薬草取りが終わり、ブレーダはやっと少女の様子をみる時間を得た。
ラジェットに教えられ少女が寝ているテントへ向かう。
「…」
ブレーダはテントの前で不図、足を止めた。
少女が寝ているはずのテントから多数のガキ共の声が聞こえる。
ブレーダは一抹の不安と共に、テントの中に入った。
オレンジ色の髪でロングヘアーの少女は、子供達に何かの物語を聞かせていた。
子供達は意外なほど静かに、それを聞いている。
少女は子供を楽しませるテクニックを持っているようである。
だが、物語はブレーダが入って来た所で止まる。
少女は肩を微かに震わせた…脅えている。
それと同時に、子供達の無数の視線がブレーダに向けられる。
「嫌…」
少女は膝下に掛けてあった毛布を引き寄せる。
子供達は少女を庇うかのようにブレーダの前に出た。
「レミナ姉ちゃんをいじめるな!!」
子供の一人が叫んだ。
ブレーダは少女の名前がレミナだと知った。
「別に取って喰ったりはしねぇ…」
「嘘付け!」
ブレーダの言葉に別の子供が反論する。
「夜這いをする気だろう!!」
子供は無茶苦茶な事を言った。
どこで覚えんだ、んな言葉…ブレーダは、つい感心してしまう。
しかし今は夜ではない…まぁ意味などどうでもいいのだろう。
子供というのは大人が嫌がる言葉ほど使いたくなるものだ。
ブレーダは子供は無視し、少女の方に目を向ける。
「名前はレミナだな?」
ブレーダの問いに、少女は小さくうなずいた。
子供達はブレーダの足元で何かを訴えている。
「所属は?」
少女…レミナは今度は答えなかった。
代わりに子供達の一人が言う。
「レミナ姉ちゃんはコリアスティーンから来たんだ!」
「(よりによって…)」
あのカルト集団かよ…と、ブレーダは溜息をついた。
コリアスティーンから来たという事は、所属は決まっている。
聖神コリーアの民…今だにコリーアとかいうエセ神を信じている狂信者共である。
はっきり言って、家族ぐるみの付き合いはしたくない連中だ。
「コリーアの民の兵士だな…?」
「…そうです」
レミナは、仕方なくといった感じでそれを肯定した。
ブレーダはレミナを見下す。
レミナはまた肩を震わせた。
子供達が敏感に、それに反応する。
「いや…だからな…」
ブレーダは何とか子供達をなだめようとするが、子供達はもう止まらない。
とうとう彼等はブレーダに飛び掛った。
「て…痛テテテテ!!」
噛みつかれ、ひっかかれ、蹴られ殴られ…
小さな悪魔達の前に、ブレーダは無力であった。
「(これじゃあ、話もできねぇ…)」
ブレーダは渋々テントを出た。
寧ろ追い出された。
だが子悪魔達の追撃は続く。
「これでもくらえ!!」
小悪魔たちは、とうとう手当たり次第に物を投げ始めた。
新鮮な卵もあれば、腐った卵に石もあり、椅子まで投げる上に、更に酷いのには排泄物の類もある。
ブレーダは遂に逃げ出した。
やってられない。
とても話など聞けない。
「(後でゆっくり聞くとするか…)」
ブレーダは結局、いつものように森の方へと向かった。
一週間後。
レミナはすっかり環境になじんでいた。
どうやら、ここをただの難民キャンプだと思っているらしい。
自分から積極的に、子供の相手や炊事・洗濯をしている。
一応見張り役なので、ブレーダはそれを遠くから見ていた。
「それでね…その時、コリーア様は…」
今日も彼女は熱心に、子供達に物語を聞かせている。
…いや、どうやら道徳を教えているようである。
コリーア教の宣教活動もしているようだが、ブレーダ的には目障りだ。
子供に差別と偏見を持たせたくない。
ブレーダはレミナに近づいた。
「あ…」
レミナはまた脅えた…完全に嫌われたようである。
一週間、顔を合わせていながらも、今だに警戒心を解こうとしない。
しかも子供達は彼女の味方だ。
だが、ブレーダには秘密兵器があった…お得意の木彫り人形である。
「ほら、これやるよ…」
ブレーダは子供達にそれを渡した。
ちなみに新作のボムナッバーである。
「だから、お姉ちゃんと少し話をさせてくれ…」
子供達は顔を見合わせた。
「何もしないから…な?」
子供達は悩みはしたが、一応場を去った。
それでも、木の影からこちらを見守っている。
変な事でもしたら、すぐにでも飛び出してきそうだ。
だが、やっと…ブレーダはレミナと話す機会を得た。
話しにくいが話せない状況ではない。
「…怪我は治ったか?」
とりあえず、最初はあたりさわりのない問いかけをしてみる。
レミナは、小さくうなずいた。
「子供は好きなのか?」
レミナは、また小さくうなずく。
狂信者だとしても悪人には見えない。
年が若いせいもあるだろう。
ブレーダは本題に移った。
「一つだけ…約束して欲しい事がある」
レミナは不安な目でブレーダを見ている。
余程、信用していないらしい。
ブレーダは手短に用件を言った。
「コリーア教をガキ共に教えるな…」
「…え?」
レミナはキョトンとした。
 
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