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滅びの腐海、闇の世界の住人という恐ろしげな存在として、黒咒の祈祷を紡ぐ者たちに担ぎ上げられた黒の悪霊にしては…何とも掴みどころのない、蛇というよりウナギかナマズのような性分をしていた、負界の邪妖は。自分を召喚していた連中に義理がある訳でなしと、迎えが来たからというだけの理由で“虜囚”だった筈の蛭魔を妙にあっさりと解き放ち。
『機会があったなら、また逢おうぞ。』
へらりと笑っての立ち去り際に…こそりと預かったものがある。月光の下という明るいところに置くと、その輪郭さえ光に溶けてしまいそうなほどに透き通った、上質の玻璃のような澄んだ透明感に満ちた小さな水晶珠。
“………どうしたものかな。”
自分にとってだってあまり得意ではなかったらしい、外へ染み出さないようにと、煙草ヤニを詰め替えた革袋を、害のないようにとどこか遠くへと術にて飛ばしてから、
「怪我は? 一通りは診たが、他にはもう無いのか?」
振り返りざまに訊いてくる葉柱で。連れ去られる直前までその身を置いていた修羅場にて、少なくは無い傷を負っていた蛭魔だったのを誰ぞから聞いたのだろう。自分は人外の存在で怪我の治りも相当に早いせいか、逆になかなか快癒しない“人”である主人の脆い身体に殊更に気遣いをする彼であり、
「ああ、大したことはねぇよ。」
再生の念を患部へ染(し)ますことで治癒への速度を速めることが出来るという、何とも便利な術を使える葉柱だったが、それには彼自身の生気を汲み出して使う訳だから。大したことはないものにまで、微に入り細に入りと手をかけてくれなくてもいいと。構うなとばかり、ひらひらと白い手を振って見せた蛭魔であり。
「それよりも。なあ、今から行きたい場所があるんだがな。」
◇
二人が亜空から這い出て来たのは、一応は都からそうも離れぬ辺りらしき、人気の全くない場末の河原で。しかも真夜中であったがため、漆を流したように濃密で奥行き深い夜陰の帳(とばり)の中で、当て処なく歩き回るのは効率が悪すぎることと思われたところだったが、
「ほほぉ、さすがは人外だな♪」
手のひらに見せた水晶から見えた場所。そこへ行きたいと言ったところが、いとも容易(たやす)く空間を“翔んで”連れて行ってくれて。
「だから頼ったんだろうがよ。」
頼ったとは聞き捨てならないな、ただ単にお前の得手であろうから、働かせてやったまでのこと。あくまでも引け目を負いたがらない傲慢なご主人様の言いようへ、やれやれと同義語の“はいはい”と応じた蜥蜴の若頭領をその場に待たせ、
「ちょっくら野暮用なんでな。」
此処からは ついて来んなと命じて、術師が独りで入っていったのが。雲の切れ間から覗いた“臥し待ち月”の月光に水面表(みなも)が鈍く輝く、くすんだ湖の畔の岩屋。懐ろから抜き出した咒符を立てた指先に挟んで念を込めれば、熱くはない炎が灯って松明の代わりになり。それをかざして奧へと進めば、内部はちょっとした迷路になっていたが、
「…そうか、こっちか。」
もう片方の手のひらに載せた水晶珠が反応を示す方をと選んで進めば、やがて…人の気配がする空間へと誘(いざな)われ。
「…何奴っ。」
長棒を槍の代わりに掲げたムサい雑仕が二人ほど、見張りにと立っていたのを。間髪を入れぬ素早さで間際にまで寄って、我流の関節責めにてみぞおちや背中の経絡を鋭く突いて気絶させ、さて。土台は天然のものだろう岩牢の中、垂れ込めている闇を覗き込む。
「雲水とかいう導師は あんたかい?」
小さな灯明がたったの1つ。昼でも恐らくは今と変わらぬ暗さなのだろう、こんな場所へ。この計略の最初、数カ月も前から此処に封じられていた彼だというから、
“…もう遅かったのかも知れぬな。”
