Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル

    “思わぬ隠れんぼ”
 



          




 どんなことにでも“間が良い”とか“間が悪い”とかいうのはあるもんで。どんなに場慣れしている人であれ、ちゃんと空気を読まないと、場を和ませたかった言動の筈が…逆に周囲の人々の気持ちを引かせたり凍らせたりしちゃうってのはよくあることで。繊細微妙な機微が交錯するよな“男女の仲”でも、肝心なものは やっぱりタイミング・だと思うけど〜♪(なんちてなvv)なんて歌があったほど。
おいおい

  “んと…。”

 てことこというリズミカルな歩調に合わせて、ふわふわと柔らかそうな髪が揺れる。お家の前から通りに出る小道を進みつつ、お人形のそれのような小さな手の中に開いた携帯電話のボタンを操作。昨日は風が強くてそりゃあ寒かったのに、そんな記憶を遠い過去へと吹っ飛ばすほどの勢いにて、今日は朝から明るい陽が照っていて、日向
(ひなた)のそこいらがぽかぽかと暖かい。そいや もう春休みまで秒読みだ、早いよなぁと。一丁前な感慨を小さな胸の裡(うち)にて転がしながらお家を出て来て…もうどのくらいになることか。
「…だ〜〜〜っ、もうっっ!」
 おおう。どうしました? いきなり苛立たしげに吠えたりして。携帯の調子が悪いんでしょうか? 細い眉の間をきゅううと寄せて、今にも“う"〜〜〜っ”と唸り出しそうなお顔になって、

  “何やってんだよ、ルイの奴ッ。”

