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前の章の冒頭でも触れましたが、最近は趣味の多様化のせいもあってか、高校野球やサッカー、ラグビーの全国ネットには及ばないながら、ケーブルテレビなどで、中継、もしくは中継録画という格好にて、試合をテレビ放映してくれるようになった。ただ単に試合ばかりを伝えるだけに留まらず、ゲームの中で披露された好プレイやトピックスの紹介、注目選手へのインタビューなんてのはもはや当たり前、
【こちら、今日の第3試合に登場する、王城ホワイトナイツのベンチ前で〜すvv】
取材陣ですというパスの入ったカードケースを首から下げて、カットソーに初夏向けのジャケットスーツという装いも軽やかな女性アナウンサーが、試合前の選手たちの様子を実況取材中…かと思えば、そうではないらしく。
【いました、いましたvv 噂のアイドル、ホワイトナイツのマスコットくんですvv】
ベンチの傍らにいたものが、そろそろチアのお姉さんと連れ立って応援席へと退こうとしかかっていた、小さなマタドール…じゃなくて白い騎士。すぐ傍らへと屈み込み、大きな風防カバーつきのマイクを差し向けて、
【ボク、お名前は?】
【はや? えっと…こばやかわ せなです。///////】
【セナくんですね、可愛いですねぇvv】
【はわわ…。///////】
おやおや、マスコットくんへの取材であったらしいです。というのが、
【今大会からということもないのですが、東京地区大会には、チアリーダーさんたちの他にもそりゃあ目福な愛らしい“マスコット”さんたちがいるとのこと。】
会場に来るアメフトファンのお嬢さんたちの間の“口コミ”で広まってたそんな情報が、今頃になってマスコミさんのお耳にも入った模様。試合には直接関係ないことなんですが、これもまた、ちょっぴりマイナーなスポーツに少しでも馴染んでいただく糸口になればという、局側の画期的な冒険というか挑戦というか。
「今日の感動くんとか。」
「どっちかっていうと“ときめきの少女”だろう。」
…相変わらず古くてすんまそん。一昔前、冬の高校サッカーの“今日のゲーム”を毎日特集していた特番にて。マネージャーやスタンドの応援陣の中から可憐な女子高生をピックアップしていた企画があったんですな。汗と根性と情熱の男のスポーツにそんな浮ついた企画なんてけしからん…なんて言われながらも、その実、こっそりと好評を博し、その後、高校野球でも似たような企画が持ち上がったほど。今回の場合は、差し詰め…それの“チャイドルVer.”みたいなもんでしょうか。
【ここ、ホワイトナイツのセナくんも、この愛らしさで沢山の女子高生のハートを鷲掴みにしておりますが。】
はにゃ? お箸はまだあんまり上手に使えてません、と。鷲掴みを聞き間違えて、キョトンとしているセナくんの、ちっちゃな肩に手を置いて。女子アナさんが“キュウウっ”と懐ろ間近へ抱き寄せたその瞬間に、
「…っ?!」
「な、なんか今、稲妻が走らなかったか?」
「俺もそんな気がしたが…。」
「俺にはもっと…殺気みたいな不穏な空気に感じられたぞ。」
あ〜あ。スタッフの皆さんが感知しちゃったですよ。(苦笑) 奇妙な気配が飛んで来たベンチには、相手チームではなく妙に浮かれた取材中の陣営を睨みつけてる人がいて、
“頼みますから、試合前にあんまり下手に煽らないでやって下さいよう…。”
唯一事情が通じているがゆえ、ついつい失笑気味になってる桜庭くんと、たまたま視線が合った女子アナさん。
【あ、桜庭くんがいました。そうなんですよ。マスコットくんといえばの走り、今一番に話題のマスコットくんといえば、この桜庭くんと縁のある………っ。】
バーンッと取り出されたフリップボードには、どっかで見たよな金髪坊やの写真がずらり。
“…あ、ひゆ魔くんだ。”
まだ離してくりないのかなぁと困惑していたセナくんも、とっても見慣れたお顔が出て来たボードには素直に見とれてしまっており、
【この子は桜庭くんの写真集なんかにも登場していて、桜庭くんのファンの間では以前から人気があった男の子なんですが。桜庭くんの影響からか、アメフトが大〜い好きなんですって。それが嵩じて、今はご近所の高校のアメフトチームのマスコットになってもいるそうで。】
………な、なんかコトの順番が全然違うような気がするんですが。(苦笑)