あの蛇の邪妖も、当てにはしていなかったのかも。だから、頼むとまでは言えなかったのかもしれないなと、悪い方への覚悟を手繰り始めていたそんな間合いへ、
「………どなただろうか。」
返って来た声がある。さして憔悴してもいないような、滑舌のはっきりとした声音であり、咒符の松明をかざして古い格子のその奥を透かし見やれば、丸刈り頭に修験者の装束というまだ年若き男がこちらを向いて床へと座しており、
「あんたを助け出しに来た者だ。」
にんまり笑った蛭魔が手のひらに転がしていた珠に向かい、何事かの詞を唱えると、
――― がくり、と。
どこがどうやって嵌まっていたやら、大きな一枚板を刳り貫いて作ったものらしき格子が、岩牢の戸前になっていた窪みから浮き上がり、横手へとずれて開いた。物理的な代物に咒という特殊な“鍵”をかけてあったらしく、
「出な。」
細い顎をしゃくってという、相変わらずの不遜な態度で指図をする彼に、中にいた導師がゆっくりと身を起こす。数カ月もの長き間、こんな狭苦しいところへ押し込められていたならば、体のあちこちが衰えて、ただ立ち上がるだけでも大変な難儀になっている筈なのだが。
「どこも弱ってはおらぬようだの。」
「まあな。」
消耗しないようにという工夫や努力は積んでいたらしき彼であり、ただ。
「あやつが、頼んだのか?」
訊いた声が、心なしか重い。
「俺はあやつに助けられてばかりいる。あやつを操りたいとする者は、俺を押さえることにより、あやつの“枷”と出来るからの。」
そんな告白に、おや、と。蛭魔の細い眉がかすかに跳ね上がった。どう見てもただの人間。こやつがあいつと どういう関係なのかが今ひとつ分からなかったのだが、
“…そうか。憑神か。”
間近な例にたとえるならば、セナと進のようなもの。彼らにとっての神聖な契約として“眞(まこと)の名前”を教えた人間を、憑神はその生涯が恙無きものとして過ごせるよう、常に傍らにあって全身全霊をかけて守らねばならない。あれほどの闇の力を侭に出来る存在の、唯一の弱点がこの導師だということか。
“そうか、それで全てがつながった。”
闇の住人たちを招き寄せる“黒咒の祈祷”を始めた一派。だが、たかが人間の術師の力など知れている。ただ失敗するだけで収まらず、そんな企み自体が明るみになったれば。今帝の朝廷転覆を望んだとされ、大逆の罪を暴かれて一族もろともに滅ぼされる。そうまで危険なことを、たかが若造一人をやり込めるために、何故また仕掛けたのか。まさか本心から、現在この世の転覆や、闇への滅亡を望んでいたというのだろうか。失敗して自分たちだけが破滅しても構わないとまでの覚悟をして? そうであるなら、ある意味で“あっぱれな心意気”だが。よくも悪くも覚悟を決めたというような、そんなまで捨て鉢になってはいない、せいぜい中途半端な心根の者共で。大胆さの根底にどんな自信があっての仕儀なのか。そこだけがどうしてもつながらなかったのだが、
“この咒は人にしか唱えられんからな。”
この珠を使って、とある場所を訪ねてほしいと。いや、直にそう言われた訳ではないのだけれど。あの邪妖は“人間”である蛭魔を見込んでこれを渡したのに違いなく。こんな隠し球にて、あんな大物を意のままにしていたとはと。意外な奥の手に、敵ながら感心してしまった金髪の術師であったのだが。
「俺はまた、あやつに借りを作ってしまったのだな。」
ほうと溜息をついた導師殿の声に、蛭魔は口許だけで笑って見せる。
「気にすることはないと思うぜ。」
「?」
「あんたがあの負界の邪妖の力を必要とする邪まな輩たちに攫われたってことは、つまりは守り切れなかったってことだからの。それってのは、あやつの落ち度でもあるんじゃねぇのか?」
そういう解釈だって成り立つぜと、いささか豪気なことを言い立てて、