 携帯が相手そのものであるかの如く、怒り骨髄という雰囲気のままに“キィ〜ッ!”と思い切り睨んでしまった、蛭魔さんチの妖一くん。今日は全国的に土曜だから、学齢の子供から高校生までの学校に通ってる立場の方々は、一応基本的にはお休みの日でもあって。昨日の別れ際とかに何かしら約束した訳ではないけれど、それでもサ。呼べば大概は迎えに来てくれるお兄さんだったから。部活の練習があるにしても、それ以外の予定があるにしても無いにしても、こんな時間帯なら捕まえられるだろうと思ったのに。昨日まではそうやって“当日いきなり”って呼びつけ方してても全然問題なかったのにサ。今日に限っては何度掛けてもなかなか出ないのが、ちょいと気が短い坊やには…随分と待たされてるような、どうかすると無視
(シカト)されてるような気がして、向かっ腹が立ってしょうがない。いつもならコール5回以内で出てくれるのに、今日はさっきから…家の中にいた間の玄関に向かいながらという段階から、ずっとずっと掛け続けているのにも関わらず、ウンともスンとも応答はないままであり、
“圏外でもないみたいだしな…。”
 呼び出し音は延々と聞こえているので、電源を切っていたり、電波が届かないくらいに遠いところや壁の厚い建物の中に居るとかいうのではないらしく。となると、電話の傍らに誰もいない…例えば携帯を持ってくの忘れたまんまで、どっかに出掛けてるってやつですかね?
“俺だったら、そんなのまずは有り得ないけど…。”
 ルイだったら有り得るかも知んないよなと、はぁあと肩を落とすほどのため息をついた坊やであり。…結構な年の差があるお人が相手だってのにね。それでなくとも、何かと頼り(アテ)にしてもいるくせに、そんな うっかりした奴だってあっさりと見切ってしまえるレベルの、信用というか把握でいるんですか? 日頃から。
(苦笑)
“しゃあねぇな。”
 今日は土曜日で、坊やはお休みだけれどもお母さんはお仕事で。とってもいいお天気だからって、お家に一人でいてもつまらないから出て来たのだけれど。しょっぱなから予定が挫けてる辺りへ、やれやれと大人みたいに溜息一つ。それがまた、様になるから大したもの。陽光が目映いまんまで降りそそぐ、少しばかりつるんとして冷たいながらも透き通った午前中の空気の中、ちょいと…子供らしくはない仕草でこりこりと後ろ頭を掻いて見たりする小さな坊や。本人が何がしかの意識をして構えなくとも、印象的なその姿は人目に留まりやすく。今も…通りすがりの買い物帰りだろう若いお母さんたちが、あらあらと微笑みながら、その視線と注意とを彼の上へとついつい留めている模様。
「相変わらず可愛い子よね。」
「ホントにねvv」
 金茶という珍しい色合いの、目尻が少しばかり吊り上がった大きな眸や、日本人離れした淡くて明るい金色の髪が、色白で小さなお顔にそれは愛らしくも映えていて。横顔のラインが何とも言えず可憐なそれになる つんとした小鼻に、羽二重のような きめの細かい肌がなめらかな弓形
(ゆみなり)を描く頬。瑞々しい緋色に染まった表情豊かな口許は、きゅうっと引き締まっていていかにも利発そうであり、細っこくも伸びやかな肢体は、春を待ってる若木のように、柔らかそうでありながら実は強かなまでに撓(しな)やかで。それが証拠に、綺麗な手や足はこびなどという動作・所作には抜群の切れがあり、どんなお洋服でもきっぱり似合ってしまう、着こなし上手な男の子。お初にお目にかかった人は必ず“あらあら、坊やハーフなの? それともクォーターかな?”と勘違いしてしまうほど、匂い立つような端正・可憐な風貌をした、誰からだって もてまくりの幸せ者な坊や…なのだけれど。
“…冗談じゃないっての。”
 そんな風に色素が薄かったり線が細かったりっていう容姿なのは父親似だからで、これでも生粋の 100%日本人。だってのに、会う人ごとに外人扱いされ続けてサ。そっちは“可愛いvv”と褒めてるつもりかも知れないけれど、もっとずっと小さい頃は結構 傷つきもしたんだからね。
“ま、今は開き直って、好きなように言わせてやっているんだけどサ。”
 あはは…。相変わらず、中身はこういうお子様みたいです、はい。
(苦笑) まま、それはともかくとして。お休みの日の朝っぱら。予定がなくって、しかも遊び相手の第一候補が捕まらなくって。はてさて、どうしたもんかと思案顔。
“む〜〜〜。”
 お友達がいない訳じゃあない。年上に偏るがむしろ山ほど知己はいて、しかもしかも向こうからの手招きが降るほどにある人気者。夜のお勤めのお姉様や交替制の夜勤までは体が空いてる婦警さんなど、平日の昼間でも遊んでくれるお姉さんたちとか、大工さんだのカメラマンだの歯科医だの、自分で事業を展開しているからと就業時間の調整だって結構自由な自営業のオジさんたちやら、自分と同じ条件下、高校生だからお休みで遊べるよというお兄さんたちも、知り合い・知人のデータベースには たんとたんといるのだが、それじゃあこの人というのを選り出すにしても…なぁ〜んとなく気分が乗らなくて。

  “………しゃあないか。”

 はぁあと肩を落とすと、立ち止まってた足を再び踏み出す妖一坊や。携帯電話を忌ま忌ましげに見下ろすと、メタルブルーのスカジャンのポケットにねじ込んで。気持ちの切り替えを兼ねながら、風になぶられてお顔にかかる、金の髪をふるふるっと振りのける様がまた…海外の女性モデルも顔負けの決まりよう。これもまた、恋のエッセンスを得ての成長なのならば、一体どこまで磨きをかけるつもりなのでしょうか、お坊ちゃまったら…。






