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「それにしても、物凄い脚本を書いたもんだな。」
皆の前にてお互いの校章を交換し合って、出来たてホカホカの"お兄様とその弟"を、
と、3人掛かりでほれほれと追い立てるようにして送り出し。それからそれから、
『それじゃあお先に。』
今日は用事も申し送りもないからと、高見が少し間を置いてから帰って行って。春の長めの黄昏がそろそろ始まる時間帯の雰囲気に、古ぼけた部屋の空気も甘い茜に染まり始めたその頃合い。さっきまでは桜庭がセナを抱えて座っていたソファーに、締まった脚を長々と座面に投げ出すようにして、行儀悪くも横座りをしていた蛭魔が。ふと、切れ上がった目許を窓の方に向けたままにてそんな言いようをしたものだから。
「………はあ?」
そんなソファーのすぐ間際。こちらは床に直に座り込み、愛しい人の長い脚のその上へ、腕を乗っけて頬を載せ、甘えるように寄り添っていた桜庭がキョトンとする。お互いの襟元には元通りにお互いの校章が留まっていて、思いがけない展開にハラハラした分、余計に相手が愛惜しいというお顔でいたものが、何を言い出した蛭魔なのかが分からないという怪訝そうな表情になり、
「気がついてないと思ってたのかよ?」
「何のこと?」
「え? だからよ…。」
こちらもちょいと、きょとんとした蛭魔が、
「今回のあれやこれや、全部お前が企んだんじゃないのか?」
瀬那に名乗りを上げない進へ痺れを切らした桜庭が仕立てた一幕だったんじゃないのかと。訊いた途端に…。
「ひっど〜〜〜い!」
高らかに上がったのは非難の一声。
「馬鹿なこと言わないでよね、妖一の仕業じゃなかったの?」
「…お前、酷いって言っといて、なんだそりゃ。」
まったくだ。(笑) そんなやりとりをしてから。………はたと顔を見合わせる二人であって。
――― じゃあ、一体誰の仕業?
「ま…まさか、本当にこんなことまでするような奴がセナくんを狙ってるの?」
あんな謎めいたメッセージをつけて、革靴を、それも学内で昼間のうちに人知れず切り裂くような、極めつけに陰湿な輩が? それって…それじゃあ、これからもセナくんは危ないかも知れないってことじゃあと、桜庭が眉を寄せたが、
「…いや、待てよ。」
ちょっとだけ考えを巡らせていた蛭魔は、ややあって。
「お前、高見に一昨日と昨日の話をしたのか?」
「? ああ、セナくんがクラブに呼び出された話はしたよ。」
とうとう痺れを切らした奴が出たみたいだねって。それがどうしたの? かくりと首を傾げる生徒会長様に、蛭魔は重ねて訊いた。
「俺らの間柄がセナに ばれた話は?」
「ううん、まだ………あっ!」
生徒会執行部の代表という格の人間である高見もまた、この棟に"入りびたり"も同然の身なもんだから。その延長で彼らの間で交わされる会話にも随分と通じてはいるけれど。だからと言って何から何まで見聞きしている訳ではない。
「何で奴は、俺が来ている場にセナを通したんだ?」
蛭魔が陰ながら手がけている"監視・監督"という職務の関係上、彼が生徒会と繋がっていることが露見してはまずい場合も多々あるので、部外者を部屋へと上げる時、これまでならば…まずは誰が来ているのかを携帯電話などで確かめてから通していた彼ではなかったか?
