄せられた小さな液晶画面を覗き込むための、あくまでも"一番見やすい"自然なポジションに顔を持ってっただけのこと…なのだろうけれど。そう、彼に"他意"は無いのだろうけれど。これって…背後から ふわりと抱っこという、結構親密なくっつき方ではなかろうか。
「なあ、誰?」
 他意が無いからこそ平板な声で重ね訊く妖一に、
「あ、えと…。うん。」
 何を訊かれているのか、まるで熟睡状態から目覚めようという精神的格闘よろしく、必死になって正気に返り、
「そうそう。あのね、去年、病院で知り合いになった子。タッチフットやってた子で、交通事故で入院したんだって。今はリハビリ頑張ってて…えと。」
 たどたどしく説明しながら、春人が"そろぉっ"と見やった…すぐ隣り。白い横顔が、肌からの温みが伝わって来そうなほど間近になっていて、色みの薄い虹彩に構成された眸が、まじろぎもせずに携帯を覗き込んでいる。

    「…で?」
    「なに?」
    「いつまで見てんだ? この文面。」
    「???」

 またまた即座には意味が判らなかった春人だったのだが、

  "………あっ。"

 これって…もしかして。

  "ちょっとだけ…妬いてるのかも?"

 名前からして男の子。(いや、HNなら判りませんが。)だのに、こうまで親しげなメールをくれて、しかもそれを見た春人がクスッて自然な顔で笑うような間柄。それが…もしかして面白くない、とか。
"ふ〜ん。/////"
 あまり明からさまに喜ぶと、彼も鈍感ではない方だから。何を思った自分なのか、即座に気づくことだろう。そうなって…照れ隠し半分に怒らせるのも剣呑なので、問題の携帯をパタリと閉じ、鞄へと戻す。すると興味を失ったらしく、あっさりと離れてしまう温身が何とも惜しかったが、
"うう…。"
 まま、このくらいのことで手がつけられないくらい不機嫌にさせるよりかはマシだろうてと。ちょっとは学習した桜庭くんであるらしい。
"可愛いよなぁ。/////"
 何とか圧し殺した にまにま笑い。だが、ふと、気がついたことがあって、
「…なあ、妖一。」
「んん?」
 広いリビングの一角には大きめのゲージが置かれてあり。3日も泊まればお客様ではないという感覚なのか、今日は春人にも執拗にはじゃれつかず、大人しく二人のお勉強会を眺めていたキングのところへ、じゃらしに向かった細っこい長身が振り返るのへ、春人はやや堅い声を掛けている。
「あの男を追い詰めた時にさ。予定通りにセナくんが来なかったら。ううん、相手が問答無用でナイフで切りつけてたらどうしたの?」
 これは繚香嬢にもくれぐれもと打ち合わせたこと。あの男が早まって、一気に鳧をつけようと構えたなら、これほど危険なことはない。だが、あそこまで待った以上は、まだ人の目、目撃者への警戒心は過敏なままな様子だから。いいな、万が一、連れ出された途中のスタジオ内や駐車場など、予定外な人の気配のないところへと向かいそうなら、大きめの声で喋るなり、携帯電話を掛けたいんだがという振りをしろ。どの廊下にもADや大道具掛かりに扮した"こっちの関係者"を詰めさせてあるからと、そんな風に綿密な打ち合わせをしたほどで。そんな彼女と同じくらい、あの、犯人と直接顔を合わせた場面では、妖一だってほとんど丸腰の身で危なかったのに。今頃になって気がついたのではない。ただ、あの展開でしかも遠く離れていた身では水を差せず、虎吉くんからのメールの中、危ないことという指摘を見て、今だからやっと聞けたという春人だったのだが、

