assailant... (襲撃者)
 

 

          




 いよいよのセンター試験も始まって、受験シーズンのトップを切って、大学受験がまずはその火蓋を切って落とした。
「推薦入学の組は、去年のうちにも面接とか終わってるんだけどもね。」
「だよな。それが中学とか高校受験のクチだったら、もう結果も出てんじゃねぇのか?」
 …のっけから声を揃えて、それもト書きへいちゃもんをつけるんでない。
(笑) 少子化時代を前にしてもなお、それでもこれという名門校や人気校ともなれば結構"狭き門"なのは相変わらずで。だがだが、こちらさんたちはさしたる危機感もないらしく、まずはの第一陣を通過してのご報告を兼ねて、彼らには珍しくも繁華街での待ち合わせをしていたらしい。
「ねぇねぇ。こないだ言ってた"もう一つ"って、どこ受けるの?」
「言わねぇよ。」
「…何で?」
「姉貴への義理があって受けることになったんだ。そこには合否に関係なく通うつもりがないからな。だから、話したところで意味ねぇだろ?」
「え〜〜〜?」
 それって何か変な理屈だようと不満げなお顔になった方のお兄さん。変装用というほど大仰なアイテムではないけれど、スポーツキャップで手入れのいい亜麻色の髪を隠し、淡い色つきのサングラスにて甘い眼差しが印象的な目許を誤魔化して。襟や前合わせの縁にちらりと覗く程度にファーつきの濃灰のジャケットに、タートルネックのセーター、深色のジーンズとワークブーツという砕けた恰好。上背が高いのだけは誤魔化しようがないけれど、それでもかなり地味な拵
こしらえを成功させている模様。そんな片やと一緒に居るのは、白い細面ほそおもてのお顔が映える真っ黒なスタジャンのポッケに両手を突っ込み、背条のピンと伸びた痩躯を際立たせている 目の詰んだ生地のパンツとローファーという恰好のその上へ。リングピアスがちかりと光る耳朶を丸出しに、金の髪をピンピンに尖らせた、ちょこっと派手なお兄さんだと来て。
"お話を合わせての恰好なのかな?"
 妙に雰囲気を合わせているところが なかなかお似合いな、絵になってる二人連れだよなと、ついつい見とれてしまった瀬那である。人懐っこい愛想笑いをやたらと振り撒かなければ、随分と彫の深い、男らしいお顔になって来た背の高い桜庭春人さんと、黙ってお澄まししていれば、ビスクドールっていう西洋のお人形さんみたいに、色白で端正で綺麗な蛭魔妖一さんという、ごちゃごちゃしつつも…相も変わらず仲の良いお二人さん。せっかくのおデートみたいだし、声を掛けたものかどうかとセナが迷っていると、
「おや。」
 先に気づいてくれたのが、周囲への注意をさりげなく払ってたアイドルさんで。小さく破顔しつつ、傍らのスリムなお連れさんをちょいちょいっと肘で突々いて見せる。それに促される格好にて、ウィンドウ・ディスプレイを覗いていた無心な横顔が…まずはお連れを見上げてから おもむろにこちらを向くと、
「おお。」
 向こうさんも奇遇に驚いてくれたが、それよりも。
「あやや?」
 セナの方が妙なお声を出したのは、見慣れてた筈のお顔に、覚えがないものが乗っかっていたからだ。
「蛭魔、さん?」
「他の誰だってんだ。」
 葉の落ちた街路樹の梢を透かして降りそそぐ、冬特有の ぱさりと乾いた陽射しの中を"ぱたぱたた…"と駆け寄って来た可愛らしい後輩さんへ。ちょこっとお澄まししていた口許をほのかに曲げた、白くて線の細い、ちょっとだけ冷たい印象のある端正なお顔はいつもと変わりないのだけれど。柔らかい線で丁寧に描かれたような、すっと通ったお鼻の上にアーチをまたがらせて、銀縁のメガネを掛けていた蛭魔だったのは、セナにしてみればこれがお初に見たお顔。向こうでもそれと気がついたのだろう。縁のところをちょいと指先でずり上げながら、
「そういや、部では掛けてなかったかな。」
「はい。」
 小さなセナくん、一回頷いてから ぶんぶんぶんと首を横に振って見せる。そんなに度の強いものではないのだそうで、授業中とか、夜半になってからお家でPCをいじる時などに掛けているそうな。今は、差し詰め"変装用サングラス"の代用として掛けているというところかと。そんな恋人さんのお顔をさして、
「ね、ね、いつも以上に理知的でカッコいいでしょ? 妖一ってば。」
 にっぱり笑う桜庭くんに、ご当人は"何だかな…"と少々閉口して見せているものの、
「はいっ。//////
 ホントに素敵ですようと、後輩さんまでが眸をキラキラと潤ませるものだから。
「お前ら…。」
 このくらいでそんなに感動してからに、お手軽なことだよなと、ますます呆れた先輩さんだったりする。今日は週のど真ん中の平日ではあれど、三年生であるお二人はいよいよの試験期間に入ったこともあって、時間にかなりの自由が利く身。お互いの状況の報告という"建前"の下に、実は…お顔が見たかったからと、アイドルさんの方がメールでのお呼び立てを掛けたのだそうで。で、片やの後輩さんの方はというと、
「お昼前の授業が自習だったんですvv」
 二月に入れば中学から上がって来る陣営を受け付ける側としての"受験"が始まる私立高校。その準備のためだろうか"短縮授業"が続いているので、こちらさんもかなりの融通が利く身。それで、昼日中からこんなところにいる彼なのだろうが、
「…だったら、お前。自主トレでもしてなきゃいけないだろうが。」
 時間が空いたのなら、少しでも体力維持のトレーニングに手をつけてだなと、なかなか先輩さんらしきことを言いかけたた蛭魔さんであり、
「あ、えと…。」
 ごもっともなお叱りのお言葉に、言われずとも練習熱心な真面目な子であるがため、仰せの通りでございますとばかり、と小さな肩を"はやや…"縮めてしまったセナくんだったが、

