外務省との意見交換会(第6回)議事録


2003年7月より、食糧増産援助の見直しをテーマに外務省と市民・NGOとの意見交換会が開催されています。 ここには相手国政府代表(在京大使館関係者)、国際機関、JICA等のステークホルダーが参加し、 議論を重ねています。
昨年12月に行われた第6回会合では、食糧増産援助が2005年度より「貧困農民支援」に名称変更されるのに伴い、 この「貧困農民支援」がどうあるべきかを中心に議論しました。
議事録が出来上がりましたので掲載いたします。 なお、議事録は【議事要旨】と【議事録(詳細版)】を作成しております (詳細版は個別の発言者毎の議事録で、要旨の約3倍の長さです)。
以下、【議事要旨】【議事録(詳細版)】の順に掲載しております。


開発途上国における農業分野に対する無償資金協力に関する意見交換会

第6回 議事要旨



2004年12月20日(月) 18:30〜20:45
外務省 396会議室

出席者(敬称略、順不同)

【在京大使館関係者】
・ネパール大使館  Mr.Paras Ghimire (公使参事官)及び寺沢秘書
・ラオス大使館   Mr.Souchay PHILATHIVONG (公使参事官)
・モンゴル大使館 Ms.Dambadarjaa BATJARGAL (参事官)
・エジプト大使館 Mr.Mokhtar Omar (一等書記官)及び齋藤秘書
・エクアドル大使館 Mr.Adolfo ALVAREZ (大使)及び竹田秘書

【国際機関関係者】
・FAO(国際連合食糧農業機関日本事務所) 遠藤所長 / 小平次長
・WFP(国際連合世界食糧計画日本事務所) 伊藤礼樹

【市民・NGO関係者】
・田坂興亜(食糧増産援助を問うネットワーク 共同代表)
・今井高樹(食糧増産援助を問うネットワーク 共同代表)
・舩田クラーセンさやか(食糧増産援助を問うネットワーク)
・高橋清貴(日本国際ボランティアセンター) *NGO側司会担当
・水原博子(日本消費者連盟)
・内野ケイタ香美(NGO地球風)

【農水省 国際協力課】
・中澤課長補佐
・古川係長

【国際協力機構(JICA)無償部】
・原田第三グループ長
・池田KR・2KRチーム長
・清水KR・2KRチーム職員

【日本国際協力システム(JICS)業務部】
・橋本健一 業務企画課長
・武井清隆 プロジェクト・マネージャー
・深澤公史 プロジェクト・マネージャー

【外務省 無償資金協力課】
・鈴木秀生 無償資金協力課長
・木邨洗一 無償援助審査官
・内藤康司 ノンプロ・食糧援助等班長 *外務省側司会担当
・石崎吉男 課長補佐

【マスコミ関係者】
・大森淳郎(NHK)

●議事要旨

1.今回のテーマ

2005年度より「食糧増産援助(2KR)」が「貧困農民支援」に名称変更されるのに伴い、 新しい「貧困農民支援」のあり方について議論を行った。 併せて、2004年度の食糧増産援助実施方針、国際機関(FAO)経由で実施される砂漠バッタ対策事業 及びオブソリート農薬処理事業についても報告と質疑を行った。

2.冒頭挨拶


冒頭、外務省より「世界の8人に1人が飢えている現状を解決するには、 食糧援助だけでなく、飢えている人々が自活できるようにしなければいけない。 その点においてこの会合の参加者の認識は一致しているだろう。 これまで外務省は2KRに関して様々な改革を実施してきた。 来年度予算において無償資金協力全体が3.1%減少する中で、2KRの名称を改めた 『貧困農民支援』が前年同額となる50.04億円の内示を受けたのも、 飢えの撲滅という援助目的が財政当局に理解されたからだと考えている」と挨拶があった。 NGO(2KRネット)からは「当初は2KRの問題点の指摘から始まった意見交換会だが、 回を重ねるごとに、飢えをなくすために互いにどのように協力すればよいかという ポジティブな方向に議論が進んできている。 私たちは10月に2KRの抜本的見直しに向けた『提言書』を作成した。 飢えの原因を分析し、その解決のために日本がどのような協力をすべきかを提案している。 是非参考にしていただきたい」との挨拶があった。

