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さて、こちらは空の上。
「うわぁ〜〜〜っ!」
風を切る音どころじゃない。風が固まりになっていて、耳朶や鼻先、少しでも出っ張っている箇所を容赦なく叩くよう。
「あんまり大口、開けてんじゃねぇぞっ! 空気が乾いてるってチョッパーが言って…、げほっ!」
注意した保護者が噎むせていては世話はない。背後にぴったりとくっついて、ゾロがいる。飛び上がる前にナミは"救命具"代わりだと言っていたが、落ちる前にもある意味、安全ベルト、若しくは"命綱"代わりを担ってもいる彼だ。ウソップからの説明をきちんと聞いていたのもゾロの方だし、バランスが大事だから重心を一点に絞るためにだろう、一つしかない座席であり、そこに腰掛けた剣豪殿のその膝へと抱えられ、余り動かぬよう暴れないよう、がっしりと胴回りをその頼もしい腕の一方でぐるりと抱かれている船長で。…ルフィとしてはそのくすぐったさもまた、ついつい笑みがこぼれてしまうほど、心地いいものであるらしい。
「うわぁ〜っ! 凄げぇなぁ〜っ! 見ろよ、ゾロっ!」
眼下の絶景にルフィが大声を上げた。彼らの船がまるで模型のように小さくなる。
「凄げぇなぁ。」
「ああ、そうだな。」
確かにこれは滅多に拝めない絶景だ。ほんのつい先程まで自分たちが立っていた甲板が判別出来ないほどに、豆粒のように小さく小さくなってしまったゴーイングメリー号。
「小さい船だが、ああまでになっちまうとはな。」
皆がちゃんと乗ってるのに、不思議だよなと言うルフィへ、
「船もだが、海も何か違って見えると思わないか?」
んん?と眉を寄せるルフィの顔を、その肩に顎先を乗っけるようにして背後から覗き込み、
「まるで板に油絵の具を塗ったくったみたいじゃねぇか。堅い板みたいってのかな。」
そんなゾロの言いように、ルフィも"うんうん"と頷いて。
「あ、あ、そうそう。なんか、一面濃い藍色の、模様があるガラス板みてぇだ。」
水なのに。手で掬えば、手の皺が見えるほど透明な。遠いトコを離れて見ると青や藍色で、それでも深さのある柔らかで不安定な塩水をたたえた、それはでっかい水たまりなのに。ここから見ると深さは感じられなくて、ただただ平板な板のように、てらてらと光るガラス板のようにも見える。
「たぷんってしてる水じゃねぇみたいだ。うそっこの海みたいだ。」
妙な言い方だが、言いたいニュアンスは何となく分かって、
「そうだな。いつも見てるのとは違うもんを敷かれたみたいな気もするよな。」
いつもなら半分ずつ、いやいや海の方が間近な分多く感じる比率だのに、今は断然、空の方が広くて大きい。
"………。"
平べったい海と豆粒のようなゴーイングメリー号と。時折海の上に落ちてゆっくりと流れてゆく陰は、見上げればぷかりと浮かんだ雲の真下だからだと判って、それもまた何だか…まるで自分たちがそれを浮かべた巨人にでもなったかのような錯覚を覚えて、ひとしきり感動的だったのだが、
「………。」
眼下に広がるジオラマのような風景を、ひゃ〜とか凄げぇ〜とか、何とも言いがたい感動を何とも珍妙な声で表そうとしていたルフィの、その声がふと止んで。
「? どした?」
訊くと、
「うん…何だかさ、鳥ってこんな風に俺らを見てるのかなって思ってさ。」
「鳥?」
「うん。カモメにしても鷹や鳶にしても、そんなにデカくはねぇじゃん。けど、空の高みからなら、でっかいものもこう見える。俺らのこと、向こうでもこんな風に"小せぇなあ"なんて見てたのかなって思ってさ。」
妙なことを思いつき、それを真摯に考え込むところが相変わらずな少年で。何とも言い難いものへ感慨深くなっているものだから、ゾロは少々呆れたような溜息をついたが、
「遠くてもデカいもんもあるぜ。」
そんなことを言い出した。
「…遠くてもデカいもの?」
キョトンとするルフィが"そのココロは?"とばかり、すぐ間近の鼻先から振り返って来たのへ頷いて見せ、
「例えば…海賊王ってのはどうだよ。」
「あ、そっかっ!」
思いがけないところから、だが、一番に分かりやすいことを取り出されて、途端にルフィの顔が何とも言えない喜色に輝く。忘れた訳じゃないけれど、ついうっかり見落としていたこと。でも、ゾロはちゃんと判ってるんだ。どこの誰に笑われたって馬鹿にされたって構わないけどな。でもそれとは正反対、ゾロが誰よりも判っててくれてるって、それが尚のこと、嬉しかった。特別なゾロが判っててくれるってことが、そのまま、それを何だか桁の違う特別なことにしてくれる。