  「…妖一らしくない、そんなこと言うの。」

 思わぬ助け舟に、セナくんよりも蛭魔さんの方が先に"何だと?"と鋭い眼差しを連れへと向ける。そう、先輩さんからの"教育的指導"へ鋭いお水を差したのは、他でもない…すぐお隣りにいた桜庭くん。
「やんない奴はそれまで、じゃないの?」
 いつもだったらそんな言い方するくせに、他人になんか関心ないくせに、やっぱりセナくんは特別なんだね。そんな言いようを連ねる彼で。焼き餅半分、拗ねたような言い方ではあるけれど、それを乗っけた口調が いかにもなわざとらしさ。それに気づいた金髪の君、

  "…お堅いことは言いなさんなってことかよ。"

 察しが良いのはお互い様で。野暮なことは言いっこなしというその言いよう、口惜しいかな、無視すれば野暮だという理屈が見えているものだから逆らいようがない。………賢い人や粋な人たちの、無言な空気の中にて交わされてる会話ってのは、なかなかに奥が深いもんですが。
「…。」
 小さく息をつくと、セナくんのふわふかな髪を真上からぐしゃっと掴んで見せて、
「ひえっ!」
 ビックリして首を縮めた後輩くんへ、間近までお顔を近づけ…ぼそりと一言。
「まあ確かに、どうでも良いんだがよ。」
 これ以上はくだくだ言わねぇよという意味だろう。可愛いおでこに こつんと自分の額をぶつけて、だが、くすんと微笑ってくれた蛭魔さんだったので、セナくん、やっとホッとした。
「可愛いね、セナくん。そのコートっておニュー?」
「あ…はい。//////
 制服の上へと羽織ったおニューのコートは濃いグレーで丸襟の、肩から共布のカバーのようなのが肘辺りまで掛かっている、ギムナジウム風か、もしくは…リセエンヌ風。実はここだけの話、またもや まもりお姉さんのお見立てであるらしく、前のアイボリーのダッフルといい"女の子調"が続いているのだが、似合っている上に周囲からの評判も良いだけに文句も言えないセナであるらしい。
(笑) そんな愛らしい恰好でいるのはともかくも、もうひとつ不審だったのが、
「それにしても。お前、一人なのか?」
 今年は同じクラスな筈の、いつも一緒の雷門くんの姿もない。こういった繁華街に、用もなくフラフラしているような彼とも思えないのだがと、小首を傾げる先輩さんへ、
「進さんと待ち合わせしてるんです。」
 にっこり笑顔にふんわりと、蜜がかかってなお甘くなる。ああ、成程。だからついつい自主トレが二の次にされたのかと、ここでやっとこ、蛭魔にも事情が見通せたのだが、それにしては…こんな街路にいるのはやっぱり不審。
「待ち合わせって…駅前じゃないのか?」
 一番判りやすくて、恐らくは一番すぐさま逢える場所だろうに。そうと感じて訊いてみると、
「えと、何か御用があって、そこで待ち合わせしようって。」