3.オブソリート農薬処理事業の進捗について


外務省及びNGOより報告を受けた。

○外務省報告内容
モザンビークでのFAO農薬処理事業に対する145万ドルの支援(食糧増産援助)を12/17に閣議決定した。 モザンビーク農薬処理事業については既に第1フェーズ (処理を要する農薬がどこにどれだけ残っているかの調査と目録作成) に対して85万ドルの支援を実施しており、今回は第2フェーズ(処理を要する農薬を中央の集積所 に集めて安全な形態に再梱包)に対する支援。 エチオピアでのFAO農薬処理事業に対しても114万ドルの支援を平成15年より実施しており、 農薬のオブソリート化を起こさない体制整備やトレーニング等に充てられている。 これまでの2KRはほとんどが物資供与だったが、この事業は100%近くが役務、 ソフトコンポーネントで構成されている。 アフリカに5万トンが残り、自国での処理が難しいと言われている農薬を最終的に廃棄する FAO事業を支援することは、持続的な食糧生産に貢献するものと考えている。

○NGO(2KRネット)報告内容
モザンビークは日本が過剰に供与した農薬がオブソリート化し注目を集めたが、 その処理に向けた取り組みにおいては先進的な事例を作りつつある。 第1フェーズの処理事業は、運営委員会に現地NGO及び国際NGOが参加して実施された。 この処理事業モデルの斬新な点は、徹底的な調査による「最後の1缶のドラム缶まで」 の目録を作成したこと、市民社会(NGO)が全ての情報にアクセスしモニタリングすること により透明性が高まったこと、高い専門性を持つ国際NGO(Pesticide Action Network UK) をはじめ委員会に参加した各ステークホルダー が互いの長所を活かして協働を行ったこと、 である。 日本が今後資金援助する際にも、現地NGO及び国際NGOの参加と協働を是非取り入れていただきたい。実施面での効果があると同時に、異なったステークホルダーが協働を通じて相互理解を深め、今後の予防の取り組みにも繋がっていく。モザンビーク、エチオピアだけでなく他国でも是非実施していただきたい。

4.国際機関を通じた2KR支援について


FAO日本事務所及び外務省より報告を受けた。

○国連食糧農業機関(FAO)日本事務所報告内容
サヘル地域の砂漠バッタ大量発生に対してFAOは各国の支援を得て対策事業を実施しており、 日本政府からは300万ドルの支援を得て10月よりプロジェクトを開始した。 緊急防疫対策に250万ドル、中長期の対策として生物農薬の実用化研究及び効果的な 発生予察手法の開発に50万ドルの「両面作戦」である。 緊急防疫対策としては、残念ながら「最後の手段」としての農薬を使わざるを得ない。 但し、国際基準に従うとともにFAO専門家の知見を活用して、環境と健康影響には 最大限の配慮を行う。中長期対策は今後3年間をかけて実施。 早期警報システムが今回何故うまく働かなかったのかを探り、システムの運用改善を図る。 また、農薬に代わる防疫手法を含め、環境影響や健康リスクを最小とするように砂漠バッタ の発生・生育段階に応じた防疫制圧手法の検討を行う。 農薬の適正な在庫管理と規律化の検討を行う。 それらをレビューするために毎年ワークショップを開催する。 農薬に代わる防疫手法としては、環境に優しい生物学的抑制剤として、 昆虫病原性糸状菌(メタジウム)の散布を計画している。

○外務省報告内容
今回の援助は「農薬は原則として供与しない」方針を発表してから初めて例外的に実施するもの。 農薬に代わる防疫手法の研究は日本のみならず他国にも裨益する支援になるのではと期待している。 他にも、平成16年度にFAO経由で実施、或いは実施予定の案件が2件ある。 「スーダン共和国ダルフール地域における紛争被災民向け食糧増産援助」と 「ハイチ共和国の被災民向け食糧自給促進計画」。 いずれも災害もしくは紛争による被災者への支援だが、単なる食糧援助ではなく、 援助に依存するあまり食糧の自給ができなくなることを避けるため、 食糧援助と同時に穀物・野菜の種子と簡単な農具を配給し、技術指導を行うことで食糧自給 と自立回復を促進する。

このテーマに関して、NGO(2KRネット)から資料「アフリカにおける移動性バッタに対策事業についての要請」 が配付され、それに関して「プロジェクト実施にあたっては、農薬の危険性を熟知した現地NGOによる モニタリングを実施すべき。 また、移動性バッタは以前から西アフリカ地域の飢餓に結びつく問題であり、 今回の対策だけでなく今後中長期にわたって防止するための国際的な協力体制構築に日本は関与すべき」との発言があった。

