ダラム城
Durham



ロンドンから電車に乗って約3時間、かってはイングランドとスコットランドの国境地帯であった北部イングランドにダラムの町はあります。この辺りで大きく蛇行するウェア川に三方を囲まれた丘の上に建つダラム城と大聖堂は、1986年ユネスコの世界遺産に登録されました。

ランカスター城では、「お城が刑務所だなんて〜!!!!」と驚いた私ですが、ダラム城は現在では大学として使用されています。それを知っていれば、ランカスター大学ではなくダラム大学に留学したものを…。(なんちゃって…)お城好きの私にとっては、ダラム大学の学生たちがうらやましい限りです。

ダラム城は、ノルマン人のイングランド征服後すぐに、すでにあったダラム大聖堂のお隣に築かれました。“北部からイングランド侵略をたくらむスコットランド人に対抗する拠点の一つ”というのが本来の目的でしたが、時代と共にその役割は変化していき、要塞としてよりもダラム大司教の居城として使用されるようになっていきました。

中世当時のダラムは大司教座として、イングランド国王より様々な特権を与えられていたのだそうです。オリジナルの八角形のキープは、城が要塞として使用されていた14世紀半ばに作られたそうですが、次第に有用性を失い荒廃していき、再建されたのは1840年のことでした。1837年にダラム大学が創設されると城は大学施設の一部となり、現在に至っています。

ダラム城では様々な時代の建築様式を見ることができるそうですが、これは城が建てられている地盤が脆弱なため、倒壊を防ぐために常に修理や改築が必要だったからなのだそうです。それでも、小高い丘の上に立つキープを見ると、ノルマン人たちがイングランド各地に築いた典型的モット&ベイリー型の様式を見ることができます。

ダラム城は、ガイドツアーでのみ見学可能です。所要時間は約45分。見学料は時期によって違いますが、大体3ポンドから3.5ポンドだそうです。(いずれも大人料金)

ここでちょっと寄り道して、お隣のダラム大聖堂へも足を伸ばしてみてください。ダラム大聖堂には、イングランド教会史には必ず登場する聖カスバート(634-687)の聖遺物が納められています。聖カスバートはノーサンブリア王国(アングロサクソン七王国の一つ)にあるリンデスファーン修道院の修道院長を務めた人物です。死後まもなく聖者に列せられた彼は当時から絶大な人気のある聖者の一人で、その聖遺物は触れると奇跡を起こすと信じられており、リンデスファーンは聖者信仰の中心地として繁栄していました。しかし8世紀末以降、リンデスファーンもイングランド中を席巻したバイキングの度重なる襲撃を受けます。教会や修道院は、財宝の宝庫でありながら兵士などを配置していなかったため、格好の略奪対象となっていました。875年、修道士たちはリンデスファーンを去り、聖カスバートの聖遺物と共に北部イングランドをさまよい続けたのち、ようやく現在のダラムの地に落ち着くことができたのだそうです。

大聖堂の中は、私が期待していたよりも質素な作りでひっそりとしており、なんだか妙に厳かな気にさせられました。聖カスバートのお墓を見たときは、考古学の授業で学んでいた人物の一人に直接会っているのが不思議な感じでした。ランカスター大学でなぜかイングランド考古学の授業を履修した私ですが、イングランド考古学なんて日本人の私にはほとんど知識がなく、授業にはさんざん悩まされ、はじめの頃は全然好きになれませんでした。大体考古学なんて、昔の出来事過ぎて実感がわきにくかったし…。でも聖カスバートの墓を見ていると、授業で学んだことはフィクションではなく、現実のことだったんだ、と改めて気付かされたのでした。今では、イングランド考古学は好きです。人間、変われば変わるものですね。

ダラムの町は、お城と大聖堂を中心とした石造りの古い町並みを見ることができる町です。小ぢんまりとしているので、歩いて周るにはちょうど良いと思います。




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