Little AngelPretty devil ~ルイヒル年の差パラレル

    “アルティメッド・バトル in 運動会”終章
 



         
後日談



 次の日は月曜日で、運動会に登校した小学校は代休でしたが。のんべんだらりと昼まで寝てようと思っていたらば、担任の姉崎センセーからお電話があってね。

  『…は? 警察?』

 相変わらずに思わぬすっとんぱったんが付いて回る、お騒がせな坊やとその周辺だったみたいだが、被害総額が半端じゃなかった窃盗団を捕まえたことから、何と表彰までしていただけることと相成ったそうで。そういえば、あんな小さな所轄署には初めてじゃないかってほどの、大層な取材陣が詰め掛けてたなと、帰るのが結構大変だったのを思い出し。警察サイドとしても、民間人があっと言う間に解決してくれたこの顛末を放っておいてはバツが悪いとでも思ったのかも。但し、
“ルイはさすがに、道路交通法にいろいろ抵触してたから。”
 場合が場合だったからということで、こちらの事情もいろいろと慮
かんがみていただいて。法律用語で言うところの“緊急避難(已を得なかったから犯してしまった不法行為)”が適応されたがその代わり。大っぴらに“よくやりました”と言えないような、自力救済すべきでなかった危険も冒してたことだったしと、表彰された顔触れに入れなかったらしくって。
『そんなカッコで名前が挙がりゃあ、妙な注目が集まって痛くもない腹を探られもしようからな。』
 第一、族の総長が二度も表彰されてちゃ示しがつかねぇしと。(春休みにも別荘荒らしを捕まえて表彰されてましたから…。)ご本人は却ってその方が良かったらしく。実を言えば妖一坊やの方も悪目立ち
(?)するのはヤだからと、そんなの要らネなんて一丁前に固辞しかけていたのだが、
『お前の場合は、少しくらい注目されてる方がいい。』
 目ぇ離すと何処で何をやらかすことやらだからなと、これまた問答無用で、しかも総長さんまでもが加わってのお声が大人全員から上がって却下され。それで高校生のお兄さんたちが出て来られる早い目の放課後に、セナくんや阿含さん、進さん桜庭さんと一緒に、泥門署にて賞状をもらってしまったのだけれど。

  “あんなもんは どうだって良いんだけどよ。”

 あんな程度のささやかな英雄譚なぞ、どうせ次の話題が来れば、トコロテン方式ですぐさま忘れ去られることだ。そこはさすがの現実主義者で、とっとと切り替えた妖一坊や、けどでも、あのね?

  “ごめんって言えなかったよな。”

 気が高ぶっていたこともあり、あんな偉そうな言いようでしがみついちゃったそのまま、昨日は結局、その後も葉柱のお兄さんとは会話らしい会話は出来なかった。

  “……………。”

 いつからだろうね。ただ“便利な大人”としての知り合いの中の一人って、そんな人ってだけだった筈なのに。そんな意識から始まった知己に過ぎなかった筈なのに。気がつけば…こっちから駆け寄ってる、こっちから探してる。お世辞にも“色男”とは呼べない恐持ての高校生。真っ黒な髪を撫でつけた頭に、怖いくらいの三白眼。どこでだって目立つ白い長ランを羽織った、飛び抜けて異彩を放つ風貌やいで立ちのみならず。どんな相手が立ちはだかろうと、堂々と胸を張り、肩をそびやかし、負けてなんてやらない分厚い威容をまとった存在感に満ちてもいてね。揮発性が高くて、柄が悪くて。喧嘩も強くて乱暴者で…所謂“不良”で。そんな怖いのを口先だけであしらえるのが快感だった? ギロッてガンつけられても怖くなんかなかったのは最初から。ベース部分が思い切り善人だと、あっさり見抜けたからだけど。じゃあなんで、

  ――― 気安い態度を取らせ続けたんだろうか。

 TPOに合わせてって格好で、これまで適当に呼びつけてた人たちに、連絡しなくなってどのくらいになるのかな? おミズのお姉様たちからも“最近は付き合いが悪いぞ”なんて、向こうからの恨めしげなメールが届くほどだしな。いい子の演技をしなくて良い奴。なのに、許しもないまま頭を撫でたり抱っこされたりを…こっちから煙たがらないなんて相手は、自分にとっては結構異例で。ひょ~いって片手で軽々と抱えられるのへは、別に慣れがなかった訳じゃあない。ムサシや阿含や雲水からも、しょっちゅうそういう構い方をされていた。でもそういや、父ちゃんにもされたことがなかった肩車は気持ちが良かった。物凄い大きくて物凄く速いバイクの後ろはいつだって爽快だったし、おんぶも滅多にされたことがなくって。どんな顔してても向こうからは見えないんだって気がついてからはね、こっちからもしょっちゅう強請
ねだってた。だってさ、それだけじゃあなくってサ、

