月の子供 G  〜なんちゃってファンタジー“鳥籠の少年”続編
 



          



 さてとて。長い長い秋の夜も明けて、

  「それでは確かに、セナくんはお預かり致しますね。」

 バックスキンの小さな背嚢
はいのうに埃除けのマントとブーツ。普段着である筒袖のシャツとベストの上へ、柔らかな革仕立ての上着と丈夫な生地のズボンを重ね着た旅支度を整えた小さなセナくんが、村の中ほどに住まわっていらっしゃる村長さんを訪ねたのは、それはすっきりとよく晴れた翌日の朝早く。お連れはあの渡り剣士様と、それから…村長さんにはまるきり見覚えのない、若いお客人のお二人であり、
『私どもは泥門出身の商人です。セナくんとは、二ヶ月ほど前に北の方の町で知り合いまして。』
 亜麻色の髪に役者みたいな面差しの、それは爽やかで誠実そうな男っぷりをした青年が、人懐っこそうな笑顔にて自分たちとセナくんとの関係を説明してくれて。二ヶ月前と言えば行方不明になっていた少年が剣士様に助けていただいた頃合い。そうか、この村に戻ってくる時に知り合ったのですねと、彼らの間柄には村長さんにも合点がいって。
『神隠しなどという恐ろしい目にあってしまったセナくんの身を、私共の知人である位の高い導師様がご心配になり、今後一切 魔の気配が寄りつかないようにと、特別にお払いの祈祷を施してくださると仰せなのです。』
 口裏を合わせるべく、簡単な打ち合わせを一応したのだが、善良な村長さんはにこにこと笑ったままで何ひとつ疑いの気配も見せぬまま、
『それはそれはありがたいことでございます。』
 この子はとても気立てのいい優しい子ですのに、どういう訳だか幸薄い不憫な子。そのようなお申し出があったとは幸いなことです。お世話をおかけ致しますが、どうか道中よろしくお願いします…と、あっさり納得なさったその上、
『これは些少ではございますが…。』
 路銀の足しにして下さいと、革袋に入れたお金とそれから奥様がお弁当を作って下さって。話を聞いた村人の皆さんも集まり、急な出立になってしまった一行を村の入り口までわざわざ見送って下さった。いくら人を疑うことを知らないほどに気の良い方々ばかりであっても、ひょっこりと訪れたお初の人間をそうそう簡単には信じるまい。ましてや"神隠し"なんて目に遭ったほどの子を連れ出そうとするなんて、常以上に警戒して当たり前なところだろうに…この温かいご理解ぶり。これもまた、

  「白い騎士さんへの信用がいかに高いかだね。」

 今までずっとセナの傍らにいて下さった、頼もしき剣士様。この出立にもやはり同行するらしき彼の姿を見たからこそ、村長さんや村人の方々も揃って安心なさったに違いない。初見の時のままの装束、細かい鎖帷子
かたびらの縫い込まれた真綿や、丈夫そうな革をふんだんに使った、武装を兼ねた旅姿も雄々しい進の装いを見つつ、桜庭がそうと言い、傍らの小さな肩をぽんぽんと優しく叩いてやったが、
「…そ、そうですね。」
 ご本人はどこか覚束無い表情のまま、曖昧な言いようで応じるばかり。今日の出立の手筈は話しておいたのに、さては昨夜はちゃんと眠れなかったのかなと、気の毒そうに表情を曇らせた白魔導師さんであり、
"大丈夫なのかな、こんなぎくしゃくしたままで。"
 確かに事態は急を要す展開を迎えており、蛭魔が言ったような格好にて打って出るなら、その行動、早いに越したことはないのだけれど。こちらのあまりの頭数の少なさは、連携で補うしかなく。その礎となるのは何と言っても互いへの"信頼"である。腕っ節だの気質だのという素養への頼もしさは揺るがぬ事実としてそのままに残ってもいようが、気持ちの上での信頼というのか、それまでお慕い申し上げていた進への感情に、微妙な疑念の影が差しているらしいセナであるのは一目瞭然であり。
"疑念なのか、それとも失望なのか。"
 こちらさんもまた…気づいてはいたが、自分が口を挟むことではなかろうと、知らん顔を通すつもりらしき金髪の黒魔導師さんを先頭に、それぞれが様々な思惑をその胸に秘めたまま、王城へと向かうこととなった四人である。片田舎の街道は、さほど頻繁には人や荷馬車の行き来もないせいか、堅く乾いてごつごつと愛想がなく。街道沿いの風景も、遠くにはなだらかな山々の稜線、近くにはそろそろ晩秋を迎える気配を滲ませた黄金色の草原が広がるばかりの殺風景なそれ。時折小鳥の声が遠くに聞こえ、草原の向こうに荒地や木立ちの影が見えなくもないけれど、次の集落までは闊達な大人の脚でも半日はかかるという話であり、まずはそこへと真っ直ぐ続いている街道は、遠くまでを見通せる角度になっても行き交う人の姿さえ見えない。


