アドニスたちの庭にて “anniversary…”

   *すいません。のっけから“R−15指定”描写がありますです。
    おイヤな方はジャンプして下さいませ。→
 

 


          




  ――― なめらかなビロウドみたいな感触の、
       つんと冷たい夜陰のヴェールが降りている。


 秋の夜長に軒端に臥して、月の光の冴えたることを、愛でた歌人も今は昔。夜中であっても真昼のように、明かりも娯楽も人の賑わいも簡単に得られる今時では、冴えた夜気の中に観る秋の月も、殊更に贅沢な風流ということではなくなっていて。少なくとも“月待ち”のためにと起きているよな暇人は、今や相当珍しい。

  「…んっ。ん、んうっ。」

 ギシギシと、何かがかすかに軋む音に絡んで、圧し殺したような小さな声がする。明かりのない部屋ではあったが、それでも町中の土地だから。カーテン越しに窓の枠が見て取れるほど、外にはそれなりの夜の明るさが滲んでいて。室内の調度や何やの輪郭を、暗い海に浮かぶ停泊中の船のようにうっすら浮かび上がらせており。

  「あっ。…んっ、はっ、ぁあ…っ。」

 襲い来る感覚を堪
こらえて堪えて。きつく咬みしめた唇から、それでも漏れ出てしまう声。くぐもった悲鳴のような、それでいて何とも艶のある、細くて切ない小さな声が、切れ切れに聞こえてくる。耳を澄ませば拾えるのが、それへと入り混じる…急くような二人分の息遣い。引きつけるような身動きに連なってか、シーツを擦る音が忙しく響いて、

  「…や…ヤメ…、ん…、ぁ…っ!」

 一際高くて掠れそうな声が、とろりと冷たい夜陰の中へと吸い込まれてゆく。細い肩を懐ろへと掻い込むように抱き寄せて。啄
ついばみ合うような口づけから始まって、もつれ合うように倒れたベッドの上。唇を這わせながら着ているものを剥ぎ取ってゆき、白い肢体がすっかりと露になる頃には、彼の側の呼吸もかすかに弾んでいたのにね。淡い色合いの瞳はいつだって、いつまでもいつまでも冴えたままで。透き通った灰色のその奥底までもを覗こうとするこちらを、敢然と待ち受けている強かさに、まずは苦慮させられるのだけれども。根気よく真実の想いを囁きかけて、密着させた肌と肌から伝わり合う鼓動や体温を、このまま1つに昇華させたいのだと、熱く抱きしめ、訴えかけて。

  「よ、いち…。」

 酔ったような眼差しで見据えた先では。一度達した白い肌が、ほのかに朱に染まって何とも綺麗だ。どこもここも愛惜しくって、舐めて咬んで、吸い上げて食らう。日頃の温和そうなソフトな印象なぞどこへやらで、まるで獲物を抱え込んだ飢えたる野獣の如くに。体の下へと組み敷いた相手を、脚と脚とをからませ、腕は手首の辺りを掴んでシーツへ釘付けにし。胸元から細っこい首条へ、それからおとがいまでをむしゃぶりつくようなキスで上り詰め、辿り着いた緋色の口唇へ噛みつくように食らいつく。

  「あ…はぁ、ちょっ…ちょっと待…て…。」

 口づけの間にも、感じやすいところを大きな手で執拗に攻め立てられて。呼吸が上手く出来ずに制止の声をかけたものの、それでは…馬鹿正直に“感じています”と答えているようなもの。桜庭の手が止まる筈もなく、きつく寄せられた蛭魔の眉間にますますの溝が刻まれて、白い痩躯が悩ましげにひくついた。頭を強く敷布に押しつけ、白い手をなお白くして握り締め、体内に荒れ狂う血脈が逆流しそうな勢いでたけり狂うのへと、必死で耐えているのが見ていて知れて。
「ヨウイチ…。」
 シーツへと腕を縫いつけていた手を離しても、その先の手はシーツを掴んだままで離さない。息を殺し、声を殺し、懸命に耐えている彼だと判るから、
「ね、声出して。」
「あ…う、んぅ…。」
 聞こえていないのか、それとも意地を張ってか。顔のすぐ傍で囁いても、汗の馴染んだ金の髪をシーツへ擦って鳴らしながら、いやいやとかぶりを振るばかりで要領を得ない。一方的な責め苦にでも遭っているかのように、薄い唇を咬みしめて、理性の限界までこうやって我慢して、極力乱れて見せないのが、蛭魔のいつもの悪い癖。それでも、

