「それって…テグスでつながってるのか?」
おいおい、総長。それっていつの時代の仕掛けだいと筆者が呆れれば、
「テグスって何?」
笑うどころか知らないらしい坊やの反応もかっ翔んでいる。(苦笑) 透明な釣り糸で、こういう“仕掛け”に使うんだと説明すれば、やっと話が通じて、
「違うって。ICとかセンサーとか使って連動させてんだよ。」
テグスを知らなかったくせに、しょーがねーなルイはと やっぱり偉そうなお言いよう。悪うございましたねと口許を歪めると、どいたしまして、と、招き猫の仕草でお耳を動かして見せるところが…この生意気さんにしては案外と可愛い合いの手で。彼なりに はしゃいでいるのかな、いつもこんなだったら ただただ可愛い子なのに勿体ないと。こちらもあっさり毒気を抜かれた葉柱総長、
「凝った玩具だな。」
テーブルの上へ先っちょをくねくねと乗っけている尻尾に手を伸ばせば、坊やの方でも左手をきゅっきゅっと動かして。その手へパタパタと、尻尾の先が軽く撥ねるようにリズミカルに触れるのが、挨拶のような応じの仕草みたいで何とも可愛らしい。
「学芸会で使うんだよ。」
「学芸会?」
頭からひょいと外して小さなお膝の上に載っけた、フェイクファーを張りつけたネコ耳カチューシャを眺めつつ。ちょっぴり首を横へと傾げて“うん”と頷いた無邪気な仕草の、屈託のなさがまた愛らしい。カチューシャの端っこを小さな手でクリクリと捩(よじ)るようにして回しつつ、
「俺んクラスはサ、担任の姉崎センセーが自分で台本書いた話の劇をすんだけど。そこに出てくる主人公の猫のアイテムに、こうゆうの作ってやろっかって持ちかけてやったんだ。」
「へぇ〜。」
わざわざ自分から申し出たのか、いいトコあるじゃんかと思ったのも束の間。
「そん代わり、俺には役も仕事も一切振んなって約束させた。」
「……っ☆」
えっへんと胸を張るから…相変わらず末恐ろしい坊やである。どうやらその姉崎センセーというのも、この子にはあっさりと手玉に取られているに違いなく、
「じゃあ、これってお前が使うんじゃねぇのか?」
「おう。主人公はセナって奴だ。」
これが大人しすぎの怖がりな奴でヨ〜と、一丁前に目許を眇めて肩をすくめる坊やであり、
「…まさか、苛めてんじゃなかろうな。」
「そんな詰まんねぇことしねぇよ。」
泣かれたら鬱陶しいし、揉めごとが起きんのはうんざりだかんな。大人ぶって肩をすくめて見せる。そうと並べる理屈こそ やっぱり尊大な言い方なれど、理屈はどうあれ“弱いものいじめ”や度の過ぎる悪さはせずにいるところは、お母様の教育の成果というやつか。小生意気な屁理屈の数々にしても、一応は筋が通ってるものばかりで、
“悪ガキだが根っからの“悪党”じゃないから ややこしいんだよな。”
…この幼い年齢で“根っからの悪党”なんかだったら空恐ろしいんですけれど。(苦笑) まま、そっちへ誤解されかねない“悪たれ”には違いなく、そうかと言って一緒にいる自分がこの成りじゃあなぁと、苦笑が絶えない葉柱で。そんなお兄さんの複雑そうな心情になんか気づきもしないで、
「それよか電器館へ行こうよ。」
坊やはワクワクと、これからの行き先をおねだりし始める。
「PCの外部記憶用のディスク内包装置のさ、新しいのが出てるらしいから見に行きたい。」
「…お前、そういう難しいの好きだよなぁ。」
玩具だマンガだお菓子だと子供らしいもんをねだったりするのを、そう言えば聞いたことないぞと、思わず目が座る総長さんへ、
「いーじゃん。人それぞれで。」
ルイだってサ、ぐらびあアイドルとか、AVじょゆうとかに熱上げてねぇじゃんか。お前ね、そういう言葉を子供のくせにむやみに吐くんじゃねっての。ごちゃごちゃ口喧嘩のようなやりとりを交わしつつ、喫茶店を出るとすぐにも…はぐれないようにとしっかり手と手をつないだままにて。雑踏の中、お目当ての店へ足を向けることにした二人である。
――― これから始まる大騒動に気づきもしないで。
*何かまた騒動が絡まるようですね。
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