Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 7

    Angel kickDevil's kiss
 

 

          



 海から戻った翌日は山の麓の梨園にお出掛けと、なかなか忙しい坊やだったが、
「…っ、美味ぇ〜〜〜vv
 甘いものは苦手と言いつつ、もぎたて梨の瑞々しい甘さは気に入ったらしい。葉柱のお兄さんに、手慣れたナイフ捌きで…勿論、果物ナイフでだったが、器用に綺麗に剥いてもらった梨を嬉しそうに頬張る無邪気さが何とも愛らしかったものの。
「あ〜、ほら。汁が垂れとる。」
「うに〜〜〜。しょうがないじゃんか。」
 白くて小さな肘にまで垂れかかる果汁を見かね、されど何ともしがたく慌てるばかりな総長を、
「ルイ、邪魔だ。」
 黒髪が乗ってる頭に白い手を載せ、そのまま…強引にぐいっと脇へと退け、
「…はい、これで大丈夫。」
 マネージャーのお姉さんから手や腕も拭ってもらって。お膝にタオルを乗っけてもらい、お洋服が汚れないようにと対処され、
「ありがとーvv
 やっと落ち着いてデザートの方がメインのお昼を堪能する。枝振りを揃えた木陰に花ゴザを敷いての昼食会を繰り広げているこの梨園は、マネさんの母方のご実家の持ちものなのだそうで。彼女とは幼なじみ同士である葉柱さんチのご兄弟は、実は昨日からお邪魔しているのだとかで。今朝方早くにバイクで迎えに来てくれた葉柱(弟)は、江ノ電もなかをお土産に提げ、今頃になって鼻の頭を少ぉし赤く灼いてた坊やへ ぷくくと笑ってしまったもんだから…しっかり向こう脛を蹴飛ばされていたものの。
(苦笑) そこからはずっと、いつものように世話を焼いてくれている。お弁当を持参して此処へ着いてからも、あれをもげ、こっちのももげと偉そうに指示しつつ まとわりつく坊やを煙たがりもしないでいる彼を見て、昔馴染みの伯母様たちなぞは、
『まあまあ、ルイちゃんもお兄さんになって。』
 感心することしきりだったそうだが、それはさておき。
「ごちそーさまでしたっ。」
 世話係のマネさんや伯母様がいらしゃるのでと、小さな両手を合わせて格別“良い子”のご挨拶をした坊や。足を投げ出して座っていたお尻の脇辺りへ後ろ手に手をつくと、頭上に実る黄金色の梨の実たちをつくづくと眺め回した。ここいらは今年はたくさん来ている台風の被害も受けず、お陰様で身のしまった甘いのがたくさん穫れたとか。
『お土産にもたっくさん持って帰ってネ?』
 マネさんにそう言われ、美味しいところを既に予約させていただいているほどで、昨日とは打って変わって楽しい休日を堪能出来ている模様。少しばかり郊外な土地柄なせいか、まだ夏の名残りの暑さを感じもするものの、その空気のきんと澄んだような印象が何とも格別で。梨の枝の間から覗ける空の色合いも、秋になって透明さを増しているせいか、どこまでも高く高く見えるほど。………と、
「食った食った。」
 自分よりも少しほど遅れて食事を終えた葉柱が、すぐ傍らにごろりと横になる。伯母様からお行儀が悪いと叱られても構わず、そのまま眸を伏せ、お昼寝の態勢。大きな手を手枕にと頭の後ろへ回すと、頼もしい胸板がぐんと上へ張り出して。精悍なお顔や濃色のシャツの上へ、まだらな木洩れ陽がモザイク模様を描く。悠然としていてカッコいいなと、ついつい坊やの視線が引き寄せられた。アメフトとバイクと時々 喧嘩とで、強かに鍛えられた逞しい肢体。今現在の自分との比較のみならず、将来的にも…どう頑張っても辿り着けそうにはない種の男性の体つきであり、
“…ちょっと癪、かな。”
 ま、力だけの“体力馬鹿”になるつもりは毛頭なかったのだけれどと、あくまでも割り切ってはいる坊やであるらしく。羨むのもほどほどに、目尻の吊り上がった大きな瞳を…大人みたいにやんわりと細めて見せて。
“こないだの怪我、早く治って良かったな。”
 自分が負わせたようなものだからと、気にしていた二の腕の怪我。ちょっとした火傷だ、すぐに治るサと笑ったそのまま飛び込んだ、現在開催中のアメフトの秋季都大会では、なかなか順調に勝ち進んでおり、只今勢いに乗っての3勝目。あの王城とは決勝戦で当たるのらしく、
『じゃあ そこまでは大した敵はないな。』
 練習に混ざっていてその話を聞き、トーナメント表を見ながらそんな風に言ったところが、
『…お前、判ってて言ってんのか?』
 部員の皆様方から複雑そうなお顔をされたっけ。王城ホワイトナイツが現在の高校アメフト界の最高峰に君臨しているのは、坊やだって重々知っている。けれどでも、
『何言ってんだ。同んなじ高校生じゃんかよ。』
 月並みな言いようではあったけれど、
『進のスピアタックルが岩をも砕こうと、桜庭へのパスが摩天楼みたいに高かろうと。ゴリラみたいな壁
(ライン)がいて鉄壁のラインを誇ろうと、そんなもん蹴散らせば良いんじゃんか。』
 おお。何か青春ドラマみたいだぞ。どちらかと言えば…この幼さで既に合理主義者で、現実こそ全てという至ってクールな坊やが、珍しくも熱の籠もったお言いようをして励ましたのだけれど、
『そうだった。進だけじゃないんだ、今年の王城。』
『桜庭へのホットラインがつながる率、一気に上がったんだって?』
『あの高さでつながったら、ちょっと手が出せんぞ。』
『ラインにも何だかゴツイのが加わったらしいしな。』
 ご本人にはそんなつもりはなかったらしいが、要らぬ情報でもって却って不安を煽ってどうすんだと。小悪魔くん、やはし叱られてしまった一幕だったっけ。

