Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 8
   
 Stray putit devil ?
 

 


            




 ………で。

  “………。”

 次の日の日曜の午後。葉柱さんチへ様子を見に来た小さな影が一つ。思えば一人で来たのは初めてで、葉柱と会うのに1週間振りなんて間が空いたのもこれまた初めて。不用心なことには大門が開いてて。でも何だか…チャイム鳴らしてお邪魔しますというのは気が引けて。
“…うん。今日は顔を見るだけにしよう。”
 そぉっと門を抜けて入り込み、そのままお庭へと回ってみる。前庭にあたる玄関までの空間だって相当な広さがある豪邸で。まだまだ緑の濃い芝草の上には、目隠しを兼ねた木立ちの梢からの木洩れ陽が揺れていて、
“…あれ?”
 手前に見えて来たガレージに人の気配がする。何台かある外車の鼻先は見えないが、奥に引き入れてのお掃除中なのかも。お庭に回るのなら通り道だ。中にいる人に見つからないようにと、そぉっとそぉっと近づいて、シャッターが開けられた広い奥行きを覗き込めば。

  “…あ。”

 見慣れたバイクの傍らに屈み込んで、チューニングをしている大きな背中。どうしようかとドキドキしたけど、やっぱり声は掛けられなくて。あんまり身動きしないままな背中が、どうか振り向きませんようにと思いつつ、その間だけじっと見つめる。大事にしてるバイクだもんな。いつも自分で整備してるんだ。でも、何か…見映えに違和感がある。じぃっと見ていて気がついた。自分が乗ってたシートが外されてる。
“やっぱり…せいせいしたかったのかな。”
 カッコ悪いもんな、あんなの。やっぱりもう、ルイは忘れたいのかなって、悲しくなりつつ小さい肩をしょぼんと落とした、そんな間合いへ。何やらエンジン回りを弄ってた手元から、コツン・コロコロ、堅い音を立てて小さなボルトがコンクリの床へと落ちた。それの行方を目で追った葉柱の視線が、ガレージ前に立っていた小さな人影に気づいて顔を上げる。

  「あ…。」

 もしかしたら、こっちは逆シルエットになってるのかも。でもでも、こんな小さな知己はそんなに居ない彼だから、
「よく来たな。」
 こっちに体を向けたルイは、怒ってるってお顔じゃなかった。いつもみたいに、少しだけ笑ってる。でもさ、何か・さ。つきんってしたばかりだったから。やっぱり素直にはなれなくて、

  「キングと遊びに来てやった。」
  「ふ〜ん。」

 そうなのかという声を出し、そこから立ち上がってこっちへ来る。逃げるなんて癪だからって、頑張ってその場へ立ち尽くしてると、すぐ傍らにすいって屈んでくれたお兄さん。

  「あいつはおふくろがトリマーんトコへ連れてってる。」
  「………。」

 あやや、それは何とも間が悪い。じゃあ…じゃあ…どうしよう。答えに窮して俯きかかると、

  「戻って来るまで、俺で間に合わせないか?」

 ちょっとだけ眸を細めてにんまりと。いつもと同じ笑い方をしてくれたから。
「…うん。」
 頷いた坊やを、抱えようとして…機械油に汚れた手に気がつくが、坊やの側から首っ玉に抱きついて来て。
「………。」
 ぎゅうぎゅうとしがみついて来た、首元に埋められた頬の温みと柔らかさが、久し振りだから尚のこと、嬉しいくらいに暖かい。
「ごめんな。」
 ぶんぶんとかぶりを振るのへ、
「学芸会を観に行かないで、練習ならともかく喧嘩はねぇよな。」
 言葉を足すと、一瞬ドキっと肩を震わせ、でも…やっぱりかぶりを振って。もっとぎゅううとしがみつく坊やで。
「お詫びって訳じゃねぇんだが、新しいシート、注文しといたからよ。」
 明日んでも届くから、そしたら迎えに行こうかなって、その、思ってたんだがな。先んじられてしまったなって、参ったなって笑う人。


  ――― ねぇ、何で?
       人一倍不器用なくせに、気の利かない野暮天のくせに。
       なのになのに この人は、
       一番言ってほしかったこととか、
       気づいてほしくはなかったこととか、
       どうして するりするりと言い当ててしまうの。


 ぎゅううとしがみついたままな坊やが、さっきから一言も発しないのが居たたまれなかったか、
「そんなしたから罰が当たって、試合にも負けたのかな。」
 ぽつりとこぼした一言へは、
「馬鹿っ!」
「???」
 坊やがすかさずの叱責を浴びせている。

  「運のせいとか俺のせいにすんなよなっ! 単に実力が足りんかっただけだっ。」
  「…おおや、言ってくれんじゃんかよ。」

 やっとお顔を上げた坊やと、視線を合わせてしばしの睨めっこ。

  「…相変わらず、口悪いのな。」
  「ルイに合わせてやってんだ。ありがたいと思え。」

 悪しざまに言いつつも、腕だけでは足りないか、ぎゅうと脚を胴回りへと巻きつけられてて。くすくすと。笑いながら立ち上がる葉柱だ。

    「喧嘩した相手は、結局、アメフト協会に訴えなかったんだな。」
    「そうみたいだな。きっとそこまでの頭がなかったか間に合わなかったんだろうサ。」
    「じゃあ、来週のプレーオフはダメかも?」
    「ん〜、どうだろな。昨日の負けを聞いて“ザマミロ”で終わってるかもしれんぞ。」
    「あはは♪ それ、ありそうvv

