アドニスたちの庭にて “裏と表と?” A
 

 

          



 クラスメートたちが興味津々という体でいろいろ聞きほじりたがるのは、この皆様がとっても素晴らしい方々であり、なればこそ近寄り難くもあるがため、そのプロフィールの詳細がなかなか 分からない・覗けないという点にある。謎めきやミステリアスという要素は、いつの時代の誰にでも、絶大なる効果を齎
もたらす最高の媚薬であるらしい。

  「ぼくも最初は、こんなにもフランクリーな方々だとは思ってなかったですもの。」

 緑陰館のお二階の、広々とした執務室へと上がらせてもらい、高見さんが淹れて下さったアイスティで喉を潤して。今日もクラスメイトたちに皆さんのことを訊かれて、ちょっぴり困ってしまいましたと苦笑すれば、
「え〜? それじゃあ、セナくんは僕らが怖かったの?」
 桜庭さんが大仰に驚いて見せる。さすがは時々テレビに出ていらっしゃるアイドルさんであり、端正に整ったお顔は浮かべる表情もたいそう豊かで。半分くらいは冗談だろうに、心外だなあというお顔を向けられた小さなセナくん、わたわたと慌てた。
「あ、そうじゃなくてですね。」
 怖いという意味の近寄り難さではなくて、あのそのとちょこっと慌てて、それからね。
「もっとこう大人っぽいというか、僕なんかには難解な、高尚な話題に静かに語らってらっしゃるような。そんなイメージがあって。」


  ――― そうそう、F=マイヤーの新譜はもう聴いたかい?

  ――― ああ、勿論だとも。
       彼の曲にはいつもイマジネーションをくすぐられるよ。

  ――― 根源に据えられたポテンシャルのカラーがね。独特なんだよね。

  ――― そうだね、スルリと肌身から蕩けて納得させられるというか。
       あれは なかなか希有な表現力だよ、うん。


 日頃の会話に、自分には難解だろう そんなような芸術論とかが自然と出て来そうな、そんな知的でハイセンスな方々だと思っていたらしいセナくんなのだが、実態はと言えば…。


  「う〜〜〜。これって何て書くんだっけ。進、分かる?」
  「………。」(黙って辞書を差し出す。)
  「もうっ、意地悪。ねえ、高見く〜ん、教えて。」
  「ダメですよ。ちゃんと自分で調べなくては。」
  「え〜、良いじゃんか。知ってる人が間近にいるんなら訊いたって。」


 ちょびっと上目遣いになって、ねえねえと甘えたお声を出してみたりして。会長でいらっしゃる桜庭さんからして この屈託のなさ。いつものことだからか まるきり動じぬまま、こちらもいつもの"無表情"でいらっしゃる進さんといい、逆に、後輩さんも見ているというのに こいつはよぉと、呆れたように目許を眇める蛭魔さんといい。はっきり言って…威厳もへったくれもないほどに、ごくごく普通の高校生に過ぎなくて。

  「大体さ、何でウチの承認決裁書は手書きじゃなきゃあ いけないんだろね。」

 案件提出には皆、パソコン使ってプリンターで打ち出したの持って来るってのに、決裁書は相変わらず 全部手書きってのはどうよ。署名だけ自筆でも良いじゃないか。専用の書類箋を前にぶうぶうと膨れる桜庭さんに、高見さんが苦笑をし、

  「確かに、今時の風潮から言えばアナクロではありますが、
   ちゃんと内容を理解した上で決済してますよっていう、
   確認代わりというか、一種の証明になるからじゃないですかね。」

 それに自筆だと偽造もしにくいですしねと、一応の理屈を通した上で穏やかな表情や口調で宥めたものの。今日明日にも変革される代物でもないというのは、ぶうたれたご本人も…実のところはよくよく判っていて、

  「う〜〜〜ん。」

 柔らかそうな前髪の陰、品のいい形に整えられている眉を寄せつつ、う〜んうんと唸って数枚ずつをステプラーで綴じられた書類の束との睨めっこを再開する。そんな桜庭会長をよそに、

  「…えと。」

 他の皆さんはそれぞれに、別なことへと意識を向けていらっしゃる。暖かな陽気だからと広く開け放たれた明るい窓辺の小さな脇卓にて、白と黒、チェック模様の盤を挟んで向かい合っているのは、小さな弟くんと黒髪のお兄様の二人であり。こつりと進められた相手の駒たちに追い詰められての窮地に陥り、あややと小さな肩をすぼめたセナの傍らに寄って、銀縁のメガネの縁をちょいと指先でずり上げた高見さんが、

