自分はこいつのこういうところに魅了されて、下僕もどきの“式神”にされたのだと思い出す。過ぎるほどに聡明で度胸も度量もあって、運命さえも自分の膝下へと屈服させてしまえるのだろう、豪胆で清冽な存在。華麗にして艶な姿と裏腹、我らが邪妖をもようよう従えてしまえる、正に“悪魔”の化身…だというのに。時折、少しばかり可愛げのある顔を見せてくれるから。直接訊けば きっとムキになって否定するのだろうけれど、一緒にいて悪くはないと、俺のようなものでも屈託のない顔で迎えてくれる存在だから。だから、その身の安否を気にしもし、傍にありたいと思ってしまうのではなかろうか。
「? どうしたんだ? おい、ハバシラ? おい………?」
――― あれ? お前、俺んコト、苗字で呼んでたか?
◇
ふっと目が覚めて、辺りを見回す。静まり返った夜陰の中。全くの闇という訳ではなく、だが。馴染みが薄い家具や調度の影を目にして、
“………あ?”
咄嗟に…自分の居る場所が判らないという軽い混乱に見舞われてしまった。あまりにリアルな夢を見ていたような気がする。だから、この“現実”への場面転換に頭が追いつけていないのかも。反射的に身を起こそうとしかかったほど、わたついた気持ち。だが、それが実際の動作へ連動されるよりも一瞬ほど先回りをして、
――― どごぉ…っと☆
結構威力のあるトゥキックが腹に勢いよくめり込んだものだから。
「………て、てめぇはよォ〜〜〜。」
息が詰まりつつも勢いよく全身の感覚が覚醒してゆくのを感じ取り、葉柱は…蹴った勢いで自分の方が、ベッドの縁から頭半分はみ出しかけている“暴行犯”を、眇めた眼差しでもって“ちろりん”と眺めやる。小さな爪先をそれは元気よく繰り出して下さった、小さな小さな金髪の懐ろ猫さんが約一名。それぞれに小さくて まとめてひと掴みに出来そうなほど細っこい四肢を、奔放なまでの“大の字”にあちこちへと投げ出して。お口を薄く開いての油断しまくりな姿で“くーか・くーか”と安眠なさっていらっしゃり。
“………あ"。”
どんな夢を見ていたやら、お陰様ですっかりと忘れてしまっている。あれあれ? 結構いい気分がした夢だったのにな。何だか、綺麗なお姉さん…だったか、それは好もしい相手が出て来て、意気投合していたような気がするのだが。
“…ったく。”
せっかくの甘い夢を玉なしにしてくれた、小さな悪魔。色々あんなに怖がっていたくせにね。パジャマめくり上げて腹出してる場合かいと、何とも威勢のいい寝相に…結局のところ“くくっ”と吹き出して。寝間着を直し、夏掛けをそろりと掛け直してやると、もう蹴ってくれるなよと広いベッドの半分を提供したままに自分も寝相を決めてゆるりと目を伏せた。
――― そんな二人のいる お部屋の隅では。
どこから紛れ込んだのやら。緑の蛍光色をお尻に光らせて、ホタルが1匹、観葉植物の大きな葉陰で羽を休めておりました………。
〜Fine〜 04.8.11.〜8.13.
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*真夏のギフトということで、合宿話に色々と詰め込んでみました。
相変わらず、なんだか変なルイヒル・ファミリーパック。
どか、ご笑納くださいませですvv
*例によって、挿絵ご協力は 九条やこ様(『九家』さん)でしたvv
ありがとうございますvv
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