今度はチョッパーが一緒に居るだけあって、
「そっちじゃない、こっちだぞ、ゾロ。」
さほど困らず追い着けて。辿り着いたのは公園の一番奥地。元からあった自然林なのか、木の陰があまりに濃すぎて見通しが悪く、それをいいことにチンピラどもが溜まり場にしているというよくあるケースなのだろう。いかにもな面構えの、だが…やはりいかにも"小物"らしき男どもが5、6人、憤然として立ち向かいかかっているルフィを、へらへらと薄っぺらい笑い方で見やりつつ取り巻いている。
「ルフ…っ。」
声をかけようとしたチョッパーを、だが、ゾロが手をかざして引き留めた。
「? ゾロ?」
「加勢に手を出すほどの相手じゃねぇよ。」
確かに、見るからに格が違う相手だと、こちらからはあっさりと判るレベルだ。せいぜい力のないもの相手に意気がるだけの、半端なチンピラどもなのだろうと。だが、そうと言いながら、ゾロの視線はその場からわずかにも外れようとはしない。何一つとして見逃してはいけないからとでも言いたげに。
「何の話だって聞いてんだよ、坊主。」
「だから。さっき持ってった袋をおばあさんに返せよっ。」
「知らねえよなぁ、そんなもん。」
空とぼけて誤魔化すつもりだろうが、それが通用するならわざわざ追っては来ない。
「そこのお前だ。ちゃんと見たんだからな。」
びしっと指差された男は、確かについさっき目の前を駆け抜けた本人で、
「何だよ。何か証拠でもあんのかよ。」
何を優位に立ってか高圧的に言い返したが、こちらだってそんな根拠のない威嚇になんぞ怖じけはしない。しかも、
「お前、そのズボンの尻に穴が空いてるだろ。飛び出して来た茂みに引っかけたのを見たぞ。何なら引っ返してみるか? 切れっ端が残ってるからよ。」
ルフィが言い放った途端、男の顔色がさぁーっと曇った。心当たりがあるらしく、素早く後ろをまさぐって、はっとして見せる。…空いてたんだな、穴。(笑)
「う、うるせぇなっ。お前みたいな坊主に指図される謂れはねぇんだよっ!」
突っ掛かろうと踏み出したその途端、ズボンの腰にでも挟んでいたらしい、使い慣らされたものらしき、地味な図柄の巾着袋がポトリと足元に落ちて。
「………っ!」
こういうのは"馬脚を現す"とは言わないのかな? 単なる"墓穴"かしら。カッコつけていたつもりが、あっさりとケツが割れ…ごほごほ、もとえ、あっさりと底が割れてしまったものだから、カッコ悪いことこの上もない。そこへ、
「今度はどう言い逃れるんだ?」
鼻先で嘲笑うようにして、そんな風に決め台詞を言ってのけられたものだから、
「~~~~~っ!」
追い詰められて何とも言えない顔付きになったチンピラどもは、それぞれに視線を見交わすと、懐ろやポケットからナイフやチェーンといった武器を掴み出す。まあまあなんて分かりやすい。特に、ルフィが追って来た男は、ここに隠していたらしい太刀を傍らの茂みから掴み出して鞘を抜きはなったから、
「………っ!」
当然それに気づいたゾロが黙ってはいない。素手ならともかく刃物が出て来るとなれば、それでも依然として強さに差はあろうが…掠めただけでも傷がつく代物だけに、放ってはおけないというものだったが、
「ちっ!」
ついいつもの癖で手を伸べた腰に何もないと気づいて舌打ちをし、素早く見回した周囲。遊歩道沿いに植えられた木々へ、支えにと添えられた棍棒くらいの丸太に気がついた。コの字型に組まれて、上の横棒に木の幹を結わえる格好で支えている代物で、その先を地面に埋められた支柱の方の縦棒を、軽い一蹴りでへし折って弾き飛ばす。勢いよく飛んで行きかけた棒は、だが、横棒に結わえられた部分で引き留められた格好になり、上へくるんと回って来た。その棍棒もどきをはっしと掴むと、ぐいと引き抜いて簡単に得物ぶきにしてしまう。
「軽いが贅沢は言ってられんか。」