5.2004年度の2KR実施方針

○外務省報告内容
2004年度も昨年と同様、供与予定国に対しては詳細な調査を必須とし、要請の必要性と実施体制の有無、 そして昨年と同じ3条件を確認した。 3条件とは、第三者機関による見返り資金の外部監査の実施、 見返り資金の小農支援事業・貧困対策事業への優先的な使用、被援助国との年1回の政府間協議のほかに 四半期に1度の連絡協議会を開催し多くの現地ステークホルダーの参加を認めること、である。 この条件を満たさなければ供与できないと相手国に説明した。 既に16ヶ国の現地調査が終了して結果分析の最中であり、真に必要性が認められ、 妥当と判断した国に供与を決定する。 ブータンとネパールの調査から若干の報告をしたい。 ブータンは、山間部の農地において生産性を上げるため耕耘機の導入を国家政策として進めている。 しかし商業ベースで販売される耕耘機を購入するだけの資金が農民にないため、これを2KRに頼っている。 ネパールは肥料による生産性向上を目指している。 政府が一定の肥料をストックしながら市場価格が高騰しないようコントロールを行っており、 そのために2KRの肥料が使われている。

6.「貧困農民支援」のあり方について

外務省、JICA、NGO(2KRネット)よりそれぞれ報告を受けた。

○外務省報告内容
これまでの改革については既に紹介された通りだが、今回「貧困農民支援」に名称を変更して どうするのか。 配付資料6ページに「更なる改革への具体案」として書かせていただいたが、 2KRネットの提言書も勉強し、無償課の中でも検討している最中である。 考え方の原則として、何よりも途上国自身の視点・問題意識の重視。 誰が飢えているのか、その根源的な原因がどこにあるのかは国によって違う。 個別具体的な調査を実施し、途上国自身が何をやりたいのかを考え、 テーラーメードな支援を実施しなくてはいけない。 また、マクロ・ミクロ双方のアプローチが重要。 一つのコミュニティを援助するアプローチは必要だが、 国によっては全体のパイを大きくすることも必要。 そのベストミックスを実施することであり、様々な方法論で試行錯誤することが必要だと考えている。

○国際協力機構(JICA)報告内容
JICAでは農業開発・農村開発についての報告書を8月に取りまとめた
(開発課題に対する効果的アプローチ「農業開発・農村開発」
http://www.jica.go.jp/activities/report/field/200408_01.html
多くの開発途上国では農業従事者が人口の多数を占め、その大半が貧困層に属している。 安定した食料の生産と供給、食料安全保障への支援即ちマクロ(国家)レベルの取り組みと、 貧困問題への対応である農村開発即ちミクロ(農村)レベルの取り組みは極めて密接に関連して おり、両者は車の両輪の関係にある。まさに「飢餓と貧困の解消」を目指さなければならない. その上で、2KRをより効果的な、開発途上国に喜ばれる援助にするためにはどうすべきか。 JICAでは昨年3月に「2KR実施計画手法にかかる基礎研究」を取りまとめ、提案をしている。 特に強調したい点としては、1点目は技術支援との連携、更に一般無償での灌漑施設整備など他の 農業分野の支援スキームとの有機的連携の強化。2点目はモニタリングの強化であり具体的にはモニタリング報告書 のフォーマット化や、現地農民等のステークホルダーも参加してモニタリングを実施するための評価手法の 開発である。

○食糧増産援助を問うネットワーク(2KRネット)報告内容
「貧困農民支援」への名称変更自体は歓迎したいが、名称だけが変更されて中味が変わらないのでは全く意味がない。 FAO経由2KRの試みはまだ年間数億円のレベルであり、50億円の予算規模のうち40億円以上は従来型2KRが続いている。 その従来型2KRは、予算規模縮小に伴い1ヶ国に対して「3年に1回」のサイクルで実施されるようだが、 これでは自立支援ではなく外交的バラマキである。 従来型2KRの仕組みを抜本的に見直し、「貧困農民支援」にふさわしい内容に変えなくてはならない。 配付資料の「貧困農民支援のイメージ」という表では、 従来型2KRと私たちがイメージする「貧困農民支援」とを左右に対比させた。 まず援助目的は、2KRが国レベルでの食糧自給率アップと財政支援・外貨支援を目的とし、 不特定多数の農業関係者を対象としていたのに対し、 「貧困農民支援」は貧困農民の自立支援が目的である。 援助内容については、2KRでは化学肥料・農業機械が中心だが、 「貧困農民支援」では包括的な農村地域開発に向けた協力、 身近な資源や伝統的な農法を活用した適正技術の普及、農民グループの組織化とエンパワーメント などの内容を中心にすべき。見返り資金制度は廃止する。 このように「貧困農民支援」の枠組みやデザインをハッキリさせなければ名前を変えた意味がない。