「借りではなく、これで帳消し。そうなると構えた方が、あいつの肩の荷も軽くなるんじゃねぇのかな。」
「……………。」
暗い隧道を外へと歩みつつ、そんな言葉を交わした二人であり。やがて辿り着いた出口にて、久方ぶりの外の光を…といっても、雲間から覗く月光だったが、それでも眩しげに見上げた坊主頭の導師殿、
「どんな縁があってのことかは判らぬのだが、もしかして…お前様はあやつの味方ではなさそうだ。」
だから。真っ直ぐとした頑迷そうな瞳でこちらを見やり、
「頭は下げぬ。」
「ああ、その方が俺も助かるよ。」
いくら苦手だといっても、たかがヤニの匂いだけで“参った・降参”と退散したあやつだとは到底思えない。
“俺へも情けをかけやがったんだろうからの。”
人質を取られた上で、意にそまない役割を振られて。人間ごときに顎で使われるという運び自体が、奴には向かっ腹の立つことだったに違いなく。言われた通りに蛭魔を攫い、結界に封じて置くことで自分の役割は果たしたぞと、邪妖らしい阿漕な屁理屈を繰り出すつもりででもいたのだろう。結界はただの人間には破れぬが、蛭魔には葉柱という“人外”の従僕がいるから。それが…彼自身が大威張りで語ったその通りに助けに来るようならばと、何とも甘えた“賭け”に懸けてみたのかも。
“向かっ腹の立つ野郎だぜ。”
結句、あやつの思惑通りに全てが運んだようで、そこんところが唯一面白くない、天上天下唯我独尊、今時風に言えば“この世は俺様のためにある(ちょっと違うぞ)”な、金髪痩躯の術師殿だったが。これほどの陰謀に巻き込まれながら、失ったものがなかっただけでもよしとするかと、自分で自分に言い聞かせ。
「さて帰ろうか。」
外で待たせてあった侍従を呼んで、都大路まで一気に飛んで戻れと無茶を言う。こんな騒動に翻弄された直後でも、相変わらずの御仁なようでございます。
終章
やはり陰体の邪妖にして、それほど下等な輩でもなく。それが証拠に我の結界を破って乗り込んで来られた。そんな相手へ関心が沸いて、後日に顔を合わせたおり、それとなく聞いたのが、
《 何故に人間の肩入れなどしているのだ?》
気の強い跳ねっ返りで、姿も気性も風変わりな術師。なかなか面白い奴ではあったが、所詮は一介の人間。力も寿命も、自分たちとは比べものにならぬささやかな存在だ。だってのに、奇妙な誓約を結び合ったと聞いている。眞の名を教えた訳でもなく、義理のようなものにて繋がっているだけという、何とも曖昧で奇妙な関係であり。自分の仲間たちを殲滅せんという大きな戦になるところをあっさりと救われたのが縁だというが、それにしたって…一族の頭領たるものが、しかも自ら、手づから、わざわざ赴いてと、そこまで尽くすこともなかろうに。そんな風に訊くと、相手は事もなげに、
「さあな。俺にもよくは分からない。」
間の抜けたことを間の抜けた顔で けろりと答えて、だが、それから。
………ただ、と、付け足したのが。
少し前の昔に、あいつはこの自分を体を張って守ってくれたことがある。奴らから見てのこちらは、たかが下賎で卑しき邪妖の傀儡一匹のこと。狂ったならばそこいらに捨て置けばよかったものを。それでは他の者を襲って不味いというなら、いっそ殺して打ち捨ててしまえば良かったものを。傷だらけになり、気力も体力も振り絞ってまでして救ってくれた。庇った相手に牙を剥かれ、衣の上からでさえ肌を裂くほど さんざ咬みつかれても動じずに。その懐ろに抱いて、夜通し 髪を撫でながら、瘴気を消す“咒”を唱え続けてくれた。そのまま食われるかも知れぬと怖くはなかったのかと問えば、
『さぁな、覚えてねぇな。』
自分の血で蘇芳に染まった衣をまとったまま、力なく小さく笑って、
『相手がお前なら、別に構わぬかとでも思ったんだろうよ。』