「へへ…。」
何だか面映ゆげに微笑っているルフィの顔を、腕の中、吐息がかかるほどのほんの間近に見ていて、
「…、」
何か言いかけたゾロだったが、
【お〜い、ルフィ、クソマリモ。何か見えるか〜?】
突然に伝声管からの声がして、ぎっくと息を飲み、
「あ…。」
ルフィもそうだったと思い出す。確かこの試験飛行は、一応は"索敵"のため、つまりは周辺海域の監視のためにやってみていることなのだった。
「えと、何もないぞ。」
【全然どこにもか? 島とか、他の船とか。】
「おお、見渡す限り、海と雲の影しか見えねぇ。」
【そうか、じゃあ引き続き監視の方、頼んだぞ?】
二人きりの会話を、絶妙なタイミングで妨害してくれた、漏斗じょうご型の…ホントに倉庫から掘り出した漏斗を取り付けたそれなのだが…伝声管を、そこから聞こえた声の主がまた"彼"であったせいでどこか忌ま忌ましげに見やっていたゾロが、ふと、
"…待てよ。"
その表情を弾かれる。今の今まで大人しく黙っていたのが引っ掛かるのだ。二人が話していたこと全て、しっかり聞かれていたということか。
"…まあ、良いけどよ。"
慌ててリプレイしてみれば、多少はキザというかクサいというか、そんなような発言もありはしたが、この絶景を前にしたらそんなものだってつい飛び出すさと開き直って。
「? 何してんだ? ゾロ。」
背後で何やらゴソゴソし出した剣豪殿に、ルフィがキョトンとして見せる。
「ちょっとな。」
多くは語らず、ゾロがしたこと。伝声管の口へ、腹巻きの中から引っ張り出した手ぬぐいを結んでぎゅうっと詰める。端を手前に出してあるから、用があって呼びかける時には引っこ抜けば大丈夫だろう。………って考えましたな、こりゃ。下ではきっと、ナミさんとサンジくん辺りが"チッ"とか言って舌打ちし、ウソップが乾いた笑いを振り撒いて、何が何だかよく判ってないチョッパーがキョトンとしている傍ら辺りで、ミス・ロビンがうっすらと苦笑をしていることだろうて。これで一安心と、小さく鼻息をついたゾロの顔を、その懐ろから顎をのけ反らせるようにして見上げて、
「さっきの話の続きだけどさ。」
ルフィが声をかけて来た。んん?と目線で促すと、
「ゾロは"大剣豪"になるんだよな?」
「ああ。」
あの"鷹の目の男"を倒して、全てを平らげていつか辿り着く"至高"の座。言われるまでもないと即答したものの、
「それって"遠い"か?」
ルフィは訊く。翳りなく無垢な瞳に光を宿し、実に呆気なく。まるで、二つの石を目の前に差し出して"どっちが重い?"と聞いてくるかのように。普通に考えたなら、それぞれを手に持ってみて重い方が"重い"のだろうが、もしも…その片方に何かしらの思い入れがあったら? 大好きな人がくれたのだとか、思い出の土地で拾ったのだとか、そういう付加価値があったなら? そんなことを考えてしまう自分と、そんなこと言われるまで気がつかないのだろうルフィと、果たしてどちらが正しいのだろうか。どちらが得るもの多く、どちらが後悔のない道を歩めるのだろうか。
"………。"
そんなことをふと思った時点で、もう自分と彼とには僅かながら…やはりどちらがどうとも言えない"差"が出たような、そんな気がして苦笑する。いつの間にやら彼の分まで物事を考える妙な癖がついている。ルフィが無頓着な分、補えるように見回せるようにと、知らぬ間に懐ろがぐんと深くなっている自分。破天荒で無茶で無謀で、どんな苦境にも怖じけず、くぐり抜けられればめっけもんだと呵々かかと笑っていたのは、曾ては自分の方だったのに。目標と現在地が地続きであると自覚すると、その距離や険しさをつい測ってしまうもの。どのくらいかかるのだろうか、どのくらいの困難が待ち受けているのだろうかと、ついつい身構えてしまいもする。それと同じで、夢を"現実"だと把握した途端、目映いまでの美しさは遥かなる距離へと変わり、崇高さは険しさへと変わる。人を安易には近寄らせぬ手ごわさが剥き出しになり、なぜ"夢"として語られていたのかが痛いほど分かるようになる。
"………。"
気がつけば。ルフィに出会った頃にはもう、あまり呵々とは笑っていなかったような気がして。
「なあ、ゾロ…?」
「あ、ああ。」
促されて…渋々と答える。
「どうだろな。とりあえず何をどうすりゃ良いのか、自分が強くなるしかねぇってことしか判ってねぇからな。」
曖昧な答え。だが、今の自分にはこれが正解。遠いのか近いのか、まだ掴めないほどデカい野望ビジョン。こんな答えをルフィはどう思う? 何だ、そんなもんなのかと、ちょいとばかり失望するだろうか?