   ………………と。


 村から離れてどのくらいか、不意に立ち止まった蛭魔であり。くるりと後続の皆さんを振り返り、

  「………さて、それじゃあ。さっそく"作戦"に取り掛かろうじゃないか。」

 何を企んでか、不敵そうな表情にてにんまりと笑った彼の様子に、

  「「???」」

 すぐにも旅立つことにする…という以上の詳細は、前もっての打ち合わせというものをしてもらっていなかったセナと剣士様とが、揃ってキョトンと小首を傾げて見せたのであった。











            ◇



 いくら奇襲作戦だとはいえ、徒歩や荷馬車でちんたらと運んでいては、北端の王城キングダムに到着する前に刺客と鉢合わせするのが関の山だろうからと。蛭魔が立案したらしき とある作戦が皆に授けられて。一行はまず、二人一組の二手に分かれることにした模様。せめて一個連隊くらいの人数がいての撹乱作戦なら分からんでもないが、ただでさえ頼りに出来る頭数が少ない手勢をもっと少なく分けてどうするのだろうかと、素人でも不審に感じる作戦だったけれど。思うところがあるらしい蛭魔はすっぱりと一行を二人ずつに裁断し、それぞれの取る進路と計画を全員へしっかと叩き込んだ。……………そして、

  「大丈夫か?」
  「はい。」

 目深にフードを降ろし、少しほどゆっくりとした歩調のままに街道を進む二人連れの姿があった。さしたる荷もないままに歩んではいるが、旅慣れない身なのか小さな連れを片やがいたわりながらの、とぼとぼとした歩調はいかにも頼りなく、彼らがやって来た南の寒村の寂
さびれようがそのまま体言されているようにさえ見える。そんな二人が差しかかったのが、宿場に当たる次の町の入り口。集落の周囲がそれなりのお堀や柵などでくっきりと囲まれているのは、それだけ裕福だから外部からの襲撃を恐れているとか、王族だの領主だのという大きくてしっかりとした組織体の統率の下に置かれて規律正しく統治されていればこその守りであり、
"けど、この検問は………。"
 行き交う人々が少し手前辺りから順々に引き留められており、荷馬車の積み荷もいちいち確かめられている模様。

  「身分を示す手形のない者は、こちらに申請を。」

 普段なればこのような"検問"など置かない小さな町な筈だのに。あの寒村から離れてまだほんの数日だというのに、街道には既にこうまで近い位置にまで関所が設けられているらしく、いかにも突貫で作ったという風情の小さな砦のようなその詰め所には、白翼の紋章が掲げられている。

  "…王城キングダムの旗印だな。"

 何とも素早い手回しだなと、連れのフードを直してやりつつ…ちろりと斜めに陣営を覗き見る。仰々しくも甲冑姿の歩兵もいるとは、どんな相手を目当てに臨検しているやら。やがて順番が回って来て、戸外に設けられた簡易のテントのような幌の下、粗末な長いテーブルを挟んで取調官らしき係の者と向かい合う。

  「…泥門の商人と、弟か。」
  「はい。そろそろ弟も商いを覚える年頃になりましたので。」

 こちらはフードを頭から外した兄の方が、艶を含んではんなりと笑んだお顔のその美麗さに、係の兵士が一瞬、意識を奪われたものの、

  「弟とやらは、あまり似てはおらぬのだな。」
  「はあ。実はここだけの話、母親が違いますので。」

 愛想のいいお顔のままに問いかけに応じる金髪の兄の傍ら、その細い背中にこそこそと隠れるようになっている小柄な少年は、よっぽど"含羞
はにかみやさん"なのだろうか。フードにお顔を隠したままであり、声さえ発せずにいるほどだ。