  「………。」

 セナくんの小さな肩に指の長い手を置いて、こっそりとした目配せを送る。それを見たセナが、指示されたらしき駒を手に次の手を打てば、
「………。」
 同じ駒を持つと大きさがいかに違うかが歴然とする、進さんの大きな手がすかさずの手を打って来たものの、

  「あ…そっかvv

 それへの対処は、高見さんへ頼らずとも判ったセナくんであるらしく。ニコニコしながら塔の形をした駒をついと動かして見せたのだが、

  「お………。」

 その一手には、進さんの無表情がそれと判るほどに弾かれて。それから…雄々しく鍛えられていることが濃色の制服の上からでもよく分かる、分厚い胸の上へと腕を組みつつ"う…ん"と唸ってしまったから。

  「やりますね。なかなか筋が良いですよ。」

 ほんの先週、駒の種類を教えたばかりですのに、もうこの応用が理解出来るなんて凄いことですよ。静かなお声で高見さんが褒めてくださるのへ、

  「そんなことないですよう。////////

 とっても丁寧に教えて下さったからですと、謙遜して真っ赤になる可愛い子。高校一年生にしてはかなりの小柄で、腕や脚も細く、しかも愛らしいまでの童顔という姿をしたセナくんには、それだけでも結構な注目が集まっていたその上に、それがために…という とある騒動の核という立場にも立たされてしまい。彼を保護する"お兄様"になりたがる者が続出し、その一方で…不器用な片思いをなかなか打ち明けられない困った人の背中を押してやるべく、とある秘策が発動されて。小さなセナくんには少々酷にも"怖い思い"をさせてしまったが、それでもね。双方間違いなく同じ想いを抱えていた胸の裡を、互いに打ち明ける良い機会にもなったそのおかげで、晴れて両想いという最良の結末を迎えた可愛らしいお二人さんであり。ごく自然なこととして、こんなにも間近に向かい合い、まろやかに笑い合って過ごせるだなんて、ほんの半月ほど前には夢にも思っていなかったのにと。ふぬぬと困り顔になって盤上を睨んでいる愛しいお兄様を、うっとりと眺めやるばかり。そこへと、
「そんなに強いのか? こいつ。」
 さっきまでは知らん顔のまま、自堕落にもソファーに長い脚を投げ出すようにして横座りし、関心があるのか集中しているのかも定かではない いかにも無心なお顔で雑誌を眺めていた蛭魔までがすぐ傍らに寄って来ていて。二人の間にある盤面を見るなり、
「…お、これは凄い。」
 小さく感嘆のお声を上げる。こいつ負かしたら次は俺な。何だその言い方は、まだ決着はついてない。そうか? この形勢から抜け出せるのは高見くらいのもんだと思うぜ。窓からそよぎ込む緑風に髪をなぶらせて、屈託なく笑い合う皆様へ、

  「もうっ!」

 おおう。とうとう生徒会長様の辛抱にも限界が来たらしい。バインダーやらファイルやら、ざっと眺め渡しただけでも十数冊はある"案件"の書類が積まれて出来た、デスク上の"台地"をばんばんと叩いて、

  「何で僕だけこんなにも仕事があるのさっ!」

 しかも皆は暢気に遊んでるのに。その和やかな雰囲気が気になるものだから、ますます仕事の捗
はかが行かないらしくって。とはいうものの、

  「仕方がありませんよ。」

 高見さんが残念そうに眉を下げつつ応じて差し上げ、
「そこにあるのは全部、僕らのやるべきことを済ませたものばかりです。参考資料や何やも添付しましたし、あと…これはちょっとばかりフライングものではありますが、決済さえ通ればすぐにも執行部へ降ろして手配が打てるってところまで、ぎりぎり先の仕事もやってあるものもありますし。」
 だから後は会長様が目を通すだけ。自分や進や、ましてや蛭魔やセナには手が出せない代物ばかりなので、桜庭会長に頑張っていただかなくてはね、と。やはり、筋道の通ったご説明をなさり。ご丁寧にもその肩の向こうで、副会長の進さんまでもが"うんうん"と感慨深げに頷いていたりするものだから、

  「…酷いよう〜。」

 これだから"会長"になんか なりたくなかったんだ、クラスの皆が推薦して、しかも何でだか票が集まってさ。僕みたいな遊び好き人間に務まる筈ないっての…と。日頃は大人びてさえいる筈の端正なお顔をむくれさせ、当選した時点まで逆上ってぶうたれ出したから、これはちと根が深そうだ。
"あやや…。"
 仕事の効率という点には、向き不向きだって大いに関与する。人の気持ちを集めたりまとめたり、叱咤激励するのが得意な、強いカリスマ性をお持ちの桜庭さんは、されど、こういった細かいお仕事は苦手でいらっしゃるらしく。これはどうするのかなと心配そうに見やっていたセナの視野の中、

