Albatross on the figurehead 〜羊頭の上のアホウドリ
 

   王様の玉子〜100,000hit 突破記念DLF
 

 自然環境的にも人為環境的にも世界で一番苛酷な航路。悪魔の海域、魔海、極悪海賊たちの巣窟などなどと、様々に恐ろしげな名前をつけられた"偉大なる航路・グランドライン"にての航海にも随分と慣れて。こっちの戦歴やら懸賞金の額やらに驚嘆されるようになるにつれ、何が起ころうと大概は驚かなくなりつつあった今日この頃だったのだが。なればこそ、小さな小さな"不思議"には、感覚がマヒしていた傾向も多少はあったのかもしれない。もしかしたら答えは簡単に導き出せたのかも知れなかったのに、何でまたあんなにもすったもんだしたのやら…。



 それはとある小さな島の小さな港へと係留中のことだった。秋島海域に入ろうかという取っ掛かり辺りの、なかなか気候のいい海であり。立ち寄った小さな島は、補給基地というよりも保養や観光向けの、たいそう静かで穏やかな土地で。いつものごとく、物資補給にと何人かが町へ降り立ち、残りの面子たちは、ログもすぐに溜まりそうな土地だということで、船でのお留守番を言い置かれて…さて。

  「食べるんだ!」
  「ダメったらダメよっ! マルだけは食べさせないっ。」

 サンジにチョッパー、荷物持ちにゾロという、今回はなかなか質実剛健な
(?)買い物班たちが大荷物を抱えて戻って来た愛船"ゴーイングメリー号"は、舳先の羊を始めとする のんびりした外観のおかげさまで、主帆を取り替え、海賊旗を降ろせば、無難な民間船に見えなくもない。そこで、情報が行き届いていなさそうな小さな港に寄港する時は、物好きな仲間うちでの旅行なんですよなんて誤魔化して、一般の港へ堂々と接舷することもある彼らなのだが。となると、いつにも増して騒ぎは禁物な筈なのに。何だか…甲板にて大声で揉めている気配。埠頭から桟橋へと入り、船に近づくにつれ、声の輪郭がはっきりと聞こえて来て、
「どうしたんだろ。」
「ルフィとナミさんだな、ありゃ。」
 揃って見上げた船端のその向こう。よく晴れた青空に向かって吸い込まれそうになって伸びている帆柱の根元辺り。声音から察するに、留守番していた顔触れの、船長と航海士さんの二人が、何にだか喧々囂々
けんけんごうごう言い争っているらしく、
「とにかく、ダメなものはダメよっ。食べるものなら他にだって沢山あるんだし、サンジくんが何だって作ってくれるでしょう? あんたが"この子"にこだわってるのは、ただ珍しいってだけの理由からなんでしょうが。」
 そうと言い切って、ちらっと見やった船端の真下、
「あ…サンジく〜〜〜ん。助けてよ、もう。」
 胸元へと何か抱え込んだ格好のままのナミが、甘ぁいお声でフェミニスト・シェフ殿への助け舟を求めたから…これはもう勝負有りだろう。とはいえ、
「???」
 帰って来たばかりの面子たちには、何が何やら話が全然見えないという事態に変わりはなかったのだったが。











