あんまり柔らかくはない頬へ。そっと触れてから、唇の先で摘まむようにちょっとだけ肌を挟んでみて。ほら、簡単じゃんかと顔を離した…のだけれど。
“あれ? ///////”
何でかな。お顔が熱い。離れる時について来た、ルイの匂いが…なんか熱い。いつも抱っこされてる匂いなのにな。さっきも梨に届くようにって抱えてもらったじゃんか。なのになのに…頬っぺが熱くて、ドキドキして来た。
“何コレ? 何コレ?”
初めてだ、こんなの。どうしようどうしたら。困って戸惑って、何かに縋ろうと見回した視線が…何かに気づいて動きを止める。
「………えと。///////」
いつの間にか。葉柱が眸を開けており、しかも何だか…やっぱり顔が赤いもんだから。
「う〜〜〜〜〜っ。///////」
何だか何でだか居たたまれなくって。
「ルイの馬鹿っ。」
勢い良く立ち上がって体を向こうへ返し、そのままゴザから駆け出しかけたものの、
「あ、待てっ……………てっっ☆」
背後で“ガツっ”と物凄い音がしたのへギョッとして。え?と肩越しに振り返ると…いつもの高さに姿がない。足元を見下ろせば、再びゴザの上に引っ繰り返り、頭を抱えて悶絶している誰かさん。
「…ホンット、ルイって馬鹿。」
「う…うっさいなっ。」
いきなり後先考えず思い切り立ち上がったもんだから、作業しやすく枝を揃えられていた梨の大枝へ、そのまま勢い良く頭をぶつけたらしいのだ。あまりに分かりやすい顛末と、ぎゅうと眸を瞑って身を縮こめている様子が…何だか痛々しくて。ふんっと大きな息をつき、
「それ以上馬鹿になったらどーすんだ。」
憎まれを言いつつ、だが、総長さんの頭の傍らへとすとんと座り直した坊や。お姉さんたちが湯飲みや何やを二人の分だけ置いていった盆の上、手拭きにと用意されてたおしぼりに手を伸ばすと、すっかり冷えたそれを頭に乗っけてやる。
「この辺か?」
「もちっと上。」
微妙な位置へと導こうとした葉柱の大ぶりな手が、坊やの小さな手へ重なって。あっと思って引こうとしたが、間一髪、相手の反射の方が今回は早かった。
「あ…。///////」
「だから。何で赤くなる。//////」
「ルイだって真っ赤じゃんかっ。//////」
「…んなことねぇよっ。//////」
子供の悪戯になんで赤くならんといかんのだと、何だか無茶苦茶な理屈を繰り出すお兄さんで。でもね、坊やの側だって似たようなものかも。だって自分でも判らない。昨日はね、実は…ルイがそんな写真を見たら怒るかなぁって一瞬思った。でもでも今日になったらば、こんな簡単なことに怯んでしまった自分というのが何故だか嫌で。それでやってみたら出来たんだけど…あのね。//////
“何でこんな熱いんだよう。//////”
自分の反応が判らない。判んないことがあるのが不愉快で、それでついつい“むうっ”てむくれちゃった坊やです。
◇
そろそろ晩ご飯だし、お風呂も立てた。お道具はそのまま、さっさと入りに戻っておいでと、母屋のマネさんから携帯に電話が入って。あれからずっと、そっぽを向いたままな小さな背中へと声をかけてみる。
「なあ。」
「………。」
「機嫌直せって。」
「………。」
「ムキになって大人げなかった、悪かったよ。」
「………。」
「何でも言うこと聞いてやっから。」
「………おんぶがいい。」
「判った。」
背中を向けて屈めば、小さな手が肩に掴まり、ぴょいと飛び乗るようにして子供の温みがしがみついてくる。さっきの二の舞いは踏まないように、今度は枝の下から離れてからそおっと立ち上がったお兄さん。葉柱の背中は小さな坊やにはちょっとばかり広すぎて。微笑ましい図ではあるけれど、抱っこか肩車の方が楽だろうにと、傍からはそんな風にも映るみたいで。通りすがりの顔見知りの方々に、くすすと笑われるのが気恥ずかしかったが、でも何だか。首っ玉にぎゅううと抱きついた坊やの、頼りなげな重みと温みが擽ったくて。何をごそごそしているやら、肩や首条に落ち着きなく触れる柔らかい頬の感触に、
「…っ。」
柄になくドキリと焦ったりもしていると、
「…あっ、トンボだ。」
不意に言って、こちらの肩の上へと身を乗り出して。宙を指差した小さな手が、間近い夕陽に染まった中へと真白く浮かんで見えた。心なしか金色を含んでいる初秋の陽射しの中にあっては、やわらかく撥ね上がった坊やの髪も、水晶や玻璃のように澄み切った瞳も、尚のこと淡く馴染んで…頼りなげに見えたものだから。
「ほらルイ、トンボ。」
指差された先よりも、その指の持ち主の方へと眸が行ってしまう。
「…何だよ、気持ち悪りぃな。」
「気持ち悪いってのは何だ。」
「アホの子みたいにボ〜ッてしてっからだ。」
「ああ? 誰がアホだと?」
「図体ばっかデっカくて、総身に知恵が回りかねてる奴のことだ。」
「何だとォ?」
「忘れたか、先週の泥門戦。
ランニングバッカーにまんまと誘い出されてばっかいて。
ゴールキックで点差をつけてなかったら、危なかったじゃんか。」
「うう…。」
やっぱり口の減らない小悪魔さんの、猛烈辛辣な口撃が耳の間際から速射され。これはたまらんと、葉柱が思わずのこと、首をすくめて口を噤む。すると、
「…今度の試合はあんな油断すんなよ?」
そしたらサ………。小さなお声が小さな一言を付け足して…。
…………………………。
聞き流してくれる? それとも“馬鹿か、お前”と笑い飛ばす? ドキドキしていた坊やの耳へ、お兄さんからのお返事がやっと返って来たのは…畦道の傍で二人立ち止まったまんま、随分と経ってから。
――― それ、絶対に忘れんなよ?
ああ…うん、忘れない。絶対だぞ? 知らないなんて惚けたら、こっちから かましてやっからな。ルイ、言い方が下品だぞ? やかましー、小学生のくせに勝ったらキスしてやるなんて言う方がどうかしてようが。それに あっさり乗ったのは誰だよ〜だvv …なんて。途中からは“クスクス・あはは”と笑いながらのやりとりで。何だかほのぼの、仲直りが出来たみたいだけれども。……………誰が何をどうするって? こらこら、あんたたち?
〜Fine〜 04.9.13.
*あうう。
単なるほのぼの“頬っぺにチュウ”話を書くつもりだったのですが、
何だか話が途中からよじれてしまって…妙な結末になってしまいましたです。
どういう約束をするかな、この坊やは。
そいでもって、何で受けて立つかな、総長も。(爆)
*またまた『九家』の九条やこ様に
お素敵イラストを描いていただきましたvv 激萌えでっすvv
是非ともあちらサマへお運びをvv
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