12.歳の差ルイヒル  15.11.14

 “冬のお隣り”


そろそろというか とうとうというか、
前倒しのではなくの冬がすぐお隣まで来ているようなお日和が
たびたび顔を出すようになった。
ずっと座っていると膝周りが寒くなるとか、
ひゅんっと吹き抜ける風が思いのほか冷たいとか。

 「あとね、温ったかいものが美味しくなったよ?」

お芋でしょ?たい焼きでしょ?
ポタージュにココアに えっとぉうんとぉと、
一生懸命思い出しつつ、
可愛らしい指をお顔の前で折って見せる瀬那なのへ、

 「……。」

ゲーム中は鬼神みたいだと揶揄されるキレのある目許を、
目映いものでも観るようにやわらかく和ませて。
触れたものみな引き倒して沈没させる最強の手をそおと動かし、
小さな坊やの、上着に潰されたネルシャツの襟を直してやる進であり。

 “いい傾向だとは思うんだけど。”

本質は誠実な男だとようよう知っているから、
柄じゃないよなとまでは思わない桜庭ではあるが。
ああ、そんな細かいこと出来るの?その人、
傍のあんた代わってやんなよという痛い視線がたまに飛んでくるのが、
何というか、空気が読めてのこと すぐさま気づくだけに気が重い。

 “そういうのって…。”

他の相手だとか、他のシチュエーションなら
“ほら貸してみ”と代わってやるかもしれないが、
そんなことを積み重ねるうち
じゃあお前に任せようと怠ける進でもあるまいが、
そういった、効率とか無難とか
割り込ませることじゃあないのも判る性分なもんだから。
気が利かないと思われてるだろう誤解をチクチク意識しつつも、
武骨なチームメイトと可愛らしいお友達の、
微笑ましいやり取りを守ってやってるアイドルさんだったりし。

 「そうそう、確かに温かいものが嬉しい季節だけど。」

話題を進めてあげるのも、同伴してきた彼のお役目で。
少しほど冷たい風も吹かなくはないけれど、
小雨が多かった中、久し振りの良いお天気だからと出て来た公園。
陽だまりのベンチに腰かけて、
路販車で売ってたホットサンドをおやつに食べてた彼らでもあり。

 「セナくんて猫舌だから、
  熱すぎるとすぐには食べられないんじゃないの?」

一緒に売ってたカップのココアも、
寒い気温にすぐ冷めぬようにか結構な熱さだったので、
それもまた柄じゃあないだろに
進がふうふうと吹き冷ましてやっていたほどで。
やっと自分で持てるほどにまでの適温になったの、
どうぞと渡され、おっかなびっくりで飲み始めていたのへと、
桜庭がそういえばと聞いてみたところ、

 「うんvv あったかいの好きだけど熱いのは大変なの。」

グラタンとかだと、ママがセナのを一番最初に焼いて、
それで少しでも熱くなくして、皆でいただきますするんだけどね、

 「そいでも中は熱い熱いだから、
  気をつけなさいよ、いっぱい頬ばっちゃダメよって、
  いつも言われちゃうのねvv」

菱屋さんの、回転焼きにお好み焼きの具を挟んだの、
あれって温ったかいうちが一番おいしーのに、
最後の方は冷えちゃうんだもん、
ちょっと詰まんないってヒル魔くんにゆったらね。

 「だったら、温ったかい吸い物とかと一緒に食えばいいって。」

コンソメスープとか温ったかいのを飲んでご馳走さましたら、
冷たくなってて詰まんないって思いはしねーぞって。
そんな風に教わったのと、嬉しそうに笑ってから、

 「ただね?」

ここで、無邪気な瀬那くんには珍しくも、
辺りを憚るように身を寄せて来て、小声で付け足されたのが、

 「そっちも飲み頃にして合わせるのは結構難しいかもだけど、って
  付け足したのは、あのね?
  ヒル魔くんも猫舌だからでね?」

 「あ…。」

そっか・そういやそうだったかなぁと、
桜庭が思い出してるところへ続きの文言が飛び込んできて、

 「いつも葉柱のお兄さんがフーフーしてあげてるの。
  でもこれって内緒だからね?」

 「…だろうねぇ。」

正確には、あのね?
ヒル魔くんがセナのおやつをフーフーしてくれて、
俺は口が1個しかねぇんだから判るよなって、
誰へなのか言い訳するんだよね。
そいでそんな風に役割りぶんたんがせーりつするのね、と。
そこの部分はあの小悪魔さんが言ったのだろう言い回しで告げた瀬那くんだったのへ、

 「…そうか。」

素直に得心したのが進ならば、

 「〜〜〜。////////」

どうしよう、なんかすごい可愛いお話なんだけどと、
顔が緩んでしょうがないのをこらえるのに大変だった桜庭さんだったそうです。



     〜Fine〜  15.11.14


 *他のお部屋の拍手お礼を差し替えたので、
  こちらさんのもと思いまして。
  やっぱり季節感出しちゃいました。
  だって、急に冬めいて来たんですもの。


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