「………。」
前髪がぱさぱさと風にはたかれて丸みのある額が覗く。真ん丸な瞳、大きく見開いて、じっとこちらを見上げていた船長殿は、
「…しししっ。」
いつもの笑い方をすると、
「何だ、一緒じゃん♪」
そうと、嬉しそうに言った。
「俺もそうだ。遠いんだか近いんだか、どうすりゃ良いのか、よく判んね。」
曾ての海賊王・ゴールド=ロジャーが偉大なる航路グランドラインに遺した、一繋ぎの秘宝"ワンピース"。苦難のみが待ち受ける航路を制し、数多あまた群がる海賊どもを平らげた末に、それを見つけた者こそが新しい海賊王になれる…というのが世に遍く広まっている定説ではあるが、夢は夢でも幻だ、ガキの寝言な夢だと嘲笑する奴もいる。そんな雑音には耳を貸さない彼ではあるが、じゃあ判っていることはと問われれば、これが実は何もないに等しくて、
「けど、絶対なる。そうだよな?」
にししっと嬉しそうに笑う。夢物語なんかじゃなく、絶対"地続き"だと信じてる。そこへ辿り着く自分であることも含めて、だ。そんな断言へ、
「ああ、当然だ。」
頼もしい顔でそうと返されて、価値観が同じなのが嬉しい。無論、何から何まで"同じ"という訳ではないのだろう。例えば"味覚"一つ取っても、甘党辛党大きく違う彼らであるし、相手を"こういう奴だ"と把握はしているものの、その把握を評価としたくはないよなところだって幾つかはある。主にゾロの側に、だろうなぁ…。(笑)例えばルフィに比べれば微妙に慎重なゾロであり、時々そこがお互いに歯痒いが、そういう奴だという認識は"しょうがねぇなぁ、じゃあフォローはしてやるから好きなようにやってみな"という形で表出される。そんな風な"噛み合わせ"…黙って繰り出される絶妙なコンビネーションも嬉しいが、遠いと別物に見える不思議を語った直後、やはり遠いが一番大切なものへの把握が全く同じだったのが格別に嬉しい。
「ま、遠く離れりゃ印象が変わるのは仕方ねぇのかもな。」
そのゾロが、陽の光を受けて煌めく海面を見やりつつ呟いた。
「外見からだけじゃあ中身まで判んねぇのと一緒なんだよな。」
周辺にばらまかれた噂や本人が見せる示威。それしか材料がないと、ついつい本質を見誤る。
"どうでもいい相手からなら、それも仕方がないと笑ってやり過ごせるがな。"
時々"俺は何でまたこういう奴について来たんだろう"なんて口にするゾロではあるが、実のところは…ついて来てある意味正解だったなとも思う。その内面を、心意気を、知れば知るほどに小気味のいい何かを感じるから。正道主義で何が悪いと胸を張る彼の馬鹿正直さへ苦笑しつつも、自分の選んだものが青臭い"単なる理想"なんかじゃないという後押しになったり。足腰立つ限り何がなんでも諦めない泥臭さが、決してみっともなくなんかないと知らしめてくれたり。
"………。"
そういえば…と思い出すのが、自分がまだ"血に飢えた魔獣"と呼ばれていた頃に、このルフィはあの海軍基地へわざわざやって来た。半端じゃないくらい強い仲間が欲しかったからだと本人はあっけらかんとしていたが、海賊になろうという者がその海賊を狩っていた言わば"敵"を、それも鬼門の海軍基地に捕らえられていたものを…。
"こいつがそういうの、色々と考える筈ねぇか。"
声を出さぬように苦笑していると、
「ゾロは遠くから見てた時から凄げぇ奴だって判ってた。」
はしゃいだ声と共に、嬉しくて仕方がなくってという笑顔がすぐ目の前で弾けた。
「…はぁ?」
いきなり何を言い出すかな、こいつはと、そんな顔になりつつも、その実、今ちょうど思っていたことに重なってギクリとする。もちろん、そんなことには気づかないまま、ルフィは屈託のない声で言葉を続けた。
「離れたとこから見てた時から、ゾロは凄げぇカッコよかったっ。」
「…磔はりつけになっとったんだぞ? 俺。」
それも長期の飲まず食わずで干からびかけていて、別な意味から野獣化していたのに。
