月の子供 D  〜なんちゃってファンタジー“鳥籠の少年”続編
 



          



 いかにも不遜なポーズをとって、ある意味、颯爽と現れた黒魔導師の蛭魔さんと、
「やあ。久し振りだね、セナくんに進さん。」
 その背後に顔をひょこりと出したのは、亜麻色の髪をし、柔和そうな面差しの。やはり魔導師の…、
「桜庭さんも?」
 わあ、お珍しいですねぇと、セナが屈託なく笑って見せる。だが、
「…? 桜庭さん?」
 心なしか。後から顔を出した方の魔導師様は、どこかその…お元気がないようにも見受けられた瀬那であり。そんな気遣いの表情を読み取ってか、
「奥の手を使って超特急でやって来たんでな。」
 どんな手かは企業秘密だと蛭魔が小さく笑い、何となく傷心してるようだった桜庭の方も、にっぱりと笑って、何のこれしきと立ち直る。
「…大丈夫ですか?」
「うん。平気だよvv
 このお家の周りに結界を張ってたんだ。それでちょっと、ほら、運動した後みたいに ちょっと息が切れてるってやつだよ。そんな風に言い、やわらかく微笑った桜庭であり、

  "………。"

 それに関しては蛭魔も何ともコメントを差し挟まない。彼の焦燥ぶりは体力的な疲弊のせいではなく、気落ちが続いたせいだと分かっているからで、こっちのそういった事情をちまちまと並べている場合ではないから、敢えて今は口を噤んでいるまでのこと。
「一体どうしたんですか?」
 立ち話も何ですから中へどうぞと、セナが二人へ促して見せる。またお逢い出来たのはとっても嬉しいけれど、こんな田舎の何にもないところに突然、それも何だか大急ぎでいらしたような。彼らがそうまでするような、一体何があったのだろうかと、台所から茶器を運んで来た瀬那は、上手にお茶を淹れながらも仔犬のように小首を傾げて見せている。よもや、何かしらの悪さをして指名手配にでもなったのかしら…などとは全然思っていないらしい、相変わらずの人の良さにこそ、しょっぱそうな苦笑をしてから、

  「お前さんにかけられていた封印が解けた気配がしたんだよ。」
  「…封印?」
  「まあ、ここに辿り着くまでは、
   それがお前へとかけられてたもんだとは知らなかったんだがな。」

 まさか、このセナが。桜庭の覚えていた気配の持ち主による結界によって守られていた当の本人だったとは。選りにも選ってほんの間近、桜庭が自分の能力によって張った結界内に一年近くも取り込んでいた対象だったのにという、先の"迷いの森"騒動を思い起こせば。今更あたらめて気づいたなんてのは、何とも間の抜けた展開なようだけれど、

  "あん時は奴の意志が伴われていなかったのだから仕方がない。"

 そもそも結界の気配がまるで読めない、ある意味で黒魔導師としては大きな欠陥のある自分といい、何とも間抜けで滑稽なコンビだよなという自嘲の想いを苦々しく噛みしめつつ、

  「???」

 何が何だか、よく分からないと小首を傾げるセナの傍らへと視線を移し、

  「なあ、白い騎士さんよ。」

 蛭魔が相変わらずの横柄な口調で声をかける。
「王城キングダムでの内乱。あれってのはどういう真相の下に起こったんだ? なかなか大きな騒乱で、あんたがまだ見習いくらいの頃に勃発した筈だから、知らないのかもと思っていたがな。」
 この構図。問題の結界に守られていた人物がこの少年であると判った以上は、その傍らにまだいた"王城キングダムの元・近衛隊長"という存在が、妙に意味深なものにも見えてもくるというもので。王城キングダムの内乱と昨今の情勢、手配の姿絵と、まもりとかいう女性の施していた封印と。事態の背景とやらを聞いたばかりな蛭魔にしてみれば、何となくながら…頭の中に1つの構図が組み上がっていて。

  「この子の傍らからあんたが離れないのは何でだ?」

  "…え?"

