Adonis
       *この作品は、ヒロ様のサイト『WITH』さんにて連載されてらした、
        それはそれはHAPPYな“Adonis”というお話の続編だそうですvv (嬉)
 

 中がキラキラして、ワクワクする時期。
 大好きな人を想う時間を大切に・・・。
 な? おれの半身。


         37


「にしししし!」
帰宅途中に寄ったスーパーで突然ほくそ笑むルフィ。
「何だ?」
「いっしっし! 嬉しくて・・・。」
「嬉しい?」
自分に掻き付いて満面の笑みを向けている。 だが、此のお子さまは何時だって自分には此の満面の笑みしか向けないから、今何が嬉しいのかを訊いてみたゾロだった。
「だって、クリスマスイブだぞ!? イブって言うのはな!? 前夜って事だぞ!! 」
やはりお子さまモード全開である。 くつくつ笑って其の頭に手をやる。
「其れで? ケーキか? 其れともチキンセットが欲しいのか?」
「おおう! よく解ったな、ゾロ!! 勿論両方だっ!!!」
さっきよりもっと嬉しそうに笑い掛けて来る。 此のお子さまが来年には三十路になる青年だと一体誰が想像するだろう・・・。
「解る!」
一言だけ言い切ってもう一度頭をわしゃわしゃと撫でて言う。
「じゃァ、ケーキ屋だな・・・。」
「おうっ! でっかいのだぞ!!」
全身で心踊っている事を表現して先を行く。
「遅ェぞ! 売り切れちまうよ、ゾロっ!!」
そんな事は無いと思いながらも急かされるまま歩く。
 だが、ルフィが真っ先に入ったのは、ゾロの想像と相反して酒屋であった。
「おっちゃん! 『テタンジェ コント・ド・シャンパーニュ・ロゼ』って置いてるか? 」
カウンターに居るオヤジにいきなり話し掛けるが良い返事は無かった。
「否、いまは無いな・・。」
「むぅ・・・。」
振り返った顔は不機嫌全開である。
「ルフィ!?」
ゾロが少し屈んで表情を窺うと直ぐに気を取り直してこう言う。
「サンジの店なら置いてる気がする。 行こう!」
ゾロの腕をぐいぐいと引っ張りながら駐車場まで走る。

「ルフィ、テタンジェの其のシャンパンに拘る意味があんのか?」
車を走らせながらルフィに問う。 恐らく何かで調べて覚えた名称だろう。 先月の自分の誕生日にもある程度の専門的知識が無いと分からない高価なウィスキーを買って来たルフィである。
「おう、あるぞ! 今日は特別な日だから特別な酒! だからちょっと高価な酒だ!! シャンパンだったらおれも呑める!!!」
助手席で腕組みをして自分の意見に頷いている。 サンジの店になければどうするのだろうと一瞬考えるが言うのは止める。



「着いたぞ。」
ギッとサイドブレーキを引いて告げると車から飛び出して一目散に店に入って行く。 後を追うと飛び跳ねて喜び抱き付いて来た。
「あったぞ、ゾロっ!!! 今晩のメシ、此処で食おう!!!」
吹き出しそうになるのを必死で堪えるサンジを睨んでから分かったと返事をする。 案内されたのは少し長い時間エレベータに乗って初めて通された別室だった。 
「滅多に人を通さないVIP ROOMだ。 今日だけ特別だぞ!」
だだっ広い此の部屋を数名の店員がテーブルと椅子をセッティングし始めた。 本当に滅多に使われない部屋らしい。 
「クリスマスメニューで良いのか? 其れともVIP客らしく特別にオーダーするか?」
店員が慌ただしく行き来する部屋の窓際に置かれた席を勧められて座ると、サンジが分厚いメニューを差し出して訊いて来た。
「おれ、肉一杯!! 後、『テタンジェ コント・ド・シャンパーニュ・ロゼ』を呑めるなら何でも良いぞ!!」
「あのなァ、ルフィ・・・。 今日はずっと満席で忙しいんだ! 今の言葉は酒に負けないかつ最高に合う食事を用意しろと聞こえるんだがおれの聞き間違いか?」
「いんや! 其の通りだ、サンジ!! 無理な注文か?」
メニューも開かず突っ返すルフィに見えている片方の眉毛をピクピクさせて言うサンジ。 ルフィの一言は料理人としてのサンジを充分煽った様だ。
「おれに作れねェ料理はねェっ! 待ってやがれ!!」
メニューを引ったくる様に脇に抱え、興奮して部屋を後にする。
「にししっ! サイコーの料理が出て来るぞっ!」
「ルフィ・・・・・。」
サンジが姿を消した後に思いっ切り期待を顕わにしたルフィを見て大きな溜息を静かに吐いたゾロ。
「おれは心理カウンセラーだぞ!? サンジみてェな単純な思考のヤツくれェ誘導出来なくてどうする!」
腕組みしてエッヘンと言わんばかりにふんぞり返る其の態度を見るだけでは誰もそんな高尚な職業に就いているとは思わないだろう。 確かにこう見えても立派に心理カウンセラーである。 一度会話を交わしただけで直ぐさま相手の心理状況を読み取る凄腕。 皆、見掛けだけで会話をすると大変だと悟った時は既に手遅れである程の・・・。 だが、本当の意味で単純なのはルフィの方であるという事はゾロだけしか知らない事。
「『テタンジェ コント・ド・シャンパーニュ・ロゼ』、メシっ! 『テタンジェ コント・ド・シャンパーニュ・ロゼ』、メシっ!」
部屋の真ん中にどんっ!と置かれた大きなツリーを眺めながら背もたれに肘を掛け、両足をプラプラ揺らしながら歌う様に繰り返している。 ゾロは可笑しくなって思わず大声で笑ってしまった。
「だっはっはっはっは!!!」
「んあ?」
「否、お前らしいって思ってな・・・。」
笑いを堪えながら手を差し出す。 其れはゾロがルフィにだけに示す“近くへ来い”という合図。
「ん・・、特別な日だかんな。」
席を立って自分の膝に乗っかって首にしっかりと掻き付いて来る。 頬を寄せて静かに言うルフィの背中に腕を回し、優しく抱き締めて耳元で囁く。
「ルフィ・・・。」
ルフィが言う特別な日は今日で何度目なのかは数えていないが、こうやって高価な酒を用意する時が「特別」だと解っている。
「ゾロ、何時もさんきうな・・・。」
ぎゅうと腕に力を入れて静かな声を発して、もう一度頬擦りして来る。
「其れはこっちの台詞だな・・・。」
ルフィの後頭部から背中までを何度も撫でてから口唇を合わせる。