  「ば〜か。自信のないことをこの俺がやるかい。」

 にんまり笑ってゲージ越し、シェルティくんのふかふかな毛並みを撫でてやる。ハタハタと振られるお尻尾は、その優しい感触へのキングからの"嬉しい"をたっぷりと載せていて、
「俺の体捌きを知らんのか? 試合でどんだけ"サック"を躱していると思う。」
 遠投でロングパスを放つか、手近に走り込んで来たランニングバックに託してダッシュをかけさせるか。ゲームの流れを読んでスタートをコントロールし、試合展開の鍵を握るクォーターバック。最も高等な技術とセンスがなくてはこなせなかろう、正にチームの要の"司令塔"。素人の寄せ集めで壁
ラインが貧弱だった時代から、そのポジションにて技を磨いて来た彼は、パス出し潰しのタックル"サック"にも、臨機応変、まるで闘牛のマタドールのように対処して来た、ド派手で華麗な見た目と裏腹、それは強かな"叩き上げ"のテクニシャンである。柔軟にして俊敏な体捌きは、成程、ちょっとした武道の呼吸にも匹敵するほどに、それは優れた代物なのかも知れないが、
「でも…っ!」
 スポーツとあんな修羅場とを、同じ次元で考えてはいけない。どんな番狂わせが挟まるか、どんな突発的な事態に転がるか。結果論として無事に済んだから良いようなものの、
"気が気じゃなかったんだからな。"
 警備主任の高階さんに彼からの伝言が届いてから、さりげなく少しずつ、スタジオを離れることになって。本当なら一刻も早く妖一の傍らへと駆けつけたかったけれど、マスコミの目を引き付けておくのが自分の役目。臓腑
はらわたが千切れるんじゃなかろうかってほど、それは心配していた春人だったのだ。
"…ここでボクが怒ったって、詮無いのかもしれないけどさ。"
 同じ穴の狢
むじなだから説得力もないし、キングへの躾けではないが、その場で言わなきゃ効果もなかろう。
「………。」
 何をおいても大切な人。それがこうも破天荒で行動派だと、ホント、これからも大変なんだろなと、何とも言えない感慨が沸いてくる。言いつのるのを諦めて、ふうと肩を落とした春人に、
「…あのな。」
 不意に。妖一の方から口火を開く。
「チビに…今日、ちゃんと言っといたから。」
「え? あ…。」
 一体何を言い出したのかと。聞き返しかけた春人だが、これにはすぐさま察しがいった。彼にとっての"チビ"というのは、あの可愛らしいランニングバッカーくんのこと。今回、一番心配した人物なんだろうからと、さんざん急
っついていたのへ、手を打ったよと報告して来た彼なのだろう。とはいえ、謝った…ではなく何をか"言っといた"という辺りが何とも"俺様大王"の蛭魔らしくて。
"…まあ、いきなり殊勝な人になられてもね。"
 胸中でちょびっと苦笑して、
「なんて言ったの?」
「何か1つだけ、言うことを聞いてやるって言った。そしたら、すぐには思いつかないってよ。」
 胸を張っての随分と偉そうな言いようへ、
「…あのね。」
 春人が眉を寄せたのは言うまでもない。
「なんだよ。」
「まずは"心配かけたな、ごめんな"でしょ?」
「そういうお前だって、謝ったのか?」
 セナや進に。そうと訊かれて、
「………セナくんには、あれ以来まだ逢ってないし。」
「進には? 今日、学校で逢わなかったのか?」
 やや意地悪そうに"ちろん"と見やって来る目つきが、訊いているというよりも…自分だって同類なんだろうがと言いたげで、
「………うん。謝ってない。」
 そうだね、うっかりしてたと、これはちょっと反省。ほら見ろとにんまりと笑った妖一の顔が、何だか悪戯っ子のそれみたいで、
「で? セナくん、何て言ったのさ。」
 押しのけるみたいに強引に話を進めると、
「だから、思いつかないとさ。」
「はあ?」
「だから。急に言われてもそんなこと思いつけないって。だから"貸し"にしといた。思いついたら いつでも言えよって。」
 そんだけだというご報告へ、
「思いつかなかったって?」
 春人が怪訝そうな顔をする。
「ああ。」
 こくりと頷くと、ますます眉を寄せて見せるものだから。キングの傍らから離れ、ソファーの方へと戻って、
「何だよ。」
 気になる態度じゃないかよと訊けば、
「だってサ。」
 それこそ真剣そのものというお顔で、
「幾らだってあるだろうに。」
 そんな言いようをする彼で。
「突然銃を突きつけないで下さいとか、ケルベロスをけしかけないで下さいとか。何とかいう怖い手帳から自分のこと消して下さいとか。」
 他校の人なのに…いやに詳しいんだね、桜庭くん。
(苦笑)
「セナくん、そういうのは苦じゃないのかな?」
「お前な…。」
 そうまで言う割に、この青年はそんな自分のことを"好きだ"と言って懐くのを辞めない。すげなくされても つれなくされても、蹴られようがモデルガンの的にされようが、全く懲りないままに、まとわりついて来た、ある意味"強者
つわもの"である。
"…そうなんだよな。"
 悪い言い方で惰弱そうな軟派そうな、柔らかな印象の強い、優しげな見かけに騙されてはいけない。芸能人だから、と言うのではなく、何かしらの拍子、思いもよらない気配りからの叱責を、さりげなく下さる青年でもあって。