“まったくだ。”
セナに声かけて、ついでに進や桜庭のコンディションを観察してから帰ろうと、試合が終わったばっかな賊学の面子が隣りの控え用のテントへ移った隙にこっちへ足を延ばしてみた…フリップ写真のご本人。勝手な言われように、むっかりとその細い眉を吊り上げていたところが、
「あ、この子じゃない? あれ。」
「そうよ、小さいのに金髪の日本人で、可愛いのvv」
すぐ間近でそんな声が上がったもんだから。あとはさわさわさわっと、油紙に火がついたような勢いでその事実が伝言されてしまい、外へ外へと運ばれた伝言と入れ替わり、周囲からの注目がこっちへ一斉に集まってしまった。
“…やば。”
この坊や、決して目立ちたがりな訳じゃあない。髪がこんな色なのだって、お顔が愛らしいのだって、自分で手をかけて丹精した代物ではなく、
“目立ちたくってと変えるってんなら、ルイみたいに男らしいのに変えてるぞ。”
テレビクルーらしき人が、とうとうこっちに気づいたとあって、これはやばいと背中を向ける。そのまま来た方へと駆け出せば、
「あ、坊や、待ってっ!」
誰が待つかと雑踏の間を擦り抜けて、賊学の面々が集まってた控えのスペースへと飛び込んで。
「あ、おい。」
「何だ、なんだ?」
こそこそ・こそそ、小さな体を他の面子の大きな体の陰へとねじ込むように隠れんぼ。追って来たカメラさんとレポーターが、あら此処は…と一瞬鼻白らんだが、
「あ。ねえねえ、ボク。お話し聞かせてよ。」
含羞むようにこそこそと、ラインのお兄さんの陰に隠れているのが見つかってしまい、寄って来られると次の陰、WRさんの背中に飛び込んで。いかにも恥ずかしいという態度で逃げ回るもんだから、相手もムキになってしばらくは追い回す始末。大会の係員が見かねて“此処は関係者ゾーンだ”とすぐにも追い出しはしたけれど、
………にしても。
レギュラーの皆さんへはちょこっと意外だったのが、
「子供っていやあ、テレビカメラ向けられるとはしゃぐもんだろうにな。」
「ああ。ピースっとか、して見せてな。」
ましてや、物怖じなんて絶対しなかろう強心臓のボクなのに。PRの1つも言い放ってせいぜい利用するかと思いきや、含羞(はにか)みのお顔になっては精一杯恥じらって大きなお兄さんたちの陰へと逃げ込むように隠れて見せる。実は今日が初めてのことではなくって、そんな様子がいじらしいやら可愛いやらと、レポーターのお姉さんたちにも今や大評判の彼であり、
「誤解はますます深まるばかりだな、おい。」
「ケケケッvv」
ここまではさすがに怖がって寄って来ない総長さんの背中の後ろ。最終的に匿われた陰にて、こっそり素のお顔でVサインなんかしてたりする、相変わらずに芸達者な坊やであることよ。無論、そんな素顔はいまだに全然バレてはいない。最後に隠れる先が先だからで、恐持て集団の中でも殊に格の違う“総長”が相手とあっては、どんな天然アナウンサーでも大概はビビってしまって、
『…はい、それでは現場からスタジオへ、マイクをお返しします』
と運ぶのがオチ。気安く話しかけられても無言で動じぬままな態度にはそれなりの風格があり、そこに威嚇的な効果もあるのか、女性レポーターには少々荷が重いらしい。場の空気が読めない落第アナの場合は例外だが、そうなると…周囲が地雷原に入ったぞと言わんばかりの緊迫した状態になってしまい、ADさんたちが疾風のように現れてアナウンサーを担いで逃げた例もあったというから物凄く。(笑) そんな状況になるっていうのを知って以来、適当に恥じらった後はいつもここを“経由して他所へ”逃げ込む振りをする坊やであり。今日も今日とて追い立てられた撮影スタッフが次の試合の取材へと去ったのを見届けると、いかにも安堵したと言いたげな“はぁ〜あ”という溜息を洩らして見せた。それから、最初の位置から動いていない総長さんの隣りへ腰掛け、心置きなく…まだプロテクターを着たままなごっつい肩へと凭れて和む。そんな坊やを見下ろして、
「なあ。」
葉柱のお兄さんが声をかけて来た。あ、着替えるの?邪魔? そんな感じで目線だけ上げて見せる坊やだが、不遜に見えるだけなら観察がまだまだ甘い。抱っこするとか よっぽど手をかけてくれなきゃ退いてやんないと、彼なりに十分甘えて見せてる妖一くんだからであり、だがだが、
「なんでお前、他の面子の陰にばっか隠れる。」