  「いかんな、それでは良い商人にはなれないぞ?」

 兄上のように、もっと人懐っこくあらねばな。くすくすと笑われ、ますます恥ずかしそうに連れの羽織ったマントにしがみつく小さな男の子。微笑ましいその様子に、

  「商人であるのなら引き留めはしない。それよりも。」

 兄青年から差し出された商いの帳面をぱらぱらとめくって確かめて、係官は帳面に何やら記載しながら、こんなことを訊いて来た。
「途中の道すがらや商いに回った村などに、魔導師を見かけなかったか?」
「…魔導師様ですか?」
「ああ。恐らくは幼い少年を連れた、たいそう力のある魔導師だ。男か女かの限りも判らんのだがな、その魔力で人の目を欺きながら旅をしているとかで、早急に身柄を確保せよとのお達しが出ているのだよ。」
 係官の言いようへ、

  "へぇ〜…。"

 相手側の腹積もりの一端を確認出来た…という感触を得た蛭魔だ。一体どんな基準で誰を探している検問なのか。結界が解けたことでセナの居場所がおぼろげながらに分かったとして、すぐさま別の結界が張られたことから、魔導師が傍らにいることまでは察したのだろうが。今 誰といるのかまでは判ろう筈もなく、しかも成長期の子供だ。宮中にいた頃のセナの姿絵が残っていたとしても、面影が何とか残っているかどうか…。

  "くらい…だと良いんだがな。"

 童顔の坊やだからな、あんまり変わってねぇかもしれない。とはいえ、そのくらいは最初から織り込み済みの"作戦"だ。こっちのレベルを相手にどう踏まれているか、それが問題だよなと案じつつ、もう良いぞという指示をいただき"それでは…"と面接官の前から立ち去りかかった二人であったが、


  「む? ちょっと待て。」


 その傍らにて手配書らしき羊皮紙を広げた係官が、フードの陰にちらりと覗いた幼い横顔にふと…視線を留めた。

  "まさか…気づかれたかな?"

 身を翻しかけた動作をひたりと停め、声を掛けて来た係官の方を見やる。先程までとは立ち位置が逆になった"弟"を胸の前に抱え込むように庇って立つ美麗な商人へ、

  「その坊主、もう一度顔を見せなさい。」

 係官がやや堅い声を掛けた。前にも触れたが"姿絵"という手配書は、現代の"写真"と違って正確ではない。場合によっては描いた人間や描かせた人間の主観的な意志が反映されもするからで、善人でも描きようで"極悪人"風にされかねない。だが、そうと言いつつ…現代でも"似顔絵"による手配が相変わらずに取られているのは"印象"というものを重視しているから。物体も人物も無機物扱いにして"光学的に公平に精密に記録する"のが写真であり、恐持てがしただとか可憐だっただとかいう"印象"はともすれば掻き消されてしまう。一方、写真のような筆致が特徴の"写実的な絵画"が、写真以上に質感も瑞々しいことを思えば、人の手になる"似顔絵"がいまだに重用されていることへの納得もいくというもの。そちらの係官は退屈しのぎにか姿絵ばかりを眺めていたから、彼の連れの面差しに気になるところを見かけたのかも知れず、
「どうした。顔を見せないか。」
 急かす係官を手伝う意味からか、警護にと立っていた歩兵が手を伸ばして来て…思わぬタイミングにて弟の小さな頭を覆っていたフードを引きはがした。そこに現れたのは、いかにも幼げな愛らしいお顔であり、少しくせのある黒い髪に大きな琥珀色の瞳、柔らかそうな頬や小鼻に可憐な唇と来て、