 何とか会館っていうトコの前なんですよね、うふふと頬を染めて恥ずかしそうに笑って見せるお顔の愛らしさよ。つまりは彼らの事情とやらからの段取りのせいであるらしい。待ち合わせた時間になったのか、
「あと、それじゃあ、失礼します。」
 ぺこりと頭を下げてから、来た方向へと小走りに駆けてゆく小さな背中。中身の少ない学校指定のバッグが、その背中でぱたぱたと跳ねているのを微笑ましげに見送って、さて…と連れを振り返った蛭魔だったが、

  「…訝
おかしいな。」

 その連れが…珍しくも少々表情を硬くしている。いつも朗らかで、こんな風に考え込むようなお顔は、少なくとも自分の前では滅多に見せない彼だったから、
「? 何がだ?」
 キョトンとしつつ声をかけると、その鹿爪らしき表情は緩めぬままに、
「あの進が、セナくんを自分の用向きの方へ付き合わせるなんて、まずないもの。」
 そんな言いようをする。それでなくたって、繁華街の寂しい辺りは不良がたむろしていて危ない。そのくらいは何かと疎い進だって心得ていようからね。だからこそ、人の多い駅前の方が安全で、そこで待っててっていう運びを選ぶ筈。
「それに、このくらいの時期は、あいつの実家の道場関係の会合とかが毎年ある筈なんだ。」
 旧の暦で数えた同じ日にって毎年構えてる集まりらしいから、確か今日じゃなかったかな? 今日って"大寒"でしょ? さすがは幼なじみで、付き合いの長さから何となくながらも覚えていたらしい桜庭であり。去年のこの辺りの日にも、進はアメフトの練習をわざわざ休んでいたしと続けたのへ、やっとのこと、蛭魔が意外そうに細い眉を上げる。自分と同じくらいに"アメフト一筋"なあの男が、その練習をわざわざ休んでまで優先するとはと、そんなに重いものなのかと感じたからだ。
「道場って? …ああ、合気道のか。」
 うん、と。頷いて見せた桜庭は、
「進は単なる体力保持の1つとして続けてるんだけど、向こうの世界の方々はどう思っているやら。進のお姉さんが時々こぼしてた。いつまでボール遊びばかりやっているのかって、分家の叔父様方がうるさい時期もあったらしいって。」
 武道の世界はちょっと特殊だからね。ましてや、主家の長男で、腕もそこそこ立つらしいもんだから、周りは今の師範のお爺様の後を継ぐのは進だろうって見越してもいるんだろうけどさ。桜庭はそうと続け、
「本人にはその気はない…ってとこか。」
 あれほどまでにアメフトにのめり込んでいる青年だ。それはなかろうよと、それこそこっちが本道な者同士の感覚で分かること。寡黙で朴訥、言葉少なな無愛想野郎で、アメフト世界では怖いものなしな奴にも、それなりの障害はあるのだなと、同情半分に肩をすくめた蛭魔は、だが、
「…っ。」
 ハッとして、息を呑む。
「…じゃあ、チビを呼び出したってのは。」


  ――― 本当に進本人なのだろうか?






