出逢うまではイベントなんて全く要らなかった。
特別な日を二人でもっと特別にするのだと教えられたから・・・。
そうだよな? おれの半身。
38
「ふい〜、食った食った・・・。」
満足気に椅子の背もたれに体重を預け、両手でゆっくりと腹をさする。
「デザートがあるそうだ。 未だ入りそうか?」
愚問だとは思いつつ一応訊いてみると満面の笑みを向けて言う。
「おうっ! もっちろん!! 別腹だ、別腹!!」
ボタンを押そう手を伸ばすと突然好奇心一杯の眼を向ける。
「何だ?」
「食い終わったら此で呼べだと・・・。」
「おれが押す!!」
「どうぞ、お子さま・・・。」
想像した通りだと笑いながらボタンを差し出す。
「にっしっし!」
ボタンを押すだけなのにはしゃいで喜んでいる。
「お、何時もながら見事な食いっぷりだな。」
部屋に来たサンジが綺麗に平らげた皿が並んでいるテーブルを片付け始める。
「サンジ、デザートは何だ?」
「コンセプトは同じ、『バラティエU』“An ardent love couple's holy night.”スペシャルだ!」
サンジが師匠である『バラティエ』から独立して立ち上げた此の店『バラティエU』である。 スペシャルと言うからにはサンジが考えたものであろう。 そう言って目の前に置かれたのはビスケット、アイス、フルーツを生クリーム仕立ての二種類のソースに絡ませて大きなドーム型の砂糖細工が被せてあるという豪華なデザートだった。 更に其れを囲む様にサンタとトナカイと橇の砂糖菓子。 其の橇にはゾロとルフィらしき二人が幸せそうに乗っていた。 ルフィは其れを見て目玉を白黒させて驚き、嬉しそうだ。
「すっげェ!! 流石スペシャルだなっ!!」
「苦労したぞ!? 特に此のマリモヘッドは難しかった!」
サンジが言って指したのは碧髪。
「あァ!? ケンカ売ってんのか?」
機嫌が悪くなるゾロを見やり、ルフィが珍しく苦笑いをして言う。
「さんきうな、サンジ! 嬉しいぞ、おれ達へのスペシャルデザート!! 食うの勿体ねェなァ・・・。」
「食えよ! 自信作だ!」
サンジに言われて感動の声を上げる。
「ん! クリスマスカラーっておれ達みてェだ!!」
そう、二種類のソースは緑と赤。 ゾロの髪の色とルフィが普段好んで来ている服の色である。
「甘くてうめェっ!!」
一口目から興奮している。
「お前って本当に旨そうに食ってくれるから作り甲斐がある!」
此の喜ぶ顔を見たくて必死で作っているサンジ。
「んあ? だって本当にうめェんだ! さんきうなっ、サンジ!」
アルコールが入ってしまった為に代行を呼んでの帰宅となった。
「出逢った頃はさ、こんな日が来るなんて思ってもみなかったよな。 おれってやっぱしやわせだ・・・。」
浴室で背中を流して貰いながらアヒルちゃんをキュッキュと鳴らして言うルフィ。 重ね重ねしつこい様だがこう見えても来年には三十路を迎える青年である。
「こんな日?」
「おう、ゾロを初めて知った日にはこんな風に共に暮らせるとは思ってなかったから・・・。 確かに其れを望んでたけど、本当にこんなに近くにゾロが居る事は想像もしてなかったんだ・・。」
ゾロの質問に少しずつ答える。 現在の暮らしが最高に幸せだと何度も言う。
「高校の初めての体育の時間に剣道場でゾロの写真を見た時な? 此処がバクバクしたんだ。」
振り返って胸を両手で押さえて告げる姿は昔のままである。
「おれにはしやわせって縁遠いものだとずっと思ってたから、ゾロの写真見る度に躍る心が嬉しくてさ・・・。 どうしても逢ってみたくて、話をしてみたくて、でも方法が解らなくて・・・。 あの日寝過ごして乗った通学途中のバスの中でゾロを見掛けて、今を逃したらもうチャンスは訪れないって思った。 ゾロに近付く為なら何でもしようって初めて自分の想いに貪欲になったんだ、おれ・・・。」
輝く滴が大きな眼から頬を伝う。
「あれ? 何でだ・・・。」
「嬉し涙だろ? 現在(いま)が幸せだと噛み締めているから出るんじゃねェのか?」
「おう、そうだ・・・。」
ルフィは時々こうやって昔話に浸る。 自分の傍に存在している現在(いま)が最高に幸せだと必ず言う事が嬉しくて毎回付き合うゾロだった。 実際、ルフィと出逢ってからの自分は周囲に言われるまでもなく変わったと知っている。 此処まで変われる自分だとも思っていなかった。
「ルフィ・・。」
出逢えた事を幸運と考え運命だと言う半身が愛しくて抱き寄せる。
「ゾロ・・・?」