  「…じゃあ、こうしましょう。」

 高見さんのすんなりとした背中が執務用のデスクへと向かう。机の上から何冊かの綴りを手に取り、ぱらぱらと捲りつつ検分なさってから…2つのファイルを手に取った。

  「この2つの案件。
   青葉祭に関する統合計画書と、進行過程における企画書など提出物への統一案。
   これに鳧をつけて下されば、今日はもう帰ってもらっても構いません。」

  「え? ホント?」

 拗ねたようにデスクの上へ伏せかかっていた身を起こす桜庭さんへ、
「ええ。明日明後日の土曜日曜もお呼び立てしませんよ。」
 しっかりと頷いて見せた高見さんは、やわらかく微笑いながら こうも付け足した。
「勿論、蛭魔くんにもお付き合いいただきません。一緒に帰って下さって結構です。」
 これには、桜庭さんが"わっvv"と嬉しそうになった反面、
「ちょっ…おい。」
 勝手に人の処遇を決めてんじゃねぇよと、当の蛭魔さんがその鋭利な拵えのお顔を凄ませて抗議しかかったものの。肩越しに振り返った高見さんの"済みません"と言いたげなお顔にあっては、
「…判った。」
 その矛先もたちまちに鈍るらしい。何といっても、全てを丸く収めるための一番効率のいい手筈だし、それにそれにvv これは後になってから気がついたセナだったのだが…手荒く叩いたり蹴ったりして桜庭からの人目を憚らぬ"熱愛
モーション"へとすげない素振りばかりを見せている彼だけど。自分の意志で校章を交換なさっているほどに ちゃんと納得済みの両想いさんには違いなく。桜庭さんが"決済地獄"に束縛されてる間は、ずっとずっとこの執務室にいなければならず、つまりは…二人きりにもなれない訳で。

  "高見さんて…凄いなぁ。"

 あくまでも自然に穏やかに、相手の子供な部分や大人な部分まできっちり把握した上で、押したり引いたりして速やかに段取りを運んでしまった鮮やかさ。はやや…と呆気に取られていたセナのお向かいから、かたりと進が立ち上がる。ひょこりと小首を傾げた愛しい弟くんと眸が合って、大きな手で髪をぽふぽふと撫でてやると、無言のままデスク前へと向かう彼であり、見送った大きな背中は、

  「???」

 傍らの書架から録音用のMDプレイヤーを降ろしてセットする高見さんの傍ら、椅子を引っ張ってくると、生徒会議事録用の書箋を広げてデスク前へと着座する。そんな二人と向かい合いつつ、指定されたファイルに綴じられた書面を素早く流し読みしている桜庭さんは。何ごとだか口の中で呟き続けていらっしゃり、
「…えと。」
 一体何が始まるのだろうかと、てきぱきと運ぶ展開へ、首を傾げたままでいる小さな後輩さんへ、
「まあ、見てな。」
 唯一傍らに居残ったままでいた蛭魔さんが、どこか楽しげに"ククッ"と笑って見せる。鞭のように撓やかに強かに引き締まった肢体を背後の窓枠へと凭れさせ、長い脚を交差させるようにして組み、

  「あの素っ惚けたお兄さんが、なんでまた
   まだ二年生なのに…正確にはまだ一年生だった去年の秋の終わりに、
   "生徒会長"なんて大任へと推挙されたのか。
   さっき本人も文句を言っていたが、
   それがどうしてなのかが はっきりと分かるぜ?」

 それを自分の誉れのように、愉快だというお顔で言ってのけるものだから。セナとしては…お口を噤んで見守るしかなくて。そうこうする内にも、

  「………よしっ。」

 書類に一通り 目を通して把握なさったか、うんと大きく頷いた桜庭さんを前に、高見さんがレコーダーのスイッチを入れる。どうぞと促され、んんんっと咳払いをなさってから、

  「第○○回 青葉祭に於いての統合計画をここに立案する。
   まずは準備組織の確立と編成。
   球技大会の各種目の運営に必要なチーム作りは運動部、
   上演々目や展示物に関しての運営に必要なチーム作りは文化部の、
   それぞれの代表者たちから成る連絡チームを設立。
   これはそのまま当日までの各部への連絡責任者を兼任のこと。
   また、各クラスへの競技運営用の連絡網は別個に編成。
   特に一年生のクラスへは、
   縦割り競技とクラス別競技への通達に混乱のないように、
   連絡時毎に内容確認を徹底すること。」