 さて、それから幾刻か。

  「…うう〜〜〜。」

 ほやほやの柔らかい頬を真ん丸に膨らませ、むすうっと見るからにむくれて上甲板にまでやって来た船長さんへ。食材やら医薬品やら燃料やら、買い物の荷を船倉へと収納し終えて、羽根ならぬ身体を伸び伸びと板張りの上へ延ばしていた剣豪殿が視線を投げる。
「まぁ〜だ怒っとんのか?」
「だってよぉ。」
 声をかけられたのを弾みにばたばたと、幼い四肢を撥ねさせつつ、聞いてくれよぉと傍らまで寄って来て、
「おいおい。」
 ひょいと相手の腹の上にまたがるのは…あんた、どういう甘え方だ、そりゃ。
(笑) このままでは何とも会話しづらいので、やれやれしょうがないなと身を起こすゾロであり。
「で? 何がどうしたって?」
 起き上がって背後の柵へと凭れ直したゾロの、頑丈で堅い腹から"ずずず…"と少しばかり後方へ滑り落ちて、丁度"お膝抱っこ"の体勢になったからか、
「ナミが勝手なこと言うんだよぉ。」
 広々としていて陽当たりの良さげな胸板も温かな、奥行き深い懐ろへともぐり込み、頬をぴとりと くっつけて、いかにも睦言を聞いておくれという甘えたな構えとなる船長さん。ねえねえ、パパァ〜ん、指輪買って〜んvv …じゃなくてだな。
(げほごほ…)

  "まあ、大体は聞こえていたけどな。"

 ナミとルフィと、二人のどっちの言い分が正しいのか。サンジやチョッパーへと熱弁振るって訴えていた彼であり、そのお声は船倉にまで届くほどだったから。ゾロは こそりと苦笑しつつ、切なる訴えを始める舌っ足らずなお声にあらためて耳を傾けてやることにした。


            *


 お留守番を言い渡されて、その暇を持て余し、見張り台に登ったルフィが、陽溜まりの中に見つけたのは…大きな大きな玉子が1つ。固い殻に守られた玉子で、昨夜から朝にかけての見張りに立っていたウソップは覚えがないというから、朝早くにこの島に着いてからの半日の間に何物かが置いて(生んで?)行ったらしいのだが、それがまた只者ではない大きさで。ドッチボールくらいの一抱えはあったものだから、それだけでも珍しい。抱えて降りて来たルフィは早速にも茹でるか焼くかして食べてみようぜと提案したのだが、
『でも…それって何の玉子かしら。』
 ナミがちょっと待ったとストップをかけた。
『形から言って、鳥の玉子だろうとは思うんだけどもな。』
 そんな推測を出したのはウソップで、
『そうなのよね。』
 ナミもそれには頷いて見せた。殻を持つ玉子を産む生き物といえば、鳥類か、爬虫類・両生類かというところだが(あ、カモノハシもだったかな?)、鳥の玉子に限ってはその片側が楕円というか円錐形になっている、所謂"玉子型"。この玉子もそういう形なのを指しての判断をしたらしきウソップやナミの言へ、
『え? 何で分かるんだ?』
 ルフィがキョトンとして見せる。
『だから。トカゲだのカメだのは、砂の中なんかに生みっ放しにしておいて地熱や太陽の熱で温めるんだけど、鳥は大概自分で温めて雛に孵
かえすでしょ?』
『うん。』
『だから、こういう形だとね、巣から転がってってもクルリって小さく回って元の位置に収まるし、このアーチ状の形は外からの圧迫にも強いから、上に乗っかっても滅多には割れないの。』
 上手いこと出来てはる。
『一体どんな鳥の玉子なのかしらね。』
『港に着いてから見つかったんだから、海鳥とは限らないよなぁ。』
 陸が近いということで、大海を渡る鳥とか、港近くにしかいない鳥と限ったものでもないよなと、その種類にワクワクし出したナミとウソップへ、
『え〜〜〜、そんなのどうでも良いじゃんか。割って焼いて食べようぜvv』
 そんな提案をしたところが、
『何言ってるのっ。何の玉子かも判らないのに、よくそんなことが言えるわよね。』
 ナミがムキになって怒り出し、そこから二人の口喧嘩が始まってしまった…という訳であったらしい。