 セナがキョトンとしつつ、進の方を見やる。

「何かしら、覚えがあったからじゃないのか? 近衛といえば基本的には王族の間近に護衛として仕える身だ。側室様に似ていらしたか、それとも亡くなった前王に似ているのかな?」
 半ば決めつけるような口調で問い詰める蛭魔へ、さして激高する気配も、焦燥の様子もないままに、
「そんなことは…。」
「無いなら なんでだ?」
「………。」
 つけつけと、容赦なく畳み掛けてくる蛭魔の言及へ、日頃からの寡黙さゆえに太刀打ち出来なくなったのか、それとも…口外出来ない急所に絶妙なる直撃を受けたからなのか。

  「………。」

 押し黙ってしまった進であり、それへとふんと鼻先で笑って見せてから、
「この姿絵に見覚えはねぇか?」
 蛭魔が手元からひらんと下げて見せた一枚の似顔絵。それを見たセナが、あっと小さなお口を丸ぁるく開いて驚いた。

  「まもりお姉ちゃんだ。」

 遠い記憶の優しい姉。あんまりにも小さかったセナだから、覚えていることは少ないのだけれど、お料理が上手で、お裁縫やお歌も上手で。絵を描くのはちょっぴり苦手だったけれど、それでもね。ウサギさんやオオカミさんの絵を描いては、昔のおとぎ話をいっぱい話して聞かせてくれたの。突然に見ることとなった懐かしい人の姿に、ついつい視線が釘付けとなっていたセナだったが、
「本当の、血のつながった"お姉ちゃん"か?」
「あ、いいえ。」
 訊かれて"ふりふり…"とかぶりを振って見せ、
「あの、ボクは赤ちゃんだったのでまるきり覚えてないんですけれど。お姉ちゃんとボクとはずっと昔に同じ村に住んでいたんだそうです。」
 その村が夜盗に襲われて焼き打ちにあったとかで。子供や女の人を先に逃がそうとした混乱の中で、今のボクよりずっと小さい頃に、ボクの両親から僕のことを任されて。
「それで、ずっとずっと頑張ってたった一人でボクを育ててくれたんです。」
 でも。セナが物心付くかつかないかという頃に、森に入って行ったまま、行方が知れなくなってしまって。それからはずっと独りぼっちで過ごしていたのだと思い出したか、しょぼんと肩を落とした少年だったが、

  「それがどこまでホントの話だかな。」
  「…え?」

 淡々とした口調で、何だか…ややこしい言いようをされて。キョトンとするセナに、蛭魔は妙に落ち着き払った視線を向けている。見栄えが酷薄そうな人ではあるけれど、あの一件の時は封印から解放されたセナへ嬉しそうに笑ってくれたし、別れ際にも柔らかく微笑って頭を撫でてくれた優しい人。なのに今は…何となく。どこかしら つれない風情があって、それが違和感となって伝わってくる。そんな風に感じさせた眼差しを、おもむろに…今度はひどく冴えさせて、再び進の方へと振り向ける彼であり。

    「まもりとかいう侍女は、そんなにも昔に国から出奔した訳じゃねぇし、この村にもそう長く居た訳じゃねぇ。国を離れて最初の1年ほどで まずは側室が亡くなり、それから此処へと逃れて…。そうさな、内乱が終結する寸前くらいまでの1、2年、今から逆上ってもほんの数年前ってくらいに此処からも行方をくらました。」

 なるほど、此処は身を隠すには持って来いな環境だったが、それでも。追っ手の追跡があまりに執拗だったから…もっと強固な結界を張らねばと覚悟を決めたのだろう。

    「前々からこいつには暗示をかけていたんだろうさ。母親の顔や自分の素性を忘れさせるために。そこへ加えて、今度は村の人々にもそれなりの…辻褄合わせの暗示を施した。それから、何らかの防御結界を張っていた筈。」

