チャチャさん報告会の報告

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タンザニアNGO ベネディクト・チャチャさん報告会
「開発・援助・環境---タンザニアの水から考える」

主催:食糧増産援助を問うネットワーク
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3月25日(火)19:00〜21:15
文京シビックセンターにて
参加者:23名

【概要報告】 (文責:2KRネット 今井高樹)

1.主催者あいさつ&チャチャさん紹介

(今井)

私たちは、昨年8月に環境・開発サミット(ヨハネスブルグ・サミット)のNGO会場でセミナーを行い、その時にチャチャさんと知り合った。チャチャさんはタンザニアのオブソレート農薬についての情報を提供して下さり、それ以来、情報交換を続けてきた。今回は関西で開催された水フォーラム参加のため来日し、東京へは、有志の集まりである「チャチャさんの話を聞く会」が招聘。2KRネットとしても、この機会に是非チャチャさんの話を聞きたいと考え、今回の報告会が実現した。

(チャチャ氏のプロフィール)

ベネディクト・チャチャ・ピーターさん(タンザニア・ムソマ地区のNGOヘルプ財団代表)
ダルエスサラーム工科大学で道路工学を専攻した後、スウェーデンで地域環境管理を学んだ。貧困削減、持続可能な環境管理を目的とした様々な地域での活動に取り組む。1999年から2002年までは、ビクトリア湖資源管理東部アフリカ地域機関の事務局長を務める。

2.ビデオ上映

チャチャさんの報告に先だって、チャチャさんが持参して下さったビクトリア湖の水質汚染についてのビデオを上映。(ビデオの使用言語はスワヒリ語。日本語への通訳:神戸俊平氏)

(ビデオ内容)

  • ビクトリア湖と人々の生活(漁業、水運、飲料水など)。
  • 湖の汚染源となっている工業排水(石鹸工場などの例)、生活廃水。
  • 生活廃水による富栄養化の問題。ウォーターヒヤシンス(ホテイアオイ)の繁殖。
  • 人々は汚染の危険性について知識を持っていない。
  • 政府は問題を認識しているが有効な対策が取れていない。

3.ベネディクト・チャチャさんの報告 (通訳:2KRネット 相川明子)

(チャチャさん)

  • 今回はこのような報告会を開催していただき、大変感謝している。
  • HELP財団(Foundation HELP)は、1999年から、タンザニアのムソマ地区で地域開発、女性のための収入機会の向上、自然資源の適切な利用、などの活動に取り組んでいる。
  • まず最初にビクトリア湖の何枚かの写真を見て欲しい。
    (ビクトリア湖畔に、処理されていない固形・液体廃棄物が放置されている様子)

こうした中には、農薬や化学肥料の容器も含まれている。これら容器を人々は持ち帰り、飲料水・生活用水を汲む容器として使ってしまっている。
(繊維工場からビクトリア湖に直接流れ込む未処理の排水)
(ビクトリア湖周辺にあるプランテーション)

コーヒーや綿花の大規模プランテーションでは、農薬や化学肥料を大量に使っており、それらの使用を削減するための方策は取られていない。

  • ビクトリア湖周辺ではドナーから援助された化学肥料、農薬が使われている。大量に農薬を供与しているドナーのひとつが日本である。
  • 農薬は不法漁業にも使われており、DDTなどを使って魚を獲っている。
  • 水質汚染に関する農薬や化学肥料の危険性について、現地の人々の知識は少ない。NGOはこうした危険性、人々への影響を知らせようとしている。
  • これまでNGOは、産業廃棄物を出す企業についてのアドボカシーを中心に活動してきた。農業に関する問題は政治的な要因もあって触れてこなかったという事情もある。
  • 現在は、現地の人々とNGOとが協力して、有機農業の活動をはじめた。
  • 日本に水を浄化するための低価格の技術があるなら技術支援してほしい。

3.質疑応答、意見交換

(参加者から質問)

地域住民が安価で利用できる水の浄化の方法はあるのか?

(チャチャさん)

モリンガという植物がある。種から油をとったり葉を食用に用いたりできる自生の植物だが、これを使って浄化することができる。ただ量的にはそれほど利用できないのが実情。

浄水フィルターは、知識が普及していないし、地元ではあまり利用できない。

いずれにせよネックになるのは、ビクトリア湖周辺住民の現金収入が少ないこと。タンザニ アの一人当りGDPは140ドルと政府統計では言われている。また「1日1ドル以下」がよく貧困の基準として用いられる。しかしこれらの値は全て「平均」であって、ビクトリア湖周辺では1日39セントでの生活である。所得が低いということは、何かしようとするときの選択肢を狭めることになる。

(参加者からコメント)