            ◇



 さてとて。珍しくも肩透かしを食ってしまった妖一くんが向かった先は、ピーコックブルーの金網フェンスに校庭や校舎がぐるりと囲まれた、毎日のように彼が通っている小学校だったりする。児童公園のようなものとして最も安全な筈の場所だったものが、昨今は物騒な事件の舞台になったりしており、そんなせいか、大人の敷地内への出入りのチェックは、一際厳重になっている悲しさだったりするのだけれど、
「こんにちはvv
「はい、こんにちは。」
 こんな小さな子供が相手では、警戒も何もあったものではなく。濃紺のごっついジャンパーを羽織って防寒対策を取っている警備のおじさんへの、そりゃあ愛らしい“にぱーっ”と笑ってのご挨拶ひとつで…お行儀のいい子だねぇとの好印象つきであっさりと校門を通過。こういうものを自然と使い分けが出来るところが、相変わらずに末恐ろしい子でございますが。
(苦笑) そのままトコトコと中へ入って来た坊やを、微笑ましげに見やっていた警備員さんが、
「ああそうだ。あのね、ボク。」
 何かしら思い出したというように、背後から声をかけて来る。立ち止まって“なぁに?”と振り向けば、
「もう知ってると思うけど、校庭の隅の方で工事が始まっているからね? 工事用の大きな車や機械の傍へは、危ないから近づいちゃいけないよ?」
「はぁい。」
 そうそうと妖一坊やも思い出したのが、いつぞや彼自身も口にしていた改修工事のお話で。最初は測量だけが進められていたのだけれど、春休みだけでは工期が足りないからか、今日のような休日から もう工事は始まっており。知り合いの大工さんのおじさんに雰囲気のよく似た作業着姿のおじさんやお兄さんたちが、多数出入りしている今日この頃。今はお昼時だからか、フェンス沿いに停められてある小型のショベルカーやブルドーザーも、岩盤掘削用の大きな削岩機とかいった工事用の重機たちも、無人の一角に集められたまま鳴りをひそめて静かなもの。それらを横目に眺めつつ、たかたかと足早に彼が向かった先は、ガラス張りで隅々まで明るい、低学年用の昇降口だ。簀の子に上がって自分の下駄箱前で上履きに履き替えた妖一くん、そのまま真っ直ぐ向かった先は、お教室…ではなく、同じ棟の2階の端っこにある第二図書室で。古い校舎だからか今時には珍しい板張りのお廊下を進み、贅沢にもウサギさんの彫刻が手摺りの折り返しの上へつやを出して鎮座している、やっぱり板張りの階段を登ってくと、
「うんしょ、うんしょ。」
 体の前に抱えたご本の高さにお顔が半分ほども隠れてる誰かさんが、ゆっくりとこちらへ歩いて来るのと鉢合わせ。
「お〜お、そんな沢山もよく抱えられたな。」
 感心しながら、上の方の数冊。今にも表紙が外れそうなほど傷んでいる動物図鑑と植物図鑑とを取りのけてやると、
「あやや…。」
 急に軽くなったようと驚いたらしきお友達が、ご本の向こうから覗いてるお顔に気づいて、
「あ〜〜〜っ。ヒユ魔くんだ。」
「おうよ。」
 自分の名を呼んだ舌っ足らずなお声が、ちょっぴり非難めいてたことへも、涼しいお顔なまんまという妖一坊やだったのだけれど、
「来るの、遅い〜〜〜。」
 ヒユ魔くんもお当番だったのにぃ〜〜〜と、非難囂々
(ごうごう)な言いようを続けるこちらさんは、小早川さんチの瀬那くんという子で、妖一くんとはクラスメート同士という間柄。飛び抜けて可愛らしい子供という括り方をすれば同んなじカテゴリーに入りそうな二人だが、どちらかと言えば“華麗”というか、華やかでシャープな印象のある妖一くんとは対極の…可憐とかキュートというタイプの男の子で。ちんまり小柄で大きな瞳やふかふかの頬っぺが何とも愛らしい、至って“やあらかい”印象の満ちた、いかにも愛くるしい坊やであり、
「姉崎センセーがお風邪かも知れないからって、何回もお家にお電話してたのに。」
「出掛けてたからな。」
 けろりと言ってから、
「お前は俺の携帯の番号、知ってただろうによ。」
 ご本のお山をどんどん低くしてやりつつ、そうと付け足して訊いたところが、
「だって…。ママがね、その人がいない時に、勝手にお名前とか住所とか電話ばんごーとか言っちゃいけませんて。」