  “でも…やっぱ、勝たなきゃ意味ねぇもんな。”

 勝てるか勝てないか、勝てそうかどうか、じゃなくて。挑む時は勝つことしか考えない。終わった後のことなんて知らない。ただ全力を出し尽くすだけ。勝負ごとってそういうものだと思ってやまない。坊やはまだまだ子供だから、そんな風に大望ばかりを抱いていられるんだよなんて、訳知り顔でいなされることもあるけれど。これって実は、とある“大人”から聞いて、自分のものにしたポリシーなんだよね?
“………。”
 無心なお顔でくうくうと寝息を刻んでる葉柱のお兄さん。間近に見下ろしてると、
“…ふ〜ん。”
 ああ、いつものあのお顔だって気がついた。日頃構ってもらっている時は、ついつい怒らせてばっかいるから気がつかなかったけれど。アメフトやってる時のルイはね、坊やが知ってるその誰かさんによく似ているの。精悍で静謐で、でも、いつでも果敢になれる、不敵になれる、そんなお顔。今は大っ嫌いなんだけど…昔はちょっと好きだった。自分がそっくりだと言われるのが、迷惑半分、でもちょっぴり嬉しい。色んなこと教わったあの人に、そういえば似てるなと気がついて…。
“…だからって、俺はファザコンじゃねぇからな。”
 まだ何にも言ってないでしょうがっ。
(苦笑)
“………。”
 勿論、だから好きになった訳でもないと思う。強い奴が好きで、楽しいことが好きで。馴染みに一杯いる、何でも出来る大人たちに構われてるうち、ちょいと傲慢にもなってた この自分に。振り回されつつも…叱ってくれたり、もう知らんとそっぽを向いたり。思えば、相手の側から“そっぽを向かれた”ということへ、初めて坊やがショックを覚えた人だった。あの時は、悪戯が過ぎたことへ毅然と背中を向けられたのだけれど。子供だからと甘く見ず、預かり物だからと おもねることもないまま、最初から最後まで“対等”に扱われていたから、ああまで堪えたのだと思う。
“………。”
 それ以上のことはまだ知らないし、それ以外のこともまだ判らない。でも、そのまんまで良いんじゃないかって、才気煥発なこの坊やが、珍しくも成り行きに任せて留保してたりする。だってサ、絶対に大事にしてもらえるっていうポジションに胡座かくんじゃなくってサ。時々はそっぽを向かれもするような大人げない…もとえ、容赦のない相手と、喧嘩したり我を張り合ったりするのが、何だか新しい体験で面白い。怒らせちゃって寂しかったり、逆に“泣かせてごめん”って後になって謝られるのへ つ〜んってしたりが、凄い新鮮で楽しいから。ついつい挑発しちゃったり、意固地になったりしている坊やでもあって。
「妖一くん。お姉ちゃんたち、一旦片付けに先に帰るから。」
「あ、は〜い。」
 お重箱やポットを提げて、お家の方へと戻ってくお姉さんや伯母様を見送って、