 それでも足りないと感じた彼女は、傍らにあって見守りたかったろうに…そんな甘えさえ振り切って、その身を懸けての大きな力を繰り出した。

  「きっとその大掛かりな咒に、持ち得る力を全て使い果たしてしまったんだろうよ。」

 まだ何も思い出せないまま、暗示による記憶を素直に信じているセナと違い、こっちは王城で起こっている騒動の真相や背景を、それなりに調べて知っているんだぞと。だからこそ、此処へ辿り着いたのだと言いたげな彼からの眼差しへ、

  「………。」

 進は。彼には珍しくも…どこか不安そうに視線を微かに揺らめかせて見せ、それから。


  「…側室様が国から出奔したのは、俺が近衛になる前の話だ。」


 観念したのだろうか。おもむろに…彼なりの知り得るところというものを語り始めたのである。
「お前が近衛になる前?」
 そんなにもあっと言う間に隊長格にまで出世したのかと、怪訝そうなお顔になった蛭魔へ、

  「お前が言っている"側室様"は、
   内乱の切っ掛けとなった暴言を口にした方のことなのだろう?
   その方は、本物の"側室様"ではないのだよ。」

 さして表情は変わらぬまま、真摯な眼差しもそのままに、進は蛭魔が把握しているのだろうその始まり辺りの"事情背景"を訂正をし、

  「…これは前の隊長から聞いたものだがな。
   本物の側室様は、実は…他でもない"正妃の計らい"で、
   随分と前に城から逃げ出していたのだそうだ。」

  「な…。」

 今度は、蛭魔の方が…思わぬ事実を突きつけられて、呆気に取られたような顔になる。寡黙な剣士がその胸の裡に秘めていた事実は、魔導師様が想定していたものよりも たいそう重い代物であったらしい。




          ***


 進は国から出立
しゅったつするその間際に、自分が隊長を拝命したその直前まで"近衛隊長"だった人物に秘かに呼び出され、コトの真相というものを聞かされたのだという。その言によれば…この大陸の出身である正妃は"巫女"でもあったそうで、ある日、王室の守り神様が彼女の夢枕に立ち、魔女が側室様の和子を狙っているという予言を下されたのだとか。

  「魔女?」
  「ああ。」

 誠実廉直が過ぎて、頑迷そうで自分の目で見たものしか信じないという雰囲気の、いかにも"現実主義者"でございますという風情の、この進の口からそんなフレーズが出て来たのには、同座した全員が少々呆気に取られたが、

  「俺もにわかには信じ難かったのだがな、
   所謂"人心を迷わす悪しき気配や存在"のことだ。」

 いや。皆さんが声が出ないまでの状態となったのは、魔女なんてものが曖昧な存在だからという点へではなくってですね…。
(苦笑)

  「この大陸のように古い土地には、様々な気配が染み入っていて。
   それが…元は生命を紡いでいた者の意志を孕んでいた場合、
   感情やら恨み憎しみが折り重なり、
   呪いとなって立ちのぼることが稀にあるのだそうだ。」

 この男にこんな風にそんな超科学的なものを信じさせたとは。その元隊長とやらの弁舌がいかに見事だったのか、いやいや、それだけ妖しい気配を自分でも既に感じていた進だったからなのだろうと、その場にいた皆が何となく納得をした上で話は続いて。

  「正妃様からのそんな話を聞いて、
   唯一、この土地出身の身で側室の付き添いだった娘が側室様を言い諭した。
   彼女はこの大陸にしかいない"魔導師"一族の血を引く者でもあって、
   だからこそ正妃様のその言を信じ、極秘の脱出の導き手となったらしい。」

 それが…セナが姉と慕っていた、姿絵にて手配されていた まもり嬢なのだろう。魔導師の、それもかなり位
ランクが高い一族の者だったらしき彼女は、様々な咒を用いて側室を助けながら南へ南へ逃げ果せたのだが、まもりの郷里でもある鄙びた田舎の村には辿り着けなかったか、後に放たれた追っ手たちもその行方は追えぬままに現在に至っているらしく。

  「俺が聞いた話は此処までだ。」

 誰と視線を合わせるでなく、ただただ淡々と語った進は、

  「彼女が辿り着いたのがこの村で、この方が王子であるとは。
   知り合ったその時も、此処に着いてからさえも、すぐには気がつかなかった。」

 ここでやっと、傍らに座っているセナを見やったが、

  「………。」

 俯いている彼の瞳を覗き込むことは出来なくて。そして、

  "………。"