 いつも ゆってたもんと、頬っぺを真ん丸に膨らませる素直な子。こんな小さいのに、大人並みのマナーを刷り込まれているんですのね。先に述べたように“物騒な世の中だから”って事で、PTAでも徹底浸透させていることなのかも知れませんが。それはそれとして…実際問題として、子供が持っている携帯電話の番号って、学校へも教えておくものなんでしょうかね? いくら子供でも大切な個人情報をどこまで申告しておいて良いものか。考えたくはないけれど、名簿の流出とかって怖いお話だって絡んでくることですし、先生の管理がどうのこうのではなくて、学校荒らしにノートパソコンを強奪されたなんて事件も少なくはないので、心配し出せばキリがなく。さりとて、何かあった時に持ち主の行方を知るためには、そりゃあ威力を発揮するアイテムではありますし、GPS機能を活用している保安システムとかも展開中の昨今だって言いますしね。このガッコでは自己申告制であるらしく、交友範囲が途轍もなく広い妖一くんは…持ち前の用心深さを働かせ、担任である姉崎先生にも携帯の番号は明かしていないらしい。そ〜れはともかく、
「今日のお当番は図書室の掃除だろう?」
 結局、半分よりも多いめにご本を取り分けてやり、彼が向かっていた方へと視線で促してやりながら、
「他にだって…2クラス分の当番が、沢山来てたんだろうによ。」
 だから、自分一人くらいいなくても手は足りてたろ?と。妖一くんが弁解をかねてそんな風に訊いてやれば、
「それは…そうだけどもさ。」
 そう。今日は第二図書室のお掃除の日であり、妖一くんも“お当番”のグループだったのに。葉柱のお兄さんを上手く捕まえられたなら、お当番サボったままで どっかへ遊びに行こうと考えてた彼だったと。結構 調子の良いところがあるみたいですね。いや、こうやって一応はお顔を出したところなんかは、まだまだ可愛いってレベルなのでしょうかしら? というのが、
「…お前、さては何か押し付けられたな。」
 決してセナくん一人でのお当番ではなかった筈で、お掃除の段階では結構な頭数もいたのだろう。なのに、お廊下も図書室からも他の生徒の気配はまるきりしない。じ〜〜〜っと見つめると、ちょこっともじもじして見せてから、
「だって、鈴音ちゃんとモン太くんは体操教室があるって言うし…。」
 飛び出したのは普段からもセナくんと仲の良い子たちの名前だったから、きっと悪気はなかったのだろうけれど。
「ゴミ捨てかバケツのお水捨てか、どっちか押し付けられたな?」
 学校中のゴミを集めとく収集場も、下水を捨てても良い流しのある手洗い場も、此処からだとちょびっと遠いところにあるからね。最後の仕上げのゴミ捨てやバケツ洗いを引き受けちゃうと、帰るのが皆より遅くなる。人の良いセナくんだから、良いよ構わないよって気安く引き受けちゃったんだろうなって、妖一くんが推察したまま、その通りだったみたいで。
「えと…。」
 最近では特に気が弱いってこともなくなって来てたのにね。ちょっと目を離すとこれだと、やれやれって肩を落とした蛭魔くんだったが、
「これって何処に持ってくんだ?」
 自分だってちゃっかりサボろうとしたのだし、今更言ってもしようがないこと。追及するのは諦めて、最後のお仕事らしい作業を訊いてやる。図書室から階段のある方へと出て来たセナくん、準備室は逆の方向だし、図書室の中に直接つながっているドアがある。ということは、この数冊の古い本たち、これ以上傷まないように準備室で修繕するとか保管しておくとかいう運びではないのだろうと察した蛭魔くんであり。セナくんも話題が変わったと判ってホッとしたか、にこりと笑って口を開いた。
「あのね、下の蔵書室に仕舞っとくんだって。」
 ボクらがお掃除してた間にセンセーが仕分けをしてたんだけれど、これはもう壊さないでは読めないくらいになっちゃってるから。図書係のセンセーたちの会議でどうするか決めるまでは、誰も触れないトコに仕舞っときましょって。拙い言い回しで説明するセナくんへ、
「で? そのセンセーはどうしたよ。」
 一際小さな生徒にこんな結構重いものを全部任せてよ。本人は何やってんだと、相変わらず乱暴な訊き方をし始めた蛭魔くんだが、