            ◇



 指定されていた場所の所番地が分かりにくかったのか、時折周囲を見回して、確かめ確かめ歩いている。そんな調子で…さほど急いでいたセナではなかったがために、蛭魔と桜庭は割とあっさり、その小さな背中を再び視野に収められるところへまで追いつけた。本当に進との待ち合わせであるなら問題はない。なので、相手が来るまで傍らにいてやろうと思った彼らであったらしく、いつもならそう言い出す蛭魔へ何か物言いしたがる桜庭も、どこかに嫌な感触がしたのだろう。文句を言うどころか、自分から進んでセナの後ろ姿を探したほど。そうやって見つけた後輩さんへ、
「お…。」
 おいと、掛けようとしていた声が一瞬止まる。見やっていた小さな背中に近づいて来た人影があって、セナの方も立ち止まると、相手と 二、三、言葉を交わしているからだ。
「…知り合いかな?」
「さあな。」
 ぼさぼさの髪を撫でつけていない、どちらかと言えば若い男。自分たちには生憎と見覚えがない。ここいらでは特に珍しくもないだろう年頃であり、黒っぽいハーフコートにくすんだグレーのセーターとジーバンという、これまたいかにも平凡ないで立ちをしている人物だが、
"…にやついてやがるのが気にいらん。"
 どこか卑屈そうな笑い方。自分の側の態度を決めるにあたり、まずはと相手の様子を窺うのが習性になっている人間の笑い方だ。例の脅迫手帳の霊験でそういう顔には随分と覚えがある蛭魔にとって、手玉に取る相手のお顔に見る分には何てことのない代物だったが、それがあのセナへと向けられているのは…何だか彼を下衆
げすな野郎に値踏みでもされているような気がして、どうにも落ち着けない。
「行くぞ。」
「…え?」
「俺たちだって奴の知り合いだ。声かけるのに何の遠慮が要る。」
 もしかして、知り合いにだって安心してはいけないのかも。セナの場合、昔の知り合いの中には、当時のいじめっ子という部類がいるのかもしれない。そうと思い当たったのは後からだったが、理由なんかは この際どうでもよかった。
「おい…。」
 今度こそ呼びかけた声が、だが、途中で凍る。

  ――― な…っ。

 ふらりと。いきなり糸が切れて足元へと崩れ落ちる操り人形のような、何とも不自然な倒れ方。足元へ全身を落とし込むような格好で昏倒したセナを見た蛭魔が、それはよく通る声で叫んでいる。

  「…っ。そのチビに何しやがったっ、貴様っ!」

 さすがに自分を指しての怒号だと察したのだろう。ハッとした男は、そのまま抱え上げようとしていたセナを腕の中に一瞬見下ろしてから、わずかな躊躇の後、少年の小さな体を見切って向こう側へと駆け出した。どんなに小さくとも意識のない体は重くなる。それを抱えていては逃げ果
おおせられないと判断したらしい。
「チィっ!」
 その場へ一気に駆けつけた二人。素早くしゃがみ込んで掬い上げるように小さな肩を抱えた蛭魔は、まずセナの呼吸を確かめ、
「任せたっ!」
 桜庭へと声をかけながら腕を伸ばしてその身を譲る。それへと頷き、すっかり萎えた小さな体を軽々と冷たい路上から抱え上げた桜庭だったが、

  ――― え?

 逃げ去ろうとする輩の背中を屈んだ態勢のままでキッと見据えていた蛭魔が、ジャケットのポケットから取り出した携帯電話のアンテナをむんずと掴むと…まるで掃除機のコードを本体から引っ張り出すかのように、何度も何度もガリガリガリっと引っ張っては長く長く延ばしているのを目撃して唖然とする。
「…そ、それって。」
 どうやら、アンテナではなく巻き込み式になっていた特殊なワイヤーであったらしく、しかも、