ふっと苦笑をしながら呟くと、片方の手に持ったままでいた麦ワラ帽子をチョッパーに差し出す。ぽわんっと縫いぐるみトナカイに戻った彼が受け取ったのを確認したそのまま、ルフィが対峙している輪の方へつかつかと歩み寄ったゾロだった。その修羅場の方では、
「やっちまえっ!」
今まさに振りかざされた凶器の切っ先が一斉に降って来ようとしていたところ。だが…そこに立っていた筈のルフィの姿が消えたものだから、先陣を切ったはずの2人ほどがお見事なほど大きく得物を空振って、おっととと…とたたらを踏んでいる。
「なんだ、なんだ?」
改めて見やれば、こちらはこちらで、後方から伸びて来た手に襟首を掴まれて無理からの後退をさせられていて、
「あやや…。」
やはりたたらを踏みかけていたルフィで。手の持ち主は当然、
「ゾロ。」
である。(こらこら、ずぼらな。)何すんだよ、こんな奴ら相手に加勢なんかいらねぇぞと頬を膨らます船長殿へ、
「んなチンピラにかすり傷でもつけられちゃあ、こっちが堪んねぇからな。」
こちらも余裕の薄笑いを口の端へと浮かべて見せるから。そんな彼らの会話が筒抜けなお相手さんとしては、はっきり言って"小馬鹿にしてくれて、どうもありがとさん"な状態。おいおい
「んのやろっ!」
振りかざされた大振りの剣。こちらが手にしているのがただの棒だと判って、にへらと笑った下卑た顔が、だが、次の瞬間、
「ぎえっ!」
激痛に襲われてみっともないまでの悲鳴をあっさりと上げた。ゾロが一体何を、どう、振り動かしたのか、あまりに早すぎて見えなかったというのもあって、
「…え?」
それはあっさりと、石畳の上へ顔から倒れ伏した仲間の姿に、丸腰同然な相手になんで?とばかり、他の面子たちも呆気に取られたことだろう。そんなせいで一瞬止まった面々の中へ躊躇なくこちらから飛び込んでやる。その手元や肩口へと、これまた素晴らしいまでのスピードでの無駄のない一撃ずつが、目にも止まらぬ流れ作業でかつがつと加えられており、
「ぎゃっ!」「うわっ。」「ててっ!」
情けない声を次々に上げて、やはりバタバタと武器を取り落とす彼らであり、まるで一陣の風のように彼が通り過ぎたその後へ、枯れた立ち木のような呆気なさで、腰を抜かしてへたり込む。
「な、なんだ、こいつらはよっ!」
これと言った武器も力みもないまま、たった一人だというのに楽勝で自分たちを手玉に取れる男。得体の知れないものへの恐怖は、もともと大した器でもなかった連中から易々と虚栄心を剥ぎ取ったようで、
「に、逃げた方が良くないか?」
「けどよ…。」
今になってようやっと、格の違いに気がついたらしい。手にした棍棒でとんとんと、逞しい肩先を軽く叩いている偉丈夫に、今頃になって恐れを感じたチンピラどものその背後。いつの間にか"そぉ~っ"と回り込んでいたのはチョッパーで。くくく…と笑って大きく息を吸い込むと、
「うわわわっ、わっ!」
突然の大声をすぐ間近で上げたものだから。ビクビクしていた神経が跳ね上がるのは容易くて、
「わあっっ!」
「ぎええぇっ!」
抜けた腰が一気に叩かれたらしく、今度は尻に火がついたよにバタバタと駆け出して行く彼らだったりした。そんな無様な様子を"えっえっえっvv"と可笑しそうに笑って見送り、置き去りにされてしまった巾着袋までパタパタ駆け寄ってそぉっと拾いあげる。
「どうだ? 大丈夫か?」
「えと、うん。お財布も小間物も無事みたいだ。」
中を確かめてにっこり笑ったチョッパーであり、大事そうに両方の蹄の先で包み持つ。その一方で、
「…ゾロ、刀なくても関係ねぇんだな。」
どこか、そう、詰まらなさそうな声でそんなことを言い出したのはルフィだ。先程、刀が手元にないゾロだから…と話していたばかりだのにこの顛末だ。彼にしてみれば、何となく面白くないのであろう。実に分かりやすく拗ねている幼い船長殿へ、
「どうだかな。格が違う相手だったからな。」
くすんと笑って、