「おい、寝ちまったのか!? どうしてくれるんだ、此の料理の山を!!」
ゾロの膝の上に跨ってゾロの胸に頬を押し付け赤子の様に眠っているルフィとカートに乗せている料理を見比べて怒りを顕わにするサンジ。
「あ!? ハラ減ってるから直ぐ起きる。」
どうしてくれると言われてもルフィが居なければ完食は無理である。
「来たぞ、ルフィ。 酒と食事・・・。 起きろ・・・。」
耳元で静かに囁いてからゆっくり胸から引き剥がし、額に掛かった前髪を後ろに梳いて触れるだけのキスを落とすとパチリと大きな眼が開く。
「おおう♪ 『テタンジェ コント・ド・シャンパーニュ・ロゼ』とメシっ!」
「解り易いヤツ・・・。」
聞こえない程度の声で呟き小さく吹いたサンジ。 ルフィはゾロの膝からピョンと飛び降り向かい側の自分の席に戻り、サンジの手からテーブルに置かれる皿を順番に見ている。
「今日の料理のコンセプトは何だ?」
サンジは自慢気に笑ってポケットからリモコンを出し、窓へ向けボタンを押して言った。
「『An ardent love couple's holy night.』」
言葉の後にスタンドライトのみ残して照明が消え、窓という窓のブラインドが全て上がる。
「うわ、すげェ・・・。」
硝子にビッタリと張り付いて外を見下ろすルフィ。
「此処、15階だが結構綺麗だろ? 今日は邪魔せずに居てやる。 おれからのプレゼントだ。」
シャンパンをグラスに注ぎながら言うサンジをゾロが見上げると極真面目な顔で続けた。
「警戒しなくても裏はねェよ・・。 おれも店閉めたらナミさんとデートで機嫌良いだけだ。 テーブルに乗り切らない料理は此処で保温しておくから後は適当にやってくれ。」
カートの横の保温機に料理を移しながら言う。
「あ、食い終わったらデザート持って来てやるから其のボタンを押して知らせろよ?」
煙草を取り出し、思い出した様にテーブルの隅にある呼び出しボタンを指す。
「ごゆっくり・・・。」
そう言って去ったサンジに全く気付いていないルフィ。 ずっと夜景を見て感動している。
「ルフィ? 食わねェのか?」
空腹状態の筈なのに夜景に釘付けになっている事に少し驚いて問い掛けるゾロ。
「ん、食うけど綺麗だから・・・。」
にししと笑って未だ見入っている。
「食いながらでも見られるだろう?」
「食う時はメシしか見ねェし、おれ・・・。 でも先に乾杯だけしとこう! 気抜けたシャンパンじゃァ単なるワインになっちまうもんな。 しししっ!」
やっと振り返って座り直しグラスを取る。
「未だ時間も早ェんだ。 今見ておかねェと直ぐ消えるモンでもねェさ。 食い終わった後でも見られるぞ。」
ゾロもグラスを取って再度言うが、ルフィの応えは心を揺さ振る言葉であった。
「いんや、食ったら後はずっとゾロを見る時間だから・・・。 今見ておかねェとやっぱ此の夜景は見られねェよ。 乾杯!」
「・・・乾杯。」
チン!と鳴ったグラス音がやけに響いた。
 ―――参った・・。 何時も感動させられっ放しだ。 自分の事しか考えてなさそうなのにな・・・。

 長い聖夜は此から・・・・・。





TOPNEXT→***


 ちょっと早いかと思われるクリスマスネタ(笑)
 はい、次話に続きます
 サンジさんの台詞の「An ardent love couple's holy night.」は、
 「熱愛カップルの聖夜」という意味で使ってます
 間違っていたらツッコミ宜しくっ!

 20021205 THU PM UP   byM