 すらすらと淀みなく、台本があってそれを朗読しているかのような弁舌だが、桜庭さんが見ているのは…昨年の資料なんかではなく、提出された計画試案書の方。

  「使用する施設、教室、備品に関しての届け出は、
   当日前の準備・練習を含めて徹底させること。
   特に放課後の教室の利用に際しては、
   例年のこととして無届けなままに空き室を使うグループが出るが、
   物品の破損や盗難といった被害も少なからず出ていることを顧みて、
   今年は違反者への罰則を考慮する準備があると通達しておくこと。
   それから………。」

 さっきまでごねていた駄々っ子は何処へやら。凛然とした面差しは毅然と冴え、伸びやかな声で堂々と紡がれる文言の流れは滔々と、MDへと録音されつつ、進さんの手元の用箋の上や高見さんの操るノートパソコンへも どんどん収納されてゆく。

  「凄い…。」

 例年通りの事項に関しては昨年の資料をそのまま参考にすればいいことではあろうが、それでもね、

  「会場設営や準備中の頒布資料など、消耗資材として経費のレートに関しては、
   本年度はDIYの笹谷様からのご厚意で優遇していただけるので、
   その分を換算時の考慮に入れること。」

 こんな風に新規の条件や何かもあって。他にだって参考にする資料が要るだろう事項は数え切れないほどあるのだろうに、そういうことが既に頭の中へと全てインプットされていて、どの事案に必要なことかが速やかに引き出されるほど把握している彼だということだろう。

  「尻に火がつきゃ、あの調子だ。」

 さっきまでの情けなさは何処へやらだろ? いかに裏表がある奴なのか、だよな。そうと言って くつくつと愉快そうに笑う蛭魔であり。嫣然とした笑みに細められた目許や、その端が妖冶に吊り上がって何とも艶たる表情を浮かべている綺麗な口許など。いかにも強かそうな、それでいて楽しげなそのお言いようには どこか…自慢げな気色があって、

  "蛭魔さんてばvv"

 こんな立派な恋人さんが誇らしくてしようがないんだな、ちょっと可愛いかも…なんて、後輩さんに思われてしまったりしてvv
おいおい こうして…連休の数日間に渡って催されるという、新入生歓迎&入部勧誘エキシビションを兼ねた"青葉祭"への基本設定組織の編成と概要の全体像が、微に入り細に入りという周到な手配や段取りを敷かれた代物として ほんの十数分にて立案されてしまい、後片付けの諸注意まできっちりと提言されてから…。

  「………で。」

 MDレコーダーのスイッチを一旦停めた桜庭さんが、おもむろにこちらへとその視線を投げて来た。こちらというのは、傍観者でございますと今まで単なる見物を決め込んでいた部外者二人のことであり、

  「妖一〜〜。君、確か去年の霜月祭、裏でトトカルチョ張ってただろう。」
  「………うっ☆」

 にんまりと笑う桜庭さんだが、深色の眸は全然笑ってなんかいなくって。霜月祭というのは11月の末に催される、白騎士学園 高等部恒例のマラソン大会のこと。ハーフ、フル、そして駅伝と、各種執り行われる、ここいらでは結構有名な晩秋の行事であるのだが、
「…それがどうかしたのかよ。」
 言っとくが そん時の金ならもう無いからなと、開き直ったみたいに嘯
うそぶく彼へ、
「うん。済んだことだからね、それは良いんだ。」
 お父様に内緒で来年オートバイを買うための資金なんだしねと、要らんことまですっぱ抜きつつ、やっぱり朗らかに笑ったまま、桜庭さんは続けて、

  「今回の"青葉祭"でも、君が胴元になっての賭けをネ、張ってほしいんだよ。」
  「………はあ?」

 な、なんか とんでもないことを言ってませんか、この坊ちゃん。

  「だからさ、君のところの、
   あくまでも学生が遊びで賭けてるレートを基準にしたい訳。
   それ以上の法外な賭場には
   たとえ"大人"の代物であっても容赦なく手を入れさせてもらう。」

 だってさあ、スポーツが得意でもないし好きでもないって子もいるのに、そんな子まで頑張って出てくれる大切なお祭りで、楽して儲けようなんて魂胆の大人、許せると思う? そんな悪い習慣が、なのに連綿と続いてるっていう不名誉、僕の代くらいは無しにしたいの。あ、心配しなくても大丈夫だよ。ガサいれには本職の公安関係の方に出ばってもらうからね、ウチの警備担当の方々にはそっちの筋のOBも沢山いらっしゃるし…と、甘くてソフトで、どこか清楚な印象が青年天使みたいだと評判の笑顔で、とんでもないことまで言い出す会長さんであり。