生活廃水(下水)についての解決方法として、以前、日本でも使用していた「簡易浄化槽」を紹介したい。穴を掘って周りをコンクリートで固めた浄化槽に生活排水を流し込み、汚物を沈殿させ、上澄みを川に流す。こうすれば、かなりキレイな水を分離することができる。日本では設置費用6万円程度で、半額は補助金がでた。洗剤のように水に溶解するものは分離できないが、それ以外の汚れはカバーできる。タンザニアでもセメントがあれば簡単にできる。

(参加者から質問)

日本からの援助は農薬・化学肥料だけでなく技術協力はなかったのか。

(チャチャさん)

技術や知識を高めるような教育についての支援は行われていない。より正確に言うならば、そのような支援があったかどうか分からない、というのが実情だ。援助物資は首都のダルエスサラームを経由して各地に分配されるが、技術支援については仮にダルエスサラームではあったとしても、地方では分からない。日本からの援助物資と技術協力がセットになっているということはない。何故なら、援助物資は売られているからだ。

(参加者から質問)

2KR援助について様々な問題があるが、タンザニアではどうか。

(チャチャさん)

援助物資が、どのような地域にどのような仕組みで分配されるのか、私たちには何も知らされていない。皆さんは日本の政府に対して、援助物資が本当に地域レベルで活用されるようにするには、物資に関する情報がコミュニティレベルに伝わるようなやり方をすべきだと、伝えて欲しい。

4.タンザニアに対する日本の2KR援助について(報告:今井高樹)

(今井)

2KRが話題になってきたので、タンザニアに対する日本の援助について説明したい。

(以下の情報は、外務省情報公開資料に基づく)

タンザニアに対する2KRは1979年に始まり、90年代には年間5〜9億円の規模で実施されている。供与物資の内訳は、化学肥料が多く、次いで農薬、農業機械の順。援助物資は市場を通じて売却され、売却代金は「見返り資金」として国庫に積み立てられて社会開発事業に活用されることになっている。しかし、農薬、農業機械については高価なため販売が難しく、農薬は全て国が管理して害虫・害鳥の防除に使用されている。化学肥料は仲介業者を通じ農民に販売されているが、収入が低いため購入できない農民層が存在する。

この結果、見返り資金の積立状況は極めて悪く、1990年迄は0%、90年以降も36%でしかない。これは、(1)そもそも売却できていないという問題と、(2)売却・回収できた金額についても不正使用或いは着服された可能性が指摘できる。

2000年2月に現地日本大使館は、資機材の流通経路や価格、農薬の環境負荷についての調査を外務本省に依頼している。特に、農薬については「毎年、強力な農薬を広範囲かつ大量に散布することの、環境・人体などへの影響、その負荷について綿密な調査をする必要があると思料する」とコメントしている。しかし、調査結果は公表されていない。

(参加者からの質問)

「見返り資金」の使途はどうなっているのか?また、使う時には日本政府の許可が必要なのか?

(今井)

使途は、以前は農業関連プロジェクトに限定されていたが、今は広く社会開発事業に使うことができ、教育、医療関係への活用も認められている。活用に際しては日本政府との協議、確認が必要。

5.全体を通して。質疑、意見交換

(参加者からの質問)

ビクトリア湖の汚染源について、農薬や化学肥料の話も出たが、チャチャさんが作成した英文資料では、むしろ工業排水、生活排水の影響が大きいとされている。何が一番の汚染源で、活動のプライオリティをどこに置いているのか?

(チャチャさん)

ビデオを見せた後にも少し説明したが、確かにビデオでは農薬や化学肥料の話について触れられていない。というのは政治的プレッシャーがあったからだと私は思っている。活動のプライオリティに関しては、やはり人々の意識を高めることが大切だと思う。水の汚染がどのように人々の健康や暮らしに悪影響を与えるのか、その危険性について知らせる、というのが一つ。そしてもう一つは政府などに働きかけていくアドボカシーがあげられる。

(参加者からの質問)

ビデオでは湖から取水して飲料水に使っていたが、例えば水道局のような公的な機関が規制したり管理することはしていないのか?

(チャチャさん)

そのような公的な介入は一切ない。湖からの飲料水の取水については、汚水が流れ込んでいるところから100mも離れていないところで取水しているのが現状。人々の認識を高める必要がある。

(最後に、チャチャさんからのメッセージ)

まず日本の皆さんについて一言。

皆さんは税金を払っている。それが(ODAを通して)南の国の環境破壊、貧困を生み出す原因にもなっていることを知って欲しい。本当に開発のため、貧困削減、キャパシティビルディングなどのために適切に使われているのか、きちんと見て欲しい。

そして2KRネットの皆さんにも一言。

2KRについても、現地でのインパクトをぜひ調査して欲しいし、国境を越えた市民社会団体同士、お互いに情報を共有あうことができればと思う。

以上


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