  「………ややや。」

 引き留めた方の係官が眉を寄せたのへ…見るからに気まずそうな面差しになった兄青年がチッと舌打ちし、

  「バレちゃあ仕方がないか。」

 頭上へ掲げた白い手の先、摘まみ合わせた指をパチンと鳴らすと、ぱん…っと閃いたる目映い瞬光。勢いよくほとばしった鮮光が辺り一面を叩いて真っ白に染めた。

  「うわっ!」
  「くそっ、狼藉者だっ! 捕らえろ!」

 たちまちの内に、検問用の詰所がバタバタとした喧噪に包まれる。煙も爆音もしなかったのに…偉そうに踏ん反り返っていた役人やら歩兵やらが泡を食ってのたうちまわり、よく見えない目で駆け回ろうとして物につまづきと、そりゃあもう大騒ぎだが、外にいた者には何が何やら。それでも、責任者格だったらしき取調官の指示を受けた歩兵たちが集まってくると、速やかに逃げ出した二人連れを追跡にかかった。

  「待てっ!」
  「そこの二人、待たないかっ!」

 数人の歩兵たちに追われて、町の外れの細道を敏捷に逃げ回る。洗い晒した麻袋のようなマントをかぶった二人は、時折 家の壁に立て掛けられた農具を倒したり、樽を追っ手へと転がしたりとなかなかにぎやかに逃げ回り、

  「待てと言われて待つような馬鹿がいるかい♪」

 追っ手をからかうように、ほんの鼻先ぎりぎりながらも、なかなか届かないという間合いを保っての逃げようをしていたものが、不意に…足並みを速めたものだから、
「あっ、待てっ!」
 逃してなるかと、二人が飛び込んだ村外れの農家の納屋へと突っ込んだが、中には人の気配などなく。秋も終わりの時期、これから収穫したものを収めるのか、板張りの屋根や壁の隙間から差し込む晩秋の乾いた陽射しの金色が、干し草の匂いのする空間のあちこちを照らし出す、ただただがらんとしているばかりの納屋でしかなく。
「???」
 裏手へと突き抜けても誰の姿も見つけられなくて、路地を通りかかった青年へと声をかける。
「ああ、そこの。」
「はい?」
 随分と背の高い青年は、農夫にしては随分とあか抜けた、すっきりとした面差しをしていたが、あいにくと兵士たちの訊いた要望には応えてやれなかった。
「人ですか? さてねえ、こっちへは誰も来ませんでしたがねぇ。」
 自分がやって来た方を肩越しに振り返ってそんな風に言うのみだ。体つきの大きな青年だから、路地をほぼその肩幅で塞いでいたようなもの。そんな彼の目に留まらないで擦れ違うことは適わないだろうと兵士たちの見解も一致し、彼が向かおうとしていた方へとざかざか駆けていった一行を暢気な笑顔で見送って、さて。

  「…もういいよ。」

 トントンと。傍らに積まれてあった樽の蓋を指先でノックすれば、ぱかりと中から押し上げられた丸い板の下から、金髪の青年がぬっと伸び上がって出て来た。
「こんなもんかな。」
「そだね。」
 立っても胸元まで縁のある大きめの樽だったため、中にいた蛭魔に手を貸してやり、ズボッと一気に引き抜くように出してやったのは…言わずと知れた彼の相棒の白魔導師の桜庭くん。普通の"変装"だと自分よりも小柄な人物には化けにくい。よって、まさかこうまで背の高い男が、さっき見た…細身の青年は元より、ああまで小さな男の子と同一人物だとは思う筈もなく。追っ手だった歩兵たちもあっさりと、この桜庭くんは関係のない者だと把握してやりすごしたらしかったが。………でもって。肝心なセナくんは、一体何処に行ったんでしょうか、お二人さん。


  "…おいおい、まだ判ってねぇってか?"

   ――― はい?





            ◇



 蛭魔はまず、セナと進、そして自分と桜庭というグループ分けをした。咄嗟の目眩しが利く魔導師二人をどちらもセナに付けず、言っちゃあ何だが少々ぎくしゃくしている進との組み合わせにしたのが…何だか理不尽かもという、どこか不安そうなお顔になったセナへ、
『少数精鋭だからこその突拍子もないことを構えんとな。』
 にんまりと笑ってやった蛭魔であり、それから彼が持ち出したのが、