  ――― あっち向いてるからこそこっちに向けてる大きな背中が、
       なのにあんな暖かいなんて、今までちっとも知らなかったもの。

 どんなに振り回しても見放さず、子供らしくない破天荒なことをしでかせば身の程を知れと説教紛いの文句を言いつつ、なのに…期待した以上のこと、きっちりとやり遂げてくれる頼もしい人。使える奴だってしか思ってなかったつもりだったのに、気がつけばこっちから、離れ難しと思ってた人。こっち向いててくれなきゃヤだし、それから…あのね?

  「………あ。」

 ガラス張りのエントランス。大きなドアを出れば、秋の乾いた陽射しが明るい。見張りのお巡りさんが立ってる横を擦り抜けて、ここまで乗って来た阿含さんの車へ駆け寄ろうとしたらば。
「…ルイ。」
 お兄さんだけは呼ばれなかった警察署の駐車場。まさかいるとは思わなくって。スタンドを起こして立ててた愛車のゼファーに軽く腰を引っかけて凭れてたの、やっぱり真っ先に見つけたそのまま、ぱたぱたぱた…って間近まで駆けてってる妖一坊やだったりし。

  「表彰は終わったんか?」
  「うん。これ、貰った。」

 五十音で一番最初だったのと小さなお子様も頑張りましたと、代表で貰ったセナくんのだけはフレームに入ってたけど、他の面々の賞状は卒業証書でお馴染みの筒に入っており、あとは、
「何か、マスコットのバッチなんだって。」
 警視庁管轄だと例のピーポ君なのかな? ポチ袋に入った粗品として貰ったそれを、羽織ってたジャケットのポケットから引っ張り出した坊やの所作を、小さく笑いつつ眺めてたお兄さんへ、
「…で? 何でルイが来てんだよ。」
「ご挨拶だな。迎えに来てやったのに。」
 さすがに少々汚したからスペアらしかったけれど。お兄さんは昨日と同じ賊学の制服姿であり、
「まあ、疲れてるってんなら家までを送ってくが。」
「あ…。」
 そかそかと、坊やにもやっとこ納得がいった。進さんや桜庭さんも、衣替えがあったばかりの王城の制服姿であり、自分たちと違ってガッコは休みじゃないのだし、それより何より、
「練習か。」
 アメフト大好きで、当事者のお兄さんよりも忘れたことがなかった筈だのにね。やはりそれだけ疲れてた坊やだったということか。今週末にはいよいよの、都大会の準決勝が待っているの、すっかりと忘れてた。
「セナも進さんたちのれんしゅー観に行くですよ?」
 抱き上げられてたままで“ね~vv”と愛らしく小首を傾げて笑いかけるマスコットくんを。なんて可愛い いい子なんだと、感激したまま ぎゅううっと抱き締めてしまった仁王様はともかく、
「キャハハvv やーの、進さん苦しいですようvv
「進、手加減しな。」
 …ともかく。
(苦笑)
「うん。俺も賊学のグラウンドへ行く。」
 つか、やっぱり何でこんなトコにいるかな、ルイは。サボッてんじゃねぇっての。うるせぇな、ちょこっと寝坊しちまったんだよ。だから今から登校すんだ。余計に威張れぬ言いようをし、だが、
「……………。」
 その言い回しの中の何かに気づいてハッと口を噤んだ坊やの、逆立ってる金の髪を、武骨な指にて梳くように撫でてやり、
「平気だって。十分寝たから回復してる。」
 子供のやんちゃさでは片付かないほどの過激な言動の陰で、大人びた機転を利かせもする、まったくもって油断も隙もない子だからね。そういう呼吸にもやっと慣れたお兄さんとしては、そこはやっぱり…子供扱いしてやって。仄めかすんじゃなく、ちゃんと口に出して言ってやる。さあ乗れやと少しほど、腰をかがめて手を伸ばし。一丁前にも浅い青のワークパンツ(ラメの六芒星プレスプリント付き)に、細い御々脚を包んでた、小さな坊やをひょいと抱えてゼファーのシートへと乗っけてやって、
「じゃあな。」
 居残る皆様へは、軽い会釈でご挨拶。慣れた手際でスタンドを跳ね上げ、そのまま自分も跨がると、セル一発にてエンジンをかけ、それはなめらかに出発してしまった二人であったりし。