  “………。”

 不意に思い出したのが…昨日の丁度今頃の出来事。両手にあれこれ提げて戻ってくお姉さんたちの後ろ姿が、スタッフの皆さんが雑事へパタパタと立ち働いてた姿とダブったのかもしれないが、

  『桜庭くんの頬っぺにキスしてごらん?』

 何で固まっちゃったのかな、あの時。抱っこされたり頬擦りされたり、ずっとずっと平気だったのにね。いつも桜庭とか、あと阿含とかから、しょっちゅう頬っぺにキスだってされてたのにね。どうして…ためらっちゃったんだろ。

  “…簡単なことなのにな。”

 そうと思いつつ見下ろし直した葉柱の寝顔。

  “……………。”

 頬骨が少し立ってる大人びたお顔に、ゆっくりと体を倒しながら、すす…っと自分のお顔を近づけて。まるで寝息を確かめているかのように、ぎりぎり傍まで近づいて………。



…ちうvv

  「…。」




 あんまり柔らかくはない頬へ。そっと触れてから、唇の先で摘まむようにちょっとだけ肌を挟んでみて。ほら、簡単じゃんかと顔を離した…のだけれど。

  “あれ? ///////

 何でかな。お顔が熱い。離れる時について来た、ルイの匂いが…なんか熱い。いつも抱っこされてる匂いなのにな。さっきも梨に届くようにって抱えてもらったじゃんか。なのになのに…頬っぺが熱くて、ドキドキして来た。

  “何コレ? 何コレ?”

 初めてだ、こんなの。どうしようどうしたら。困って戸惑って、何かに縋ろうと見回した視線が…何かに気づいて動きを止める。

  「………えと。///////

 いつの間にか。葉柱が眸を開けており、しかも何だか…やっぱり顔が赤いもんだから。
「う〜〜〜〜〜っ。///////
 何だか何でだか居たたまれなくって。

  「ルイの馬鹿っ。」

 勢い良く立ち上がって体を向こうへ返し、そのままゴザから駆け出しかけたものの、
「あ、待てっ……………てっっ☆」
 背後で“ガツっ”と物凄い音がしたのへギョッとして。え?と肩越しに振り返ると…いつもの高さに姿がない。足元を見下ろせば、再びゴザの上に引っ繰り返り、頭を抱えて悶絶している誰かさん。

  「…ホンット、ルイって馬鹿。」
  「う…うっさいなっ。」

 いきなり後先考えず思い切り立ち上がったもんだから、作業しやすく枝を揃えられていた梨の大枝へ、そのまま勢い良く頭をぶつけたらしいのだ。あまりに分かりやすい顛末と、ぎゅうと眸を瞑って身を縮こめている様子が…何だか痛々しくて。ふんっと大きな息をつき、
「それ以上馬鹿になったらどーすんだ。」
 憎まれを言いつつ、だが、総長さんの頭の傍らへとすとんと座り直した坊や。お姉さんたちが湯飲みや何やを二人の分だけ置いていった盆の上、手拭きにと用意されてたおしぼりに手を伸ばすと、すっかり冷えたそれを頭に乗っけてやる。
「この辺か?」
「もちっと上。」
 微妙な位置へと導こうとした葉柱の大ぶりな手が、坊やの小さな手へ重なって。あっと思って引こうとしたが、間一髪、相手の反射の方が今回は早かった。

  「あ…。///////
  「だから。何で赤くなる。//////
  「ルイだって真っ赤じゃんかっ。//////
  「…んなことねぇよっ。//////

 子供の悪戯になんで赤くならんといかんのだと、何だか無茶苦茶な理屈を繰り出すお兄さんで。でもね、坊やの側だって似たようなものかも。だって自分でも判らない。昨日はね、実は…ルイがそんな写真を見たら怒るかなぁって一瞬思った。でもでも今日になったらば、こんな簡単なことに怯んでしまった自分というのが何故だか嫌で。それでやってみたら出来たんだけど…あのね。//////