「お前がからんでないことなら、知らん顔するか退散して済ましてたかもな。」
あんなカッコつけた大殺陣回りなぞしなかったよと言うゾロだったが、
「嘘だ。そんなことするゾロじゃねぇもん。」
「ああ"?」
「見て見ぬ振りなんて、しそうだけど出来ない奴だもん。」
顔だけをちょいと突き出すようにされて言いつのられて。それこそ…カッコつけたって無駄だよん、やさしいお人よしだってこと、ちゃ~んと知ってるもんねと言われているようで、
"こいつは~~~っ。"
いや、ホントにそうなんだけどね? 違うの? 私らにもそう見えるよ? 剣豪。ぷくく♪ ころりと形勢逆転した、ちょいと妙ちくりんな"にらめっこ"をしていたお二人さんへ、
「何か俺、腹減ったぞ。」
チョッパーがそんな声をかけて来た。あまりに現実的ではあったが、
「あ、俺も俺も。」
ルフィのお腹にも切実に響いた一言で。二人のお子様たちに言われて、
「けど、俺、余計な金は持って来てねぇぞ。一旦、船に戻るか?」
何となれば数日の絶食も可能という、とんでもないくらい無欲なお方。(ちょっと違うぞ/笑)大蔵省から引き出したお金は刀研ぎにと用意したもので、削りたくはないらしいゾロに、
「だいじょーぶだ。」
ルフィは…いやににんまりとした笑い方をする。
「はい?」
彼とて常に金欠な身の上の筈。それがなんで"大丈夫"なのだろうかと見やったところが、
「さっきのチンピラが落として行った。交番に届けるのがスジなんだろけど、俺たちそんなとこへは近づけないし。」
にかっと笑ったルフィがその指先で摘まんでいたのは、結構高額な世界政府公認銀貨が数枚と金貨が1枚。大食漢な顔触れ揃いだが、さほど凝らないもので良いなら十分に腹を満たせる金額だった。
「仕置きした奴から上前を撥ねんのかよ。」
この子ったらいつの間にそんなはしたないことを覚えたのかしら…と、少年の健やかな育成管理を担当している保護者としては少々複雑らしい剣豪へ、
「やっぱまずいかな。」
悪戯っぽいお顔もどこか愛らしい船長さんが問いかける。この場合の決断は、最年長者に委ねられるところが…相変わらずに妙な相関関係にある海賊団であることよ。それはともかく、
「………。」
口許を少々ひん曲げて、しばし黙っていたゾロだったが、
「…ま・いっか。追いかけたり何やで腹減った原因作ってくれたのも奴らだし。」
「おうっ! ファイトマネーだ!」
ルフィが口にしたのは、自分たちの船へと襲いかかる海賊たちにナミが突きつけている請求書のこと。彼女と同じような考え方をした自分だと言われたようで、
「………。」
そこはさすがに複雑な顔をせんでもなかった剣豪だったが。(笑)
「よし行くぞ、ゾロっ! チョッパー!」
「あ、待てって。勝手に駆け出すとまた迷子になんぞ!」
「二人ともっ! 先におばあさんとこだぞ!」
それぞれが先に発った相手を追うように、順送りに駆け出す彼らである。この程度のすったもんだは"出来事"としてさえ成立しない豪気な彼ら。とはいえ…くれぐれも"迷子を探せ・午後の部"に突入しなさんなよ? 聞いてるのっ? こらっ!
~Fine~ 02.3.31.~4.4.
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*カウンター21000HIT リクエスト その①
らみる様 『久々に陸上でのデート』
*何で彼らのデートには
騒動をからませないと居られないMorlin.なんでしょうか。
何事もなく過ごした話ってあったかな?
あ、確か『雨宿り』が、騒ぎは起こしてないデートだったわね。
それ一件だけ? ふ、不憫な人たち…。(おいおい)
珍しくも少々お待たせ致しました割に、
何だか妙なお話になってしまいましたが。
いかがでしょうか? らみるさま。

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