  「…っっ! ああっ!」

 十分に慣らされた後へ堅くなった熱塊が突き入れられると、本能的な反応で、快感に襲われたそのままに、細い腰がひくりと震える。そのまま容赦なく、腰を支点に大きく上下へ揺すぶられ、胎内の一番の悦点を擦られるのが堪らないのか。耐えられるのもほんの一時、掠れた声で細く細く喘いでから、

  「…らば。さく…ら…、あ…っ!」

 強い刺激へ ひっと息を引き。それからしゃにむに腕を伸ばして、首元へとしがみついて来る白い肢体の温みがなんとも愛惜しい。密着した肌がそこから熱くなり、こちらの肩に背中に指を立て、どこにもやらないでと必死の勢いですがりついて来る行為が、胸の奥底までを熱く擽る。
「あ…あ、やぁっ。さ、くら…ば…っ!」
 どうにかなってしまいそうな苛烈な刺激を与えている張本人へと、助けを求めてしがみついて。
「う…ぅん、…ん…っ!」
 痙攣を起こしているかのような速さでがくがくと揺すられて、先程まであれほど堅く噛みしめられていた薄い唇が丸ぁるく開く。のけ反ることで白い首条をあらわにし、眸に溜まっていた潤みがこめかみへとあふれて流れる。

  「っ、は…っ、あっ、あーーーーっっ!」

 ひくりと撥ねたそのまま、全身が大きく反って突っ張って。一気に押し寄せた淫悦の波動にもみくちゃにされ、絶頂に耐えている苦悶の表情が…何とも淫らで色っぽい。白い額や頬に細い髪を幾条か張り付けて、涙に潤んだ眸がすがるように見上げて来ており、急くような呼吸には か細い悲鳴が絡みつく。日頃のあの、冷淡さや酷薄さが張り付いたような澄まし顔からは、到底想像も出来ないほどの。熱くて蕩けそうな、甘やかで嫋
たおやかな、それはそれは美味しそうなお顔であり。しかも、至った瞬間に内部の媚肉が勢い良く収縮を始めたものだから、
「うわ…っ。」
 こっちの雄をきゅううっと締めつけて来て、そのまま絞り取られるようなもの。痛いほど絡みつかれて耐え切れず、桜庭もほぼ同時に絶頂を迎えて…そのまま愛しい人の上へと崩れ落ちる。
「ん〜〜〜っvv」
 眸を閉じたままで薄い胸を上下させ、何度も何度も荒い息を吐いている恋人を、腕の中にきゅううと抱き締めて。
「重い〜〜〜。」
「ああ、ごめん。」
 そんな抗議を受けたので、すっかりと萎えて動けないらしき、しどけなく弛緩した痩躯を腕の中へと掬い上げると、一緒くたに寝返りを打ち。懐ろへと相手を掻い込んだそのまま、自分の胸板を背もたれ枕の代わりにと提供してやる。何とか呼吸を整えようとしている細い肩を背後から軽く抱きすくめると、その肩越しに見上げて来た白いお顔がうっすらと微笑んで…綺麗なラインを見せるまぶたの縁を降ろして見せる。判りやすいサインへ応じて、しっとりと濡れた唇へ…今度はそっとの口づけを捧げれば。まだ仄かに熱い手が伸びて来て、こちらの亜麻色の髪の柔らかさを確かめてでもいるかのように、指を差し入れてはゆっくりと梳き始める。激しいセックスは勿論魅力的だけれど、その後のちょっとした睦み合いも実は好き。やさしい温みにくるまって二人、余韻の擽ったさへと意味もなく微笑を洩らす。汗の中にも匂い立つ、甘い甘い花蜜の香り。華やかで明るい彼の気性そのままの、今では大好きになった匂いだなと。うっとりまぶたを伏せたままで堪能していると、