            *


「なあ、食おうって思うのは野蛮なことなのか?」
 ナミとしては…正体不明なものをそのまま無防備に食べるのは危険だという意味合いもあったのだろうが。あんまりルフィが聞き分けないものだから、ついついそういう言い方もしたらしく。売り言葉に買い言葉が重なった結果、玉子に"マル"なんて名前を勝手につけて、完全防御の姿勢に入ってしまったらしい。あれでナミだってお腹が空いてりゃ何だって食べる、空島へ行った時も、得体が知れないとか何とか言いつつ空魚のソテーをすんなり食べていたし…と。ルフィにしては理路整然、ちゃんと実例まで持って来ての言いようへ、
「さぁてな。どっちもどっちだと思うぜ。」
 短く刈った髪形がよく映える、目許涼しき何とも男臭いお顔をちょこっと困ったようにほころばせて。ゾロは どうとも言えないという苦笑をして見せた。味覚なんてものまで持ってるくせに、砂糖からカラシまで、贅沢品からゲテモノまでと、本当に幅広く、人間はあれこれ色々と様々なものを食べる。(カラシがあんなに辛い実なのは、舌の薄い小鳥は味覚がないので、そういう小鳥たちにだけ食べてもらって、より遠くへ繁殖範囲を広げるためだとか。)そんな一方で。魚や動物、時と場合によっては植物へでも。神様が決めたから、若しくは精霊だからと理由は様々に、食べて良いものといけないものがあるという厳しい指定をする宗教もあるので、一概にどうと断定は出来ないけれど、
「人間ってのはサ、何でもかんでも食うくせに、腹がちゃんと満たされていれば、鳥だろうが鮭だろうがカニだろうが、いかにも食い物っぽい生き物に対してでも、名前つけてペットや"友達"にしちまうんだよな。」
 確かに考えてみれば勝手な話だがなと付け足した、ゾロの言いようは ちと極端だが、それでも人というのは随分と尊大で勝手な生き物には違いなく。余談が得意技な筆者としましては、このお題に対しても結構たくさんの"例え話"を持って来ることが出来たりする。活きのいいカニやエビやすっぽんをお歳暮にもらったら子供が名前つけて飼い出した話とか、果たして鯨は食べても良いのか悪いのか、とか。猪を"山クジラ"と呼んだりウサギは"1羽2羽"と数えるのは何故なのか、とか。骨折した競争馬の安楽死のお話だとか、赤いべべ来た金魚はそこらの池に放しては残酷だというお話だとか。………まま、今回はそういう説教臭いお話はパスするとして。