そうと言われて、全身の血の気が沸き立ったような気がした。それからは…何となく。以前のような不平は、わざわざ思い出さねば思い浮かばぬようになったまでだと。しれっと言った蜥蜴野郎で。
“…つまりは惚気かよ。”
大真面目な顔のまま、臆面もなく胸張って言い放つところが天晴だと。こんなお目出度い奴らには、下手にちょっかいを出すだけ馬鹿を見るのだろうなと。困ったような擽ったいような、そんな苦笑を頬張ったまま、蛇神の邪妖は…やはり何もせずに立ち去ったそうである。
◇◇◇
大きな憑神さんのお膝に抱えられ、頼もしい両腕(かいな)の中で、小さな書生くんが うとうとと心地よさげに揺られている。ちょいと古くてあちこちが危なっかしくも怪しい屋敷の中は、それでも…建具の交換や壁の目塗りやら、様々な冬支度もすっかりと済んでおり。何より頼もしき家人が揃っているので、何の杞憂もないままに、この冬も暖かいままに過ごせそう。ばたばたと大変な騒ぎに翻弄されたが、今はすっかり落ち着いて。それはお綺麗なお館様のところには、あの精悍な黒装束の青年がどこからともなく訪れては、相変わらずにごちゃごちゃしつつも睦まじく過ごしていなさる模様だしvv
《 主よ。》
静かなお声をかけられて、ふにゃ?とうたた寝から呼び戻されたセナが、雄々しいお顔を無邪気に見上げる。なぁに?という、屈託のない、今にも睡夢に蕩けそうになっている稚(いとけな)いお顔へ、頼もしき憑神様はその冴えた目許をかすかに和らげて見せて、
《 眠るのならば寝所へ参ろう。》
これでは窮屈だろうと声をかけた彼だったらしいが、小さな主人は“ん〜ん”とかぶりを振って、もっと幼い子供みたいに いやいやをして見せる。
「此処がいいの。」
ちょっと窮屈に身を折っているその案配が、うたた寝には妙に居心地がいいということは良くあって。それに、いい匂いがして温かいからと、このままがいいと愚図って見せる。実はとっくに元服の年齢も越した彼であろうに、先で術師となる特殊な身なれば、天真爛漫にあった方がよかろうと蛭魔が助言を加えたがため。いつまでも無邪気なままに、好きなようにあれとおかれているセナであり。屈託のない無垢な稚さは、今世に稀なほどの穢れのなさ。そんな危なげな儚さには、握り潰そう汚してしまおうとする邪妖の気配も寄って来やすいが、例えばこの精悍なる憑神をその身へ招き寄せたように、支えてやろうとする者もまた呼び集めるらしくって。
《 主よ。》
愛らしい主人へと、深い響きも心地よい声を再びかけている憑神であり、夢心地の君が見上げた来たのへと、
《 もしも俺が、正気を無くしてしまったならば。》
「…はい?」
《 蛭魔殿のように身を削らず、いち早く逃げてくれ。》
蛭魔と葉柱の絆を深めた逸話は聞いたが、自分たちでは何もかもが違う。こんなにもか弱い君だから、自分はきっと、さして苦もなく…この手であなたを殺(あや)めてしまうだろう。だから、真っ先にどこかへ身を隠しておくれと、そんなことを言う深色の瞳をした彼へ、
「そんなの嫌です。」
小さな主人は、今度はくっきりとかぶりを振った。
「お館様は、ご自分の意地があったからというような言いようをなさってましたが。」
本当は違うんですよと、琥珀の瞳が瞬いて。真面目なお顔で語り始める。
「人のいい葉柱さんは、その手で自分のことを殺めてしまったのだと知ったらきっと、その後の長い長い生涯のずっとを悔いて過ごすかもしれないから、なんて。そんな言い方をなさってましたもの。」
それにねと、言葉を区切って。
「自分のことを忘れて、狂ったままで逝(い)くなと。もう一度、あの翡翠の瞳に自分を映しておくれと、それしか思ってはいなかったって。」