泡だらけの背中を撫でられる。 此のまま雪崩れ込むのも悪くは無いが、何時も年齢差を感じてしまう此の瞬間に小さな苛立ちを感じる。 同時に手にしているアヒルちゃんの居場所が無くなると思いゾロの頭の上に乗せた。
「ん! 可愛いな、ゾロ♪」
昔も今もゾロの事を可愛いと形容するのはルフィだけである。
「うるせェ! 黙れ・・・。」
ルフィだけが言う其の言葉が嬉しいと素直には言えない年齢のゾロ。 照れくささも手伝って「NO!」の返事はさせないと腕に力を入れて顔を近付ける。 が、ムードブチ壊しに掛けては天才のお子さまは、今回も軽くやってのけてくれた。 石鹸で真っ白になったアヒルちゃんを乗せて白くなっていたゾロの頭をワシャワシャと掻き混ぜてシャボンを増殖させて喜ぶ。
「ゾロ、鏡で見てみろよ! そんな頭して迫られても其の気にはならねェなっ!」
ケタケタと笑って挑戦じみた事を言う。
「ようし! そんなに言うなら此の頭で其の気にさせてやろうじゃねェか!! 此処で一発、ベッドで一発! 泣いたって絶対ェ許してやらねェ!!! 啼かせてやるから覚悟しろ!!!」
「よく言うよ! 何時も赦してなんかくれねェ癖に・・・。」
挑発に乗ったゾロを誘う様な眼をして見上げる。
「合計二発で足りるのか・・・?」
たった今まで子供だったルフィが突然大人の表情(かお)になる。 ゾロの頭からアヒルちゃんを取り除いて近くの棚に背中を向けて置いた。
「足りねェ・・・。」
「んじゃ・・、心ゆくまでヤれ・・・。」
両腕を背中に回して静かに笑ってそう言ったから、否、そう言って来るだろうと思っていたから、ゾロは同じ様に静かに笑って言い切った。
「あァ、言われなくともそうさせて貰う・・・。」
結局、頭の泡を洗い流した後の長時間に及ぶ甘い時間は何時も通りであった。
「ぞ〜ろ? ゾ〜ロゾロゾロゾロっ!!」
目覚ましが鳴る前に目覚めたルフィが必死でゾロを起こす。 がっしりと抱き締められ、しかも全体重が自分にのし掛かっている。 幸せな重みなのだが圧迫感で目覚めたルフィとしては些か此の体勢はキツい。
「ゾロ! 起きろって!!」
すっぽりと太い腕にくるまれて乗られている為に全く自由の利かない我が身なのである。 何時もなら直ぐに自分の声で起きてくれる筈の半身であるのに今朝は身動ぎ一つしない。
「ゾロ・・・。」
少し心配になるが、直接伝わる体温は何時も通りである。
「ゾロぉ! 起きろ〜〜〜っ!!!」
何度呼び掛けてもウンともスンとも言わないゾロ。 やがて、小刻みに揺れ始めた愛しい人の身体を感じてやっと理解する。
「むぅ・・・、笑うな! 狸だったんだな!? まんまと騙された!!」
「やっと気付いたか?」
少し身体を浮かせてくつくつと笑って口唇を合わせてくる。
「許さん! 詫び入れろ!!」
キスだけでは詫びにならないと怒っているルフィに意味深に笑って見せるゾロ。
「おれがルフィに出来る詫びって言やァ一つだけだと思うが?」
「む! 計画的か!!」
大真面目に言った筈だったが既にゾロのペースに嵌ってしまっているのだと気付く。
「そりゃそうだろう? 昨夜おれが心ゆくまでヤり切る前に意識無くしたじゃねェか。」
「未だ足りねェのか?」
「あァ、どんだけヤってもな・・・。」
「んん〜〜〜・・・。 なら仕事に影響がない程度にな、しししっ! 愛してるぞ、ゾロ・・・。」
自分の口唇を待っている。 ルフィも自分と同じなのだと解るから嬉しくなる。
「ルフィ、愛している・・・・・。」
またルフィの身体の自由を奪う様に抱き締めて覆い被さる。 だが今度は重たいと感じない様に、自分の心全てが伝わる様に・・・。
「Merry Christmas.」の言葉を添える。
今年最後のイベントを祝う為に、其れを愉しむ自分達の為に・・・。
―――今、此の手の中に独り占めしているのは、皆から愛されている「Adonis」。 そう、おれだけの「Adonis」・・・・・。
←BACK/TOP***
裏行きは何とか我慢した(笑)話でした(でもギリギリかもですな・・・)
近所のコンビニにあったワンピの子供用シャンパンでネタを思い付いた事は内緒です(既に内緒になってないです!)
こんなのでも宜しければ今年一杯DLFに致しますのでどうぞです
20021205 FRI PM UP byM
*大好きな『Adonis』ちゃんのクリスマスVer.ですvv
いやもう、相変わらずにオアツイですvv
サンタクロースもお邪魔かもしれないほど、
目の前にお互いだけがいれば良いというお二人さん。
ありがたく頂戴いたしましたvv ではではvv

|