  「…えと。」

 何だかムーディだった彼らにあてられてしまってか。惚けたように立ち尽くし、取り残されてた方々も。何とか我に返ると…苦笑がついつい。

  「しゃあねぇか。お前らは俺が送ってくから、こっちに乗れ乗れ。」
  「あ、あごんさん、でぃーぶいでぃーの続き観ても良いですか?」
  「良いぞ、何なら貸しといてやろうか?」
  「セナくん、すっかりお気に入りになっちゃったね、リロ&スティッチ。」
  「最近のマスコットキャラってのは、ただただ可愛いばっかじゃ受けないのかねぇ。」

 感動のお話を観てからでないと、あれを“可愛い”とは到底思えんぞ、普通と。さすがのトレンド通っぽい阿含さんでもちょぉっと理解が追いつかないらしいという見解を述べれば、

  「だから。進とか葉柱くんが受けてるんじゃないですかねぇ。」
  「………成程。」

 こら、そこっ! うっかり座布団あげたくなるような、そんな絶妙な会話をしてるんじゃありませんての。
(こらこら)








            ◇



  ――― ごめんな? ルイ。
       ああ?
       また、怖い目に遭わせた。
       そういや、去年も似たような騒ぎがあったよな。

 そうだったね。家電製品の大きな量販店で、得体の知れない連中から追われて、しまいには銃まで向けられたっていう物騒なことに巻き込まれた。あの時も、坊やがあっさりと諦めて相手へ素直にICチップを渡しておけば、ああまでの大騒ぎにはならなかったかも知れなかったのに。坊やを庇った総長さんが ちょこっとだけども怪我をして、坊やは自分が至らなかったばっかりにって、とっても悔しい想いがした筈なのにね。なのに、性懲りもなく…またまた身のほど知らずなことをした。昨日はあんな風にね、怖かったなんて言ってくれたルイだったけど、あれだって坊やの張り詰めてた様子を把握していてのこと。気が回らない野暮天だって、いつも馬鹿にしてたのにね。坊やがなかなか成長しない分野で、葉柱のお兄さんの方はその代わりのように色々と身につけたのか、随分と懐ろの深い大物になって来たみたいで。

  ――― お前は言っても聞かねぇもんな。
       何だよ、それ。
       呆れてんだよ、これでもな。

 まあ、いきなり素直で聞き分けの言い子になられても面食らうことだろし。クススと笑ったらしい気配が、ヘッドフォンとは別口、背中越しにも伝わって来て。むうと膨れた坊やが、でもね? それ以上は怒れなくって。

  ――― まあ、あれだ。俺で間に合うことなら、いくらでも手ぇ貸してやっからよ。
       ふぅ~~~~ん。
       何だ、その返事はよ。
       呆れてんだよ、これでもな。

 まだまだ色々と不器用だし、坊やの方がずんと物知りなのにね。でもまあ、気持ちだけは受けとっとくと、わざとらしくも言い返せば、あのなぁと不満たらたらなお声が返って来たけれど。ねぇ、どうしよっか。もうすぐ賊学のグラウンドに着くってのに、お顔がにやけてしょうがないの。これでは示しがつかないじゃんかよ。もうもう、ルイの馬鹿ちんは…と、やっぱり総長さんのせいにして。あんな大騒動があったなんて一体いつの話やらとばかり。全くいつもと変わりなく…けどでもちょっとは、どこかで何かが深まって。二度目の秋がすぎゆくのへと、せいぜい置いてかれないように。一陣の風のよに 翔
かけってく二人なのでありました。





  ~Fine~  05.10.07.~11.11.

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  *おおう、今日はキッドさんのお誕生日じゃああ~りませんか。
   本館の方では某剣豪のお誕生日ですしね。
   何か急にバタバタしている秋ですが、このお話も何とかの結び。
   落ち着かない運動会にお付き合い下さいまして、どうもでございましたvv

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