  『人を"駒"扱いにして。』

 奥行き深い彼だから気づくことが出来るのでもあろうし、その言いようはいつも尤もだなあと思う妖一でもあって。だから今回、その指示にしたがってセナにそんなことを持ちかけもした。
"………。"
 伏し目がちになると聡明そうな表情になる。そのくせ、子供みたいな屈託のない笑顔。柔らかくてやさしい印象は造作のせいだけでなく、本人のおおらかさからも発しているには違いないのだけれど。このところ、ちょっぴり大人びた男臭さの片鱗も覗かせていて。かっちり整った体躯と顔の小さな等身には、明後日にも合服へと衣替えとなる制服やらスーツ・ジャケットのような、トラディショナルな着こなしがすっきりと似合うのに、裾を出してGパンにシャツなんていうちょっとラフな恰好の方が実は好きで。甘えたで人懐っこい話し方。でも、全部晒してはいない。強
したたかさからのことと言うよりも…。
"…何でだろう。"
 諮ってとか企んで、そうしているとは思えない。それこそ彼の思惑に乗ってしまってそう思えるだけだろうか。
「? どしたの?」
 今度は不意に黙りこくった妖一の顔を、間近から覗き込む端正な顔。はっとした弾みで、つい、
「何でもねぇよ。」
「あだだ…。」
 目についた前髪を、ついついぐっと握ったが。
「もうっ。結構痛いんだよ?」
「…うん。」
 言われて素直に…謝ってるつもりか、こくりと頷きながら手を放す。
"…可愛いなぁvv"
 おいおい、まだ惚気るかい。
(笑) 二人きりでいる時は、普段よりも何割か、穏やかな彼であるようで。だったらこのまま二人きりで居たいなぁなんて、たるんだことを思ったりもするのだが。アメフトのユニフォームを身にまとい、切れの良いパスを放つフォームも綺麗で華麗だし、マシンガンを振りかざし、凶悪そうな笑い方をして元気一杯に暴れ回る彼もまた、それはそれで生き生き溌剌としているところが魅力だと思うようになった自分に、
"…う〜ん。もしかして重症かも。"
 そんな風に感じて苦笑する春人だったりするのである。…重症どころの話じゃあないかも。
(笑)


    「思ったんだが、チビが泣くほど心配したってことはだ。」
    「んん?」
    「お前が心変わりして、俺んコト見限るかもってシチュエーションは、
     重々考えられるって思ってたからじゃねぇのかな。」
    「…何だよ、それ。」
    「泣くほどだぞ? 泣くほど。そんだけリアルだったんだ、うん。」
    「だってそれって、セナくんだから思ったことで…。」
    「そうだ。あいつはお前が俺に懐いてるのを知ってたんだぞ?
     なのにああまで心配したってことは、あっさりと信じたからだ。
     そうかお前、遊びで俺に構けとんのか。」
    「何でそういう解釈になるんだよう。」


  ――― な、なんだか。これって単なる"痴話ゲンカ"ではなかろうか?
       とりあえず、カメラはこの辺りで撤退したいと思います。
(オーバー?)



