第2章.お洒落ヒゲ
ここでは、前章の無精ヒゲとは対照的なヒゲ、お洒落ヒゲについて述べることにする。
お洒落ヒゲとは筆者の造語で、『意識的に生やして整えているヒゲ(ただし、全ヒゲ量が一定の基準を超えたものはふっさりヒゲに分類する)』と定義する。重要なのはこの『意識的に生やしている』という点であり、これこそが、基本的に身だしなみは二の次以下(そしてそれこそが魅力)な無精ヒゲキャラとの大きな違いである。
お洒落ヒゲによって表されるのは人為的なダンディズムであり、そこには無精ヒゲキャラではごく稀にしか認められない知的さが覗われる。
このお洒落ヒゲと相性の良いお約束アイテムはスーツ・ネクタイ等で、典型的な例がサンジ(※6)と言えるだろう(ただし、彼のようなタイプのお洒落ヒゲは比較的近年になってから認識され始めたものであり、過去には余り一般的ではなかった。ヒゲの形のみに捕らわれると間違って無精ヒゲに分類してしまうかもしれないので注意が必要である)。
また、無精ヒゲと同様、煙草もしばしば同時に登場するアイテムだが、傾向として無精ヒゲではシケモクが多いのに対し、こちらはよりスマートで高級感のある煙草である事が多い。ただしこの煙草の差異に関してはあくまで2次的な要素であり、あるキャラのヒゲがお洒落か無精かは、あくまでキャラ自身の性格設定と役割によって判断されるべきである。その意味では、前章で登場したギャンビットなどは、或いはお洒落ヒゲに分類するべきかもしれないが、風来坊のイメージはむしろ無精ヒゲの専売特許とも言え、判断に迷うところである。
このタイプのキャラは、物語中の主人公サイド・悪役サイド・第三者勢力のどこに位置してもよく、また、比較的役に立つような知的な発言が可能であるためか、文献の数こそ他のヒゲにやや劣るものの、幅広いジャンルで発見が相次いでいる。
悪役サイドのものとしては、リッパー(※7)の例が興味深い。彼は通常ならば脇役、より端的には雑魚と呼ばれるタイプのキャラだが、スーツ・ネクタイ・お洒落ヒゲの古典的3点セットに何故かスキンヘッド、という独自のスタイルを用いたことにより、相方よりもはっきりとしたキャラクター性を持ちえたと考えられる。
この新しい分類項は、今まで曖昧に『渋さ』という言葉で括られていたヒゲキャラの方向性を別々のものとして捉えるべく考案したものだが、この文の冒頭で示したように、次章で挙げる『ふっさりヒゲ』との境界判断に迷うことが多いのが難点と言えよう。
ザンベンドルフ(※8)などはふっさりヒゲとの鑑別がメインの問題となる例だが、多分に外見的な面を意識して生やしているヒゲであること、ヒゲの一部にカラーリングを施していると言う報告のあることから、お洒落ヒゲに含めるのが妥当であると考える。今回は暫定的に全ヒゲ量によってこの二つを分類したが、日常的な場面ではより簡便に、萌え側の判断によって決定する方が望ましい。
※6 サンジ:漫画「ワンピース」より、愛の料理人(ラブコック)
※7 リッパー:格闘ゲーム飢狼伝説シリーズより、個性派脇役
※8 ザンベンドルフ:小説「創造主の掟」より、イカサマ教祖