7.意見交換

続いて、各報告に対する質疑及び意見交換が行われた。

JICA報告に対してNGOより「『報告書(開発課題に対する効果的アプローチ)』に書かれている 内容と2KRに関する今日の発表内容とはかなりのギャップがある。 『相手国に喜ばれる援助にする』と言うが、飢えているのは個別具体的な人間であり、 家庭内でも女性、子供などそれぞれに状況は違う。 『国』とは誰なのか。『報告書』では突っ込んで記述してあるだけに、その点を踏まえて2KRについて考えて欲しい」 との意見が出され、JICAからは「『報告書』は2KRについて論じているのではなく広く農業・農村開発がどうあるかという観点からまとめているので、 全く矛盾があるとは思っていない。今までの2KRは特定のターゲットグループを対象とするというよりは、 食糧増産支援を通じて広く農民に裨益するという観点から実施してきた。 今後、名称変更に伴ってどのようにすべきかJICAとしても考えていきたい」との回答があった。
また、外務省に対してNGOより「2KRを特徴付けていた『資機材中心』『見返り資金』 といった制度を変更しようとしているのか」との質問が出され、 外務省からは「これまでの議論が、資機材なのか種籾なのか、外貨支援なのか違うのかといった “神学論争”に陥っている気がする。両者のやり方を対立的に考えるのではなく、 各国の飢餓の原因をよく分析した上で、両方のベストミックスが必要ではないか。 今まで資機材に偏重していた実態はあったが、かといって資機材供与の有用性そのものが否定される訳ではない。 見返り資金についてもリース・マイクロクレジットの活用や組合を通じた配付など運用の仕方によっては貧農のコミュニティのために 使っていくやり方もあり、それで上手くいくなら敢えて廃止する必要はないのでは」 との回答があった。更に外務省からは「FAO経由の2KRには見返り資金はないが、そういった直接支援的なものを2国間援助で実施できないか考えている。 その場合に見返り資金については柔軟に対応し、積み上がらない性格のものは積み上げる必要はないと考える」 との説明があった。

8.在京大使館関係者からのコメント

意見交換の中で、援助対象国の在京大使館関係者からは次のような発言があった。

○エクアドル大使館
エクアドルにとって2KRプログラムは非常に効果があり、地域によっては生産性が30%向上している。 供与された肥料によって市場での投機的な価格高騰を防ぐことができた。 見返り資金は橋や学校、灌漑施設の建設に活用している。 しかし未だにエクアドルには非常に貧しい人々がいる。日本の支援に感謝するとともに 、2KRプログラムがもっと分かりやすいシステムに改良されて継続されることを望んでいる。

○ラオス大使館
ラオスに対する今年度2KRの供与は見送られたが、ラオスは貧困国のひとつであり、 何故そこに対する支援がないのか。 ラオスでは肥料とポンプ、トラクターを必要としている。 河川から畑に水を汲み上げるにはポンプは不可欠である。

○ネパール大使館
21世紀は遺伝子工学、バイオテクノロジーの時代であり、またアジアの時代である。 遺伝子工学、バイオテクノロジーの分野で日本が重要な役割を果たすことを期待しているし、 例えばバッタの影響に耐え得る作物、或いは生育が早く生産性の高い作物などの開発はできないものか。 ネパール政府はアグリビジネスとマーケティングに力を入れるとともに小規模農民の支援を行っている。 アクセスすら難しい山間部に住む小規模農民に対し、日本政府と協力してどのような支援ができるのかを検討している。

9.まとめ

時間の関係により十分な意見交換の時間が取れなかったが、今後も意見交換が必要であることを司会者が確認した上で、 総括的な発言を受けた。 外務省からは「我々やJICAをはじめ皆で勉強し、漸進的ではあっても試行錯誤をしながら援助のあり方を追求していかなくてはならない。 過去の案件の評価をきちんと行って教訓を得ることが重要。 皆が同じ目標を持っているという認識のもとに、このような議論を続けていきたい」 との発言があった。NGO(2KRネット)からは「FAO経由で実施したアンゴラの案件の評価を行い、 こうした援助手法が有効であるなら今後更に進めるべき。 外務省の発言にあった『国による多様性を理解し柔軟な対応が必要』とは私たちが最初から主張していた点。 外務省も国別援助計画も作成しつつあり、貧困・飢餓という問題に焦点を当てて市民と外務省、 JICAが共に研究していかなくてはならない。 実施案件の評価をコンサルティング業界に任せるのではなく、市民や国内NGO・国際NGOなどの第三者的な視点を取り入れることによって ODAの評価を高めれば『ODA倍増』にも繋がると考える。


第6回 議事録(詳細版)はこちら

以上



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