 久し振りの間近になった精悍なお顔。まだかさぶたが消えてない傷に気がついて。
「…こら。///////
 両手を頬の下辺りを支えるように添えて顔を寄せると、小さな舌で一つずつ、ぺろりぺろりと舐めていってやる。額の隅やら頬の端、おとがいの縁に口の傍。一つ一つを確かめるように舐めてゆき、まだ痛むところへ触れられて、
「痛た…。」
 思わず眉を寄せるのへも構わずに、念を入れて舌を這わせて。
「他は? デカい怪我はしなかったのか?」
「ああ。」
 口の傍のは…一番に動かす場所だからなかなか塞がらないらしく。今もちろっと舐められた弾み、痛てっと声を上げたその拍子に、かさぶたが裂けて血が浮いて来た。その上を薄い舌がちろちろと撫でるのが、擽ったいやら痛いやら。

  “…こいつめ。”

 恐らくは…気づいてなかろうなと。それとも、こんな小さな子供にそんなことを意識してしまう自分の方が邪
(よこし)まなのか。大人げないから黙っててやろうか。いやいや、いつも引っ張り回されてるのへ、やっとささやかな意趣返し出来そうな千載一遇のチャンスかも。でもなあ、何もこんな時でなくたって。そんな想いが頭の中をぐるぐるっと回ったものの、

  「ルイ?」

 こちらが黙り込んだのへ、何かしら感じ取ったのか。顔を離して見上げて来たお顔の中、緋色の口許がしっとりと濡れているのが目に入り、

  “…あ、やばい。”

 怪訝そうに見上げてくる表情が、いつもより ずんと険が薄いせいもあった。一丁前にも きゅうと眉を寄せて油断なく見やってくるという、いつもの冴えたお顔ではなく、ちょっぴり しおらしい、頼りなげな風情があったせいで、葉柱の側でも警戒のようなものが薄れたか。うっすらと開いたその口許へ………。
 


きぃやぁあぁぁ〜vv

“………え?”

  
 

 それは本当に不意なこと。自身の感覚をほんの数秒ほど奪い取られた坊やであって。自分の意図しないことが突然降って来たものだから、意識が軽く混乱に見舞われたのだろうが。気がつけば…自分の唇に柔らかなものが当たっていた。軽く触れてからわずかに浮いて。それから、舌先だろうか温かいものが下唇をチロリと舐めると、そこをそのままちゅっと吸われた。電光石火というほどにも素早いものではなく、掠め取るような慌ただしさもなかったのだけれど。

  「……………あ。///////

 そのまま相手の懐ろへ、その頬をくっつけるように埋められてしまっていて。我に返るまでに数刻ほど費やしてしまったのは、大好きな匂いが久し振りだったからかも。でもね、そこはやっぱり………他でもない“ヨウイチ”坊やだから。

  「このスケベ。」

 真っ赤になりつつも、ちろりんと。よくもまあ こうまで効果的なそれを知ってることと感心しちゃうほどの絶妙な角度から。少しばかり睨み上げるようにして、容赦ない一言をきっちり突きつけて差し上げるのを怠らない。だがだが、今回はちょこっとほど趣きが違ったか、
「何とでも言いな。」
 ルイさん、あんまり動じてはいない模様で。
「開き直んのかよ。」
「まあな。頬っぺにキスってのを先にやられたからな。」
 口の傍なんていう微妙なところを舐められていて、そのままそっちまで先に奪われては甲斐性がなさすぎるとでも思ったか。意を決して…お先にいただいてしまった葉柱であったらしく、

  「お子様には刺激が強かったか?」
  「ば…っ!///////

 響きのいい声で、余裕をもって けろりと言われて。それこそ売られた喧嘩に即座に反応するかのように、一気に熟れたように真っ赤になった坊やのお顔。それをしげしげと眺めてやりつつ、

  “あ〜あ、勿体ないなぁ。”

 こんな可愛いお顔をするなんて、まずはそうそうないコトだから。ビデオか何かにしっかり収めておきたかったかなぁ、なんて。行為と裏腹、お父さんみたいなことを思ってしまった総長さんだったりするのである。………そんな暢気な感慨に耽っているよりも、坊やからの報復を予想して、それをいかに防御するかを考えといた方がいいと思うんですが。
(苦笑) コンクリ仕立ての穴蔵のお外では、めっきりと秋めいた透明な空気の中を、大きめのアゲハ蝶がひらふわと舞っている。卵が冬を越すために、具合のいいお庭を探してる。専門家から“厚もの”と呼ばれる、菊の大きな一輪咲きの鉢が並んだテラスまで出たところにて、

  「ルイの馬鹿ーっっ!///////

 おおっと。いきなりの怒声にバランスを崩して、中空でよろめいたりして? 相変わらずな人たちだけれど、その“相変わらず”を久々に味わえた至福を…人知れずこそりと噛みしめて。もうじきやってくるちょっぴり寒くなる季節に向かい合う、史上最強の坊やとお兄さんだったりするのでしょう、恐らくは。


  ――― その“史上最強”ってのはどこにかかる形容詞なんだ?
       勿論、俺んコトだよな?
       二人一緒にかかってんじゃねえのか?
       だとしたって一緒じゃんか。それともルイは、それだと嫌なのか?
       いや、そういう訳では………。


  はいはい、もう詰まんないことで揉めないの。とっとと終われ。(くすすのすvv




   〜Fine〜 04.10.07.〜10.9.


   *だからほら、秋っていったら盛りの季節ですし…。(終わってろ。)

   *
NOBODYの九条やこ様に、またまた美麗な作品を頂いてしまってますvv
    とうとう今回は、厚かましくも余さず頂いてしまいましたvv
    だって、マネージャーのメグさんが素敵vv
    阿含もカッコいいし、待望の
(?)“ちうvv”シーンまでVvv
    いつもいつも、本当にありがとうございますですvv


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