「高見がセナを見守るのは不自然なことじゃない。セナの周辺がごたごたしそうだって話自体は奴にも通じてた。だから、しょげてたあいつがふらふら歩いてたのを心配して、昨日も見守っていて。そのまま野外音楽堂に向かって、俺らと合流したのを見かけたってのもあり得る話だ。けど、だったら…今朝の打ち合わせ辺りの場で、奴の側からその話が出ていても不思議はない筈じゃないのか?」
「…そうだよね。」
以後、気をつけて下さいよと窘める意味合いからも、話題として上げればいい筈で。そこまでの理屈が飲み込めた桜庭が怖々と呟いたのが、
「………じゃあ、高見くんもセナくんを狙ってたの?」
「あほうっ。」
すかさず ぱこんと。綺麗な拳がふかふかな髪ごと桜庭の頭をどつく。
「痛いなあ。」
「なんでまた、隣りの女子校の中等部に幼なじみの可愛い彼女がいる高見が、しかも…進の野郎が8年も目をかけて来たっていう坊主に横恋慕せにゃならんのだ。」
「えっ? ウソだろ? あいつ、彼女いるの?」
さすがは諜報員様で、そのくらいの情報はお手の物。腰まであろうかという長い髪の、大人しそうで可憐な、彼奴には勿体ないほど別嬪の女の子だと、えっへんとばかりに胸を張って言ってのけてから、
「奴が仕組んだんだよ、今回の騒ぎ。」
「え? え? え?」
何とも大胆な発言だったが、蛭魔としては…きちんと筋道が見通せているらしくって。
「考えてもみろ。」
1年の昇降口に、しかもあんなにタイミングよく、なんであいつがいたんだよ。セナを"見張れ"とまでは誰も言ってないんだぜ? 見かけたら注意しろって言ってただけだ。問題の靴を仕込むところや、それをセナが発見するところ。後腐れがないように他の生徒が居合わせることがないような段取りが必要だが、奴にならそんな手筈も簡単に組める。セナが通ったのを見計らい、いきなり"点検が入るから"とか何とか言ってロープを張って、通路を一時的に通行止めにすりゃあいい。執行部の下級生の何人かに指示を出しとけば、自分があちこちで奔走しなくとも、セナの動きを見守りながら、タイミングを測って携帯で指示を出すことだって可能だ。
「…そんなこと、ホントに出来るの?」
「手足になってくれる後輩の多いあいつには、造作もなく出来るさね。」
例えば、人出の多い日に緊急事態が勃発したことを仮定して、避難経路を確保する訓練だとか何だとか、幾らでもお題目は立つ。
「ウチのクラブにチビを呼び立てたのも、ほら、いつも ○曜日はお前とあの店で落ち合うことになってたのを知ってたからだ。」
気味が悪いメールだと思っただけで動かないならそれでよし。万が一にも店まで来たとしたって、俺がいるからまずは安心だろうと。そうと見越してのあんな呼び出しメールを打ったんだよと。最初からのお膳立てを解析した上で、
「くそっ。あんなとっぽい奴に してやられようとはな。」
悔しそうに臍を咬む蛭魔だが、
「…ホントかなぁ。」
それってあくまでも妖一の推測でしょ? 気が動転していて確かめなかっただけじゃないのと、桜庭としては まだ信じ難いらしくって。………はてさて、真相は一体どうなんでしょうかね。
「…くしゅっ!」
「お兄ちゃま、風邪ひいたの?」
「いや…誰かが噂しているんじゃないのかな。」
くすりとやわらかく微笑ったのは、眼鏡の似合う とっぽい…もとえ、のっぽのお兄さん。濃紺のブレザーにチェックの箱ひだスカートという制服姿の、小さな幼なじみのお嬢さんとの帰り道であり、ああそうだ、明日になったらそれらしい報告書を作らないと、なんて思い出していたりする。青葉祭を前にしてのという条件づけを付ければ何を持ち出しても不自然には思われないとはいえ、あんな夕刻に緊急避難訓練なんて、ちょっと力技すぎたからな。蛭魔辺りはそろそろ気づいているかもしれないなと、誠実そうなお顔に苦笑を浮かべて、
「そうそう。桜庭くんの写真をほしがっていましたね。
綺麗に撮ったのを譲って下さいって彼に頼んでおきましたよ。」
「…もう良いの。」
「? どうしたんです?」
「あのね、他のじゃなくて、あの時に見せてくれたのが欲しかったの。」
だって、お兄ちゃまが一緒に写っていたでしょう? お兄ちゃまだけが写っている写真だと誰かに見られたら からかわれるのが恥ずかしいけれど、桜庭さんも写っている写真なら、アイドルさんのだからってことで、からかわれないでしょう?
「…そういうものなんですか?」
「そういうものなんです。」
つんと澄まして大真面目に言う小さなお嬢さんへ、ふ〜んと新たな知識へ感心したような声を出し、
"難しいもんですね、人の想いの形とやらは。"
これは まだまだお勉強が足りませんでしたと。参ったなと笑った…今回の騒動の黒幕さんなのでした。
〜Fine〜 04.2.9.〜2.11.
*何だか中途でダラダラしちゃって、
書き手が一番楽しかった代物になってしまいましたね。
この顔触れが全部同じ学校に通っていたら…なんて、
な、なんか目眩いがしそうなくらい嬉しいんですけれどvv
*この設定だと、実は結構ネタもあったりするのですが、
うう〜ん。どうしたもんかですね。
何より、アメフトしてないのが大問題ですしね。(笑)
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