いつだって最後の砦として自分を頼ってはいるけれど、その前にあちこち寄り道する彼なのもいつものこと。追い回されるのが嫌なら、一番最初に真っ直ぐ自分の懐ろへ逃げて来りゃいいのにと、そう思ってのお言葉らしいから………いやはや、奥が深い。そりゃそうだよね、マスコミが苦手って筈はないものね。桜庭くんの写真集で体よくお小遣いを稼いでるほどなんだから、むしろ露出が多い方が美味しいってことくらいは判っている筈ですし、
「もしかして、そうやってウチの面々を宣伝させてるつもりか?」
おおお、それは…気がつかなんだ。(こらこら) 結構鋭い指摘をされて、
“チッ、やっぱヘッド張ってるのは伊達じゃねぇか。”
坊やとしても図星を指されたらしく、それが証拠に一瞬言葉に詰まった模様であり。
「テレビで広まって顔が指すよになれば喧嘩しにくくなるもんな。」
やっかみで絡んでくる奴も増えようが、その程度の詰まらんレベルの手合いは相手をしなくとも鼻先であしらえる。それ以上の厄介なレベルの相手と衝突ってコトになった時、周囲の人間からどこの誰かを名指しされるのへ、
“怯んだり冷静になるよなタマはいないんだろけどな。”
それでも少しは抑止力の足しにならないかなと思っての、坊やなりの小細工で。それはあっさり見抜かれちゃったけど、実を言えば…それだけじゃあない。
「だってよ、ルイは“最凶の男”ってのがキャッチフレーズになってんだろ?」
そうだってのにチビの相手して やにさがってるようじゃ、そういう威厳が形無しになって箔が剥がれちまうじゃんか。だから、俺も一応は怖がって遠慮してるんだっていう“演出”だ、それっくらい判れよなと、やっぱり偉そうな坊っちゃんだったが、
「………どの口がそんなことを言うんだろうな。」
「だよな〜。」
身内ばかりで部外者がいないとか、若しくは全くの逆で、彼らの肩書きを全然知らない人ばっかりな場所ではどうなのかを思えば………ねぇ? 坊やの側からだって、始終“構え構え”と甘えたくっているくせに。(苦笑) 片や、小さい子に手ぇ上げないのは不良にだってジョーシキだろよ、お前相手にすごまなくたって別に構わないじゃねぇかって、切々と掻き口説くようなお言いようをしているヘッドであり。
「…自覚はないんだな、やっぱ。」
「みてぇだな。」
自覚があれば、あればこその窘(たしな)みとか慎みをもって、も少しくらいは隠すでしょうからねぇ。(苦笑) 日頃の彼らの睦まじさを是非とも見せてやりたいような、でもそれが暴露されたら…盛り場での賊(チーム)の権威まで地に落ちちゃうような。別にそうだからってバレたところで、葉柱さんの腕っ節が弱くなる訳じゃあないんだけれどもね。喧嘩で勝てない相手への腹いせに、どんな疵でもいいからって引っ張り出されて馬鹿にされるのはよくあること。本人は良いよ、やっぱ強いからサ、相手だって依然として怖がってるまま、そんなこと面と向かっては言わないだろし。ただ…そんなヘッドを慕ってる奴らって格好で嬲られんのはやっぱ癪だ。よって、黙ってた方が良いのだろうけど、
「でも。」
「ああ。」
義に厚くて憧れのヘッドはともかく、自分たちを屁とも思わぬ小生意気な坊主のためにまで、何で自分たちが口を噤んで庇わにゃならんと、時々、思わないでもなく。
「うう〜〜〜〜。」
誇りを取るか、鬱憤晴らしを取るか。どっちもどっちでどうにもならない、そんな堂々巡りに、他のメンバーが唸っているのをよそに、
「もしかして…ルイ、妬いてんのか? 銀とかツンのトコに逃げ込むの、ヤか?」
「ば………っ!////////」
あ〜あ、そこで赤くなるから坊やの思うツボに嵌まっちまうんじゃないかと。くすすと笑うはメグさんのみで。
“まだ気がつかないんだもの、それだけでもうダメダメだよね。”
他の面子をカメラに晒すことが目当てなのかって。そこまで悟れたんならば、どうしてもう一つに気がつかない? 最後の砦にして、図太い天然女子アナでさえ引くほどの人物へ、あんまりカメラが振られないようにと最後に駆け寄るのがどうしてなのか。
――― 総長さんの姿だけは、逆にあんまり露出させたくないから。
親御が都議だから? 彼こそが一番、躱せないレベルの喧嘩を売られやすい立場の人だから? そんなじゃなくって、もっと単純な理由だろうと、メグさんの慧眼は見抜いていて。
“だ〜い好きだからに決まってるじゃんよね?”