  『旅の扉?』

 悠久の歴史を持つこの大陸に特有の、不思議な魔法力の影響とでもいうのだろうか。白魔導師の勘でのみ探せるし稼働させられる、異次元トンネルの出入り口がそこかしこにあるのだそうで。霊的な場所同士への瞬間移動が可能な代物で、そもそもそれを使ったから、冒頭で泥門に間近だった筈の位置からとんでもない速さにてセナたちのいた村までやって来られた彼らであり、
『お前ら二人はそれを使って先に王城まで行って待ってな。』
 自分たちは追っ手を引きつけた上で撹乱してから追いつくと言い聞かせた。こちらの陣営も、どこまで情報を集めているのかも、相手はまだ全く知らないことだろう。だが、それだって時間の問題で、機動力では格段に差のある相手なのだから、情報収集だってあっと言う間かも知れず、一刻をも争う構えで事を運ばねばならない。特にセナ本人の身を守ることを何よりも優先せねばならないのは言うまでもないこと。
『これをかざせば一番近い旅の扉が反応する。空間に仰々しいドアが現れるから、あとは、剣士さんが王城のことを思いながら一緒に扉をくぐれば良いよ。』
 そうと助言した桜庭が、自分の魔力を込めた翡翠石を渡した上で先に彼らを旅立たせたのだ。こんな"隠し球"があったればこそ、蛭魔も"攻め込むぞ"なんていう無謀が言えた訳であり、そして………、

  『じゃあ、ボクは"セナくん"になれば良いんだね?』

 そう。実は桜庭くんの得意技は"変身魔法"だったので、きっと直接のこととして"名指し顔指し"で指名手配のお触れが出ているだろう小さなセナくんに化けて、蛭魔との目立つ道行きを続ける…という手を打ったのである。

  『ほぉら、妖一にだってなれるんだよvv
  『やめんかっ!!』

 こらこら、桜庭くん。そのお顔に化けて全開のアイドルスマイルを振り撒くのはやめなさい。
(笑) 冗談はともかくも。
「向こうさんはどうしてる?」
 検問突破を果たした町を後にし、街道の外れにあった水車小屋に潜り込んで。普段の深紅のマントに黒装束という恰好に戻った黒魔導師さん、外で待ちつつ念を送っていた相棒さんへと声を掛ければ、
「うん…。城下のすぐ際までは辿り着いてるんだけどね。まだ門前町に滞在中。」
 眸を伏せるとより精悍な印象になる彫の深いお顔がそんな風に告げて、
「剣士さんも慎重だな。」
「そりゃあ そうだろさ。」
 蛭魔がくつくつという笑い声を滲ませて応じる。
「何せ、奴自身からして皇太后様を糾弾した張本人だからな。いくら国王のお墨付きを持つ身であれ、そうそう気軽に"見聞の旅から戻りました"では通じまい。」
「うん。」
 進へと授けた翡翠石は、一種のGPS対応の発信器のようなもの。そこへと念を込めた桜庭にだけ"ありか"を伝えて来もするため、彼らの居場所や、傍らにいる二人の動向も多少は読み取れるらしい。気配をまさぐっていた桜庭が眸を開いて、小屋から出て来た相棒へと言葉を続けた。
「城下へ出入りしてる近郊の農家の人を頼りに、城下の誰かへ連絡を取ろうとしてるみたいだ。」
 あれで彼も名の通った勇者だったんだから、その顔を見ただけで信用してくれる一般民だって少なくはない。それに、彼の次の親衛隊長の座に就いた人というのが、親友と言ってもいいほどに親しかった人だとか。
「…何だ? そんなことまで判るのか?」
 キョトンとしたお顔をする蛭魔へ、
「残念でしたvv これは別れる前に話を聞いたんだよ。」
 妖一みたく強引に運ぶばっかじゃダメなんだって。うるせぇな、慎重に構えてるだけじゃあ何も進まねぇだろが。第一段階が上手く運んだせいだろうか。屈託のない様子にてじゃれ合って、余裕の応酬を見せている魔導師さんチームである模様。とはいえ、こんなものはまだ序の口だ。それに、

  "大ボスはその城下の中心にいる訳だからな。"

 敵の至近へにじり寄っているのだという緊張感は、色々な意味合いから結構きつい筈でもあって。あの小さな王子様が参ってしまわねば良いのだがと、柄にもなくそれが少々心配な金髪の魔導師さんであるらしかった。







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 *GPSといえば、本誌の方では進さんが
  何だか炸裂なことを仕出かしてくれているそうで。
(笑)
  もしかして同人女子への牽制だろうかとか、
  余計なことまで考えてしまっている腐女子でございます。
(笑)