 さすがに…いつものように"俯いていてはいけないぞ"と、その愛らしい顎先に手を添えて窘めることもしなかった彼であり。ちょっぴりぎくしゃくとした、そんな彼らだということへは気づかなかったのか。進が話を結んだ一言へ、
「まあ、それは仕方がないか。」
 蛭魔が深々と吐息をついて見せた。
「このチビさんへとかけられてた防御のための封印結界は、相当堅いものだったらしいからな。」
 彼の存在を隠すためにだけ掛けられた結界は、もしかしたら…その強力さ故に、先の"迷いの森"に気に入られてしまったのかも知れない。自然発生という種の歪みは人為的な魔力よりも鋭敏だし、歪みでありながらも性質的には素直な代物であるだけに、水が抵抗なく砂地に染み渡るように、易々とセナをくわえ込んでしまったのだろうと思われて。彼から彼の知り得る事情とやらを聞いた上で、

  「妙な言い掛かりをつけて悪かったな。」

 蛭魔は、謝っているにしては相変わらずの尊大さで進へそうと言い、
「別に何かしら…王宮からの密偵だの何だのと、お前さんを疑ってる訳じゃないから安心しな。」
 そんな器用なことがこなせる人性じゃあなかろうし、どうせ 誰からどう思われようが端(はな)から気にしちゃあいなかろうがと、こんな話の最中だというのに…愉快そうに"くつくつ"と笑ってそんな言いようを付け足した。その傍らから、
「ホントにごめんね。出来るだけ沢山のお話を聞き出したかったもんだから…。」
 桜庭が相方の代理といった体にて、様々な失礼を謝りたいと、恐縮したようなお顔をして見せている。
「僕らは、君がどうして…先の内乱が収拾した途端に、他でもない"近衛隊長"だったのにお暇を出されたのかも知ってるんだ。」
 早急に色々と確かめたくてと、此処に辿り着く前にもあちこちへ寄り道をして来た彼らであるらしく。進が現王から事実上の"放逐"という処分を受けたのも、実を言えば…。

  「王に進言したそうだな。正妃に何か妖かしの気配があると。」

 王宮から暇を出されたっていう使用人に術をかけて聞き出したぞと、蛭魔があっさりとすっぱ抜く。正妃の背後に何かしら良からぬ気配を感じ、それを包み隠さず、あまりに真っ直ぐ、王に直接ご注進申し上げたからのことだそうで。

 『何故、側室様の名が記された人型の木片を、
  人目を忍んで真夜中に、ヤミヤツデの実油で大量に燃やしておられたのですか?』

 他には人の耳目がない場にてという、彼には珍しいほどの気遣いこそしはしたものの、当の王妃も同席していた場でという辺りは…らしいといえば何とも彼らしい真っ正直な仕儀であり。今や国王の母、皇太后となられた王妃が…ぐうの音も出ず、ただただ怒りに身を震わせていたことが何を物語っていたのかは一目瞭然。どうも素振りが訝
おかしいと、それを実にストレートに言ってのけたものだから、あっさりと妃から煙たい奴よとマークされたのだが、

  「内乱収拾に多大な力になった功労者をそうそう無下にも扱えねぇよな。」

 王位継承を巡って混乱した騒動の中にあり、現王に迫った刺客などからの凶刃を打ち払い、命を脅かした危機をことごとく回避させた彼の手腕は広く知られていたこと。これでは感情的な処断を下す訳にも行くまいと、王も随分と逡巡したらしい。一国の英雄を処断するにはそれ相応の理由がいる。ましてや自分は即位したばかり。いきなり無茶苦茶な暴挙を見せれば、人心もたちまち疑惑の目で城を見よう。その時点ではまだそういう判断力があった王は、法規の専門家たちを集めて何とか"正当な理由"を検討させ、国王直々の"お墨付き"をくれてやっての地方諸国の視察という名目をつけて進を王宮から遠ざけた。そして進は…元近衛隊長だった人物に呼び出され、コトの真相というものを知ったのだという。

