医療は地域文化-医療と仏教- (5)

田畑正久 (佐藤第二病院医師) 

仏教と医療の協力関係の構築へ 

 

人間の全体を把握して理解するためには、人間をどう考え、どうとらえていくのかが大切になります。人間の健康について、長い間、三つの要素(@身体的、A精神的、B社会的)が考えられてきました。ところが最近、人間全体を把握しようとするとき、この三つだけではカバーしきれないという課題が注目されています。一九九八年の世界保健機構(WHO)の理事会で、健康の定義に四番目の要素として、「スピリチュアル」という項目が加えられました。まだ総会の決定ではないのですが、時代の流れはスピリチュアルという面を認知する方向だということです。私はスピリチュアルの内容を、(1)人間に生まれた意義、(2)生きることの意味、(3)死んだらどうなるかについて不安がない、(4)罪悪感からの解放、等と考えています。浄土真宗で 「後生の一大事」と言われる内容に近いものです。

 緩和ケアを担当する友人から、こんな話を聞いたことがあります。進行癌の患者に対して、肉体的な痛みに麻薬等で十分対応し、看護面でも手厚い看護で対応し、家族にも参加してもらった。そうすると、「どうして私がこんな病気になったのか、生きる意味はあるのか」等のスピリチュアルな面の訴えが表面に出てくることがしばしばある、と言うのです。これはいままでの医学、看護学教育だけでは対応できない領域だと思います。つまり、人間がいかに生き、いかに老い、いかに死んでいくかの普遍性のある物語が大切だということです。

 医療者は、患者の種々の人生観、価値観への柔軟な包容力のある対応が求められるのです。もし医師、看護士だけで無理なら、他分野の人々との協力関係が求められます。医療は患者、家族、縁者、医療者という地域の構成員の共同作業で成立するものです。各関係者の協力での取り組み、地域の総合力の表れとなるのです。まさに地域の文化力が豊かであることが望まれるのです。

(たばた まさひさ・佐藤第二病院医師、「歎異抄に聞く会」主宰)

            著書に 「今、今日を生きる」法蔵館

anjali(あんじゃり) 9号 2005年6月1日発行から引用

親鸞仏教センター


 
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