「そんでもだっ!」
ルフィはむんっと胸を張る。
「今もそのままカッコよくってさ。他の奴も口々に"凄げぇ、凄げぇ"って言ってさ。そんな奴が俺の仲間なんだぜって思うと、もっとワクワクする。」
うくくく…と笑う。殊更に嬉しそうに楽しそうに。
「でもな、姿、見つけると、ついつい傍に寄っちまうから。皆が褒めるの、あんまり聞けなくてよ。」
「あ〜、判った、判った。」
面映ゆいのを通り越して居たたまれない。胴に回していた腕の片方を解くと、無邪気なことを綴る口を塞いだゾロである。思いがけない"ミーハー発言"をされて、慣れのない剣豪としては…どう対処して良いのか判らないらしい。がっしりした大好きな手と頼もしい腕とで、腰回りから上半身からくるくると巻き込まれるように抱かれる格好になった船長殿は、
"そゆトコもかわいくて好きだなぁvv"
ははぁ、さいですか。(笑)人目がないのを良いことに、さっきから散々いちゃいちゃしていた?彼らであったが、
「…あっ!」
不意に。ゴンドラがガクンっと高度を下げた。
「な、何だ何だ?」
「風向きが変わったらしい。」
頭上の翼から支柱へ何本か降りているロープを、ウソップから教えられた通りに引いて、方向を変えた風の向きへと対応しようと構えたゾロだったが、
「…ん? あっ、こらっ! そっちは引くなっ!」
「え? だってよ、羽根が傾いてないか?」
「良いんだよ、傾いてて。…あ。」
何も知らないままにルフィが余計な操作をしたものだから、どこか微妙に危ない理屈で出来上がっていた浮力のバランスもあっさりと崩れたらしい。
「わっわっ! 何だ、どうしたっ!」
あれほど爽快に風の奔流の中で浮かんでいた機体が、一気に落下を始めたのだ。
「失速したんだよっ! いいから掴まってろっ!」
「う、海へ落ちんのかっ! 俺、泳げねぇぞっ!」
「だから俺が一緒に来てたんだろがっ! だ〜〜〜っ! そういう抱き着き方はすんなって///!」
………何をやっとる。
***
どこかフラフラッと揺れたかと思ったその途端、あっと言う間に錐揉み状態になって、海上へ見事墜落した"大空を舞う誇り高き海の勇者ウソップ号スペシャル"であり、
「あ〜んな高いトコに昇っても、お互いのことしか見てなかったから罰が当たったのよ。」
途中から会話が聞こえなくなったことへの意趣返しだろうか、半ば呆れて、肩をすくめるナミの傍ら、
「いいいい、良いのか? 助けに行かなくてっ!」
チョッパーがその大きな眸を落っこちそうなほど見開いて慌てている。
「大丈夫よ。ちゃんと"救命具"は積んであったんだし、ロープは繋がってるんだし。早く会いたいならせいぜい引っ張ってあげなさい。」
「おおっ!」
素直なチョッパーがさっそくドラムリールのハンドルに手をかける。とはいえ、
「いや…だから、チョッパー。そのまんまの大きさでやるより、デカくなってやった方が早かねぇか?」
サンジが苦笑し、
「あんまり力任せにすんなよ? 水の中引き摺られると、機体が余計に壊れるからな。」
ウソップは乗員たちより愛機の破損の方が気になるらしいから、
「ウソップ〜〜〜、ルフィたちはどーでも良いのかよっ。」
「あいつらなら平気だって。軍艦を徒手空拳で叩き壊してケロっとしてたような連中なんだから。」
いや、だからそうじゃなくってと、小さな船医殿が"たんたんっ"と甲板の板張りを小さな足で踏み鳴らす。…ちなみに、剣豪の方は方で、愛刀を使ってとは言え、カジノをぶっ飛ばしましたし。(笑)
「揉めてて良いの? あの子たち、見えなくなったけれど。」
「わ〜〜〜っ!! ルフィっ! ゾロっ!」
全く大した仲間たちであることよ。そんな"大した面子たち"の筆頭である豪気な船長が、頼もしき相棒の剣豪に抱えられるようにして愛船へと戻って来たのが、それから小半時後。これだけの騒動を引き起こしても、今日の日誌には"大して特筆するべきことはなかった"と綴られるのだろう、全くもって豪気な船である。
