第3章.ふっさりヒゲ


 この分類項は先人によって同様のものがいくつか考案されているが、既に述べたようにお洒落ヒゲとの境界が不明瞭であり、今までは一部のお洒落ヒゲを含んだ、より大雑把な概念であった。
 これらの分類が現状にはやや不適切だと筆者が考えたのは、やはりキャラクターの性格設定・役割設定を無視しているためである。『ふっさりヒゲ』は語感からも推測できるように、ヒゲ量の多いことが非常に大きな要素である。しかし、再三主張しているように、ヒゲキャラの分類は外見のみによって行われるべきではない。
 筆者は、前章のお洒落ヒゲという新しい分類項を作り、真にふっさりと呼ぶに相応しいキャラのみをこちらに入れることによって、このふっさりヒゲの役割を明らかにしたいと考えた。

 ヒゲ量以外で注目すべき点は、年齢である。これも所謂『お約束』の一種だが、漫画や映画等のメディアにおける一般的な法則として、男性キャラを年齢階級別に分けると、年齢の上昇と比例してヒゲ率も高くなる傾向がある。これは『年寄りはヒゲでアピールの法則』として以前より知られていたことであるが、全体の中のヒゲキャラ率だけではなく、一人一人のキャラのヒゲ量も同様に上昇することは意外に知られていない。
 具体的に言うと、第1章で検証した『オヤジ』の典型的な年齢(30代から40代前半)よりも一回り上、即ち40代後半から50代にかけてがこのふっさりヒゲの最も台頭する年齢なのである。実際には読者の中にも、経験的にこの法則を理解していた方が多いのではないだろうか。

 実例の筆頭として挙げられるのは、『美髯公』の異名を持つ古代中国の武将、関羽(※9)であろう。これは今までの例と違って実在の人物であるが、三国志は歴史的に見ても史実書であると同時に娯楽書である側面を持っていたことは明らかであり、漫画・ゲーム・人形劇・歌舞伎等の題材として万人に受け入れられているため、今回の検証に含めて全く問題は無い。
 ここでは、ヒゲは権威と人格の象徴であり、立派なヒゲ=立派な人物という暗示が読者に与えられる。古代中国においてはヒゲを大量に蓄えるのは珍しいことではなかったという事実をもってしても、この方程式を覆すのは難しい。

 後に述べるじじいキャラでより頻繁に見られる現象だが、メディアの中で豊かなヒゲを持つキャラは、正義側でも悪役側でもある程度高い社会的地位(もしくは尊敬される立場)に居ることが多い。このように、じじいの前段階、いわば中間管理職の立場がふっさりヒゲのアイデンティティとしては重要である。年齢が上記のような範囲に収まっているのも、このような背景を考慮すれば納得できる。

 中間管理職代表としてはクロトワ(※10)がいい例だろう。ここではヒゲ量は必ずしも人格に関係しないが、一平卒ほど下っ端でもなく、かといって大して大きな権限を持つ訳でもないと言う中途半端な哀愁が、彼のヒゲに魅力を添えている。

 その一方で、次元大介(※11)のような流れ者系ふっさりヒゲも比較的高頻度に見られるが、このタイプはどちらかと言うと悪役に多いようである。現実には在り得ないような悪人面の熊のようなヒゲキャラが出てきて、あっさり主人公に倒される、というパターンは低年齢層向けのメディアでは王道であろう。


※9 関羽:歴史書「三国志」より、蜀のスーパー髭武将
※10 クロトワ:漫画&映画「風の谷のナウシカ」より、汚れダンディ
※11 次元大介:漫画&アニメ「ルパン三世」より、裏方のエキスパート


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