■ ティータイム ■

    一條隆也サマ。チョッパー誕生日記念、DLF作品@。
    サンジ君と一緒。


「…うわぁ…すごいなぁ、サンジ」
「当たり前だろ」

色鮮やかに煌くテーブルに、小さなトナカイは零れ落ちそうな程に眼を見開いて、言葉をなくした様だった。

テーブルに処狭しと並べられたのは、ナミさんに材料を提供して貰ったオレンジのタルトに、苺のケーキ。
甘酸っぱいレモンのムースに、色々な形に象ったクッキー、チョコレート…等々、部屋中に甘い匂いが満ちていた。
優しい香りの紅茶の水面に顔を映して、トナカイは其の小さな鼻をピクピクと動かした。

冬島に居た頃には、甘い菓子を見た事が無いらしく、ココアにさえビックリして。
俺が持って来た使い込まれたクッキングブックを、キラキラと輝く眼で見詰めていたトナカイは。
真新しいフォークを握り締めたまま、ピクリとも動かず、食い入る様にテーブルの上を見詰めている。

こんなにも、甘く優しい匂いで満たされた部屋なんて、トナカイには、想像も付かなかっただろう。
口をぽっかり開けて、今にもヨダレの出そうなトナカイに小さく笑って、サイズの合っていない帽子を叩く。
キョロっと見上げて来る眼は、其れでも、ほんの少し不安の色が滲んでいた…あぁ、そうかも知れない。

…無条件に向けられる好意の視線と、受け止める腕に、此のトナカイはまだ慣れていないから。
何か云いたそうに開かれた眼に、俺は大きく頷いて、其の青い鼻を、ピンっと人差し指で弾いた。
大きな眼で見詰められると、胸の奥がくすぐったくなって仕方が無い…自然と優しい想いになってしまう。

「ほら。ヨダレ垂らす前に食っちまえよ」
「良いのか? こんなにいっぱい…皆のは? あるの?」
「大丈夫だって。皆にもちゃんと用意してある。ルフィのも別に取ってあるから、心配すんな」
「…でも」
「こんな処で遠慮したって、どうしようもねぇぞ?」

今迄見た事が無いだろう甘いお菓子を眼の前にして、其れでも他の奴等の事を気遣うトナカイが、可愛くて仕方無い。
そして又、不器用だなぁ…そう想う…我侭の云い方を知らないんだろうなぁ…そう想うとくすぐったくなってしまう。
こんなにも眼の前に甘いモノを並べられて、遠慮する子供なんて…あぁでも其れが、コイツらしい処なのかも。

「今日は、特別だ。お前が此の船に乗って、最初の3時のティータイムだからな」
「うん♪」

大きく頷き、見ているコッチが嬉しくなってしまう程の笑顔を浮かべて、トナカイは漸く、眼の前のお菓子を口にする。
トナカイの癖に、リスの様に頬をパンパンに膨らませて、口の周りをクリームでいっぱいにして笑いながら。
トニー・トニー・チョッパーと云う名の、立派な角を持った、勇敢なる小さな船医は、嬉しそうに帽子を揺らす。

「おいしいね♪」
「当たり前だろ、誰が作ってると思ってるんだ?」
「サンジは、世界一のコックさんなんだよね」
「ん?」
「ルフィが云ってたよ? サンジの作ってくれる料理は、世界一だって」
「そっか」

チョッパーは、苺のケーキにフォークを伸ばす…ケーキの上には、チョコンと座る綺麗な大きな苺の実。
好きなモノは一番最初に食べるタイプなのか…まぁルフィに取られない為には良いかもな…なんて考えていると。
チョッパーは苺にフォークを刺して、そして椅子の上によじ登って、其のフォークを俺の眼の前に差し出してくる。

「…どした?」
「サンジ、皆のお菓子は作ってたけど、自分の分は残してないだろ?」
「…」
「おいしいモノは、誰かと一緒に食べた方がもっとおいしいんだよ?」

もっともらしく頷くチョッパーの顔に、俺は一瞬息を止めて、そうして満面の笑顔につられて笑ってしまう。
差し出された苺を喜んでいただいて、そうして俺も綺麗なフォークを取り出して、オレンジのタルトを口にする。
チョッパーは、まるで自分が食べているかの様に、嬉しそうに柔らかい笑顔を浮かべて、ケーキを頬張る。

「美味いな」
「だって、サンジが作ってくれたんだもん。当たり前だよ」
「そっか」



…口の中に広がった甘さは、今迄以上に美味しく優しい味がした。  
 


*いつもいつもサービス満点、
 何でこんなにも珠玉作品をお書きになれるのか、
 本当に羨ましい限りなお方でございます。
 チョッパーBDにも、続々と記念作品をUPなさってらして、
 その中から頂いてきましたのがこの作品。
 サンチョパをお書きになったらもうもう格別、
 優しいお話をありがとうございますvv

 *じつは、も一つ頂きました。→


一條様のサイト『HEAVENS DOOR』さんはコチラ→
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