  「逃がすかよっ! こんの糞
ファッキン野郎っっ!」

 十分な長さを素早く引き出したと見るや、今度は素早く立ち上がって照準を定め、その本体の方を矢のような勢いにて、逃亡犯の背に向けて流れるようなフォームで投擲したから…さすがは超高校級のQB。こんな咄嗟のことであれ、クィックスローなんてお手のものであるということか。
「な、何してんのっ、妖一。」
 もしかしたら危険な人間なんだよ?と、そんなのへ こっちからちょっかい出してどうすんだと言いたかったらしい桜庭に、
「取っ捕まえるに決まってるだろうがよ。逃がしゃあまた、日を改めてチビを襲いかねねぇからな。」
 真剣そのものの鋭い横顔は、数十m先にて見事に相手の足元へと絡んで素っ転ばした…携帯電話型の投げ分銅の威力へとにんまり不敵に笑って見せていて、
「そこにハンカチが落ちてるだろう。間違っても触んなよ? 近づいてもダメだ。そっから何か変な匂いがしねぇか?」
 そんな言いようをしつつ、手の中のワイヤーを思い切り引っ張って手繰り寄せ始めた蛭魔であり。言われて…辺りをクンクンと嗅いでみた桜庭は、何だか…塗料のような揮発性のあるものの匂いが仄かに漂っていることに気がついた。
「…これって?」
「エーテルだか、クロロフォルムだか。チビを昏倒させるために用意しやがった"凶器"だろうさ。そんな仰々しい"準備"があったって事は、最初からこいつを計画的に狙ってたってことだ。」
 入手するには身分証明が必要な代物だが、それでもアシは付きにくかろうよ。ここいら周辺には大学や研究所なんてもんが多いからな。それを1つ1つを洗って追跡するには相当な時間が掛かることだろう。金髪の狙撃手殿は、忌ま忌ましげな顔で吐き捨てるように言い放って、
「小説や映画なんぞで、気絶させる時に使う薬品の定番みたいに紹介されてるもんではあるがな、素人がよく知りもしないで使うとえらいことになるんだよ。原液に近いままで使ったりすれば、下手すりゃ呼吸障害を起こして死んじまったり、若しくは意識障害なんてもんが残るケースだってある。」
「…っ! そんなっ。」
 自分の腕の中、無表情なままに昏倒している小さな少年の顔を見下ろして、思わず息を呑んだ桜庭へ、
「高階さんへ連絡してくれ。ついでに警察へもな。」
 そうと言い置いた美麗な悪魔様。食い込んだワイヤーの先でじたばたと悪あがきをしてもがく怪しい男に忌ま忌ましげに舌打ちすると、ピンと張ったワイヤーをぐいぐいと手繰りながら、自分の方からそちらへと立ち向かって行ったのだった。


  「てめぇ…っ!
   自分が一体何をしたのか、
   その身にとっくりと思い知らせてやろうかっ! ああんっ?!」

  「あ…ちょ、ちょっと、妖一っ!」


 そんな行動をとる彼の身へ単純に"危険だよう"と思ったから声を掛けた桜庭ではなく。
おいおい その手にいつの間にか握られていた、護身用の小型拳銃、レミントン・ダブル・デリンジャーなんてものを見たからで。

  「そんなの持ってたら警察なんか呼べないよう。」

 …あなたも随分と物慣れて来ましたねぇ、桜庭くん。勿論、モデルガンよね? ね?
(恐々) ちなみに、このレミントン・ダブル・デリンジャーっていうのは、ご婦人がその小さなお手々や、イブニングドレス姿になった時の唯一の持ち物となる小さなポーチへ隠せるくらいに小さな、2発だけを込められる護身銃で。その短い銃身からグリップにかけてのU字型の曲線がなんとも優美で、クラシカルな映画なんかによく出て来ます。
"そんな暢気なことを…っ。"
 あああ、すいませんです。
(汗) 勢い込んで不審人物へと立ち向かわんとしている妖一さんの細身の背中をハラハラと見やりつつ、自分の携帯でとある番号へと連絡を取る桜庭くんだった。


  「…あ、高階さんですか? 桜庭です。
   あの、今"アタック"が掛かってるんです。
   でもって、あの…妖一がキレちゃってて、
   怪しい相手を手づから捕まえようとしてるんですよ。
   ………はい。はい、場所は…Qタウンの大通りから少し外れた、○○通りの…。」






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  *何だかまたもや物騒な雰囲気のお話が始まりましたが、
   はてさてどういう運びになりますやら。
   続きをどうかお待ちあれ。