  「お前はチョッパーだって"肉"扱いして追い回したっていうじゃないか。」

 ありましたな、そんなことが。
(笑) 今やすっかりと、頼りになる船医さんとしてちゃんと仲間扱いしているのに、初見の時は"肉っ!"と叫びながらシェフ殿と二人掛かりで追い回した彼だった。
「あれは、だって…あん時は物凄く腹が減ってたから。」
 まるで幼い子供が大人から理屈の不手際を指摘されでもしたように、唇を尖らせて言い返すルフィへ、
「でも、途中から…今度は"仲間にするんだ"って言って追い回してたよな。」
 にやにやと意地悪く笑って見せながら、容赦なく"詰め"に入った剣豪殿である。問題のドラム島にて、ゾロは船番をしていたこともあって、あの一件に関しては要所要所が未だに謎なままだから、前半部分はナミやサンジからの伝え聞き。それに、あまり聞きほじくる性分ではないので、細かいところは知らないままになってもいて。よって、
「それって何か切っ掛けがあってのことなんだろ?」
 単に"俺は知らないことだけど…"と言いたかったまでで、それを思い出してみなという説教のつもりはない彼だったのだが、
「う〜ん…。」
 こうやって並べられると、何かしらヒントめいたものが頭の中に浮かびでもするのか。少々考え込んで見せるルフィではある。
「チョッパーは面白れぇ奴だから、航海に連れてきたいって思った。」
 そういや、ナミさんに"医者だと知らなかったの?"と呆れられ、
『七段変形・面白トナカイだから』
 なんて答えてましたっけね。
「それと…。」
 肘から大きく腕を上げ、両手は頭の後ろへ手枕にしたゾロの、凭れ甲斐のある広くて分厚い胸板に頬をくっつけたまま、う〜んとう〜んとと自分の頭の中をまさぐって、
「海賊じゃなかったのに海賊旗挙げてた"邪魔グチ"に、あいつも何か怒っててサ。そいで一緒に戦ったから、こいつ仲間にしようって思ったんだ。」
 悪魔の実の能力を笠に着て我儘な専横の限りを繰り広げ、国民たちをさんざん苦しめていた国王ワポル。それを二人して叩き伏せたことからも、仲間だという意識は強まったと思う。それを思い出したらしきルフィは、
「そだな。仲間は食えない。」
 そんな言いようをする。
「…あのな。」
 何を言い出すやらと呆れかかったゾロに、
「うん、だからさ。」
 ルフィの側でもこれでは言葉が足り無さ過ぎると思ったらしく、何やら付け足そうとゾロの声を先んじて遮った。
「例えば、ただのトナカイに名前つけるってことはサ、相手が仲間になっちまうってことなんだよな。いや、そうじゃなくて。こっちからの見る目を"仲間へのもん"に変えちまうってことなんだよな。」
 拙いながらも何とか、自分の裡
うちに芽生えた理解を説明しようとする。でも…チョッパーは"ただのトナカイ"ではなかったでしょうが、最初から。(笑)
「相手は最初と何も変わらないんだけど、何かに気づいたこっちからの感覚が変わって、そいで仲間とか友達とかって間柄になる。」
 見分けのつかない同じのが沢山の中の、見分けがつく特別な一つ。名前というのはそういうものなんだなと言いたいらしくて、
「仲間や友達ってのはサ、何も人間に限んねぇもんな。」
 そっか、そういうことかと。ルフィなりの納得に至ったらしい。
「ナミはあの玉子から生まれて来るもんを友達にしたいんだな。」
「ま、そういうことかな。」
 それこそナミの頭の中にしか答えのない、確証はないことだけれど。話をややこしくしないためにもと、無難に答えておくゾロである。珍しくも今回は、早々に無難な納得に落ち着いて、ちゃんと真っ当な解釈を導けたようで。いつもこうだったら、余計な騒動にも巻き込まれず、山のような苦労もしないで済むんだけれどねぇ。
(笑) 千年竜の時といい、動物がらみの事象へは案外と飲み込みが早いルフィであるらしく、
"そういえば…。"
 いつぞや、珍しい生き物が船内に紛れ込んで、それへ"きぃ"と名前をつけて可愛がってたこともあったっけ。いくら飛び抜けた食いしん坊でも、何がなんでも"食べ物"に直結している訳ではなくて。そんなルフィにとっての"玉子"は、それが鶏のものだろうと正体不明のものだろうと区別なく、全て"食べ物"の方のカテゴリーに収まる存在だったらしい。コロンと動かない玉子は単なる物体っぽくて、微妙に"生き物"には見えない彼なのかもしれない。

  *拙作『
きぃ。』参照。
   参照ついでに『
うふふのふU』にも、
   人は物に名前をつけて擬人化したがる話を書いた筆者なので、
   よろしかったなら、そちらもご参考までに。
おいおい

 嬉しそうに"くふんふんvv"と。お気に入りの頼もしい胸板に柔らかい頬を擦りつけ始めたので、ご納得いただけたと思いきや。
「でもさ。」
 まだ何かあるのか"でも"と来た。一件落着かと和みかかっていたお顔を"おや"と固まらせかかったゾロへ、
「玉子なんてのは、そうそうどこか変わる訳じゃあないのにな。何がどう切っ掛けになるやら、だよな。」
 妙な言い回しをする彼へ、
「はあ?」
 拙いせいなのか、それとも何か はしょったのか。少々意味が掴みかねたゾロへ、
「マホーかけて喋ったり動いたり出来るようにする訳じゃないだろ。よ〜く見てて何かに気づくもなにもないじゃん。なのにさ、ナミがそうしてたみたいに、この子はマルちゃんなんだからって、人扱いになっちまう。」
 しししと笑ったルフィであり、そんな彼の言い分が何とか判ったと同時、成程、人間の感性というものは確かに面白いなと、ゾロも頬に苦笑を浮かべた。そして、