  「判ったよ。」

 やれやれと肩をすくめた蛭魔さんに後で聞いたところが、この学校で催される様々なスポーツ系の大会には、政財界関係者がお遊びで始めた"トトカルチョ"が、悲しいかな半分恒例ものとしてついて回っているのだそうで。元々は親御さん同士のちょっとした口約束、息子のいる組が負けたから奢りますよなんてな他愛ないレベルのものだったらしいのだが、関わる方々のレベルが違うということで結構大きな金額が動くことを嗅ぎつけた良からぬ筋の方々が、勝手に割り込んでのやりたい放題。とはいえ、これではいかんと熱血しての言いようではなく、自分たちを勝手に利用してってのが狡いよねぇと、あくまでもゲーム感覚な言いように抑えていた桜庭さん。そして、なればこその…ちょいと姑息な手を打った彼であるらしく、

  『…あいつでなきゃ、叩
り倒してるとこだぜ。』

 この俺様を顎で使おうとはな、憎からず思っていればこそ大目に見たんだからなと、セナにそんな言い訳をした…やっぱり可愛い、金髪の悪魔さんだったりしたのは後日のお話だが。
(笑)

  「あ。勿論、集まった利鞘は妖一の好きに使って良いからね。」

 生徒会はあくまでも知らない代物なんだしねと、こちらさんの方こそ…健やかな輝きに満ちた善者の仮面を完璧にかぶった悪魔みたいに、それはそれは朗らかに笑った桜庭さんであり。

  「これで…全部かな?」

 案件のレポート用箋を、その隅を摘まんだ指先からぱらぱらぱらと、一葉ずつ落とすようにして見せる会長さんへ、

  「はい、結構ですよvv」

 キーボードを忙
せわしく叩いていた高見さんがその手を停め、進さんも手元の用箋の末尾に署名を入れる。あれほど早かった口述筆記を…内緒の謀議はおいといてだが、一度も停めずに一気に書き写せた進さんの速記術も、一般高校生の枠を超えた素晴らしい腕前であり。つまりは"口頭書記"をしたので、桜庭さんの直筆ではないけれど彼の意向であるんだぞという書類がここに完成したことになり、それを証明する書面へのサインを終えてから、ほうっと息をついた会長様、

  「やったぁvv 終わったよ、帰ろう、妖一vv

 分かりやすすぎる普段の彼に、あっさり戻っていたりして。やれやれと どこかうんざり顔に苦笑を浮かべて、それでも素直に窓から離れ、カバンを片手に早く早くと急かす桜庭さんの傍らへ運ぶすらりとした背中を見送って、

  「さあ、ここからはセナくんにも手伝ってもらいますからね。」

 何しろ、進は未だにファックスやプリンターの使い方が判らない"機械音痴"ですからねと、やんわりと笑った高見さんのお言いようへ、恨めしそうなお顔になった進さんの傍ら。ぱたぱたた…と駆け寄った小さなセナくんは、

  「はいっ、頑張りますっ。」

 お手伝いがしたくてしようがないと、わくわくと琥珀色の瞳を輝かせていて。まるで無邪気な仔犬のように、見えない尻尾を千切れんばかりに振っているのが伺えて。こちらさんたちもまた、楽しい週末を充実の中に過ごせそうな気配である。そんな男の子たちを窓から覗いていたポプラの木さんも、楽しいお祭りになれば良いねと、そぉっとエールを送って下さっていた。





  aniaqua.gif おまけ? aniaqua.gif


    「ウチで裏表がないのって、こうなるとセナくんと進だけかもしれないね。」
    「そうですねぇvv」
    「…そこでにっこり笑うか。この、一番の黒幕野郎が。」
    「は? 何か言いましたか、蛭魔くん?」
    「う…っ☆」(誠実そうな笑顔に押し切られた。)
    「…妖一も案外と、裏表ないよなもんかもね♪」
    「誰のせいだ、誰のっ。」
    「は〜いvv ボクが身体で教えた結果で〜すvv
    「………馬鹿か、お前は。////////
    「何だかお邪魔みたいですから、先に帰りますね。」



  ――― 平和なんだか、怪しいんだか。
       相変わらず よく分からない生徒会首脳部ですvv




   〜Fine〜   04.2.27.〜2.28.

  *どうも不便なので学校の名前をつけました。
   何かダサダサで申し訳ありませんです。
   泥門の名前をくっつけようかとも思ったのですが、
   ミッション系で"デーモン"とか"アクマ"は不味かろう。
(笑)
   後で、別な関係で出す予定ですので、どうかご容赦を。


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