そですか、やはりvv 坊やってば自分の方こそ、未知の女性へ今から妬いてのことだったんですね。偉そうにしていても、所詮は独占欲に振り回されてる坊やみたいで…可愛いったらないですねvv(笑) 最凶軍団なんて評判と裏腹、何ともアットホームなチームカラーの“賊学カメレオンズ”だったりするようです。こ〜んなチームに負けてるようでは、そりゃあ決勝になんて進めないってか?(笑)
「さあっ! 次はいよいよ準々決勝だっ!」
「気合い入れていくよっっ!」
「お、おうっ!!」
おまけ 
「マスコットの着ぐるみねぇ。」
そりゃあ手の込んだホワイトナイツのコスプレをして、何とも愛らしいマスコットをしていたセナのことが話題に上ったのは、会場から引き上げた面子がそのまま立ち寄った、顔なじみの炉端焼き屋の打ち上げの席でのこと。そんな事があったのかいと、やっぱりどこかで男らしいメグさんが“そりゃあ気がつかなかったよ”と感心して見せる。こちらさんの陣営のヨウイチ坊やだって、見目の可愛らしさでは勝るとも劣らずで、十分対抗出来そうだけれども。
「けどまさか、ウチの坊主にはなぁ。」
「無理無理。ネコの首に鈴つけるより無理だって。」
坊やがネコで自分らがネズミだと言ってるようなもんだぞ、それと。葉柱総長がこそりと苦笑するものの、確かに…この小生意気な坊主には、いかにもな着ぐるみを着せるのは至難の業だしというご意見は判らんでもなく。応援疲れでかいつもの特等席、総長さんのお膝に馬乗りになったまま、くうくうと転寝中の小悪魔くんを見やっては、寝顔だけなら可愛いのにとメンバーたちも苦笑しつつ、そんな話を終わらせようとしたのだが。
「あら、ちょっと待ってよ。」
そんなものは最初っから耳に入ってなかったらしいまま、別な何事かが閃いたメグさんであり、
「今年のはやりは爬虫類の革なのよ。えっと、白地に銀の蛇柄だったかな?」
まんま一面に使うとケバイだけだが、ワンポイントに入れるセンスが良ければ、クールで知的な印象になるとか。
「………で?」
「だから、トカゲ柄のボンテージってのはどうよ。」
ボ、ボンテージですか? ちょいとSMテイストの? 革のタイトなチューブトップの背中や前合わせが、スニーカーみたいに上から下まで紐結びになってるとか、パンティの脇とかブラの前合わせとか、やたらとベルト金具があちこちについてる拘束具っぽい、アレでしょうか? 一昔前のTMレボリューション、西川くんが着ていた“ヘソ出し腿出し”のアレとか? そんなもんを年端も行かない子供に着せてどうしますか。
「そうだよな。ずん胴だからどう縛っても服が止まらないんじゃあ…。」
いや、そういう意味じゃなく…。(こらこら)
「坊やだったら、ほら、妙に権高い雰囲気があるから、女王様みたいで案外と似合うんじゃないの?」
こらこら、メグさんたら。(苦笑) おいおい誰ですか? それだったらいっそマネさんに着てほしいような…なんてこそこそ囁き合っているのは。(爆) 何だか妙な方向へどんどんと逸れていきそうなので、ババの話はこれでしまいじゃ。(おいおい)
〜Fine〜 05.4.29.〜5.04.
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*いやあの、応援団ってチアの女の子もいいけれど、
ベンチにもこういうマスコットがいれば
女性ファンからの話題を盛り上げるんじゃあないのかなと。
可愛いどころがせっかくいるので、
セナくんとヨウイチくんとのマスコット対決ってことで、
勝手に番組とかで取り上げられたりしてなと、
腐女子なことをついつい思ってしまった訳です。
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