  「それを言うなら、お前だって似たようなことをさんざんして来てんだぜ?」

 気づいてるのかと。ふふんと悪戯っぽい笑い方をする。だがだが、
「え?」
 ルフィご本人には覚えがないらしく、
「何だよ、それ。」
 教えろようとねだりながら、ガバッと身を起こしたその拍子。丸ぁるい頭に乗っかっていた麦ワラ帽子が風にあおられて浮き上がり、顎ひもで留まって背中に落ちる。潮風の中に躍り出した柔らかい黒髪が、前髪の隙間から大きく覗いた丸ぁるいおでこが何とも幼
いとけなくて愛らしく、
"…こんな奴が懸賞金1億ベリーだもんな。"
 本人はさほど…多少は腕っ節も強くなったのかもしれないが、それでもそんなに何かが変わった訳でもないのに。ただの小童
こわっぱが今や懸賞金1億ベリーの海賊だ。ついついと、そんな今更なことへ意識が逸れたゾロの視野の真ん中に、自分のお顔を割り込ませて、
「なあってっ。」
 ルフィはあくまでも"教えろ攻撃"敢行中。抜けるような高い高い青空を背景にした童顔の、大きな琥珀の瞳に"むむう"と見据えられ、剣豪さんは堪らず"くすす"と苦笑した。

  「だから。
   お前、海賊じゃねぇ奴らばっかりを仲間に引き入れて来たろうがよ。」

 もともといつかは海に出る予定だったウソップだって、あの時点では単なる一般人だったのだし、海賊なんて大嫌いだったナミに、バラティエから離れる訳にはいかないと渋っていたサンジ、医学を極めるんだという決意も堅かったチョッパー。極めつけが、飯のタネにと海賊を片っ端から狩っていたゾロ。
"それだけじゃねぇ。"
 敵の幹部だったロビンも仲間に引き入れたし、あのビビ王女だって…まだ正体を隠していた頃の、得体が知れない存在だった時から既に、どこか仲間扱いにしていた節があったルフィであり。向かい合って睨み合ってた相手を、陥落させて背中に入れる。もしくは正体が曖昧なものを、余裕と自信で懐ろに入れる。後者の例はまだどこか危なっかしい時が多々あるものの、必ず口説き落とす粘りや心意気は大したものだろう。
「…それって一緒なんか?」
 剣豪殿のお膝に半分"馬乗り"態勢になったまま、まだ今一つピンと来ないらしいお顔でいるご本人へ、
「ああ、一緒だね。」
 ゾロはくすんと笑って見せ、
「何が嬉しくて海賊なんて外道に成り下がらにゃならんって、俺は確かそんなことを言った筈だ。」
 腕の立つ戦闘担当者が欲しかったにせよ、何も自分でなくたって良かっただろうにと、しばらくはそんな風に思わないでもなかったし。他のポジションにしたってそうだ。アーロンとの経緯
いきさつの詳細までは結局知らないままなルフィなのに、多少は操船術が優れていても…いつ裏切るとも知れないような女に過ぎなかったナミをなんでまた"絶対にウチの航海士にする"と譲らなかったルフィなのか。料理の腕は絶品だし、喧嘩馴れもしているとはいえ、女にだらしがないという どうしようもない欠陥を持つおいおいサンジをコックに選んだのは何故なのか。
「う〜ん。」
 問われたご本人も…実は深く考えてはいなかったのか。
「う〜〜〜ん。」
 ちょいと大仰に腕を組み、ゾロのお膝に馬乗りになったまま、視線を甲板の床のあちこちにさまよわせ、自分の心の中をあちこちかき回して考えていたルフィだったが。やっと結論が見えたのか、うんと大きく頷くと、