今日も今日とて、世は事も無し…。(おいおい)
〜Fine〜
◆◇ おまけ ◇◆
安定度がないに等しい上に、格納や着地(着水)後の回収に時間が掛かるため、偵察や索敵という"お仕事"には向かないが、娯楽用の乗り物としてはなかなかの代物だと、船に戻って"気つけ"のハチミツを舐めさせてもらったプーさん、もとえ(笑)、船長の証言によって裏付けを得て。
『よーし、そんじゃあ次はチョッパーとサンジっ!』
『おおっ、良いのかっ!』
『特に壊れてはいないからな。すぐにも飛べるぜ。』
『やたっ!』
『おーしっ、とっとと準備だ、長っ鼻っ!』
『長っ鼻、言うなっ! エロコックっ!』
にぎやかな中、すぐさま第二陣の出発準備が始められた。そして、
「ふんふん、ふふんふん♪」
酷い目に遭いはしたものの、空中は楽しかったし、何だかどこででも判り合えてる自分たちであることが…それも嬉しくて、ついつい鼻歌まで出ていた船長殿だったが、
「こら、その頭。」
一緒にシャワーを浴びてから、濡れた頭で廊下へ出てゆこうとするところをその剣豪殿に捕まって、
「ちゃんと拭かないか。」
「ふみみ…。」
バスタオルをかぶせられ、改めてわしわしと髪をぬぐわれていたルフィだった。ラブラブというよりも"保護者と子供"という感が、少なくとも昼間は強い彼らであるようだ。……で、
「…ところで、ルフィ。」
「んん?」
タオルの向こうから、大きな暖かい手の持ち主が声をかけて来た。
「なんだ?」
「お前、いつぞや俺をクサすのに"三刀流"って言ってたことがあったよな。」
「え? そんなこと、あったか?」
本人忘れてらっさるらしいが、あれは確かアラバスタから離れたばかりの頃のこと。海軍という追っ手の手前、巻き添えにしたくはなかったからと知らん顔で別れたビビのこと、諦め切れずに湿っぽかった面々へ
『そうまで後悔してるんなら、攫って来てでも連れてくりゃ良かったんだ』
というよな乱暴を言った剣豪で。それを指して皆が口々に色々と悪態をついたのだが、ルフィが言ったのが
『三刀流』
だった。当然、ウソップ辺りから"それって貶けなしてねぇよ"と突っ込まれて"四刀流"と言い直したとかどうとか伝わっているのだが、
「…お前、俺の三刀流を"貶おとしめポイント"だと思ってた訳か。」
………はい?
「…なんでだ?」
ちなみに、Morlin.は"欠点"を思いつけなかったから已無くのことだと思ってたんですが。
「すぐさま口に出たってことは。いつも思ってるってことじゃねぇのか?」
「えーっ? そんなこと、思ってねぇぞ?」
タオルの陰からの猛抗議に、
「どうだかな。」
取り合わない構えのお返事が突き付けられて。
「ゾ〜ロ〜。」
おいおい、またかい。(笑)
それにしても、えらく細かいことを覚えていらした剣豪殿で。このルフィの一言だったからこそ忘れられなかったと見たが?
"…うっせぇよ。"(あはは)
〜今度こそ Fine〜 02.4.30.〜5.4. ←BACK
*カウンター24444HIT リクエスト
Honeyサマ『キスする距離で甘ぁい会話をする二人』
*ゴーイングメリー号のあのマストの上の見張り台は、
何故だか某『ラピュタ』の見張り台をいつもいつも彷彿とさせまして。
あと、チョッパー主演のED、
翼竜に小さめのゴンドラを吊るしてそこにチョッパーが乗ってたあれが、
何だかいつまでも印象に残ってたものだから、
今回、使ってみることに致しました。
空の島編突入記念というところでしょうか?おいおい
企画が挟まって長らくお待たせ致しましたが、
このような出来でいかがでしょうか? Honey様。

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