「センセーは職員室でお電話なの。」
 姉崎センセーへっていうんじゃなくて、国語科のセンセーへっていうお電話がかかって来てて、だから待っててねって言われたんだけどもね。下の倉庫はボクも知ってるし…と、またまた語調が曖昧になってきた。つまりはセナくんが勝手に気を利かせて“よいしょよいしょ”と仮処分本を持ち出したということであるらしい。
「…お前ね。」
 律義は阿呆の唐名って言ってな、馬鹿正直はただの馬鹿とお仲間なんだぞ? 余計なことを引き受けようとしてんじゃねぇよ。分相応ってのを弁
(わきま)えなよな。現によたよた危なっかしかったじゃねぇか、あんな足取りで階段降りたらどうなってたよ。ポンポンポンッと一気にまくし立てる。自分があまりにしっかり者な妖一くんなので尚のこと、こいつはホントに…どうしてくれようかと、保護者意識がひりひり刺激されてしょうがないほど頼りないお友達。幼稚園時代に比べたら前向きではあるのだが、積極的でもあるのだが、何というのか………う〜んとね。
「自分の甲羅をわきまえな。」
「こーら?」
 知り合いの大工のおじさんが言ってたんだよ、カニは自分の甲羅と同じ大きさの穴を掘るもんだって。だから、出来もしないくらいデカいことには、うっかり手ぇ出すんじゃねぇよ。一丁前にお説教する妖一くんだったが、あのあの………それってもしかして“カニは甲羅に似せた穴を掘る”ではないのでしょうか。人はそれぞれ、自分の器に相応の大きさのことしか出来ないもんだよっていう意味の言葉で、今回のとは………ちょっと意味合いがズレてるような。
“うっせぇな。///////
 さては咄嗟に適当なことわざが出て来なかったな?
(笑) 結構 可愛いところもある妖一坊やで、背景がよく判らないセナくんが、
「ふ〜ん、ヒユ魔くんてやっぱり凄いねぇ。」
 素直に感心しているのへ胸を撫で下ろしつつ、二人並んでお廊下を進む。とっとと片付けて職員室へ声かけて帰ろう。昼飯まだなんだろう? あ、うん。お腹空いちゃった♪ 何だかんだ言いながら、無邪気で可愛らしいセナくんがお気に入りでもあるらしい蛭魔くん。早く終わらせて帰らせてやろうって、そんな風に思ったんだろうね。元来た方へと、小さなセナくんの歩調に合わせてゆっくりと、中折れのがっつりした階段を降りてゆき、昇降口の少し手前の角っこ、半地下になってる短いお廊下へと進む。開けっ放しの鉄の扉の向こうには、廊下の延長のような細い通路が少しばかり続き、その先に開けている空間が、古い書類や教材などなどが仕舞ってある地下倉庫。お当番や日直になった時にお道具を出しに来たことがある、低学年の子供たちには割とお馴染みな場所であり、
「仕舞い込むと判らなくなるから、棚の前の机の上へ置いとけ。」
「はーい。」
 壁に添わせての背の高い書架と、引き戸のついたスチール製の古めのコンテナユニット。それから、会議用の長テーブルが2脚ほどとパイプ椅子が何脚か。8畳ほどの殺風景な空間に雑然と置かれている小さめの格納庫で。コンクリートを打ちっ放しにした壁が何とも寒々しく、長居は無用だなと誰へでも思わせるような素っ気ない部屋だ。砂っぽい埃でまみれてたテーブルの上、形だけ払ってそこへと本を積み、やれやれと顔を見合わせた二人だったが、


  ――― がちゃんっと。


 不意なこととて、結構大きな音が間近でしたのへ、顔を見合わせ合ったまんまでハッとする。
「…なぁに?」
「まさか…。」
 不安そうなお顔をするセナくんも、薄々“良からぬこと”を感じたらしく。こちらさんはもっとしっかり“いやな予感”を感じ取り、妖一くんの細い眉がきゅううっと寄せられた。そのまま素早く通路を戻った彼だが、
「チッ!」
 くっきりと舌打ちをした彼が、白い手をぐうに握って叩いたのは…さっきは開いていた筈の倉庫前の扉であり、
「…ヒユ魔くん?」
 どうしちゃったの? 恐る恐る声をかけたセナくんを薄い肩越しに振り返り、それは判りやすい怒ったお顔の彼が一言、こう告げたのである。


   「俺ら、閉じ込められちまったぞ。」

    はいぃ〜〜〜?





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