   「旨そうだったからだ。」
   「はあ?」

 また とんでもないことを言い出したよ、この人は。お口を真横にほころばせ、
「だから。皆して何か、でっかい夢とか野望とか持っててよ。一緒に大きいことやろうって、ずっとずぅっと遠くまで行ける奴らだって思ったからだ。」
 不敵に"にっかりvv"と笑いつつ、
「そういう"旨そうな"顔してた奴らだったから、一緒に旅をしたら楽しくなるぞって思って仲間にした。」
 胸を張って言い切るルフィだが、
"…旨そうってのは何なんだ。"
 ホント、とうとうコトの描写まで胃袋つながりになったか、船長。
(笑)
"…だが、まあ。"
 何が生まれるのだか判らない、不思議な玉子といい、先々でどう大化けするやら、野望と無謀を目一杯に抱えた、奔放なクルーたちといい、
"似た者同士には違いない…か?"
 妙な輩ばかりが乗り合わせる船であることよと、その大元締めさんの屈託のない笑顔を眩しげに見やったゾロである。


  "こいつは一体どんな海賊王になるんだろうな。"


     まだまだ玉子。でもね、王様の玉子。
     海賊王に、大剣豪。
     世界一の料理人に航海士。
     冒険王もいれば、どんな病も治せる凄腕の名医もいる。
     真の歴史を極めたい考古学者もいるしね。
     皆、どんな王様になるんだろうね。
     玉子なだけに、きっと"殻破りな"王様に違いないよね。



   「あら。それを言うなら"型破り"じゃないの?」


  ………わざわざのご訂正ありがとうございます、ロビンさん。(うう)











   aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif


 さてさて、翌日。ログも溜まったし出港しようかと構えたところが、
「ルフィが熱出した?」
 キッチンに集まったクルーたちは、ゾロからの言に驚き、そして、
「うん。知恵熱らしいんだ。」おいおい
(笑)
「………☆」
 チョッパーからの診断報告へ思わず顔を見合わせた。
「何か難しい話でもしたのか?」
「いや、それほどの話題じゃあなかった筈なんだがな。」
 がしがしと短い髪を掻き回しながら言葉を濁したゾロだったのは、せめてもの名誉を守ってやろうという慣れない心遣いの現れであり、
「で、例の玉子はどうした。」
 話題を変えようと誰へともなく、訊いてみたところが、
「ああ、あれならもう無いぜ。」
 オーブン前にて鍋のスープを掻き回していたサンジが、そのお背中にてあっさり答えを返して来た…が。…え? でも…何が孵(かえ)るのかって、ナミさんが楽しみにしてませんでしたか? こちらもそれを思ってだろう、キョトンとしたゾロをそぉっと手招きしたのはウソップであり、
「???」
 怪訝そうな顔をしつつも傍らまで寄ってやれば。
「何でも物凄く珍しい玉子だって、遅くに帰って来たロビンから聞いたらしくてな。この島の海域を治めてる王族に献上されるって種の玉子で、問屋に持ってきゃあ体積と同じだけの金貨と交換してもらえるって聞いて…。」
「…成程な。」
 マルちゃんを売りに行った訳やね、ナミさん。
(笑)
"ルフィにはどう言ったもんかな。"
 副長さんも大変だねぇ、相変わらず。




   〜Fine〜  03.9.7.〜9.9.


  *たいそうなタイトルの割に、父と子の船上教室になっとりますが。
   当サイトもそのカウント数を 100,000hitという大台に乗せ、
   皆様に可愛がっていただけているのだなという
   至福にひたっている今日この頃でございます。
   ………の割に、ちょこっと浮気とかしている訳ですが。
(笑)
   これからも頑張って"ゾロル"を書き続けて参りますので、
   どうかよろしくお願い致しますですvv

  *こんな作品で宜しかったなら、DLFと致しますので
   どうかお持ちくださいませですvv


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