   〜Fine〜  03.9.27.〜10.3.


   *これのラストを書いてる時に5巻が出たのですが、
    前半が桜庭くんのお話で、
    後半の太陽高校戦の終盤では、蛭魔さんへのサックの話が出ていて、
    何だか二人の特集みたいな気がして嬉しかった変な奴です。
   (進さんも出ていたし、後半はラインの面々のお話だったのにねぇ。)

   *こういうタイプの人たちは、本当に書いたことがないものだから、
    なんか新鮮で、小さなネタも会話のネタも尽きませんで。
    いかんいかん、ここは"進セナサイト"なんだから…と。
    只今、必死になって頭の切り替えにかかっております。(笑)
    長々とお付き合い下さってありがとうございました。
    またまた充電してから、新しいお話にてお逢い致しましょうvv






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  aniaqua.gif という訳で、おまけ劇場
おいこら aniaqua.gif


 何か1つだけ、言うことを聞いてやると、蛭魔くんから言われたならば。

「ボクだったら絶対、髪を下ろしてて下さいってお願いするけどな。」
「…まだ言ってんのかよ。」
 これは昨夜まで逆上るお話で。もう寝ようかとそれぞれのお部屋に引っ込んでから、だが、携帯電話の充電を思い出した春人であり、
『…妖一?』
 制服やら鞄やら、色々と実家からも持って来てもらってはいたけれど、そんな小さなものまでは手が回らなかったらしくて。そういえば色々な携帯を使い分けている妖一だったと思い出し、同じ機種のを持ってはいないかと部屋まで訪ねたところが、
『おう。何だ?』
 風呂上がりだったらしい、仄かに頬が火照ったままなパジャマ姿にも、うっとりしかかった春人くんだったが…それよりも。まだ半分ほど濡れていた彼の髪が、重力に任せて素直に下へと降りているのを、初めて見た。
『………妖一?』
『? 他の誰だってんだ?』
 あれほどまでに堅く立てていた整髪料をすっかり落とされた自毛は、意外なほどに猫っ毛であるらしく。鋭角的な作りの顔の造作の方はまるきり変わっていない筈なのに…。

   "…何で、こんなに印象が違うんだよう。/////"

 刃物や火薬、危険物系統の迫力を帯びていた凄みが、凄艶妖冶という方向の迫力に変わる。淡い虹彩の瞳を浮かべた切れ長の眸も、細い鼻梁も肉薄な口唇も、ロウを思わせる深みのある透明感をたたえた真っ白い肌目も。それはそれは鮮やかなまでに艶やかで、
『…ご、ごめん。』
『???』
 見とれるあまりに用件を忘れてしまい、そのまま自分の部屋に帰ってしまったほどだった春人くんだったそうじゃ。
おいおい

「だって綺麗だったもん♪」
 思い出してのことだろう、ほわんと赤くなるアイドルさんに、
「…今度それ言ったら殺すからな。」
 坊っちゃまの両腕へ"じゃきん"とばかり…久々に出て来たマシンガン。だがだが、
「だってサっ。」
 そのくらいでは怯む彼ではないらしく、これは一ひねりした方が良いらしい。

  「じゃあ、その頭で俺が外を出歩いたとしてだ。」
  「うんうんvv」
  「お前と好みが同んなじで、
   髪形が気に入って俺にまとわりつく奴が他にも現れたらどうすんだ?」
  「………。」

 表情が固まって黙りこくること…数刻。

  「いいねっ! あの頭、ボク以外の誰かの前でやったら怒るからねっ!」
  「…お前ね。」


   お後がよろしいようで…。(笑)



 

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