  「…妖一?」

 そんな声と同時、ついついと頬の辺りを何かが擦っている。薄く眸を開けてみれば、
「ほら、これ。」
「???」
 やわく“ぐう”に握った拳を顔前へひょいと突き出されても、妖一さんには何のことやら判らない。懐ろの中で小首をかしげるハニーの白い手を取ると、左手の薬指へと細いリングをすべらせる桜庭であり、
「………何だよ、これ。」
「え? 妖一、指輪も知らないの?」
 これはアクセサリーの一種でね、良いかい? 滅多なことで外しちゃいけないよ? 何たって大地の精霊ドワーフが守りし伝説の指輪だからね、秘密の力を持っていて、魔界の王が狙っているからね…なんて、どっかの映画になった物語みたいなことを言い立てて、

  「あほう。」

 裏拳の手の甲側でごつんと、おでこと鼻の先をこづかれても、そのくらいでは今更メゲない、アイドル生徒会長さん。
「僕とお揃いなんだよ、それ。あ、学校では先生に見つかるから外しててね?」
 没収されちゃうからねと、鹿爪らしく言う彼に、
「だからだな…。」
 薮から棒に何なんだと訊いとるんだ、こら…と。誕生日でもないのに貢ぎ物をされたお姫様が問いかけると、(「誰がお姫様かっ!」)

  「やだなぁ、明日…あ、もう今日になっちゃったね。1周年だからだよvv」
  「………はあ?」

 キャッvvと恥ずかしそうな素振りの先で、肌触りの良い毛布を肩まで掛け直してくれる桜庭だったが。確か…出会いは四月の入学式だった筈だし、妖一さんの側が桜庭くんの猛烈アタックに根負けし、校章を交換したのは七月だった筈で。
「…俺がガッコを下見に来た時に見初めたとか言ってたな。」
 それってこの時期だったかな? いや待て、それだと“2周年”になる筈だしなと、何の記念日なのかをうんうんと思い出そうとする妖一さんの。すぐ鼻の先というほどの間近になってる柔らかな金の髪の中へと顎先を埋めて、くすすと微笑が絶えない桜庭くん。
「判らない?」
「ん。」
 素直に頷き、こちらを見上げて来る恋人さんのその所作が、何の含みもないまま妙に子供じみていたものだから。思いがけなく目にした稚
いとけなさに、ほわりと品のいい甘さを舐めたような、そんな気がして破顔をしつつ、

  「だから…、こゆこと初めてしたのの“1周年目”だってば。」
  「…あ。///////」

 そう・い・え・ば。急に寒くなった、あれはしし座流星群の飛び交った頃合いのこと。場所はやっぱり、この桜庭家の離れのベッドルームだった筈で。天窓があるから寝たままで流れ星を観察出来るよなんて、白々しいことを言って誘って来たのへ、しょうがない奴だなぁとほだされて…。
“そういうのの1周年って…。”
 よくもまあ覚えてたよなと、呆れるやら…擽ったいやら。彼からの猛烈なモーションに始まった腐れ縁は“君が特別な人だから”から始まっていて。途轍もない数と幅の層の人々から“求められてる”この青年ご本人から、他の誰でもない自分をこそと望まれているのだという事実は、時に晴れやかな高揚感や優越感で胸の中を満たして止まず。だがだが、甘い顔をして見せれば途端に図に乗って、人前でものしかかって押し倒すほどの甘えた振りを発揮する困った坊ちゃんでもあるものだから。
“記念日だってんなら、こっちもこっちで気を引き締めんとな。”
 この指輪を見るたびに思い起こそうと。あらあら、甘い思い出記念の指輪だったはずが、何だか逆効果を招いた贈り物になってしまったようですが。
(笑) 余程に啼かされ、くったりと疲れてしまったか。瞼も重く、そのままとろんと総身が萎えて来た恋人さんの温みを懐ろに抱きしめて、

  「♪♪♪」

 幸せの絶頂にいる桜庭くん。静かな静かな秋の夜長の一時を、甘くホットに堪能しておりました。






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  *このお話は、シリーズ物というか続き物になりますので、
   仕様を変えてこれまでのものとは区別させていただきます。
   それにしても…微妙に間が悪いような。
(う〜ん)