  “何でこんな熱いんだよう。//////

 自分の反応が判らない。判んないことがあるのが不愉快で、それでついつい“むうっ”てむくれちゃった坊やです。








            ◇



 そろそろ晩ご飯だし、お風呂も立てた。お道具はそのまま、さっさと入りに戻っておいでと、母屋のマネさんから携帯に電話が入って。あれからずっと、そっぽを向いたままな小さな背中へと声をかけてみる。

  「なあ。」
  「………。」
  「機嫌直せって。」
  「………。」
  「ムキになって大人げなかった、悪かったよ。」
  「………。」
  「何でも言うこと聞いてやっから。」
  「………おんぶがいい。」
  「判った。」

 背中を向けて屈めば、小さな手が肩に掴まり、ぴょいと飛び乗るようにして子供の温みがしがみついてくる。さっきの二の舞いは踏まないように、今度は枝の下から離れてからそおっと立ち上がったお兄さん。葉柱の背中は小さな坊やにはちょっとばかり広すぎて。微笑ましい図ではあるけれど、抱っこか肩車の方が楽だろうにと、傍からはそんな風にも映るみたいで。通りすがりの顔見知りの方々に、くすすと笑われるのが気恥ずかしかったが、でも何だか。首っ玉にぎゅううと抱きついた坊やの、頼りなげな重みと温みが擽ったくて。何をごそごそしているやら、肩や首条に落ち着きなく触れる柔らかい頬の感触に、
「…っ。」
 柄になくドキリと焦ったりもしていると、
「…あっ、トンボだ。」
 不意に言って、こちらの肩の上へと身を乗り出して。宙を指差した小さな手が、間近い夕陽に染まった中へと真白く浮かんで見えた。心なしか金色を含んでいる初秋の陽射しの中にあっては、やわらかく撥ね上がった坊やの髪も、水晶や玻璃のように澄み切った瞳も、尚のこと淡く馴染んで…頼りなげに見えたものだから。
「ほらルイ、トンボ。」
 指差された先よりも、その指の持ち主の方へと眸が行ってしまう。


  「…何だよ、気持ち悪りぃな。」
  「気持ち悪いってのは何だ。」
  「アホの子みたいにボ〜ッてしてっからだ。」
  「ああ? 誰がアホだと?」
  「図体ばっかデっカくて、総身に知恵が回りかねてる奴のことだ。」
  「何だとォ?」
  「忘れたか、先週の泥門戦。
   ランニングバッカーにまんまと誘い出されてばっかいて。
   ゴールキックで点差をつけてなかったら、危なかったじゃんか。」
  「うう…。」


 やっぱり口の減らない小悪魔さんの、猛烈辛辣な口撃が耳の間際から速射され。これはたまらんと、葉柱が思わずのこと、首をすくめて口を噤む。すると、

  「…今度の試合はあんな油断すんなよ?」

 そしたらサ………。小さなお声が小さな一言を付け足して…。

   …………………………。

 聞き流してくれる? それとも“馬鹿か、お前”と笑い飛ばす? ドキドキしていた坊やの耳へ、お兄さんからのお返事がやっと返って来たのは…畦道の傍で二人立ち止まったまんま、随分と経ってから。


  ――― それ、絶対に忘れんなよ?


 ああ…うん、忘れない。絶対だぞ? 知らないなんて惚けたら、こっちから かましてやっからな。ルイ、言い方が下品だぞ? やかましー、小学生のくせに勝ったらキスしてやるなんて言う方がどうかしてようが。それに あっさり乗ったのは誰だよ〜だvv …なんて。途中からは“クスクス・あはは”と笑いながらのやりとりで。何だかほのぼの、仲直りが出来たみたいだけれども。……………誰が何をどうするって? こらこら、あんたたち?






  〜Fine〜  04.9.13.


  *あうう。
   単なるほのぼの“頬っぺにチュウ”話を書くつもりだったのですが、
   何だか話が途中からよじれてしまって…妙な結末になってしまいましたです。
   どういう約束をするかな、この坊やは。
   そいでもって、何で受けて立つかな、総長も。(爆)


  *またまた九家九条やこ様
   お素敵イラストを描いていただきましたvv 激萌えでっすvv
   是非ともあちらサマへお運びをvv


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