  「その時に、その方からこうも言われた。」

 お前が放逐されたのは却って都合がいいことかも知れない。良いか? その消息が絶えてしまった側室様だが、まもり嬢がきっとどこかに王子ともども匿っていらっしゃる。お前は国外から王国の情勢を見守りながら、その方々の行方も追ってくれ、と、忠義の想いを託されて。そこで、渡り剣士として大陸の隅々を渡り歩いていた彼であるらしく、そんな彼とセナが前回の騒ぎにて…期せずして巡り会えたという訳で。これでめでたく…彼らを取り巻く状況とやらが、一応の繋がりの全貌を明らかにしたことになる訳だが。

  「…で。」

 蛭魔の視線が進の傍ら、突然聞かされた様々な事柄に呆然としている小さな少年へと注がれる。

  「このチビさんが、どうしてそうまでして
   大掛かりに狙われ、且つ、守られているのだろうな。」

 現在の皇太后…に取り憑いた何物かがいるとして。その存在はそうまでして何を求めているのだろうか。こんな小さな子供が一体どんな脅威だと? そこがいまだに解せなくて、口許を歪める蛭魔であり、
「脅威?」
「そうでなきゃ、それこそ何かの鍵とかな。直接手が出せないから、こんな回りくどいことをしているんだよ。」
 たかだか王位がほしかったからやってることなら、もう気が済んでる筈だろうが。人の心を操ったり乗っ取ったり出来るほどの手合いが、なのに先手を取られて逃げられているし、探すことさえ出来ずにいる。いくら魔術の達人だったとはいえ、お姫さんや娘さんの足に追いつけないなんてどうだよ? 何ともお粗末な話じゃあないか。結果、内乱を起こしたくらいの重要事なんだ、いっそ目串を刺した辺りを焼き払ったって良さそうなもんなのに、そこまでは やらんってのは…逆手に取れば何かある。向こうさんも慎重にならざるを得ない存在だってことだ。

  「…慎重にならざるを得ない存在。」

 ただ、抹殺すれば良いという存在ではないということか。こんな言いようは、人の命を、人の存在を軽んじたようなそれになってもいるが、魔物というのはそもそも、人も動物も草花もどうかすれば同格にしか把握してはいないのだとか。まだ今の段階では、さして魔力が大きくはない奴なんだろうか。いやいや、それはおかしいよ。だったら巫女だったっていう正妃様が何とでも手を打てたはずだ。そんなこんなと…自分の身の上に関しての検討を始めた二人の導師様たちへ、
「………。」
 その手にもっていた小さな木箱。それを見下ろしていたセナは、

  「その追っ手というのは、これを…探しているのではありませんか?」

 ふと、それを差し上げて見せた。今の今までこんなものが家にあるとさえ知らなかった、それは綺麗な水晶珠。出鱈目に巻きつけられた銀のワイヤーも、何とはなく趣きのある風情に見えないこともない。そう、自然の力で何の計算もなく生み出されたものという表現をするならば、打ってつけの素朴さを持った装飾品にも見えなくはなかったが、

  「残念だけど、これは違うね。」

 桜庭がよくよく見やってそうと言った。そういえば触れ書きに描かれていた根付けに、材質も形も似てはいるけれど。これが目当てで、騒乱を起こしながらという強引な探索をしているとは到底思えない。というのが、こういった鉱石…それも導師や魔法にかかわる石には、それなりの条件が必要で。
「傷や不純物の入っていない綺麗な水晶だけど、天然石が持ってる筈の生気さえないほど古すぎる。」
 儀式か何かに使われて、その生気を使い果たした後の石みたいだねと。その真上へ手のひらをかざしたその時だ。



  《 セナ、あなたは光の公主となるお方です。 》

   ――― はい?








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 *因縁話ばっかで申し訳ありませんです。
  一体いつになったら腰を上げる方々なんでしょうかしらね。
  頑張って助走中ということで、どうかもうしばらくご辛抱のほどを…。