付け足された言の葉の、何とも情熱的な、そして…甘やかな睦言だろうかと。進が声を失(なく)して眸を見張る。あのいかにも冷酷そうな、実際の話、凄まじく冷淡で乱暴な青年が、そのようなことを言っただなんて。そうそう簡単には信じがたいことであるし、その時はまだ、この屋敷にいなかったセナなのに。なんでそんなことが判るのだと小首を傾げた憑神へ、小さな主人は くすすと笑い、
「実家から届いた澄酒を差し上げましたら、すぐに酔ってしまわれてvv」
《 ………。》
お酒が現代ほど“辛いもの”になったのは、江戸時代辺りまで時代が下ってから。奈良・平安なんてなほど昔のお酒は、醸造技術がまだまだ未発達で、白酒のような少し甘い濁り酒が主だったのだとか。ところがセナの実家は、須磨の方に親しい知り人が多くあるのだそうで、そこからのよく澄んで辛いお酒も…まだ研究中だとしつつ毎年送られて来る。それをおすそ分けにと送って来たのを、どらと、初物食いの好奇心から飲んでみた蛭魔があっさり沈没した折に、その話も聞いたのだそうで。
《 あれほど酒に強い御仁なのにな。》
それが引っ繰り返るとは何と恐ろしい酒よとばかり、難しい表情になった進さんへ、
「今はもう慣れたそうですよ。」
セナが“うふふvv”と小さく笑う。おいおい、あんたたち。感心するポイントがズレとらんか?(苦笑)
「それを聞いて、ボクだって同んなじだって思いました。」
葉柱のそれに少し似た、漆黒の修験者風の道着装束をその身にまとって。呼べばどこにでもすぐさま現れてくれる、屈強精悍な頼もしい青年神。腕っ節が強くて、不思議な術を操れて。セナの身だけをただただ案じてくれる優しい彼だが、
「進さんがもしもそんなことになったら、やっぱり離れられないって。正気に戻って、ボクを見てって、きっとそう思うって。」
思うだけでも胸が切なくなりますと、しおらしくも表情を曇らせる少年に、こちらも切なげに目許を伏せて…そぉと頬を撫でてやる進さんで。だがだが。あんなに気性の激しいお館様と、同じことを思うなんて、
「ボクも少しは逞しくなれたのでしょうか?」
無邪気なことを言い出すセナには………そうではないと思いはするが、ならばどういうことなのか。そんな細やかな機微など、到底説明出来ない朴念仁な憑神様。困ったような心情を抱えて、そうなんだと とっとと納得してしまった小さな主を懐ろに、何とも複雑そうな表情を浮かべている、粗削りな男臭いお顔がね。それでも…何とも甘やかに見えたのは。夜空に浮かんだ遅い月の振り落とす、真珠色の光のせいだけではない筈で。誰もが誰かを大切にしている。そんな温かな想いの集まる鄙びた屋敷は、ただそれだけで幸せをも より沢山招きそうな趣きがあるのだが、
「…っ、またそういう勝手を言い出すがろうがっ。」
「勝手がどうした。俺の好きにして良いことな筈だぞ。」
「それでもっ。少しは相手の身になって慮(おもんばか)ってもいいだろうに。」
「やなこったな。何でまた、他人のことにまで頭を使わにゃなんねぇんだよ。」
「こんの我儘大王がっ!」
「嬉しいな、そりゃあ最上の褒め言葉だぜ。」
………あああ。せっかくのお話を、そんな大喧嘩で締めさせますかい。肩をすくめた黒い髪の憑神様が、再び寝入った少年を起こさぬようにと、喧噪がこぼれて来る濡れ縁から離れて庭先へと進み出る。間近くなった冬の気配も何するものぞと、愛しき君を守りたい不思議な存在たちが集う館は、最後の秋の月光の中、暖かそうな燈火を窓や御簾の向こうに灯して。それそのものが息づいているかのようにも見えたのでした。
〜Fine〜 04.12.01.〜12.07.
*活劇にしては妙にほのぼのとしたお話になってしまいましたが、
冬のひと踏ん張りへの差し入れでございます。
よろしかったなら、おゲンコ様の息抜きにでもどうぞvv
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